仮面ライダーAP   作:オリーブドラブ

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黎明編 仮面ライダースパルタンズ 第14話

 

「オャスン、お前ッ……!?」

 

 自分と同じ整備班に所属しているはずの部下が、主任である自分でも知らない装備を着てこの場に駆け付けている。その信じ難い光景に瞠目するリペアスパルタンことエドゥアルドに対し、ラビッシュスパルタンことガーベッジは仮面の下でニカッと笑っていた。

 

「すみませんねぇ、主任……! (カシラ)のあんたが命張ってるってぇ時に、俺達だけ尻尾巻いて逃げろだなんて……そんな命令、バカ正直に聞けるわけがねぇんだよッ!」

 

 自分達にとっての(カシラ)であるエドゥアルド主任を救うため、ガーベッジをはじめとする整備班のメカニック達が即興で組み立てたラビッシュスパルタン。その出来損ないの鎧を纏い、ガーベッジは上官に向かって勢いよく吼える。

 

「……馬鹿者がッ……!」

 

 そんな彼の姿を前に、エドゥアルドは仮面の下で複雑な表情を浮かべていた。もはや、今さら逃げろと言っても彼が聞くことはないのだろう、と。

 

 開発主任のエドゥアルドがリペアスパルタンを装着して戦場に赴いたのは、少しでも戦力を増やして部下達が退避する時間を稼ぐためでもあった。そんな上官の真意を理解した上で、素直に従えるほど「利口」なメカニックなど、マルコシアン隊の整備班には1人も居なかったのである。

 

(……全く。マルコシアン隊はこんな奴らばかりだな)

 

 仮面の下で、エドゥアルドはふっと頬を緩める。脳裏を過ぎるのは、開発主任である自分の言うことを全く聞かなかった問題児達。その中でも一際手を焼いた、精鋭の若手士官――ジュリウス・カドラリス、アレクシス・ユーティライネン、ガルス・ショウグレン、カイン・アッシュ、リーナ・ブローニング、ヨハンナ・ヴィルタネンの6名だった。

 

 ――カドラリス! ガジェットスパルタンは「換装」がウリの機体だと説明したはずだぞ! いい加減、サムライソード以外の装備も使え! これでは試験運用にならんだろうが!

 ――お言葉ですが主任、兵器は効果が実証されて初めて兵器たり得るのです。この剣が実戦においては最も有用……ならばこれこそが正しい運用と言えるのでは?

 

 ――ユーティライネン! また高周波ブレードを豚の解体に使ったな!? あれは肉切り包丁ではないんだぞ!

 ――す、すみません主任……。糧食班の皆が手間取っていたようだから、つい……。

 

 ――ショウグレン! 先ほどの乱暴な動きはなんだ! あまりに前に出過ぎている! エレクトロニックスパルタンは索敵用の機体だと言っただろう!

 ――すいませんねぇ主任、俺にはこういう使い方が性に合ってましてねぇ。文句なら、俺にコイツを任せた隊長(ボス)にどうぞ?

 

 ――アッシュ! 俺が指定した範囲の外までは飛行するなと何度言えば分かる!? その外骨格が軍事機密であることを理解していないのかッ!

 ――うるっさいなぁ、どうせこれから大々的に公表するんだから別にいいでしょ! それに、飛べるところまで飛ばないと性能限界も見えて来ないでしょうが! それって、試験運用として大事なコトなんじゃないですかぁ!?

 

 ――主任。なんでこのスーツ、こんなに身体のラインが出てるんですか。正直、裸より恥ずかしいんですけど?

 ――ブローニング。それは以前にも説明した通り、軽量化を最優先した結果だ。……こら、オャスン! あと、そこのお前達! そんな目で俺を見るんじゃあない!

 

 ――ヴィルタネン! いい加減、サブアームで飯を食うのをやめろ! 行儀が悪いぞ!

 ――これも動作点検の一環ですよぉ。手足のように動かして見せろって言ったのは主任ですよぉ〜?

 

(……まぁ。あの跳ねっ返り共に比べれば大したことはない、か)

 

 ジークフリートとランバルツァーが「地獄の第4基地」から選抜して来たと言う、6人の若獅子達。彼らの無鉄砲振りに比べれば、ガーベッジの行動など可愛いもの。

 そう思えば、いちいち怒ってもいられなくなるというものだ。危険を顧みずこの場に駆け付けて来たラビッシュスパルタンの勇姿に、エドゥアルドは呆れたような笑みを溢していた。

 

「……なんだ、その不細工な急造機は……! よもや、そんな装備でこの俺に挑む気ではあるまいな!? 愚弄が過ぎるぞ、惰弱な人間風情がァッ!」

「おーおー、事実とはいえ好き放題に言ってくれるじゃねぇの。見てくれ通りの鉄屑以下(ラビッシュ)で済まねぇが……この俺とも遊んで貰うぜぇ、シェードの戦闘員さんッ!」

 

 一方、見るからに正規品ではないラビッシュスパルタンの姿を目の当たりにしたグールベレー隊員は、自身のプライドに傷を付けられたためか憤怒を露わにしている。

 そんな彼の様子に口角を吊り上げながら、ガーベッジは挑発的な声を上げていた。彼が装着するラビッシュスパルタンはスパルタンハリケーンから列車に飛び移り、そのまま車上に着地する。

 

「そんな愚劣極まりないガラクタでッ! 本職の兵士ですらない人間如きがッ! グールベレー隊員であるこの俺に立ちはだかるとは、なんたる侮辱ッ! 万死でも足りぬわァッ!」

 

 どこかぎこちない身のこなしから、装着者のガーベッジが「兵士」ですらないことも見抜いたのだろう。グールベレー隊員はラビッシュスパルタンの存在自体を「侮辱」と見做し、真っ先に始末しようと殴り掛かって行く。

 

 だが、その激昂が、先ほどまでの技の冴えを鈍らせていた。怒りに我を忘れるあまり、グールベレー隊員の拳撃が大振りになっていたのである。それこそ、兵士ではないガーベッジでも見切れてしまうほどに。

 

「あぁそうかい! 生憎だが、俺の命は1個しか無いんでねェッ!」

 

 彼が装着するラビッシュスパルタンは身を屈めて鉄拳をかわし、その姿勢をバネにして低姿勢からのタックルを繰り出す。相手が平静を欠いていなければ簡単にかわされていたような、単純な体当たりだ。しかし今のグールベレー隊員にその技を見切ることはできず、まともに喰らってしまう。

 

(……ッ!? なんだ、この速さッ……! 油断していたとはいえ、この俺が仕損じるとはッ……!)

 

 タックルの瞬間にラビッシュスパルタンが見せた、想定以上の加速。その動きに思わず眼を奪われたグールベレー隊員は、ラビッシュスパルタンの胸部にもう一つのスパルタンドライバーが装備されていたことに気付く。2基のドライバーによる高出力が、予想外の加速力を齎していたのだ。

 

「ぐぅッ!?」

「……さしものあんたも、たまげただろう? 全ては……『この瞬間』のためだけの『仕掛け』よ」

「仕掛け、だと……!?」

 

 ラビッシュスパルタンことガーベッジの意図に、グールベレー隊員が勘付いた瞬間。ラビッシュスパルタンの胸部と腰部に取り付けられたドライバーが青白い電光を放ち、過剰(・・)に輝き始めた。

 

「ここの車両は、避難民達の荷物を詰め込んでるだけの無人。そして、連中が居る車両からは1番遠い最後尾だ。……ちょっとやそっと爆ぜた(・・・)くらいじゃあ、誰も死にやしねぇ。『爆心地』に居る2人以外は、な?」

「……! オャスン、よせッ!」

 

 このままでは確実に、オーバーロードによる「自爆」が起きてしまう。それこそがガーベッジの――ラビッシュスパルタンの目的だったのだ。その意図を察したリペアスパルタンは咄嗟に手を伸ばし、部下を制止しようとする。

 

「……ぬぅうぉおおおッ!」

「ぐっ、うぉ、おおぉおッ!?」

 

 だが、爆発に至る直前というところで――グールベレー隊員は力任せにラビッシュスパルタンを引き剥がし、そのまま投げ飛ばしてしまう。2基のドライバーによる高出力は、幹部怪人でも完全に拘束出来るほどの膂力を発揮していたはずなのだが、グールベレー隊員の底力はそれすらも上回っていたのだ。

 

「ぐぁああッ!」

「オャスンッ!」

 

 列車の外に投げ出されかけていたラビッシュスパルタンを間一髪受け止めながら、リペアスパルタンは辛うじて体勢を立て直す。一方、グールベレー隊員は自身に油断があったことを恥じるように、拳を震わせていた。

 

「……ただの身の程知らずかと思っていたが、なかなか味な真似をしてくれる。だが……自爆を完遂するには、俺を抑え込めるだけの『出力』が足りなかったようだな……!」

「く、くそったれがッ……!」

 

 2基のドライバーを使ってもなお埋まらない力の差。その圧倒的な格の違いを見せ付けられ、ラビッシュスパルタンは悔しげに肩を震わせている。そんな彼の肩を軽く叩きながら、この間に息を整えていたリペアスパルタンはゆっくりと立ち上がる。ここから先は任せろと、その背中が語っていた。

 

「……オャスン、お前の意地は理解した。どうせ今さら逃げろと言っても聞かんのだろう? ならばその命、この俺に預けておけ。お前がその命を使う時は……今ではない」

「主任……!」

「ふん、まるでまだ勝ち筋があるかのような口振りだな。貴様達はたった今、天が齎した千載一遇の勝機を逃したのだぞ? もう先ほどのような不意打ちなど通じん。それでどうやって俺に勝つつもりだ」

 

 必勝の信念を纏い、再び宿敵と対峙するリペアスパルタン。ラビッシュスパルタンがその背中を見送る中、グールベレー隊員は手甲を嵌め直しながら不遜に鼻を鳴らしていた。

 

「……勝機というものは天の采配で巡って来るものではない。自らの尽力によって手繰り寄せ、掴み取るものだ。上級戦闘員ともあろう者が、そんなことも分からんとはな。なまじ身体だけが人間を超えたばかりに、『心』が付いて来ていないと見える」

「……安い挑発が好きな男だな。いいだろう、敢えて乗せられてやる。自分の大口を後悔しながら……死んで行けッ!」

 

 この絶望的な状況でもなお、こちらを煽って来るリペアスパルタン。彼の挑発に敢えて乗ったグールベレー隊員は勢いよく足元を蹴り、真っ向から殴り掛かる。

 すると次の瞬間、リペアスパルタンの両肩部に搭載された煙幕射出装置(スモークディスチャージャー)から、凄まじい勢いの猛煙が飛び出して来た。列車が進んでいる方向――風上側に立っていたリペアスパルタンが放つ煙幕は、瞬く間にグールベレー隊員の視界を覆い尽くしてしまう。

 

(煙幕だと? この期に及んで小賢しい真似を……。選ばれた存在たる我々に、下らない目眩ましが通じるとでも思っていたのか)

 

 だが、グールベレー隊員の双眸に動揺の色は無い。眼が見えずとも標的の「熱源」を探知出来る彼は、煙の中ですれ違ったリペアスパルタンの動きを的確に捉えていた。

 

(……確かに、奴の動きは素早い上に無駄がない。これから飛んで来る奴の拳をかわすことは難しいだろう。だが、どのみち奴の貧弱な拳ではこの俺の装甲を貫くことは不可能。敢えて1発殴らせて「隙」を作らせてしまえば、あとは俺のカウンターでケリが付く。人間にしては上出来な戦士だったが……貴様もこれまでだ!)

 

 相手の狙いを熱源の動きから推測し、背後からの奇襲を狙っていると判断した彼は、振り向きざまに体重を乗せたフックを繰り出そうとする。今度こそ、その首を吹き飛ばしてやると言わんばかりに。

 

「それで背後を取ったつもりか! このような児戯に等しい玩具で歯向かおうなど、片腹ッ――!?」

 

 だが。勝利を確信し、煙の中で拳を振るったグールベレー隊員は――瞠目と共に吐血していた。わなわなと全身を痙攣させる彼の胸板は、リペアスパルタンの手によって貫かれている。先ほどはリペアスパルタンの拳を全く通さなかった緑色の胸部装甲が、完全に破壊されていたのだ。

 

「が、はッ……!? こッ……こんな、馬鹿なッ……!」

 

 一体、何が起きたのか。その真相が明らかになったのは、煙幕が風に流され視界が晴れやかになった時であった。突き出されたリペアスパルタンの手には――先ほどの拳闘で砕かれた鎧の破片が握られていたのである。

 

(こ、これは……先ほど俺が砕いた、奴の鎧の破片ッ!? 奴はただ俺の背後に回ろうとしていたのではなく……この破片を拾おうとしていたのかッ……!?)

 

 戦いの中で車上に散らばっていた、リペアスパルタンの胸部装甲の破片。エドゥアルドはその鋭利な「刃物」を手に入れつつ、相手に狙いを悟らせないために煙幕を使っていたのだ。

 背後に回り込む動きを見せた(・・・)のも、相手のミスリードを狙ってのこと。煙幕など無意味と侮ったグールベレー隊員は、まんまとその術中に嵌っていたのである。

 

「……貴様の拳は俺の鎧を穿てる。だが、貴様の装甲は俺の鎧には強度の面で一歩劣る。それで完全上位互換だと? 笑わせる」

「が、はァッ……!」

 

 古代技術から生まれたリペアスパルタンの胸部装甲。その強度はグールベレー隊員にとっても脅威だったが、それ自体は攻撃に使える「武器」ではない。ならば、その「最強の盾」を「最強の矛」に変えさせればいい。

 

 リペアスパルタンの真の狙いは、そこにあった。敢えてグールベレー隊員に鎧を破壊させ、その「脅威となる硬度」を持った破片を武器にする。グールベレー隊員でも一目置くこの鎧から出来た刃なら、必ず通用する。それが、リペアスパルタンが見出した「勝機」だったのだ。

 

「冥土の土産に覚えておくのだな。真に最強たる『盾』は……最強の『矛』をも兼ねるのだということを」

 

 それは、先ほどの拳闘の中で言われた言葉の意趣返しであった。鎧の破片でグールベレー隊員の胸板を装甲ごと貫いたまま、リペアスパルタンは横薙ぎに腕を振るう。グールベレー隊員の身体は、その勢いで車両の外に放り投げられてしまった。

 

「ぐぉおあぁあッ……! ぐぅっ、ふぅうッ……ふ、ふふっ……み、見事ッ……!」

 

 投げられた際に、グールベレー隊員の身体から緑の胸部装甲が剥がれ落ちて行く。鎧を失った彼は満足げな笑みを浮かべながら、超高速で地面に叩き付けられ――激しく転がって行った。身を守る鎧も破壊された以上、改造人間だろうとその衝撃には耐えられないだろう。

 

 その最期を車上から見届けたリペアスパルタンは踵を返し、ラビッシュスパルタンに肩を貸して助け起こして行く。仮面越しに神妙な面持ちで見つめ合う2人は、やがてエンデバーランドの方角へと視線を移していた。ゆっくりと仮面を外し、素顔を晒したリペアスパルタン――エドゥアルドは、艶やかな金髪を風に靡かせている。

 

「……まずは1人、ですなァ。主任」

「この車両を安全圏まで送り届けたら、直ちに街に戻り仲間達と合流する。……逃げるなら今のうちだぞ」

「ハッ、相変わらず野暮なこと言いますねぇ。ここまで来たら付き合いますよ、地獄の果てだろうとね」

「だろうな。お前に利口さを期待した俺が馬鹿だった」

 

 無論、ラビッシュスパルタンことガーベッジに引き下がるつもりはない。そんな部下の蛮勇にため息を吐きながらも、リペアスパルタンは静かに歩み出して行く。まだあの街で戦っているであろう仲間達との、再会を果たすために。

 

 ◆

 

「……それにしても、コイツらもせっかちですよねぇ。もう何年か待っててくれりゃあ、改造人間とも十分に渡り合える兵器を開発出来てたってのに」

「いや……何年も待つわけには行かなかったさ。奴らにとっても……俺達にとってもな」

「どうしてです? ハッキリ言って、今のスパルタンシリーズでは奴らのスペックにはまるで追い付いてない。『進化』に時間は必要でしょうよ」

「お前の云う『進化』に時間を掛けるということは……それだけ戦いが長引いているということだ。改造人間との戦いを、俺達以外に押し付けてはならない。この業を……『次の世代』に遺してはいけない」

「……なるほど、それもそうですなぁ。確かに、こんな馬鹿げた役割……俺達以外にやらせてたまるかってんだ」

 





 今回はリペアスパルタン&ラビッシュスパルタン回の後編。次回以降も読者応募キャラ達がどんどこ出て来ますので、どうぞ最後までお楽しみに!٩( 'ω' )و

 さてさて、それではここで大事なお知らせ。現在、X2愛好家先生が本作の3次創作作品「仮面ライダーAP外伝 Imitated Devil(https://syosetu.org/novel/316771/)」を連載されております。本章から約10年後の物語である外伝(https://syosetu.org/novel/128200/44.html)から登場した「仮面ライダーオルバス」こと忠義・ウェルフリットが主人公を務めております!
 こちらの作品の舞台は、本章から約12年後に当たる2021年7月頃のアメリカ。悪魔の力を秘めたベルトを使う、ジャスティアライダー達の活躍に焦点を当てた物語となっております。気になる方々は是非ともご一読くださいませ〜!(*≧∀≦*)

 さらに現在は、ダス・ライヒ先生の3次創作作品「仮面ライダーAP アナザーメモリ(https://syosetu.org/novel/313018/)」も公開されております! 本章から約11年後に当たる2020年8月頃を舞台としており、こちらの作品では数多くの読者応募キャラ達が所狭しと大活躍しております。
 多種多様なオリジナルライダーやオリジナル怪人達が大暴れしている大変賑やかな作品となっており、さらには本章の主役であるジークフリート・マルコシアン大佐も登場しております。皆様も機会がありましたら是非ご一読ください〜(*^▽^*)

Ps
 列車の上での殴り合いとかいうアクション映画あるあるシチュ。ギャングビーストのステージとかでも見かけますよねー(*´ω`*)

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