【改稿】この素晴らしい世界に沖田総司を!   作:とりるんぱ

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プロローグを一つにまとめました。ついでにサブタイトルの雰囲気も変えてみました。前のが好きだったって人はごめんなさい


プロローグ

誰かの声が聞こえてきた。

 

『――Anfang』

 

清廉にして瀟洒、聞くだけでマイナスイオンを感じるような清純な声。

沖田総司という英霊が、生前に一度も聞いたことの無かった声だ。

 

沖田は眉を潜めた。

 

「どうしてここに声が届いているんでしょう」

 

今、沖田がいるのは座と呼ばれる、この世のどこにも存在しない次元の狭間のような場所にある。

そんなところに声なんて、普通は届かない。なのに届いているのは、いったいどういう了見なのか。

という疑問を受けての呟きだったのだが、しかしその疑問は一瞬で氷解した。

 

『満たせ、満たせ、満たせ、満たせ、満たせ』

 

嗚呼、成る程。普通ではない了見なのか。

沖田は納得した。これは()()()()()()()()()()

 

英霊召喚。その名の通り、英霊を召喚する魔術。

なのだが、しかし、英霊は神代でもない限り、ホイホイと召喚できるような存在ではない。

数多ある伝承、概念、偉人、それらが昇華し、抑止の守り手と成った者こそが英霊。

たかが人間が魔術を詠唱したところで、聖杯のような規格外の魔力を有するものからのバックアップでもない限りは召喚すらできないだろう。身体中の魔力を絞り尽くされてミイラになるのが落ちである。

 

それは火を見るより明らかなことであるから、普通英霊召喚なんて起こそうと言う者はいない。にも関わらずこうして唱えられている。

となると、聖杯からのバックアップが働いているというのは間違いない。

 

「なら、これは聖杯戦争ですか。……この前参戦したばかりなんですが」

 

つい最近、沖田はとある聖杯戦争に参戦し、最後まで生き残った。

のはいいが、聖杯の獲得には至らなかった。なんか気付いたら黒化して、よく分からないうちに戦争が終結していたのだ。

最後まで戦い抜くというのが願いである沖田にとって、これはよい思い出ではなかった。沖田は渋い顔をする。

 

が、すぐに口許を歪めた。

 

「これは、戦いが私を呼んでいる、という奴ですか。……面白いですね」

戦馬鹿の英霊は、戦場に出ることが願いであったり、強い敵と戦うことが願いであったりする。

沖田は願いこそどちらでもないが、十分に戦馬鹿であるといえた。

そんな沖田を他所に、声は響き続ける。

 

『抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ』

 

沖田の視界から、色という色が抜け落ち始める。

まるで色彩の一切合切が、視界にこびりついたシミであると言わんばかりに。

だんだん、沖田の視界は色という概念が存在しない退屈な世界へと変貌を遂げていく。

 

いよいよ召喚のときが来たのか。沖田は舌なめずりをした。

 

『――再臨せし肉体を以て、天魔の長を打ち倒せ!』

 

その声を最後に。

沖田の姿が、座から消え去った。

 

 

 

 

その日のカズマのパーティは、ヤバかった。

いや、いつも大概ヤバイのだが、その日は特にヤバかった。

 

「嫌! いやあああああああああああ!」

 

泣き叫びながらひた走るアクア。その後ろには、重い鎧のせいかあまりスピードが出ないダクネス、爆裂魔法を使用し、動けなくなっためぐみんをおぶったカズマ。

……そして、低レベル冒険者で最も恐れられていると言っても過言ではない黒い見た目のモンスター、初心者殺し。

 

「もう初心者殺しにかじられるのは、いやああああああっ!」

 

「おいアクア、言ってないでとにかく逃げろ!」

 

カズマ達は、初心者殺しに追い掛けられていた。

 

 

最初は特に問題なかったのだ。

コボルトの群れの全滅というクエストを受注し、特に道中モンスターに遭遇することもなくコボルトの目撃情報があった場所へと辿り着いた。

そこからカズマの敵関知と潜伏スキルを併用し、コボルトが一ヶ所に集まるのを待って爆裂魔法を使用。討ち漏らしもなく、見事にコボルトを一網打尽にした。

これにて依頼達成。後は動けなくなっためぐみんを背負ってアクセルの町まで帰り、冒険者ギルドにカードを提出し、討伐報酬を貰うだけ。これにて一件落着、ヨヨイのヨイ。

 

……なんて、なるはずもなく。

 

爆裂魔法の爆音を聞き付けて寄ってきたのか、あるいは始めからコボルトの群れの近くに潜んでいたのか。カズマ達は初心者殺しに発見され、逃走中を繰り広げる羽目になってしまった。ちなみに逃げ切っても特段賞金は出ないし、確保されたら死亡確定である。なんじゃ、このクソゲー。

 

「カズマカズマ、追い付かれます! もっと速く走って下さい!」

 

アクアやダクネスと比べると遅れ気味のカズマに、めぐみんが焦り声を上げる。

カズマは怒鳴り返した。

 

「うるせーよ、これでも精一杯走ってんだよ!」

 

「これが精一杯!? 冒険者は最弱職ですが、まさかここまで低ステータスだったとは思いませんでしたよ」

 

「おい、俺がこれくらいの速度しか出せないのは、動けないお前をおぶっているからなんだからな? いざとなったらお前を捨てて俺だけ逃げられるってこと、忘れんなよ」

 

「カ……カズマ? いくらなんでも、そんなことしませんよね? 私達、仲間ですもんね?」

 

「何言ってるんだよ、めぐみんは俺がどんな人間か熟知しているはずだろ? なんてったって俺達は仲間なんだからな」

 

「二人とも、そんなこと言ってる場合じゃないぞ!? 後ろを見ろ!」

 

切羽詰まったダクネスの声にカズマとめぐみんが振り替えると、手が届こうかという距離にまで迫った初心者殺しの姿があった。

 

「ひいいいいいいいい!」

 

慌ててカズマが足を目一杯動かすが、初心者殺しとの距離が広がる様子はない。

逃走スキルがあれば広げることが出来たのかもしれないが、無い物ねだりしても仕方がない。今カズマに出来ることは、とにかく全力で足を動かすことくらいである。

 

と、そのとき。

 

「そうだアクア! 支援魔法! 私達に支援魔法をかけて下さい!」

 

カズマに背負われためぐみんが、珍しく知力が高いアークウィザードらしいことを言った。

支援魔法とは、いわば神からの祝福。神の力をプリーストの信仰心の強度に応じて貸し与えることで、肉体はじめ様々な物を強化する魔法。

アクアのような自分を女神と思い込んじゃった系女子(めぐみん視点)なら、支援魔法による強化倍率も凄まじいことになる。

それを貰えば、カズマも少しは初心者殺しと距離を離せるだろう。

 

「分かったわ! 『スピード・ゲイン』!!」

 

アクアは走りながらも魔法を唱える。

最前列で走り逃げるアクアには、落ち着いて詠唱できる程度の余裕があったらしい。

 

カズマ、アクア、ダクネスになぜかめぐみんの体がが一瞬淡く光り、次の瞬間彼らの走るスピードが段違いに速くなった。

今までの速度をランニング程度とすると、今のスピードはさしずめ自動車くらいだろうか。それだけ速度が強化されたのだ。

 

めぐみんの思惑通り初心者殺しとカズマの距離が開く。初心者殺しは始めの内は絶対に逃がさないといった様相でカズマ達を追いかけていたが。

 

「おいめぐみん、初心者殺しはどうなった!?」

 

「ええとですね。……速度を緩めています。諦めたのでしょうか?」

 

そんなめぐみんの台詞に、首を傾げるダクネス。

 

「逃げ切った……のか? いやでも、たいして町に近いわけでもないのに追うのを諦める理由がわからないのだが……」

 

しかしそんな台詞を、アクアが笑い飛ばした。

 

「まあ何でもいいじゃない! もう追ってこないんだから! いやー、初心者殺しも大したことないわね! 逃げるだけなら簡単じゃない! 戦うならともかく、逃げることに専念すれば楽チンなことこの上ないわ!」

 

「お前さっき逃げるとき泣きわめいてただろ」

 

調子に乗っているだけとも言う。

カズマが呆れた表情で指摘していると。

 

「……ああっ!」

 

めぐみんが目を見開いた。

 

「お、おいどうしためぐみん。いきなり大声出して」

 

「あ、あれを見てください!」

 

切羽詰まったその声に釣られて、カズマもめぐみんの向いている方角を見る。

 

「なっ……!」

 

そこにいたのは、一人の女の子。

どこかで見た気がする浅葱色の羽織がよく目立つ、恐らく十代半ばであろう可憐な美少女。

……そして、その少女に向かって駆け出す、初心者殺し。

 

ああ、そうか。初心者殺しは単に自分達より仕留めやすそうな獲物を見つけたから標的を切り替えただけだったのか。

そんなことを考えながら、カズマは腹に力を込めて、思いっきり叫んだ。

 

「危なあああああああああいッッッ!!!!!」




『――再臨せし肉体を以て、天魔の長を打ち倒せ!』

オリジナル詠唱。ダサいとか言わない。

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