女剣闘士見参!   作:dokkakuhei

18 / 27
アニメ見るまでずっと六腕(ろくわん)だと思ってました。


※3/5、イビルアイVSゼロが少し気に入らなかったので加筆しました。


第16話 悪には悪の友情(カマラデリー)

 マルムヴィストは初めて遭遇する種類の恐怖に戦慄していた。

 

 今まで、この世の人間の中で一番強いのは自分たちのリーダーだと思っていた。鋼の肉体を持ち、いつでも冷静沈着、一度闘いになれば鬼神のごとき力で相手を圧倒する。

 

 魔法などを除いて、彼と生身で戦って勝てる人間はいないだろうと、尊敬と畏怖の念を彼に抱いていた。

 

 だが、今俺の前にいる奴はなんだ?

 

 こいつは俺をいとも簡単に殺すことができる。ネズミで狩りの練習をする猫のような無邪気さと残酷さで。現にマルムヴィストが受けた傷はとうに20を超えているが、全て手加減されている。奴がを俺を殺すチャンスはゆうにその10倍はあったはずだ。

 

 ゼロの強さを数値や経験則に基づく相対的な強さとするならば、目の前の奴の強さは抗うことすら許されない、理不尽で絶対的な強さ。奴にとって俺は遊ぶためのおもちゃなのだ。ダーツの的であったり、絵を描く画板であったり、()()()()()のやられ役という記号でしかないのだ。

 

「ば、化け物…!」

 

 マルムヴィストは後退りする。そして思い出したように階段の影にいる仲間の名前を呼ぶ。

 

「サキュロント! 来い! 俺を援護しろ!」

 

 援護しろ、とは言ったものの目の前の化け物とまともに戦う気は無い。自分が逃げるための時間稼ぎをさせようと淡い期待で呼んだのだ。だがその期待も容易く打ち砕かれる。

 

「それってこいつのこと?」

 

 返事をするように背後から声がしたかと思うと、自分の足下に何かが投げ込まれたのを感じた。いびつな球形のようでゴロゴロと転がり、足に当たって止まった。

 

「ひゅっ…!」

 

 息が止まるかと思った。

 

 それはサキュロントの頭部だった。顔の皮の左半分は剥がされ、右目はくり抜かれている。明らかに戦闘痕ではなく、苦痛の中で死んでいったことが伺われた。かつて目のあった暗い空間が、無念さをこちらに訴えかけてくる。

 

「クレア! そっちは終わった? そいつ、どうしたの?」

 

「私の戦いの邪魔をしてきたから、女共々殺してやった。こいつのカスみたいな幻術で2分も余計に掛かったから、女の2倍楽しんじゃった。おかげでスッキリしたよー。」

 

 拷問(趣味)の時間を満喫し、恍惚の顔をするクレマンティーヌ。ぺろりと舌で唇を濡らす。

 

「前から言おうと思ってたけど、クレアって趣味悪いよね。」

 

「久し振りにとても満足した。」

 

 クレマンティーヌはにししと子供のように笑いながら、ふと、今のリカオンの言葉を自分の中で反芻する。以前ならば、趣味悪いよね、なんてことを言われた日にはそいつを切り刻んでやりたくなるぐらいムカついていたはずだ。

 

 今は不思議とそんな気は起きない。むしろ親しみと心地良さを感じた。私が変わったのか、それとも言った相手がこいつだからか。

 

 クレマンティーヌはなんだか自分が自分じゃない気がしてむず痒くなった。でも悪い気は、しない。

 

「ふふ。」

 

「ししし。」

 

 仲良く笑い合う2人。マルムヴィストはその光景にえも言われぬおぞましさを感じた。

 

「おかしいぞ、お前ら…。狂ってる…。」

 

 嬌声がぴたりと止んだ。

 

「ああ、おにーさん。まだいたんだ。」

 

 

 ーーー

 

 

 イビルアイは空中に静止したまま地上を睥睨している。視線の先にはゼロが拳をつくり、修羅の如き形相でファイティングポーズをとっている。

 

「どうした。でかい口を叩いた割には逃げ腰か? 降りてこい。」

 

 ゼロの見え透いた挑発。普通、修験者(モンク)相手であれば高低差という圧倒的優位を維持したまま戦うのがセオリーだ。それを崩すのが狙いである。

 

「いいだろう。」

 

 しかし、イビルアイはあえて地上に降り立った。今から戦ってやるぞ、という決意の表明みたいなものだ。空中に留まったまま戦えば封殺する事も可能だったが、相手が苦し紛れにラキュース達を狙う可能性もある。

 

「殊勝なことだな。そんなに仲間が心配か?」

 

修験者(モンク)ならべらべら喋ってないで拳で語ってみたらどうだ? つべこべ言わずに来い。」

 

「フン、可愛くないガキだ。」

 

 ゼロは足の(パンサー)を起動した。太腿から脹脛にかけて筋肉が膨れ上がる。そして強大な2本の足のバネを利用し、一気にイビルアイとの距離を詰める。再び宙に浮かれては対処手段もないことはないが、かなり厄介だ。ゼロは短期決戦を挑む。

 

 一歩、二歩とまるで月面を跳ねるような歩幅で地面を蹴るゼロ。イビルアイまで後5メートルとしたその時。

 

「<魔法抵抗力突破最強化(ペネトレートマキシマイズマジック)水晶針釘(クリスタル・スティング)>。」

 

 イビルアイが魔法を唱えるとゼロの足下から長さ20センチ程の細長い紡錘形をした水晶が上に向かって無数に発射された。その半数は掠め、突き刺ささり、ゼロの減速を強いる。ゼロは痛みに少しだけ顔を歪ませた。

 

「ほう、なかなか鍛えられたアイアン・スキンだ。しかしこれで機動力は奪った。<水晶騎士槍(クリスタル・ランス)>。」

 

 イビルアイの目の前で巨大な槍が生成された。冷たく、透き通った歪みのない透明さが、槍の鋭さをいやというほど感じさせる。それがゼロを射抜かんと撃ち出された。

 

「ぐうっ! 舐めるな!」

 

 ゼロは背中の(ファルコン)、腕の(ライノセラス)、胸の野牛(バッファロー)を起動する。そして地面に両腕をついた、いや突き刺したというのが正しいか。

 

「むん!」

 

 ゼロは力を込め、腕の力だけでボウガンのように身体を飛ばす。空中で頭の獅子(ライオン)も起動した。スキルの使用回数はもう殆ど残っていないが、この魔法詠唱者(マジックキャスター)はここで確実に仕留めておきたい。

 

「かあぁぁあぁ!!」

 

 スキルの同時発動によって身体が悲鳴をあげる。迸るパワーをやっとの思いで抑え込み、ゼロは自身の最高の技を相手に叩き込もうとする。

 

 それはただの正拳突き。スキルや武技、能力をフル活用した単純明快なワンモーションの暴力行為、小細工無しの圧倒的な力による破壊である。空中で足の踏ん張りが利かず、かなり不恰好な形になったが、それでも相手が軟弱な魔法詠唱者(マジックキャスター)であればひとたまりもないだろう。

 

 ゼロは飛来した水晶の槍を左腕で受け止める。槍は能力によって強化された筋肉に阻まれ、少し刃先が沈んだだけで止まった。

 

「<重力増加(アクセラレート・グラビティ)>!」

 

 イビルアイは続けざまに魔法を唱える。その刹那、ゼロは見えない腕に上から押さえつけられるような感覚に襲われた。たまらず着地、足がずぶりと地面にめり込む。

 

「この程度で!この俺が止まるわけないだろう!」

 

 それでも、ゼロの進みは未だ力強さを失わない。あらゆる障壁を突破する、まさに人間戦車という言葉が相応しい歩み。ゼロの拳がイビルアイの直前に迫る。

 

 一瞬ゼロは時間が引き伸ばされた感覚に陥った。ゼロはその原理を知る由もないのだが、アドレナリンが全身に大量に分泌されることによる脅迫めいた一時的な全知感。

 

 全てがスローモーションになる。

 

 拳が、迫る。拳が、届く、届く。

 

「…!」

 

 やけに遅く動く景色の中で、ゼロは仮面で表情が見えないはずの相手が笑ったのを知覚した。突然、引き伸ばされた時間が圧縮され、普段の感覚が戻ってくる。

 

 ぐらりと世界が傾く。拳は左に舵をきり、相手を捉えることはなかった。自分の体が地に伏せ、流れ出た血に浸っているのを感じる。遅れて背に痛みが走った。そこで初めて攻撃されたのだと気がついた。

 

「何をした…、死角から…?」

 

 ゼロの背中には<水晶針釘(クリスタル・スティング)>が大量に突き刺さっていた。先ほど地面から上に撃ち出された残り半数の針が放物線を描いて落下し、再びゼロに襲いかかったのだった。

 

 イビルアイは横たわるゼロの傍らで腰を折り、耳元で囁く。

 

「<重力増加(アクセラレート・グラビティ)>で威力を上げたんだよ。それと、<水晶騎士槍(クリスタル・ランス)>は上への注意を逸らすためのものさ。その証拠に<魔法抵抗力突破最強化(ペネトレートマキシマイズマジック)>は使っていなかったろう? まぁ、戦いの年季が違うのだ。小僧。」

 

 ゼロはそこで意識を手放した。

 

 

 ーーー

 

 

「シィ!」

 

 ペシュリアンが腕を振るうと、まるで空間が裂けたようにキラリと閃光が放たれ、一拍遅れてテーブルが斜めに切断された。いまや床や壁には縦横無尽に切断跡が走っている

 

「こいつはなかなか厄介だぜ。」

 

 ガガーランはすげなく悪態をついた。さっきから防戦一方だ。切断されたテーブルの破片をペシュリアンに向かって蹴り飛ばすが、相手はそれも難なく撃墜する。

 

 ペシュリアンの愛用する武器、ウルミは柔軟に形を変える金属で出来た剣だ。それは剣でありながら鞭のようにしなり、半径3メートルの物体を根こそぎなぎ倒すことができる。薄く平たい刀身はそれだけで視認が難しい。

 

 恐るべきはその圧倒的リーチと攻撃速度だ。対処法を持たない者ならば為す術なく斬り捨てられて終わりだろう。ガガーランの動体視力と鎧の防御力があってこそ、この猛攻をなんとか凌げている。

 

 ガガーランは反撃の糸口を探る。一方、ペシュリアンも決定打の無い事に焦りを感じていた。ガガーランの持つ刺突戦鎚(ウォーピック)は一撃で戦況を覆しかねない威力を誇る。間違っても攻撃されないよう、常に障害物を盾にしつつ戦ってきたが、徐々に追い詰められてきている。

 

「ふう。」

 

 ガガーランは頭の中で想像(シミュレーション)する。ペシュリアンの攻撃を2回連続で躱すことが出来れば、その隙に懐に潜り込み、一撃を叩き込むことができるだろう。

 

 それは相手も心得たもので、大振りな攻撃の後にはフォローとして広範囲をカバーする横薙ぎを入れてくる。軌道が読める分ガードはしやすいが一向に近付くことが出来ない。

 

「相性が悪い気がするぜ。無理やり突破するか?」

 

 言うが早いか、ガガーランは武技<剛撃>を発動した。そして、刺突戦鎚(ウォーピック)を大きく振りかぶって、地面を掬い上げるようにぶん回した。床材が大小の破片となってペシュリアンに向って行く。

 

 ペシュリアンは動かずに武技<要塞>を発動した。ガガーランの行動がただの目くらましに過ぎないと看破したのだ。下手に動けば隙をつかれて相手に攻撃のチャンスを与えてしまう。ここはあくまでガガーランだけに注視し、保険に防御武技を発動しておくだけにする。

 

 ペシュリアンが思った通り、ガガーランが破片に紛れて接近してくる。刺突戦鎚(ウォーピック)を頭上高く上げ、叩き付けてくるつもりらしい。

 

 ペシュリアンはその隙だらけの胴を狙う。それを待っていたかのようにガガーランがにやりと笑う。

 

「武技! <流水加速>!」

 

 ガガーランの武器を振り下ろす速度が増す。

 

「その程度の浅知恵か。<加速>!<即応反射>!」

 

 横薙ぎをしようとしていたペシュリアンの体勢がにわかに引き戻され、再度攻撃の準備に入った。身を引きながら、ガガーランの手元に向けて一閃。

 

「ちぃっ!」

 

 ガガーランは筋力で無理やり刺突戦鎚(ウォーピック)を引き戻し、その柄で攻撃をガードする。再び距離をとる両者。

 

「見た目に似合わず繊細な攻撃をする奴だぜ。」

 

「…お前は見たまんま無茶苦茶だ。」

 

 お互い、相手への感想を述べると、そこからは沈黙の睨み合いに入った。

 

(良い感じだぜ。)

 

 命のやり取りをしているというのに驚くほど心は静かだ。戦士同士、力と技のぶつかり合い。たまらない。すこぶる気分がいい。

 

 ガガーランは戦いの空気に没入し、心を躍らせている。これほどの好敵手は久し振りだ。血が滾る、最高だ。

 

 

 あれさえなければ。

 

 

「ガガーラン、頑張れー!」

 

「黒鎧ー! 根性見せろー!」

 

 ガガーランは声のする方向をチラリと見た。そこにはいつの間にかギャラリーがいる。リカオンとクレマンティーヌだ。やたら気合が入った黄色い歓声を上げている。

 

 あいつら何してるんだ?普通、助太刀とか……、いや、いいんだけどさ。なんでクレマンティーヌは敵を応援してるんだ?あっ、さてはあの感じ、どっちが勝つかで賭けをしてるな。クレマンティーヌは後でとっちめっちゃる。

 

 同時にペシュリアンも困惑していた。何故あいつらがここにいるんだ。他の奴らはやられてしまったのか。今のところ戦闘に加わる気はないらしいが、目の前の男女を倒しても2体1では勝ち目が無い。かといって逃してもくれないだろう。ここはゼロが来るまで耐えるしか…。

 

「水を差されちまったが気を取り直していこうぜ。」

 

 ガガーランが再度<剛撃>を発動して、刺突戦鎚(ウォーピック)を大きく振りかぶった。重鎧がガチャリと重厚な音を立てる。

 

「また目くらましか、何度も同じ手を食うか。」

 

 ペシュリアンは床の状態を確認し、武技<要塞>を発動させてガガーランの突進に備える。

 

 それを見たガガーランは刺突戦鎚(ウォーピック)を大きく弧を描かせながら、力の限りぶん()()()

 

 刺突戦鎚(ウォーピック)は重く鋭い風切り音を上げて、ペシュリアンに迫る。

 

「なっ!?」

 

 予想外の攻撃に、ペシュリアンは咄嗟にウルミで防ごうとした。だが鞭のようにしなるウルミでは刺突戦鎚(ウォーピック)の質量を抑えることは出来ず、あえなく弾かれてしまう。

 

「そ、<即応反射>!」

 

 ペシュリアンは慌てて体勢を立て直そうとしたが、視界にぬっと黒い影がさす。ガガーランが目の前まで迫ってきていたのだ。ガガーランは逞しい両腕で、ペシュリアンの両肩をがしりと掴む。

 

「よう。俺の頭は刺突戦鎚(ウォーピック)より痛いぜ。」

 

 ガガーランの巨体が後ろに反り返る。ペシュリアンはこれから起こることを想像して、必死に抜け出そうとするが、単純な腕の力ではガガーランに及ばない。

 

 ガガーランは複数の攻撃武技を発動する。そして全体重をかけ、高いところから振り下ろす──バーバリーシープがやるような──頭突きをかました。

 

 ガガーランのサークレットとペシュリアンのヘルムが衝突し、耳を(つんざ)く打撃音が辺りに響き渡る。

 

 ガガーランが手を離すと、ペシュリアンは2、3歩たたらを踏んだ後、重力に逆らわずそのまま後ろに倒れた。僅かにピクピクと痙攣している。ヘルムは無残にひしゃげてしまっていた。

 

「もうその頭のやつは脱げねえかも知れないな。」

 

 ガガーランは静かに勝利宣言をした。

 

「キャー! ガガーラン、素敵!」

 

「あーあ、面白くないの。」

 

「うるせえぞ、そこ。」

 

 かくして、蒼の薔薇と六腕の対決は決着した。

 

 

 ーーー

 

 

 時間は少し進み、ここは王都。

 

 お昼時の高級宿泊施設街の一角、宮廷魔導師アインズ・ウール・ゴウンの部屋である。

 

 アインズは仮宿の中、1人で今後の事について考えていた。国王及び第一王子に謁見する事は、カルネ村での功績も働いて、意外とすんなりいった。そして第一王子に一応、辺境の魔術師アインズ・ウール・ゴウンの後ろ盾になってもらっているという形になっている。

 

 懸念材料として挙げられるのは、貴族の鼻につく態度にNPC達がかなり反発し、抑えるのに難儀したことか。特にいつも冷静なデミウルゴスまで興奮していた所を見ても、NPC達の中で、ギルドメンバーの至高の存在としての立ち位置は決して侵されてはならない領域に属するものなのだろう。

 

 そうした中で一番理解を示したのは、予想外にも、いつも暴走しがちなアルベドだった。彼女が他のNPCを諌めてくれなければいきなり王国と全面戦争に発展しかねない空気だったので、心の中でどれだけアルベドに感謝したことか。

 

 まあ、その後、「私だけはあなたの事分かってますよ。」視線が露骨に向けられてたのは別の意味でちょっと怖かった。

 

「はあー、やっぱり俺が作戦立案するの控えたほうがいいのかな〜。」

 

 アインズが自主的に動くと全部裏目に出ている気がする。エ・ランテル前で正体がバレたり、森で法国の特殊部隊と知らずにことを構えたり、今回はNPC達の猛反発だ。

 

 なんかリスク管理も俺が頭捻って考えるより、アルベドやデミウルゴスに丸投げしてもいい気がしてきた。でもなー、まだ他のプレイヤーがいる可能性を考えると、慎重になるべきなんだよな。

 

 1人リカオンとかいうそれっぽいのがいるからなー。他にもいるだろ。

 

 リカオンに関しては今までの行動を追ってみても、直ちにナザリックに害を及ぼす存在でないことが伺えた。危険な事には変わりないが、対処の優先順位は後回し。それよか派手に動き回ってもらって他のプレイヤーが釣れたら御の字だ。

 

 何が一番問題かというと、これからのバルブロ第一王子との付き合い方だろう。つまりアンダーカバーとしてどういった立ち位置を模索していくかだ。ひとつ言っておくと、軽く見られるのはアインズ自身ムカつくが、実はリアル世界で経験したことを思うと大した事は無い。

 

 その上、アインズとしては一種の腑に落ちた感覚さえあった。いつも無理して取り繕って、NPC達の前で支配者の体裁を保っているよりかは楽だった。やはり人はその人にあった待遇というものがあって、過分に不相応な扱いは精神の安寧にとてもよくない。王子が不遜な態度をとるのもアインズ的には別におかしいとは思わなかった。

 

 ただ、NPC達は我慢ならないようだ。下手に出過ぎるとNPC達がいつ爆発するかわからないのが心配である。

 

 もう一つ懸念材料は、王国を脅かすモンスター、モモンがあんまり知名度が上がってない事だ。

 

 王国内の地位向上を図るため、モモンを活用しようと思っていたのに、とんだ誤算だ。普通、領内でやばいモンスターが暴れてたらすぐ情報集めて対策打つだろ。この国の施政者はそんなにアホなのか。

 

 モモンについてはラナーが秘密裏に情報統制をしているのだが、そういった事情をつゆ知らず、アインズは毒づく。

 

 そんなことを考えていると、<伝言(メッセージ)>の接続があった。送り主はエ・ランテルにいるセバスだ。定時連絡の時間はまだ先なのに、どうしたのだろうか。

 

「私だ。どうした?」

 

『お忙しいところ失礼します。早急に御耳に入れておきたいことがありまして。』

 

「聞こう。」

 

 セバスは明朗な声で、エ・ランテル近郊に昨日出没した巨大樹について話し始めた。出現した地点から目立った動きはなく、未だ被害は出ていないが、大きさが大きさなだけに都市はてんやわんやの大騒ぎらしい。

 

 近く王都の冒険者にも依頼が出されるそうだ。

 

 ふーん、と思いながら聞いていたアインズだが、頭の中で一つのアイデアがひらめく。

 

「セバス。私はモモンとしてそちらに出向こうと思う。1時間後、お前の店内に<転移門(ゲート)>を開けるようにしておけ。」

 

『かしこまりました。』

 

<伝言(メッセージ)>をそこで終了させる。

 

「ふう。」

 

 モモンの知名度が王都で伸びないのでもう一仕事しよう。巨大樹はモモンによって呼び出されたという体で、欲を言えばそれをアインズ・ウール・ゴウンが解決出来れば最高だ。これがいいカンフル剤になることを期待する。

 

 まずは巨大樹を偵察し、ある程度の強さを把握。次は…、そういえば王都に巨大樹の討伐依頼が来るなら、モモンが出る前に王子からアインズに声がかかるかもしれない。この宿に影武者を置いておかねば。

 

 パンドラズ・アクター…いや、自分で召喚するか。70レベルくらいのグレーター・ドッペルゲンガーでいいや。

 

「よーし。それじゃ準備するぞ。って、俺、最近独り言多くなってない? 大丈夫かな…。あー、うん。あんまり考えないようにしよう。」

 

 アインズはいそいそとダークエルフの双子に連絡を取る。

 

 

 




ここ3話ぐらい全然話進んでなかったので、そろそろギア上げていこうかと思います


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。