仮面ライダーAP   作:オリーブドラブ

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◆今話の登場ライダー

◆ノルト・マグナギガ/仮面ライダーSPR-12ゾルダスパルタン
 北欧某国の陸軍少佐であり、精鋭陸戦部隊「マルコシアン隊」の隊員。かつては弁護士でもあった金にがめつい悪徳将校であり、その悪評を知る市民達からは蛇蝎のように嫌われている。しかし皮肉屋な一方で情に厚い一面もあり、それを知る一部の者達からは一目置かれている。彼が装着するゾルダスパルタンは、重火器で全身を固めた射撃戦特化の機体であり、専用の高火力アサルトライフルやロケットランチャーが特徴となっている。当時の年齢は37歳。
 ※原案は ダス・ライヒ先生。



黎明編 仮面ライダースパルタンズ 第16話

 

 ノイジースパルタンが劇場跡地を去り、スパルタンハリケーンに跨ったリペアスパルタンとラビッシュスパルタンが、エンデバーランドに向けて引き返し始めた頃。

 

 そのエンデバーランド市内の消防署は、グールベレー隊員の襲撃によって戦火に飲まれようとしていた。火の海と化したこの一帯に身を置く消防士達は、危険を顧みず消化活動に奔走している。

 

 街に取り残された市民が1人でも居る以上、彼らにこの街から逃げ出すという選択肢は存在し得ないのだ。そんな彼らの奮闘を遠目に見遣っているスパルタンシリーズの戦士は、仮面の下で苦々しい表情を浮かべている。

 

「おいおい……。目に付くものは軍事施設であろうとなかろうとブッ壊す、っていうあんた達の行動方針は分かり切ってたけどさぁ。人命救助してるだけの連中を積極的に攻撃するってのは……ちょいと露悪が過ぎるんじゃあない?」

 

 スパルタンシリーズ第12号機「SPR-12ゾルダスパルタン」の装着者である、ノルト・マグナギガ少佐。

 元弁護士の悪徳将校であり、市民からも「何故あんな男がマルコシアン隊に」と非難されている彼だが――そんな彼にとっても、シェードの蛮行は許し難いものであった。軽口を叩いているようで、その声色には静かな「義憤」が滲んでいる。

 

 彼が纏うゾルダスパルタンの外観はその名の通り、「仮面ライダーゾルダ」を想起させるものであった。しかし、より機械的な印象を与えているそのフォルムは、この外骨格が単なる「兵器」に過ぎないことを強調している。

 専用のアサルトライフルやロケットランチャーを携行しているその姿は、まさしく「兵士」。戦うために生み出された、鋼鉄の闘士そのものである。

 

「……ふん、この期に及んで敵に情を期待するのか? 陸軍屈指の精鋭部隊と聞いているが、随分と軟弱なことを言う。我々の破壊目標は、この街全てだ。銃を持つ者であろうと、そうでなかろうと……例外ではない」

 

 対するグールベレー隊員は、ゾルダスパルタンのものよりもさらに大型のロケットランチャーを背負っていた。この消防署を瞬く間に火の海に変えた、悪魔の兵器。その巨大な砲身を軽々と構えながら、ベレー帽の巨漢は不遜に鼻を鳴らしている。

 

「この消防署に居る連中が、我々の視界に入って来た。破壊する理由など、それだけで十分よ。無論、俺の前に立ちはだかって来た……貴様もな」

「……ははっ、こいつは参ったね。穏便に手を引いてくれるなら、事が終わった後の『弁護』くらいはしてやろうかと思ってたんだがな。ここまで救いようがないんじゃあ、何億積まれても割に合わない」

 

 人間社会の道理など我々には通じない……と言わんばかりに。グールベレー隊員は消防士達の懸命な消化活動を一瞥し、冷たく嘲笑する。そんな彼を冷ややかに見遣るゾルダスパルタンは、元弁護士ならではの軽口を叩いていた。その冷たい皮肉さえ、グールベレー隊員は鼻で笑う。

 

「ふっ……言うに事欠いて、この俺に情けでも掛けるつもりでいたのか? 軟弱な人間風情の貴様が? ……面白い冗談だッ!」

 

 口先だけの雑兵など物の数ではない。鋭く吊り上がったグールベレー隊員の双眸が、そう叫んでいるかのようだった。彼は身の丈を超えるほどのロケットランチャーを構え、数発の弾頭を連射する。

 

 消防署を瞬く間に半壊させ、何台もの消防車を破壊し、この一帯を火の海に変えた砲弾だ。まともに喰らえば、ゾルダスパルタンとてタダでは済まない。

 

「……ッ!」

 

 1発でも迎撃に失敗すれば、周囲で活動中の消防士達は確実に爆炎に巻き込まれてしまう。多数の死傷者が出る事態を回避するべく、ゾルダスパルタンも素早くロケットランチャーを構え、向かって来る敵方の弾頭に自身の砲弾を撃ち込んで行く。

 

 次の瞬間。天を衝くほどの轟音と共に、幾つもの大爆発が巻き起こる。その爆炎は、爆心地に近いところに立っていたゾルダスパルタンを紙切れのように吹き飛ばしていた。

 

 一方、同じ衝撃を受けたはずのグールベレー隊員はアスファルトを踏み砕き、常軌を逸した両足の膂力で耐え忍んでいる。圧倒的な武器の火力。爆風をものともしない防御力。あらゆる面において、ゾルダスパルタンを凌ぐ「上位互換」の力を見せ付けていた。

 

「ぐっ、ぉおおッ……! ははっ、こりゃあ参った……! 桁違いの火力じゃないのッ……!」

 

 衝撃のあまりロケットランチャーを手放してしまったゾルダスパルタンは、激しく吹き飛ばされ地を転がり、血反吐を吐いて倒れ伏してしまう。

 

(……ははっ。やっぱり俺、弁護士なんて向いてなかったんだなぁ。こんなのっ……全然、合理的じゃないッ……!)

 

 だが。煤と血に塗れた満身創痍の身となりながらも、彼は死力を尽くして立ち上がろうとしていた。ニヒルな皮肉屋を気取ってはいるが、その傷だらけの勇姿は誰よりも熱い闘志に満ちている。

 

「ふっ、今頃理解したか。だが、もう遅い。俺の挑戦を受けた以上、貴様が生きてこの場から逃れる術はないのだ」

 

 だが、グールベレー隊員に攻撃の手を緩める気配はない。彼は煤まみれとなった半死半生のゾルダスパルタンを嘲笑いながら、再びロケットランチャーを構えて「とどめ」を刺そうとする。

 

「さぁ、今度こそ木っ端微塵に――!?」

 

 だが、その引き金に指が掛けられた瞬間。彼の眼前を突如、猛烈な水流が横切って行く。その思わぬ「奇襲」に瞠目したグールベレー隊員は、水をかわそうと咄嗟に砲口を持ち上げて射撃を中断してしまった。

 

「……!?」

「ノルトッ!」

 

 その挙動にゾルダスパルタンがハッとなる中、1台の消防車がこの戦地に駆け付けて来る。そこから迅速に飛び降りて来た数人の消防士達は、ゾルダスパルタンに肩を貸して彼を助け起こしていた。

 

「おい、立てるか!? しっかりしろッ!」

 

 生身の人間の膂力で、100kgを優に超えるスパルタンの身体を持ち上げるのは至難の業。しかし彼らは消防士としての意地に賭け、ゾルダスパルタンを半ば強引に立ち上がらせていた。

 

「……危ないなぁ、生身の人間がこの戦闘に首突っ込んで来るんじゃないよ。どんなに威勢が良くたって、あんた達が来ても足手纏いでしかないんだからさぁ」

「ふん、お前こそ何を勘違いしている! ……俺達はただ、この火災を鎮めるために来ただけだッ! 誰が弁護士崩れなんぞに手を貸すものかッ!」

「はっ……あぁ、そうかい。じゃあ、そういうことにしておいてやるよ」

 

 助けられてもなお悪態を止めないゾルダスパルタンに怪訝な表情を向けながらも、消防士達はあくまで「人命救助」という自分達の使命に邁進している。だが、彼らがゾルダスパルタンに手を貸したのはそれだけが理由ではない。

 

 先ほどゾルダスパルタンが、自分達を守るために危険な行動に出ていたことは彼らも理解していたのだ。ゾルダスパルタンことノルト・マグナギガという男は口が悪いだけ(・・)の男であることを、消防士達はよく知っていたのである。

 

 「女遊びで散財した」と周りに吹聴しながらも、自身の稼ぎを密かに孤児院や病院への寄付に充てる。「自分は金にがめつい」と豪語しながらも、真摯な相手ならば割りに合わない依頼でも引き受ける。ノルト・マグナギガが「そういう男」であることは、とうに知られてしまっているのだ。

 

「ふん、外野のゴミ共が文字通りに水を差しおって。ならば……この決闘を阻んだ罪は、その命で精算して貰おうか」

 

 一方、グールベレー隊員は消防士達の姿を忌々しげに睨み付けていた。専用のロケットランチャーを構え直した彼は、ゾルダスパルタンよりも先に始末してやろうと彼らに照準を合わせている。

 

「……ッ!」

 

 その動きに勘付いたゾルダスパルタンは、傷付いた身体を押して専用のアサルトライフルを引き抜いた。グールベレー隊員の武装に対しては全くの火力不足だが、今はこの副兵装に頼るしかない。

 

(……嫌だねぇ。俺もすっかり、隊長(ボス)に毒されちゃったかな)

 

 例え弁護士崩れだ、悪徳将校だと謗られようとも。マルコシアン隊のスパルタンシリーズが市民を見殺しにするわけには行かないのだ。その信念をジークフリートから受け継いでいたノルトは、己の甘さを自嘲する。

 

「……おいあんた達、さっさと逃げな。あっちも随分とお怒りのようだしね」

「し、しかしノルト……!」

「あんた達が死んだら、誰がこの街の火を消してくれるんだ? あいつらに火元ごと更地にでもして貰うか?」

「ちっ、やっぱり嫌な奴だよお前は! ……死ぬなよ、絶対!」

「そりゃそうでしょ、俺だってやだよ。湿っぽい(・・・・)のも……ね」

 

 ここは俺に任せて、お前達は逃げろ。悪態の中にそのメッセージを込めたゾルダスパルタンは、アサルトライフルを構えながらグールベレー隊員と再び対峙する。そんな彼の意思を汲み取った消防士達は、精一杯の声援を送りながら退避して行く。

 

 そして、彼らが完全に退散するのを待たず。グールベレー隊員はゾルダスパルタンもろとも消防士達を消し飛ばそうと、再びロケットランチャーの引き金を引いていた。

 

「この俺の邪魔をしておいて、生きてここから逃げられるとでも思ったか? 言ったはずだぞ、この決闘を阻んだ罪はその命で精算して貰うとな!」

「おいおい、相手は俺じゃなかったの? 一つ忠告してやるよ、浮気性は火傷の元だってな!」

 

 1発の弾頭が唸りを上げ、消防士達が乗り込んだ消防車に迫る。その軌道を視線で追いながら、ゾルダスパルタンは素早くアサルトライフルを構え、引き金を引いていた。乾いた銃声が断続的に鳴り響く中、無数の弾丸が空を裂く弾頭に襲い掛かる。

 

(あぁ全く……割りに合わないッ!)

 

 そのうちの1発が、ついに弾頭の側面に命中する。次の瞬間、勢いよく爆ぜた弾頭は周囲に猛烈な爆風を浴びせるのだった。直撃こそ免れたものの、その圧倒的な爆発力は消防車の車体を簡単に横転させてしまう。

 

「うわぁあぁあッ!」

「ノ、ノルトぉおッ!」

 

 車内にいた消防士達が悲鳴を上げる中、ゾルダスパルタンことノルトも爆煙の中に消えて行く。自分達の消防車が激しく転倒する中、それでも戦友(とも)の身を案じる男達の絶叫が響き渡っていた――。

 





 今回はゾルダスパルタン回の前編。果たして爆煙に消えた彼の運命やいかに……。ではでは、次回もお楽しみにっ!٩( 'ω' )و

 さてさて、それではここで大事なお知らせ。現在、X2愛好家先生が本作の3次創作作品「仮面ライダーAP外伝 Imitated Devil(https://syosetu.org/novel/316771/)」を連載されております。本章から約10年後の物語である外伝(https://syosetu.org/novel/128200/44.html)から登場した「仮面ライダーオルバス」こと忠義・ウェルフリットが主人公を務めております!
 こちらの作品の舞台は、本章から約12年後に当たる2021年7月頃のアメリカ。悪魔の力を秘めたベルトを使う、ジャスティアライダー達の活躍に焦点を当てた物語となっております。気になる方々は是非ともご一読くださいませ〜!(*≧∀≦*)

 さらに現在は、ダス・ライヒ先生の3次創作作品「仮面ライダーAP アナザーメモリ(https://syosetu.org/novel/313018/)」も公開されております! 本章から約11年後に当たる2020年8月頃を舞台としており、こちらの作品では数多くの読者応募キャラ達が所狭しと大活躍しております。
 多種多様なオリジナルライダーやオリジナル怪人達が大暴れしている大変賑やかな作品となっており、さらには本章の主役であるジークフリート・マルコシアン大佐も登場しております。皆様も機会がありましたら是非ご一読ください〜(*^▽^*)

Ps
 ノルトの人物像はなるべく元ネタに沿うように心掛けてはいるのですが、あの飄々としている佇まいはなかなか再現出来ない……。あの人がいかに独特な存在だったか、改めて思い知りました……_:(´ཀ`」 ∠):

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