仮面ライダーAP   作:オリーブドラブ

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黎明編 仮面ライダースパルタンズ 第11話

 

「ハハハッ! 俺の勝ちだぞ鉄屑め、黒焦げになるが良いッ!」

 

 美術館内で繰り広げられている、アサシネイトスパルタンとグールベレー隊員の激闘。その渦中でアサシネイトスパルタンの「熱源」を捉えたグールベレー隊員は、敵方の腕に自身の高電圧鉄鞭を絡み付けていた。

 

 ただでさえ装甲が貧弱なアサシネイトスパルタンでは、この鉄鞭の電撃から装着者を守り切ることなど不可能。鞭から迸る電流は瞬く間にスーツを貫通し、装着者であるリーナを黒焦げにしてしまうだろう。この時点で、グールベレー隊員の勝利は確定しているも同然だ。

 

「……ぬぅッ!?」

 

 だが、それとほぼ同時に。アサシネイトスパルタンの方から投げ放って来た鉄鞭も、グールベレー隊員の手首に絡み付いて来たのだ。

 次の瞬間、互いの鞭から放たれる高電圧の電流が、双方の全身に襲い掛かって来た。想定外の事態に、グールベレー隊員は瞠目する。

 

「ぬぐぅうぅうッ!? 避けもせず相討ち覚悟とはッ……! やはり往生際の悪い死兵というものは、どこまでも厄介な輩よッ……!」

 

 威力の面でもグールベレー隊員側の方が上であるとはいえ、アサシネイトスパルタン側の鉄鞭もかなりのエネルギーを有しているのだ。鉄鞭を握る手から全身に迸る苛烈な電撃に、グールベレー隊員は苦悶の声を上げる。

 

(……おかしい、なぜ断末魔が聞こえて来ない! そして、なぜ奴はいつまでも電撃鞭を手放さない!?)

 

 その一方で。自身の電撃を浴びていながら攻撃の手を止めないアサシネイトスパルタンに、グールベレー隊員は驚愕の表情を浮かべていた。

 

 こちらの攻撃が先に届いたというのに。攻撃自体の威力もこちらが上だというのに。闇の向こうから鞭を振るって来たアサシネイトスパルタンは、斃れることなく電撃を続行しているのである。

 

 1発でも喰らえば即死しかねないほどの薄い装甲だというのに、なぜ立っていられる。なぜ、まだ死んでいない。なぜ鞭を手放さない。相手のスペックからは想像もつかなかった事態に、グールベレー隊員は激しく動揺していた。

 

(こんなバカなッ……! 奴の薄い装甲なら、とうに装着者は感電死しているはずだッ! 精神が肉体を凌駕したとでも……!? それとも、死してなお鞭を握り続けているのかッ……!?)

 

 例えスーツ自体が戦闘機能を維持しているとしても、その内側の装着者は確実に丸焦げになっているはず。だというのに、彼女からの電撃は今もなお続いているのだ。まるで、命を持たぬ者が彼女の鎧を纏っているかのような、不気味な現象であった。

 

(い、いかんッ……これ以上は……俺の方が、保たんッ!)

 

 何にせよ、このまま電撃の浴びせ合いが続けばこちらの身が持たない。こちらの鞭の方が威力が上とはいえ、向こうの鞭から流れて来る電圧も侮れない火力なのだ。これ以上意地の張り合いを続けていたら、こちらが先に丸焦げにされてしまう。

 

 そう判断したグールベレー隊員は、やむなく鞭を握る手を引き、攻撃を中断してその場から飛び退いて行く。それによって敵方の電撃から解放された彼は、深く息を吐いて体勢を立て直そうとしていた。

 

(……? なんだ、この匂いは……)

 

 すると、その時。グールベレー隊員の鼻腔が不自然な「匂い」を感知する。この美術館には似つかわしくない、蠱惑的でフレグランスな香り。

 

 その芳香が彼の嗅覚を刺激した瞬間――この一帯に鮮血が飛び散る。

 

「がッ……!?」

 

 首筋に走る冷たい激痛。その感覚に瞠目するグールベレー隊員は、足元に滴る自身の血を目の当たりにして、戦慄の表情を浮かべていた。先ほどまで鼻腔を刺激していた甘い香りが、血の匂いで塗り替えられて行く。

 

 背中に押し当てられた柔らかな果実(・・)の感触に意識を割く暇もない。グールベレー隊員の足元に広がる血の池は、ますます広がっていた。そんな彼の背後から、冷酷な囁きが響いて来る。

 

「……改造人間のくせに情け無いわね。散々見下していた人間よりも先に、音を上げるなんて」

 

 その声の主は、リーナ・ブローニング。仮面越しのくぐもった声ではない。素顔を晒している時だからこそ響く艶やかな美声が、グールベレー隊員の聴覚に流れ込んでいた。彼女は闇に紛れてグールベレー隊員の背後に回り込み、3本目の高周波ナイフで仇敵の首を掻き切っていたのである。

 

 白く豊満な乳房をむにゅりと背中に押し当てながら、すらりと伸びるしなやかな美脚で相手の身体に絡み付き、挟み込む。決して逃すまいと、柔肌を擦り付けるように隙間なく密着する。そして何が起きたのかも悟らせぬまま、一瞬のうちに頚動脈を切り裂いたのだ。

 

「き、きさ、まッ……!? 馬鹿な、いつの間にッ……! ぬぅあああッ!」

「ふッ……!」

 

 リーナの囁きを聞かされたことでようやく事態を飲み込んだグールベレー隊員は、首元の傷を抑えながら力任せに彼女を振り解く。その膂力に逆らうことなく、彼の背を蹴って飛び退いたリーナは、軽やかな宙返りを披露していた。

 蝶の如く鮮やかに翔ぶ彼女は再び空中でくの字に仰け反り、乳房と桃尻を弾ませて優雅に着地する。ぷるんっと揺れ動く果実の動きに目を奪われたグールベレー隊員は、リーナの「あられもない姿」に目を剥いた。

 

「な、にィッ……!?」

 

 リーナは、アサシネイトスパルタンの外骨格を纏っていない状態――即ち、全裸(・・)だったのだ。明滅を繰り返す僅かな灯りだけではほとんど見えないが、恐らく今の彼女は一糸纏わぬ姿となっている。

 

 薄暗い空間の中でも微かに見える、透き通るような白い柔肌。サイドテールに纏められた茶色のロングヘア。仮面に隠されていた鋭い双眸。口元の八重歯。この暗さでは僅かしか見えていないが……それは間違いなく、リーナ・ブローニングという女の、「生まれたままの姿」そのものなのだろう。

 

 強化繊維の中に密閉され、熟成されていた甘く濃厚な汗の匂い。彼女の瑞々しい柔肌から分泌されていた、特濃のフェロモン。外骨格から解き放たれたその香りが、グールベレー隊員の鼻腔を擽っていたのだ。

 

(奴が……外骨格を着ていない!? ではまさか、俺が相手にしていたのは……!)

 

 装備を脱いだリーナが背後に回り込んでいた。しかし自分は先ほどまで、確かにアサシネイトスパルタンの位置を捕捉していたはず。それらの状況が意味するものに勘付いたグールベレー隊員は、ハッと顔を上げて振り返る。

 

「……!?」

 

 明滅する灯りが一際強い光を放ち、彼に「タネ」を明かしたのはその直後だった。

 

 グールベレー隊員の眼前に立っていたのは、女戦士の彫像。本来なら石の剣を構えているはずのその像は、アサシネイトスパルタンのスーツを纏い、鉄鞭を握らされていたのである。先ほどまでグールベレー隊員が電撃を浴びせていたのは、この彫像だったのだ。

 

(女戦士の彫像……! まさか奴は俺の探知を欺くために、自分の外骨格を彫像に着せていたのかッ!? 目論見を看破されていたら、完全な無防備になるというのにッ……! なッ、なんという愚かな博打をッ……!)

 

 リーナは先刻、グールベレー隊員の前から姿を消した直後にアサシネイトスパルタンのスーツを脱ぎ、女戦士の彫像に自身の外骨格を装着させていた。スーツの熱源を探知出来る相手の能力を逆手に取り、彫像と外骨格を(デコイ)に使っていたのである。

 

 そして鉄鞭を振りながら、その柄を彫像の手に握らせていたのだ。本来、女戦士の彫像は石の剣を持っている姿勢で造られていた。その剣だけが脱落している状態だったため、そこに鉄鞭の柄を差し込み、持たせることが出来ていたのである。

 

 その隙に自身は高周波ナイフを手に、グールベレー隊員の背後に忍び込んでいたのだ。欧州最速のスプリンターと謳われた彼女の俊敏性があってこその作戦だったのだろう。だが、危険な賭けだったことに変わりはない。

 グールベレー隊員はリーナを見失っても、すぐにアサシネイトスパルタンの熱源を感知し、電撃鞭を振るって来ていた。もしこの作戦が間一髪間に合っていなければ、リーナ自身も彫像もろとも電撃を浴び、即死していただろう。鞭を持たせたリーナが彫像から手を離す瞬間に、敵側の電撃が始まっていたのだから。

 

「こ、こんなッ、こんなことで改造人間たる、このッ、俺がぁあッ……!」

 

 あまりにも(色々な意味で)大胆な彼女の奇策を前に、グールベレー隊員はわなわなと肩を震わせる。すでに大量の血を流している彼の身体には、もう戦える力など残っていない。

 それでも改造人間の力なら、非力な生身の女くらい簡単に縊り殺せる。その一心でリーナの裸身を組み敷こうと迫る彼だが、一歩踏み出すその足も力無く痙攣していた。それはまさしく、消え行く蝋燭の火が放つ最後の輝きなのだろう。

 

「……改造人間だろうと素体(ベース)が人間なら、頸動脈を斬られて生きていられる奴はいない。どんなに強がっても、あんた達は結局……私達と変わらない、ただの人間なのよ」

「ふ、ふざけッ……る、なァッ……! 俺はぁあ、俺達はぁあッ、人間を、超えッ……!」

 

 超人であることにアイデンティティを見出している改造人間にとって、「ただの人間」というリーナの言葉は究極の尊厳破壊であった。その冷たい言葉に激昂するグールベレー隊員は、彼女の白く豊満な乳房に震える手を伸ばす。

 

「ぐっ……ぉおおッ、おぉおおッ……!」

「……っ」

 

 張りのある釣鐘型の巨乳に、彼の指先がついに届く。亡き恋人にも許したことのなかった、穢れなき果実。その透き通るような純白の柔肌に、改造人間の指が吸い付くようにむにゅりと沈み込む。だが、そこまでが限界だった。

 乳房の曲線をなぞるようにその指先が滑り落ち、彼の身体は崩れ落ちるように倒れて行く。血の池に沈んだ彼はすでに、物言わぬ骸と化していた。そんな敗北者の死体を、一糸纏わぬ鉄の女は冷酷に見下ろしている。

 

「……言ったでしょ? 死ぬのは、あんた達の方だって」

 

 鋭い双眸を細めるリーナは、茶色のサイドテールを靡かせて踵を返す。豊満な巨乳と安産型の桃尻をたぷんたぷんと弾ませ、細く引き締まった腰を左右にくねらせて歩みを進める彼女は、彫像から自身の外骨格を剥がし始めていた。

 

「……これ、まだ着れるんでしょうね?」

 

 ごく短時間とはいえ、強力な電撃を浴びていたアサシネイトスパルタンのスーツはかなり激しく損傷していた。特に黒い強化繊維はかなり大きな穴が空いており、このまま装着すればかなり際どい姿になるだろう。

 だが、使える物は最後まで使い尽くさねばならない。そんな隊長(ボス)の教えを実践するべく、眉を顰めるリーナは深々とため息を吐きながら優美な爪先をピンと伸ばし、強化繊維に足を突き入れて行く。

 

「んぅっ……!」

 

 間髪入れず、パンティを穿く要領で一気に細い腰へと生地を引き上げる。むっちりと実った安産型の巨尻に引っ掛かってしまうが、ここで手こずっている場合ではない。強引に尻肉を強化繊維の内側に押し込み、そのまま一気に豊満な乳房もスーツの内側に収めて行く。

 

「……あぁもう、最悪だわ。『主任』のお小言は確定ね」

 

 なんとか装着を終えたリーナだったが、その感想は「最悪」の一言だった。ただでさえボディラインが剥き出しになっている扇情的な外観だというのに、所々が破けていて白い肌が露出しているのだ。「最低限の装甲」が思わぬところで仇となったらしい。開発主任からの「お小言」を予感したリーナは、深々とため息を吐いている。

 

「さて、と……『あっち』は上手く行ってるかしら。他の皆もどうなってるか分からないし……急がないと!」

 

 だが、それだけを理由に作戦行動を躊躇うなど言語道断。鋼鉄の女傑は鉄仮面を被り直し、足早に美術館の外へと走り出して行く。外から響いて来る戦闘の轟音が、この館内を絶えず揺るがしていた。

 この近くで戦っている「仲間」との合流を果たすべく、彼女は乳房と桃尻を揺らして地を蹴る。美術館前の屋外で別のグールベレー隊員と戦っている「仲間」の咆哮が、彼女の聴覚に届き始めていた――。

 





 今回はアサシネイトスパルタン回の後編。次回以降も読者応募キャラ達がどんどこ出て来ますので、どうぞ最後までお楽しみに!٩( 'ω' )و

 さてさて、それではここで大事なお知らせ。現在、X2愛好家先生が本作の3次創作作品「仮面ライダーAP外伝 Imitated Devil(https://syosetu.org/novel/316771/)」を連載されております。本章から約10年後の物語である外伝(https://syosetu.org/novel/128200/44.html)から登場した「仮面ライダーオルバス」こと忠義・ウェルフリットが主人公を務めております!
 こちらの作品の舞台は、本章から約12年後に当たる2021年7月頃のアメリカ。悪魔の力を秘めたベルトを使う、ジャスティアライダー達の活躍に焦点を当てた物語となっております。気になる方々は是非ともご一読くださいませ〜!(*≧∀≦*)

 さらに現在は、ダス・ライヒ先生の3次創作作品「仮面ライダーAP アナザーメモリ(https://syosetu.org/novel/313018/)」も公開されております! 本章から約11年後に当たる2020年8月頃を舞台としており、こちらの作品では数多くの読者応募キャラ達が所狭しと大活躍しております。
 多種多様なオリジナルライダーやオリジナル怪人達が大暴れしている大変賑やかな作品となっており、さらには本章の主役であるジークフリート・マルコシアン大佐も登場しております。皆様も機会がありましたら是非ご一読ください〜(*^▽^*)

Ps
 変わり身の術と言えば忍者(?)の定番。ワザマエ!(`・ω・´)

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