女剣闘士見参!   作:dokkakuhei

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原作13巻めっっっちゃ面白かった。
ドッペルゲンガーの原作設定とか2体の中ボス悪魔とか考察しがいがあるネタがごろごろしてて最高だった。


6/4デミウルゴスとバンドラズ・アクターのシーン加筆しました。



第19話 協調と凶兆

 王都リ・エステリーゼの午前。この日は前夜からの悪天候を引きずって、どんよりとした曇り空が広がっている。雲は厚く、空一面をくまなく覆っているため、もうすぐ正午だというのに辺りは日が没したかのような暗さだった。

 

 街行く人々は皆、忙しなく走っている。昨日のように雨に降られてしまうと、せっかく落ち着いた地面がまたぬかるんで衣服を汚してしまう。そうならないために目的地までなるべく早く着こうとしているのだ。

 

 今にも崩れ落ちそうな空。その一部から闇色の何かが落ち込んで、宮廷魔導師アインズの居室がある建物へ染み込んでいった。

 

 街行く人々は皆、自分の事で頭がいっぱいで、それに気がつく者は1人もいなかった。

 

 

 闇色の何かは部屋の主人がエ・ランテルに行ってしまって、誰もいない筈の部屋に侵入する。

 

「これはこれは、デミウルゴス様。如何されました?」

 

 闇色の何かは、部屋の中に居た、これまた闇色の何かに呼び止められた。2つの闇は次第にそれぞれ寄り集まって、明確な輪郭を作り出していく。

 

「失礼するよ。パンドラズ・アクター。」

 

 部屋の中に三揃え(スリーピース・スーツ)の悪魔と軍服の人形(ヒトガタ)が現れた。

 

「デミウルゴス様の訪問は予定に有りましたかな。」

 

 パンドラズ・アクターはその長い指で頭をぽりぽりと掻く。

 

「いいや、こちらに来ていると聞いたので顔を見せておこうと思ってね。邪魔したかい?」

 

「いーえいえ。丁度暇を持て余して居たところです。ここでは管理できるアイテムの数が少ないので。」

 

 パンドラズ・アクターは普段、宝物殿の領域守護者として山と積まれたマジックアイテムの管理の仕事をしている。仕事といっても彼はマジックアイテムフェチなので、半分実益を兼ねた作業であるが。

 

「ふむ、では何か心配事があったのかな。」

 

「私が心配したのは多忙なデミウルゴス様が挨拶のために仕事を中断なさって来たのではないかと。ですが、デミウルゴス様の事ですから今日の仕事は終わらせてから来られたのでしょうね。」

 

「ははは、情報収集もスクロール生産も部下だけで回るようにしたからね。割と自由に動ける時間が増えたのだよ。」

 

 暫し、差し障りのない会話を楽しむ二人。ただ、デミウルゴスの方がしきりにアインズの近況について聞きたがった。例えば最近アインズに命令された内容であったり、今後の展望でアインズに教えれた事であったりだ。

 

 些か不自然さが目立ったのでパンドラズ・アクターはその真意を尋ねてみた。

 

「ここ最近のアインズ様の行動の理由が分からないんだ。私はいつでもこの世界をアインズ様に献上できるよう準備をしているのだが、このままでは私がした行動でアインズ様にかえって御迷惑をお掛けしてしまうのではないかと案じている。」

 

 デミウルゴスは沈んだ面持ちで答えた。最近は世界征服のための新しい命令が出されない。彼はそれをアインズが自分をはじめ、シモベ達の能力に疑問を持っているからだと思っている。

 

 実際はミスをしまくっているアインズがデミウルゴスを恐れて無意識に遠ざけているのが原因であるのだが。

 

「アルベドにも一度、あー、話、をしたのだが、彼女は何か知っているのか、問題ないの一点張りで…。正直に言うと、今日の目的は君に意見を聞きたくて来たんだ。アインズ様が何を考えているか。」

 

「ははあ、なるほど。」

 

 パンドラズ・アクターは卵頭に開いた3つの穴を横に潰して──それがどんな表情なのか推し量ることはできないが──答えた。

 

「質問に答える前にまず1つ、アインズ様はデミウルゴス様をとても頼りにされていますよ。」

 

「…実感が湧かないな。」

 

「自分のことは得てして自分では分からないものです。」

 

 デミウルゴスは少し口角を上げて笑う。同僚が、例えお世辞であっても自分に気を使ってくれたことが嬉しかったのだ。ささくれだった心が癒されたような気がした。

 

「話を元に戻しますと、残念ながら私もアインズ様が何を考えているのかは分かりません。ですが、何に基づいて行動しているかは何となく分かります。」

 

「ナザリックの利益を確保する事だろう?」

 

 パンドラズ・アクターの言葉に、当たり前の事を口にするような軽さでデミウルゴスは追随した。

 

「ええ、ええ、ですが一口にナザリックの利益と言っても、様々な含意が有ります。」

 

「ほう? 版図を広げることや名声を得ること以外に?」

 

 パンドラズ・アクターはこくりと頷く。

 

「我々の安全ですよ。アインズ様はそれが一番ナザリックの利益であると考えられています。アインズ様が頭を悩ませられるのも、心を砕かれるのも、全てはそれのためです。」

 

 デミウルゴスの不安を拭い去るように、諭すような口調で話すパンドラズ・アクター。

 

「…そう、だな。」

 

 デミウルゴスはナザリックが原因不明の転移に巻き込まれてからのこれまでのアインズの行動を思った。

 

 カルネ村、現地人との初めての接触。未知に対する警戒に加えて敵に魔法が通用するかの実験を行う。

 

 森での邂逅、この世界での最高戦力と目される漆黒聖典の威力偵察。それに、あの行動はシャルティア達が漆黒聖典に接触しそうになったため慌てて駆けつけたとも取れる。

 

 確かにアインズの行動はパンドラズ・アクターの言う理念に乗っ取れば合目的的と評価できそうだ。

 

 それでもデミウルゴスの顔は晴れない。

 

「もちろん、アインズ様の我らに対する慈悲の心は痛み入るし、天にも昇る心地になる。…それでも、守られていてばかりではこの身が擦り切れる思いだ。アインズ様のお役に立ちたい、我らの成果を、誠意を受け取って欲しいのだ。」

 

 もう1つ、デミウルゴスは口にはしないが、胸中ではある思いが渦巻いている。自分達がアインズの足枷になっているのではないか…、その不安が日に日に肥大化し、精神を蝕まんとしていた。

 

 

「それではこうしましょう。」

 

 暗い雰囲気を全く無視して、パンドラズ・アクターが暢気で間の抜けた声を出す。

 

「私が留守を預かるこの2週間の間に何回か客が来ました。王国戦士長や、八本指の使者とか。これらの存在は御存知ですよね。」

 

 デミウルゴスは王国の情報収集を任されている身であり、もちろん知っている。パンドラズ・アクターが伺うとデミウルゴスは首肯で返した。

 

「後者についてですが、王国の裏で既得権益を握るこいつらは邪魔でしかないと思いませんか。アインズ様が戻られる前に王国のゴミ掃除をしておきたいのですが、これをデミウルゴス様にお任せしましょう。」

 

「大丈夫かい? アインズ様の計画に支障をきたす事にはならないだろうか。ハ本指も後々利用するおつもりなのでは。」

 

「問題ありません。アインズ様に報告したところ"なんかいい感じに対応して"と仰せつかっております。想定済みであるかと。」

 

 デミウルゴスはふむ、と相槌を打つと2秒ほど思案した。

 

「であれば、"掃除"より、"活用"の方が良いのでは? よければこちらでドッペルゲンガーを7体ほど用意するが。」

 

「む? ああ、なるほど、そういう事ですか。流石はデミウルゴス様。確かにバルブロをより良く運用するためにはそうした方が宜しいでしょうな。」

 

 パンドラズ・アクターは演技がかった口調で答えた。実はパンドラズ・アクターはデミウルゴスの提案を始めから想定していたが、あえてデミウルゴスに言わせて、自信を取り戻させるため話を誘導したのだった。だがこれは、決してデミウルゴスを侮った訳ではなく、パンドラズ・アクターなりの仲間に対する気遣いであった。

 

 デミウルゴスの方もそれに気付いていて、しかしながら当然のようにこれを甘受した。先の会話は謂わばシモベ同士の親睦を確かめ合う儀式みたいなもので、彼はこの心地良いやりとりをしっかりと噛み締め、それから己の創造主と相手の創造主に心からの感謝を捧げた。

 

 余韻に浸るデミウルゴスに対し、パンドラズ・アクターはそれと、と言葉を付け加える。

 

「もしお叱りを受けたらパンドラズ・アクターに唆されたとでも言えば。私は留守中の全権を委任されてますゆえ。ああ、御安心を。手柄を横取りしようなどとは考えていませんよ。」

 

 その言葉にデミウルゴスはふぅ、と感嘆の息を漏らす。

 

「君はやはりアインズ様に似ているな。気配りが出来るというか、謙虚な姿勢が。」

 

「ナザリック随一の知恵者にお褒めの言葉を頂くとは。私もまだまだ捨てたものじゃありませんな。」

 

 パンドラズ・アクターが顔に開いた下の穴を横に潰した。多分、ニヒルに笑ったのだろう。

 

「今度一杯奢らせてくれたまえ。」

 

 デミウルゴスも精一杯カッコつけて笑った。同僚の気遣いに少しでも応えるために。

 

「フフ、是非に。と言いたいところですが、私はどうやら副料理長に快く思われていないようで。」

 

「そうなのかい? ピッキーは客を邪険に扱うような事はしない筈だが。」

 

 デミウルゴスが首をかしげると、パンドラズ・アクターはいきなり両手を組み、顔の横まで上げた。丁度、カクテルを混ぜる為のシェイカー持つ格好だ。

 

「彼が言うには"君は品位と風格と機知(エスプリ)は備えているが、バーに一番必要な静寂を愉しむ感性が欠けているな"と。」

 

 パンドラズ・アクターは副料理長のモノマネをしたらしかった。しかしそれはバーのマスターが絶対にしないであろう大仰で芝居掛かった動作だった。得意げにアメリカンジョークを言うカウボーイさながらに。

 

 その仕草にデミウルゴスはさきの疑問に対する得心がいきながら、それをおくびにも出さず愛想笑いをする。そして自分のこれからの仕事について、最後の確認を入れた。

 

「アインズ様はいつお戻りに?」

 

「残後処理も含めて10日後ぐらいでしょうか。」

 

「なるほど、それだけ時間があれば、秘密裏に八本指の頭を全部すげ替えるのも容易い…。どうもありがとう。とても有意義な時間だった。」

 

 闇色の何かは窓から出て行くと、再び空の雲の中にじわりと溶け込んでいく。その姿もまた、街行く人々に見られる事はなかった。

 

 

 ーーー

 

 

 トブの大森林を目指し、平野を行軍する対巨大樹班。大所帯の人数分の馬を用意することはできず、移動方法は徒歩が中心だ。馬に乗っているのはアインズのみである。

 

 一行の旅路はいつモンスターに襲われるか分からない状況にあり、常に緊張が付きまとっていた。トロール程度ならいざ知らず、モンガ(=モモン)が出てくる可能性もあるのだ。一瞬たりとも気が抜けない。

 

「降って来そうですね。雨除けを用意した方が良いのでは?」

 

 緊張の中、沈黙が続いていたが、アインズが空気に耐えきれず、馬上から当たり障りのない話を切り出した。

 

 一行はつられて上を見上げる。空は見渡す限りの曇天で、風が吹くと肌寒い。空気は重く湿った匂いを孕んでいる。

 

「大丈夫ですよ。辛うじて夜まで持つと思います。ただ、明日は朝から霧雨で所々靄がかかるでしょう。」

 

 アインズの横を歩いていた"石の松明"の盗賊(シーフ)テトラントが教えてくれた。自信満々な態度で、かなり具体的な予報をする彼にアインズは興味を持つ。

 

「こいつ異能(タレント)持ちで天気を7割ぐらいの確率で当てられるんすよ。その上、この辺りの気候にも詳しいんで、こいつの天気予報は百発百中なんす。」

 

「へえ。すごいですね。」

 

 同じチームの戦士クーリシュが仲間を自慢するように説明する。テトラントはエ・ランテルの中では割と有名人で"風見鶏"のテトラントと呼ばれているらしい。本人は少し顔をニヤけさせて得意げにしている。

 

(そういえばそんな異能(タレント)があるって聞いたな。いつだっけ?まあ、一応コレクション候補に入れとくか。)

 

 アインズがしげしげとテトラントを眺める。

 

「もし誰かが<雲操作(コントロール・クラウド)>を使ったら、それも予知できるんですか?」

 

「さ、さあ。そんな状況に遭遇したことが無いので分かりません。」

 

「そうですか…。」

 

「…。」

 

 辺りにビミョーな雰囲気が漂った。10秒ほど、この場の音は足音と馬の蹄の音だけになった。

 

(しまったぞ。相手が得意になっているのに、藪蛇な質問をしてテンションを下げてしまった。)

 

 チラリと周りを伺うが、こいつ全然空気読めないわーという視線を向けられている。…気がする。

 

「ゴウンさんは<雲操作(コントロール・クラウド)>使えるんですか?」

 

 後ろからリカオンが質問してきた。そのくだりを蒸し返すとか、こいつも空気読めない奴かよ。俺への追い討ちなの?

 

 ここで、「もちろん使えます。」などと言った日には、それが自慢したかっただけかよ、なんて思われるに違いない。ここは無難な回答をしておこう。

 

「いや、私も文献などで知っているだけで…。」

 

「文献、魔導書ですか。その話気になりますね。」

 

「私も興味あるぞ。」

 

 石の松明のリーダーで魔力系魔法詠唱者(マジック・キャスター)のヴォールとイビルアイが会話に参加してきた。彼らのような人種は知識欲に忠実に生きているらしい。

 

(やばい。文献とか口から出まかせで、何も考えてなかった。どうする。魔法原理の話とかされても全くわからんぞ。かといって自分から話を振っておいてここで何も言わないのは不自然だ。)

 

「…文献には、…あれだ、補助第四位階魔法だとか。」

 

 アインズはユグドラシル時代の魔法職スキルツリーを必死に思い出しながら話す。<天候操作(コントロール・ウェザー)>は知っているが、その下位互換の<雲操作(コントロール・クラウド)>についてはうろ覚えだ。確か、魔力系で風と水の属性魔法を修めるか森司祭(ドルイド)でも取得できたような記憶がある。

 

「…複数の属性(エレメンタル)を自在に操ったり、…ああと、えー、高位の自然魔法を行使できる者が扱えるという。」

 

「ふむう、第四位階か、別分野のそれだけ高位な魔法にはさすがに明るくなくてな。」

 

「自然に影響を与える属性魔法なんて、私には想像もつきませんね。風属性も極めればその高みに到達できるのでしょうか。」

 

 この世界で現実に存在する魔法は第六位階が最高位と見なされている。ユグドラシルでは木端魔法でも、この世界で第四位階は相対的に高位の魔法だ。

 

「君は風のエレメンタリストなのか。」

 

「ええ──。」

 

(ふー。詳しい奴がいなくて助かった。おっといけない、そろそろ準備をしなくては。)

 

 アインズは魔法談義に花を咲かせ始めた周りをほっぽって、シモベ達に作戦の合図を送る。

 

 アインズの作戦では、トブの大森林に入ってすぐ、この一行をモモン・ドッペルに襲わせ、二手に分断させる予定だ。そして、大部分をモモン・ドッペルによって巨大樹から引き離している間に、巨大樹移動作戦を敢行する。

 

 モモン・ドッペルはパンドラズ・アクターではなく、先日アインズが召喚した傭兵モンスターの上位二重の影(グレーター・ドッペルゲンガー)に任せる。これは不慮の事故──主にリカオン──によりパンドラズ・アクターを失うことがないようにするためだ。

 

 欲を言えば、分断時にリカオンは巨大樹側にいれて、アインズの目の届く範囲に置いておきたい。

 

(大丈夫かなこの作戦。急に不安になってきた。)

 

 不確定要素が多すぎる。アインズは天に祈りたい気分になって空を見上げた。

 

「あれ…。」

 

 空を見上げると同時に、水滴が仮面に付いているのを感じた。何かと思えばポツポツと雫が降り始め、次第に玉散る村雨となった。テトラントは狐につままれたような表情をしている。

 

 

 

「天気予報は外れたようだな。」

 

 誰かが呟いた。

 

 

 ーーー

 

 

 霧にけむるスレイン法国。土の神官長レイモンは法国の秘宝が眠る聖域へと足を運んでいた。

 

 神々の装備を守護する漆黒聖典の一人、絶死絶命に会うためである。レイモンは彼女がいるであろう宝具の間の入り口に立ち、薄暗い室内に向かって声を掛ける。

 

「いるか?」

 

 十分な時間が経過するが、レイモンの声に返事はない。彼は少し苛立ちながら、再度尋ねようと口を開きかけた。

 

「はあい。」

 

 背後から声がした。振り返ると自分が歩いてきた廊下の柱に凭れながら、玩具(ルビクキュー)を弄る絶死絶命の姿があった。

 

「やめろ、心臓に悪い。」

 

「はあい。」

 

 彼女はルビクキューに目線を落としたまま、まるで感情のこもってない返事をする。普通は政治の最高決定機関である土の神官長に対し、この態度は許されないものであるが、彼女は法国が保有する最高戦力であるため態度を改められる者がいないのだ。毎度の事なのでレイモンもさほど気にしてはいない。

 

「で、なんで来たの?」

 

「王国で破滅の竜王(カタストロフ・ドラゴンロード)が出現した。」

 

「またぁ?」

 

「今度は正体不明の甲冑じゃなくて、巨大な木の化け物だそうだ。正真正銘の破滅の竜王(カタストロフ・ドラゴンロード)だと。」

 

「へえ。」

 

 彼女の目にほんの小さな程度に興味の色が宿った。しかし、それでも手の中にある小さな玩具への関心を引き剥がす事は出来ないようだった。

 

 こちらを見ようともしない絶死絶命に、レイモンは続けて話しかける。

 

「漆黒聖典が森で遭遇した白鎧も気になる。…国を取り巻く時代は大きく動こうとしている。お前の力を借りる時がすぐ近くに来ているのかもしれない。」

 

 レイモンの言う"漆黒聖典"は漆黒聖典の隊長個人を指す言葉だ。漆黒聖典は白鎧と二言三言会話した後、戦闘になり、これを撃破したと言っていたが、中身は空だったという。おそらく魔法で操られていたのだが、会話から察するに白鎧は評議国の使いだと報告を受けている。

 

「あいつは?」

 

「再度、カイレ様を伴って任務へ出た。今度こそ法国の手駒を増やすのだ。」

 

「ふうん。上手くいくといいけど。」

 

「今度は風花聖典もバックアップに入る。万全だ。」

 

「それでどうにかなるかなあ。」

 

 この間も彼女はルビクキューから目を離さない。彼女はそれをカシャカシャと擦り切れた音を出してリズミカルに回転させていた。彼女の指の動きは、目的を持ってそれを動かしているというよりかは、ギミック自体を楽しむように、無作為に回転させているようだった。

 

 あれでは一生、六面揃わないだろうな、とレイモンは思った。

 

「もし、あいつが任務に失敗して破滅の竜王(カタストロフ・ドラゴンロード)が法国に危害を加えるような事があれば、処理を頼むかもしれん。」

 

「まあ、今まで暇してたし、思い切り暴れられるのは楽しみかも。」

 

「そうか。いつでも動けるよう準備はしておけよ。話は終わりだ。」

 

 そう言ってレイモンは絶死絶命の前を通り過ぎていく。レイモンはつい先ほど彼女のルビクキューに意識を向けたせいか、無意識に、ほんの手すさび程度に、彼女の出すカシャカシャというリズムに歩調をカツカツと合わせた。

 

「あっ。」

 

 絶死絶命が今日初めて感情のこもった声を上げる。珍しい出来事にレイモンは踵を返して彼女を見た。

 

「どうした?」

 

 

 

 

 

「二面揃った。」

 

 

 




残りの石の松明のメンバーの名前
戦士2→ソンボー
信仰系魔法詠唱者→フライマ
彼らの名前はある小説から拝借しています。

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