【改稿】この素晴らしい世界に沖田総司を!   作:とりるんぱ

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プロローグを一つにまとめました。ついでにサブタイトルの雰囲気も変えてみました。前のが好きだったって人はごめんなさい。


ところで10連5回引いてステンノ様しか星4来なかったんですけど私何か悪いことをしたんでしょうか? 全くもって心当たりが無いのですが……


女体化

その夜。沖田、もといソウジは夜空を仰いでいた。屋敷の二階、正面玄関の上のバルコニーに座り、ダクネスから借りた寝間着に身を包んで。

何故か、というと、これといった理由は無い。強いて言うなら何となく、だろうか。ただ単に星を眺めたくなったからと言ってもいい。――普段は食欲と睡眠欲と戦闘欲求しかないソウジが星を眺めたいなど、第六天魔王が聞けば熱が無いか疑うだろうが――

 

「なんでしょう。ノッブの顔を思い出したら、何だか腹が立ってきました。どこかにサンドバッグは無いのでしょうか」

 

呟いて、ソウジは周りを見回す。しかしここは世界である前にバルコニー。そんなものがある筈も無く、結局ソウジはシャドーボクシングをし始めた。

普段腕に着けているプロテクターは先程風呂に入った折に外したので、いつもよりも拳が軽い。それに加えて英霊の規格外な身体能力もあって、ソウジの拳は常人には認識不可能なスピードで打ち出されていた。単なるシャドーボクシングでやっていい速度ではない。

 

右にストレート、左でジャブ、フック、アッパー、ボディブロー、竜巻旋風脚、小足小足中足、とどめに昇龍拳、相手は死ぬ。

 

「……何やってんだ?」

 

誰かに呼び止められた。いや、誰かって訳ではない。この声はカズマだろう、とソウジは検討をつけた。

 

「……どうしたんですカズマさん。眠れないんですか?」

 

果たして、振り向いてみれば。

そこには、有り体に言えば「うへえ」といった表情をしたカズマが、ジャージ姿で立っていた。

ビンゴである。これから仲間として戦っていくので早かれ遅かれ声は覚えることになったのだろうが、それでも早いのに越したことはない。ましてや初日に覚えたとなればそこはかとなく得意気な気分になるのも不思議ではない。ソウジは密かにガッツポーズをした。

 

「いや、これから寝るところだったんだけど。なんか目に入っちゃってな」

 

カズマはぽりぽりと頭を掻いた。ソウジは「そうですかー」と相槌を打つと、再びシャドーボクシングの体勢に入ろうとする。

しかし、またもカズマに呼び止められた。

 

「なあ、沖田……さん。あんた、剣士じゃないのか? 何でシャドーボクシングなんかやってるんだ?」

 

ソウジは苦笑した。

 

「総司でいいですよ、カズマさん。仲間なんですから」

「仲間、ね。それだったら俺のこともカズマって呼んでいいぞ。さん付けとか要らないから」

 

カズマも苦笑する。

沖田は首筋を掻いた。

 

「いやー、私のこれは癖でして……。っていうか、剣士なのに拳の練習をする理由でしたっけ?」

 

こくり、とカズマは頷いた。 「ああ。モンクやプリースト、拳闘士ならまだしも、アークフェンサーだっけ? には近接格闘スキルなんて無いだろ? なのに何で練習してるんだ?」

 

ソウジは肩をすくめた。

 

「やれやれですね。本当にカズマさんは魔王軍幹部を討伐したんですか? 戦場なんてのは最後に立っている奴が勝者なのです。もし不慮の事態に遭って剣が使えなくなったらどうするんですか? むざむざと殺されるんですか?

剣が使えなくなったら素手で。腕が吹き飛ばされたら足で。それも使えなくなったら噛みついてでもぶっ殺す。それが戦ってもんですよ」

 

「そ、そうか。でも、剣が使えなくなったら逃げるってのは駄目なのか?」

 

カズマは声を震わせて尋ねた。ソウジは鼻で笑う。

 

「何言ってるんですか。敵前逃亡は士道不覚悟ですよ。切腹です切腹」

 

「そ、そうか……。切腹って本当にあったんだな」

 

どことなく、畏怖のような感情が込められた呟き。

ソウジは笑い飛ばした。

 

「ま、ある種の罰みたいなものですからね。誰だってやりたくありませんよあんなもの。

袋小路(デッドエンド)に迷いこんでしまった人か、不祥事をやらかした阿呆か、主君の後追い自殺的な感じで自ら腹を切る馬鹿しかやってませんよ。

特に最後の奴は()()()も馬鹿にしてましたね。『救いようの無い馬鹿の所業よ』とか言って」

 

「ノッブ?」 怪訝な表情になるカズマ。

 

「ああ、ノッブってのは織田信長のことですよ。自らを第六天魔王と嘯いて本来守るべき室町幕府をその手で終わらせた小生意気な小娘です。私の同僚ですよ」

 

「へえ、織田信長! ……って、え? 小娘?」

 

「はい。小娘です。……ああでも、そういえば何かのスキルを使ったときだけボンキュッボンの大人の女性になってましたね。ええと、なんでしたっけ。『戦略』でしたっけ?」

 

ぶつぶつと思索してカズマをおいてけぼりにするソウジ。

カズマはというと、愕然と口を開いていた。

 

「おいマジかよ……織田信長って女だったのかよ……。ひょっとして俺が知らないだけで、歴史上の偉人全員が女の子だったりしないよな?」

 

その言葉に、ソウジはからからと笑った。

 

「そんなわけないじゃないですか。坂本龍馬とか、豊臣秀吉とかはちゃんと男でしたよ?」

 

「そ、そうか。よかった……」

 

「ああでも、牛若丸に宮本武蔵は女性でしたね。前者は痴女でしたし、後者は土方さんがコナかけるくらいのいい女でしたが」

 

「全然よくねーよ! 俺の偉人のイメージぶち壊しにすんな!」

 

 

 

 

その後も知られざる偉人の性別の暴露話は繰り出されていく。

 

「他だと源氏の棟梁も女性でしたね。それに気に入った人を息子と呼んで狂気的な愛を注ぐバーサーカーでした」

 

「世界に目を向けてみますと……。アーサー王でしょうか? あの方は美少女でしたね。どういうわけなのか、すれ違う度に私にガン飛ばしてくるのが気になりますが……」

 

「後はドレイク卿、ジャック・ザ・リッパー、モードレットやらネロ帝やらアストルフォ……いやあれは女装でしたっけ、それから女ではありませんがエジソンがライオンで……って、カズマさん? どうしました?」

 

「ツッコミが追い付かねえ……」

 

気付けばカズマは膝を抱えて座り込んでいた。どことなく陰鬱な雰囲気を漂わせているように見える。

本当に、一体どうしたのだろう。ソウジは首を傾げた。

 

「まさか異世界くんだりに来て、元の世界の知識というか憧れに泥を塗りたくられるとは思っていなくてな……」

 

そう言うカズマの瞳はどうにも虚ろに見えた。

しかし、これしきのことで何を言っているのだろう。ソウジはニヤリと笑った。

 

「性別程度で何を言ってるんですか? こう言っちゃなんですが、英霊にまでなった偉人というのは往々にして我が強い……ぶっちゃけて言うとキチガイなんですよ。皆がみんな。

食べた瞬間に口からエーテル――もとい魔力を断続的に吐き出すようになる奇怪な料理を作り出すアイドル、謝罪しかしない竜殺し、悪巧みが大好きな数学教授にヤンデレストーカー。挙げ句の果てに話しかけるだけで首を飛ばす金ぴかなんてのもいるわけです。私みたいな人を斬るしか能の無い女なんて、それに比べたら全然アクなんて無いですよ」

 

自分でいうのもなんですけどね、と付け加える。

 

カズマは虚ろな目のままで。

 

「……俺、この世界はクソゲーだと思ってたけど。元の世界も充分クソゲーだったんだなあ」

 

と呟いた。

 

「何を今更な事を」 どことなくつまらなそうに、ソウジは言った。

 

「陳腐な言葉ですが。元の世界が神ゲーだったとして、それなら私はあんな()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

「死にか――えっ?」

 

いきなり出てきた重い言葉に、カズマは言葉を失ってしまう。それをどう解釈したのか、ソウジは、

 

「おや、昼間言いませんでしたっけ? 我々英霊は、死後に在り方が昇華されたモノなのです。例外はあるようですが、基本的に英霊はとっくに人生の全行程を終えているのですよ」

 

と、何でもないことのように言った。

いや、実際に何でもないことなのかもしれない。カズマだって、時折過去を無意味に掘り返しては他人事のように笑い話にすることがある。既に人生を終えた者の気持ちなんて、案外そんなものなのかもしれない。

カズマは尋ねた。

 

「どんな死に方だったんだ?」

 

途端、ソウジの纏う空気の温度が二、三度下がった気がした。

 

「……どんな死に方、ですか。後世に伝わってないんですか?」

 

カズマは酷く後悔した。「あんな死に方なんてしていない」とか言っていたんだから、それが腫れ物であることは明らかだろうに。

どんな人間にもそこを疲れたらぶちギレられる、所謂核地雷というものが存在する。カズマなら――まだこの時点では出会っていないが――サキュバスが害意を与えられたとき、めぐみんは爆裂魔法、ダクネスは筋肉、アクアは信者が害意を与えられたとき。

ひょっとすれば、今カズマはソウジの核地雷を踏み抜いてしまったのかもしれない。

今更ながら変な汗が吹き出てきたカズマは、上擦った声で。

 

「い、いや、すまん。変なこと聞いちゃったな」

 

「いえ、いいんですよ。別に気にしてませんから」

 

(嘘つけッ! 絶対気にしてるだろ!)

 

ブロックアイスのように冷たくて平坦な声に、内心で突っ込まざるを得ないカズマ。

実際には絶対に言わないし、言えないが。

 

「ただ、情けない死に方だったんですよ。死後でもこうして、思い返す度に無償に何かを殴り付けたくなるくらいに」

 

ソウジはやはり平坦な声を発すると、突然シャドーボクシングを始めた。

が、余り真面目にやる気は無いのか、左右ともに軽いジャブしか繰り出そうとしない。その分先程よりもスピードが上がっているようにも見えるが。

腕が四本に分裂したかのごとく打ち出されるラッシュを見続けること三秒。ソウジは虚空へのオラオラを打ち切ると、息一つつかずに話を再開した。

 

「そんなわけなので。私としては、こうやって好きに動けて()()()エア花京院とスパーリングできるっていうのはそれだけで嬉しいわけなのですよ」

 

ソウジは、笑った。悲しそうに。寂しそうに。

そこには自己紹介のときの可憐な印象なんてどこにもない。ひたすらに儚い、柳のような微笑み。

……だというのに、どうしたというのか。青白い月光に照らされたそれは、酷く綺麗で、美しく見えて――

 

――少なくとも、カズマにはそれは下手に声をかけて壊すことが躊躇われるくらいに美麗な物に見えた。

 

呆けていたカズマ。しかし、美しい物というのは刹那的に発生するからこそ美しいのであり、永遠に続いては陳腐で嘘臭いものと成ってしまうだろう。

ソウジは微笑みを崩し、怪訝な表情になった。

 

「……どうしたんですかカズマさん。あくびの発生3秒前みたいな顔をして。そんな中途半端に口を開けると、虫が入ってきますよ?」

 

ムードもへったくれもないソウジの発言に、カズマは。

 

「ほっとけ理想破壊者。お前のせいで俺の偉人や聖人のイメージがばらばらばらと分解したんだよ、どうしてくれる」

 

「自分から聞いてきておいて何なんですかその反応。流石の沖田さんも激おこぷんぷん丸ですよ」

 

「別に俺からは聞いてねーよ! そっちが聞いてもいないのにべらべらと喋っただけじゃねーか!」

 

「なにをーっ! 義経さんやら頼光さんやら信長やら武蔵さんやらが実は女の子だって言っただけじゃないですか!」

 

「そこだよ! そこがいらない気遣いだって言ってるんだよ、大体俺的には沖田総司が女性だったってこともショックだよ!」

 

「ああっ! 言ってくれましたね、よろしいならば戦争だ! 丸太は持ちましたかカズマさん!」

 

「おい待て、色々混ぜすぎておかしな事になってるぞ! というかあんたも割と沸点低いな!」

 

カズマの発言に、余計に眉が釣り上がったソウジが口を開こうと……!

したところで、二階の部屋のドアがバタンと開けられた。

 

「二人とも! 何時だと思ってるんですか! 喧嘩するならよそでやってください!」

 

「「す、すみません」」

 

怒り心頭といった様相で目を紅く輝かせるめぐみんに、カズマと沖田は素直に頭を下げた。

 

 




次回以降は一話完結になるんじゃないでしょうか知らんけど

そんなことより私にマハトマをください

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