……近々話統合するかもしれません
ダクネスと、めぐみんと呼ばれた少女に連れられて窓口へと向かう。
流石にめぐみんというのが本名だとは思えないので、愛称かなんかだろう。本名はめぐみとでもいうのだろうか。
めぐみだからめぐみん。何ともどっかのアイドルが付けそうな安直なネーミングである。もっとこう、インパクトのある渾名なんかは無かったのだろうか。
「……? どうしたんですか? 私の顔をじっと見て」
「いえ、何でもないですよ」
首を傾げるめぐみんに沖田が笑って誤魔化していると、冒険者窓口に辿り着いた。
4つある窓口はその全てに行列が出来ていて、すぐに応対はされなさそうだ。
「何だか混んでますねえ」
「仕事を終えた冒険者が一斉に帰ってくる時間帯ですからね。必然、窓口が混むのですよ」
なるほど。めぐみんの説明に納得しつつ、ギルドの入り口から一番近いところにある列に並ぶ。
ここが一番行列が長かったが、しかし得てして窓口とは行列が長いほど手際が良いものだ。手際が良いから行列ができるとも言う。
沖田は英霊としての知識と経験からそう確信していた。近代の英霊ともなるとこういった現代にも通じる豆知識にも広く通じているのである。
「あの、すみません。どうして一番行列が長いところに並んだんですか? 窓口に立っている職員なんてカードの討伐一覧確認するだけですから手際なんてどこの窓口も似たようなもんですし、窓口の差異なんて職員が美人のお姉さんかおじさんかくらいしかありませんよ?」
「…………」
広く通じていた筈なのである。
並び直そうかと思ったが、後ろに人が並んだのを見て却下する。
後ろにも列が形成されているのに抜けるのは、ちょっともったいない心地がする。
しかし、そうなると。
沖田の見るところによると、どれだけ少なく見積もっても待ち時間は5分弱はありそうだ。
その間はどうしても暇になることだろう。めぐみんやダクネスと立ち話に没頭できればそれでいいのだが、しかし先ほど会ったばかりの相手に没頭できるほどの話すネタがあるかというと……。
……ひとつあった。
「そういえば、先ほどは魔王軍幹部討伐の話しかしてませんでしたが。貴方達ほどのパーティなら、他にもスリリングで超エキサイティンな冒険談とかないのですか?」
めぐみんとダクネスに話しかける。
めぐみんは「勿論ですよ」とばかりに頷くと、
「数えきればキリがありませんが――そうですね、それではキャベツの収穫のときの話でもしましょうか」
「……え? キャベツの収穫!?」
この世界の野菜は跳んで跳ね回るのだという。
旬の時期。熟しきった甘々で稲妻なキャベツは、食われてばかるかとばかりに鳥のように空を飛び、捕獲しようとする冒険者にサッカーボールのように体当たりを仕掛け、逃げ回った挙げ句最終的に秘境の奥でひっそりと息を引き取るのだとか。
キャベツが意思を持って動き回るだなんて常識的に考えてただのポルターガイストとしか思えないが、ここは異世界。既存の常識はあまり役に立たない、そういうものと思って受け入れるのがいいのかもしれない。この異世界では常識に囚われてはいけないのですね!
「次の方、どうぞ~」
とかなんとか話していていたらいつのまにか行列が捌けていた。めぐみんが沖田を指して言う。
「この方が冒険者登録をしたいそうなのですが」
「冒険者登録ですね。手数料として1000エリスいただきますが」
豊かな胸の大部分を露出させた扇情的な格好の受付嬢がにこりとそんなことを言う。
「……ん。それは私から出そう」
ダクネスが銅の硬貨を数枚差し出す。
受付嬢はにこりと笑い受け取ると、カウンター下の、恐らく収納スペースから一枚の羊皮紙を取り出した。
「……頂きました。それではまず、冒険者についての説明させていただきます。冒険者というのは……」
羊皮紙を広げながら、受付嬢は説明し出した。
・冒険者とは、何でも屋のことである。だが、基本的には街の外にはこびるモンスターないし人間に仇なすモノの討伐が主な仕事である。
・冒険者は各々が就く職をステータスが許す範囲で選ぶことが出来る。
・冒険者は討伐したり食事を取ったりすることで経験値を貯め、レベルアップすることが出来る。
・冒険者はレベルアップすることによってポイントを得られ、ステータスやスキルなどで自己を強化することができる。
・以上の情報は、冒険者一人につき一枚発行される冒険者カードで確認することが出来る。
受付嬢の説明を簡潔にまとめるとこんな風になる。
やっぱりただのRPGであった。
「何か質問はございますか?」
「いえ、問題ないです」
話の締めくくりにそう尋ねる受付嬢に、沖田は首を振る。
受付嬢は先程の羊皮紙とはまた別の紙を取り出した。
「ではこちらに身長、体重、年齢などの身体的特徴をお書きください」
沖田は頷いてペンを取った。
すらすらと嘘偽りない情報を書いて渡す。
「ありがとうございます。それではこちらのカードに触れて下さい」
そう言って受付嬢が見せたのは、先程の青年も持っていた冒険者カードだ。
「カードに触れることであなたの潜在能力が分かりますので、それに応じてなりたいクラスを選んでくださいね」
沖田は言われるがままカードに触れた。
なりたいクラスと言っても、セイバーであるところの沖田は剣士以外になる気はなかったが。
ピカッと音がして、光と共にカードに文字が刻まれた。
どういう仕組みなんだろうと思いながら、沖田はカードを受付嬢に渡す。
カードを受け取った受付嬢は、確認するようにカードを眺め。
「はい、ありがとうごさいます。それで、あなたのステータスは……!?」
そして、硬直した。
何か、問題でもあったのだろうか。沖田は不安に思って受付嬢の顔を覗き込んだ。
「ちょ、ちょっと。あなた何者なんですか!? 生命力と魔力は平均より低いてすが、それ以外のステータスがぶっとんでます! 敏捷性に至っては三桁台後半ですよ!!」
沖田の潜在能力が凄まじかっただけのようだ。ほおっと安堵の息を吐くと同時に、そりゃそうですよねと苦笑する。
だって、沖田総司は英霊だ。
沖田自身は別段強力な英霊というわけでもないが、それでも基本的スペックは人間なんかとは比べ物にもならない。
――人の面を被った化け物。それが、英霊というモノなのだ。
だが周囲の人達はそんなことなんて知るわけもなく。
ギルド内は、途端にどよめき出した。
後ろのめぐみんとダクネスも、冷や水をぴしゃりと打ち付けられたような表情をしている。
「す、凄いですね……。あの動きからして相当なものとは思っていましたが、これほどまでとは……」
「うむ。敏捷三桁など、王都で活躍している冒険者でも達している者など少数だというのに。それを最初から達成しているとは」
「あの娘、何者なんだ……?」
「っべー、マジっべー。ヤバイがヤバすぎてマジっべー」
「すごーい! お嬢ちゃんはとっても早く走れるフレンズなんだね!!」
そこまで言われては悪い気はしない。
沖田は照れたように笑って首をぽりぽりと掻いた。
「これだけのステータスなら、魔力値や生命力が必要とされるクラス以外ならなんでもなれますよ! それこそ、いきなり上級職になることだって可能です!」
興奮冷めやらぬ、といった体で受付嬢が捲し立てる。
が、そんなことを言われても剣士以外になるつもりは無い。
とりあえず、沖田は受付嬢が提示した、今自分がなれるクラスが書かれたリストを見た。
ソードマスター、ダークフェンサー、ファントムシーフ、アサシン、ランスマスター、スーパースター、コマンダー……。
様々なカタカナが記されているが、肝心なセイバーの表記がどこにもない。アサシンはある癖に。
……というか。正直カタカナばっかりでどういうクラスなんだか想像しづらい。
ソードマスターやランスマスターやらはまだ分かるが、スーパースターやコマンダーとは何ぞや。
首を傾げる沖田に、後ろに立っていためぐみんとダクネスがリストを覗き込んできた。
「うわ、凄いですよダクネス。上級職の名前がずらりと並んでいます。ここまでくるといっそ壮観ですね」
「そうだな。言っていた通り、耐久力が必要なクルセイダーや魔力が必須のウィザード系統は無いが、それ以外はよりどりみどりだ」
何だか妙に感心しているが、再三繰り返すが沖田は生憎剣士以外になるつもりはない。
「なら、剣士になりたいのですが」
沖田が言うと、受付嬢は。
「そうですね……。剣士系のクラスとなりますと、こちらのソードマスター、アークフェンサー、ホーリーナイトなどはいかがでしょうか」
いや、いかがと言われても。
「その三つのクラスには、それぞれどんな特徴があるのですか?」
「そうですねえ。ソードマスターは剣士系最強の攻撃力を誇るクラスでして、優秀な筋力値を持つ方がよく就いている傾向にあります。アークフェンサーはソードマスターに比べて防御力が低い分、スピードを上げたクラスですね。筋力よりも敏捷値が高い剣士志望の人が就いている傾向にあります。ホーリーナイトは所謂聖騎士のクラスですね。聖騎士のクラスには他にクルセイダーがありますが、あちらは壁役に対してこちらは攻撃主体のアタッカーです。信仰心の強い方はこのクラスを選んでいく傾向にありますね」
なるほど。
受付嬢の説明に、沖田はうんうんと相槌を打ちながら考える。
しからば、自分に一番合っているのはアークフェンサーだろうか。
筋力よりも敏捷値が高い剣士志望というのにこの上ないほど合致するし、もとより自分の防御力に対して期待はしてない。
何せ耐久Eランクである。病弱スキルのこともあるし、期待をするほうがおかしいというもの。
それに、特に信心深いというわけでもないのでホーリーナイトは不適だろう。
「それならアークフェンサーにします」
沖田が言うと、受付嬢はにこやかな笑みを浮かべた。
「分かりました! では、アークフェンサー……っと。冒険者ギルドにようこそオキタソウジ様、今後の活躍を期待しています!」
○
カズマが冒険者窓口にてカードを見せ、ゴブリンの討伐数を確認してもらい、報酬受け取り口にて報酬を受け取ったとき。
「ちょ、ちょっと、あなた何者なんですか!?」
職員の声がギルドに響き渡った。一体なんだろうと声のした方に振り返ると、そこには例のダンダラ羽織の少女。
「あなた何者なんですか!? 生命力と魔力は平均より低いてすが、それ以外のステータスがぶっとんでます! 特に~~」
その台詞にざわつくギルド内の冒険者。
何だろう、このデジャヴは。前にもこんなことがあった気がすると、カズマは横の駄女神をちらっと見る。
と、どうやらアクアも同じ事を考えていたようで。
「いや~、懐かしいわね。私もあんな風に超凄い初期ステータスでもってチヤホヤされたっけ。……どっかの最弱職のカズマさんとは違って!」
「ステータスとスキル以外取り柄の無い穀潰しの癖に何言ってんの? その後色々とやらかした挙げ句ギルドの冒険者達から敬遠されるようになった癖に」
「ちょ、それは私だけじゃなくてカズマも騒いでいたのが原因でしょう!? 私だけが悪い訳じゃないわよ!
それにカズマだって悪知恵とスティールしか取り柄無いじゃない! この最弱職!」
「ほー、言ったな? ついこないだ覚えたドレインタッチ喰らわせてやってもいいんだぞ?」
「やれるものならやってみなさいな! 私は水の女神アクア様よ? リッチーなんて汚らわしい存在のスキル、効くわけないじゃな 『ティンダー』 あづっ! 熱い! やめて! 焦げちゃう!」
ギルド内の冒険者がひたすら期待の新米冒険者の方を注視する中、二人はそんな下らないやり取りをしていて。
だから二人とも、次のルナの叫び声が、耳に届いて来なかった。
「冒険者ギルドにようこそ、オキタソウジ様!」
二人が、この英霊の少女の名前を知るのは、もう少し先。
具体的には、屋敷に帰ってからだ。