女剣闘士見参!   作:dokkakuhei

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第8話 曇り時々甲冑

 モモンはナーベラルを伴って王国領の南に位置する森の上空を<飛行(フライ)>で移動していた。王国を脅かすモンスターとして、より強く印象を与えるため手頃な獲物を探しているのだ。

 

 夜の闇に紛れながら、<闇視(ダーク・ヴィジョン)>と<生命感知(センス・ライフ)>を併用し辺りを捜索する。願わくば野盗狩りをしている冒険者などを痛めつけて適度に情報を持たせて帰らせるのが良いのだが、なかなか条件に合いそうな獲物は見つからない。

 

「居ないものだな。デミウルゴスの報告ではよく盗賊の討伐隊が見廻りをするとのことだったが。」

 

 連綿と続く木々を飛び越えて行くが、見えるのは森の生物達がそれぞれの生の営みをしている姿だけだ。人の姿は何処にも見当たらない。今日は不漁かもしれないとモモンは諦めてナザリックに引き返そうと思い始めていた。

 

「モモン様。向こうで何やら争っている音が聞こえます。」

 

 その時、モモンの後ろを飛んでいるナーベラルが異変を告げた。<兎の耳(ラビッツ・イヤー)>で不審な音を捉えたらしい。因みにもう冒険者という身分を偽る必要もないのでナーベラルには様付けを許可している。

 

「何処だ?」

 

「進行方向から11時の方角、相手は西に移動しているようです。甲冑が立てる音や獣の唸る声が聞こえます。」

 

「ふむ、街道の方に出るな。先回りするぞ。」

 

「ハッ。」

 

 2人はスピードを上げ、音のする方角へ向かった。

 

 

 ーーー

 

 

 夜の森を厳かに移動する男女の集団がある。その数は12人。格好に統一感はなく、騎士鎧を身に纏う者やカラフルで奇抜な格好をしている者、チャイナドレスを着ている者までいる。この集団は先刻より何処からともなく現れた魔物の襲撃を受けていた。

 

「隊長、なんかおかしいぜ。こんな魔物この森にいたか?」

 

 斧を持った戦士が襲いくる狼を蹴散らしつつ、先頭を行く人物に話しかける。確かに彼らが先程から戦っている魔物は何処かおかしい。その魔物は狼のような見た目なのだが、生き物の気配はなく、倒すと立ち所に霧散してしまうのだ。

 

 獣達は真紅の瞳をギラつかせ、一心不乱に攻撃を仕掛けてくる。獣ならば不利を悟れば逃げ帰る筈なのに、こいつらはまるで誰かに命令されているかのように絶え間無く襲ってくる。それに森を進むにつれてだんだんその数を増していた。

 

「なあ、きりがないぜ。」

 

「作戦中だ。私語を慎め。」

 

 戦士は取り付く島もない隊長の叱責に肩をすくめる。その後ろから老婆が声を上げた。

 

「この襲撃には何者かの意志を感じる。このまま森の中を通るより、一度道に出て状況を確認した方が良いのではないか?」

 

「ほら、カイレ様もそう言ってるぜ。」

 

 戦士は老婆を味方に付けて得意になったのか、少し声が大きくなった。調子のいい態度に周りの人間からは苦笑が漏れる。

 

「進路を西に向け、速度を上げる、全員離れるな。」

 

 隊長は短く命令を伝えると街道に向かって走り出した。部隊は隊長の進路に一糸乱れぬ統率で追随する。格好こそバラバラだが、よく訓練されているらしい。

 

「この見慣れぬ魔物の原因は破滅の竜王かもしれん。皆気を抜くなよ。」

 

 老婆の忠告に隊長は小さく頷く。

 

 今回、国から受けた密命。神話の時代の化け物の痕跡を調査し、可能ならば討伐、又はケイ・セケ・コゥクによって手駒にする事。それと同時に陽光聖典と風花聖典失踪の原因を探る事。

 

 上層部は後者に関しても破滅の竜王の仕業であると睨んでいるが、果たしてどうなのだろうか。

 

 漆黒聖典隊長は手に持つ槍を硬く握り締めた。

 

 

 ーーー

 

 

「…っ。またでありんす。」

 

「どうかしましたか?シャルティア。」

 

「…偵察に出していた眷属が消滅した。」

 

 森の街道、隠蔽魔法が掛かった馬車の中でシャルティアがイラついたように臍を噛んだ。

 

「そこそこの強さの人間がいるという事ですか。獲物が張った網にかかりましたね。」

 

 機嫌の悪いシャルティアとは裏腹にセバスは明るい声だ。

 

 シャルティア達は人間を攫う時、先ず眷属達をけしかけて、ある程度戦える獲物に的を絞るという方法を取っていた。予め選別を済ませてからの方が効率的であるからだ。それにアインズからプレイヤーに注意するように言われており、いきなりの遭遇戦を警戒しての事であった。

 

「そうでありんすね。」

 

 セバスの言葉にシャルティアは早口で答える。幾らレベル7の雑魚とは言え、自分の眷属が殺されるのは面白くないようだ。そんなシャルティアの気を逸らすようにセバスは朗々と会話を続ける。

 

「して、獲物はどこですか?」

 

「東と北西に1つずつ。どちらも3kmってところでありんす。」

 

「ふむ、2グループですか、困りましたね。」

 

 セバスは顎髭を指で扱きながら、うーんと唸る。アインズには常に2人以上で行動するように命令を受けている。馬車の中にいるのは5人だが、吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライド)2人は頭数に入れられないので、二手に別れる事は出来ない。

 

「こちらに追い立てるように吸血鬼の狼(ヴァンパイア・ウルフ)を配置してみてはいかがです。2つ同時に相手をしましょう。」

 

 とソリュシャン。

 

「既にしていんす。」

 

 シャルティアがぱたぱたと手を振った。北西のグループは街道沿いにこちらに来ているのでそのまま素通しだ。東のグループは森を突き抜けて北進しようとしているので北側と東側から眷属をぶつけて誘導する。速度的に北西のグループと先に接敵しそうだ。

 

「捕獲の準備をしましょうか。」

 

 こきり、とセバスが腕を鳴らした。ソリュシャンは慣れた手つきでナイフの数を確認している。

 

「卒なく、恙なく、滞りなく行きんしょう。」

 

 

 ーーー

 

 

 星明かりの街道を並んで歩く2人の女。リカオンとクレマンティーヌである。彼女らはアインザックに頼まれてモンガ生態調査として探索任務に就いていた。とはいうものの街道を歩いて安全確認をする程度なので暇で仕方がない。襲い来る獣の魔物を歯牙にも掛けず、2人はさっきからずっと雑談をしていた。

 

「さっきの奴吸血鬼の狼(ヴァンパイア・ウルフ)っぽかったけど、この辺りに吸血鬼っているの?」

 

「この辺りでは聞いたこともない。さっきの奴も初めて見た。」

 

 何匹か倒したが、構わず進んでいると襲撃はぱったりと止んでしまった。それ以来ただ平坦な道を進んでいるだけだ。

 

「本当に何もないね。こんな事ならンフィーについて行ってポーションの材料を収集する方が面白かったかも。」

 

 そばに転がる石を蹴っ飛ばしながら文句を垂れるリカオン。それを見ていたクレマンティーヌだが、ポーションという言葉で何か思い出したように口を開いた。

 

「そういえばリック。あのポーションってどうなったの?」

 

 クレマンティーヌが聞いたのは、リカオンがリィジー・バレアレに分け与えたポーションのことである。

 

「あんまり上手く行ってないみたいだよ。よく分からないけど、溶媒から違うっぽいって言ってた。代用品を模索中らしい。」

 

「…ふーん。」

 

 クレマンティーヌははたと気がついた。リィジー・バレアレはその道では名の知れた人物である。謂わばポーションのスペシャリストだ。そのリィジーが製法について心当たりが無いとなると…。

 

「あのポーション、どこで手に入れたの?…もしかしてリックってぷれい…。」

 

「ねえクレア、あれ何かな?」

 

 質問を遮られたクレマンティーヌは少し不機嫌そうにリカオンの指差す方を見る。しかし見えるのは代わり映えしない整備が不十分な道と鬱蒼とした森だけだ。

 

「何もないけど。」

 

 怒り気味でリカオンに向き直る。しかしリカオンはしつこく前を指差して、何かを訴えようとしている。

 

「いや、あの馬車みたいな奴だよ。」

 

「はぁ?だから何言ってんの?何もないじゃん。」

 

 リカオンもクレマンティーヌも互いを不思議そうな顔で見ている。

 

「えー?おかしいな。あ、そういう事か。」

 

「もう!さっきから何?」

 

「まあまあ、もう少し歩けば分かるよ。」

 

 1人で疑問を持って1人で解決して忙しい奴だ。いまいち納得出来ずにクレマンティーヌは頰を膨らませた。その間にもリカオンはつかつかと先に歩いて行く。

 

 200m程進み、リカオンは歩を止めた。

 

 リカオンが動きを止めた時、それに呼応するかのように森に凪が訪れた。虫の鳴き声、葉のさざめきも聞こえない。地上に光を落とす月も雲に翳り、まるで森全体が息を飲んでいる様だった。にわかに何かが起きる、そんな予感がした。

 

「隠れてる人、出てきたら?」

 

 唐突なリカオンの言葉にクレマンティーヌは驚く。ここにいる2人以外に気配は全くない。これで何者かが隠れているとすれば余程の隠密の達人か高度な隠蔽魔法の使い手かだ。

 

 暫しの沈黙が流れる。クレマンティーヌは感覚を研ぎ澄ませるが、全くと言っていいほど気配を感じ取れなかった。リカオンの取り越し苦労ではないかと声を掛けようとしたその刹那。

 

「クレア右!」

 

 リカオンが忠告を発するや否や、右の草陰から疾風の如く黒い影が飛び出した。襲撃者の手元でギラリと光る刃物が小さく軌跡を描いてクレマンティーヌの首を狙っている。

 

「<流水加速>」

 

 クレマンティーヌは武技を発動した。知覚される時間感覚が引き伸ばされ、景色がコマ送りのように感じられる。

 

 スローモーションの世界でクレマンティーヌは襲撃者を見た。暗い森に居るのが不釣り合いなメイド服を着た、金髪碧眼の女である。

 

 見た目にも驚いたが、もっと驚いた事に、この女かなり速い。武技を発動した自分に遜色ないスピードで動いている。咄嗟に身を捩るが、既にナイフの間合いに入ってしまった。このままでは躱しきれないだろう。

 

 そして更にマズイ事に気が付いた。刃先から液体が滴るのが見えている。毒か。

 

「ちぃ!<即応反射><能力向上><能力超向上>」

 

 無理矢理身を捩り、バランスを崩しかけた体勢から更に身を仰け反りブリッジをするように後ろに倒れ込む。明らかに物理法則を無視した重心移動に突然重力方向が変わったかのような錯覚さえ覚える。クレマンティーヌは上で空を切るナイフを見送りつつ、流れるような動作で懐からスティレットを逆手で抜き出した。そしてお返しとばかりに相手の無防備な下顎に向けて突き出す。

 

 ズブリと飲み込まれるスティレット。すかさず脳を掻き回して、あの世に送ってやった。

 

 と思ったのだが。

 

 スティレットが刺さっているのにも関わらず、女の目がぐるりと動き、クレマンティーヌを凝視した。目が合った瞬間、ゾワリと身の毛がよだつのを感じた。しかも気味の悪いことはこれだけでは終わらない。

 

 クレマンティーヌの目には女の顔が()()()()()()()()たように見えた。そしてそのまま知恵の輪を外すかの如くするりと抜けると、何事も無かったのようにすれ違い、道の反対側まで駆けていった。クレマンティーヌも地面に手を付き、バク転で受け身を取った。そしてスティレットを確認するが、血が一滴も付いていない。

 

「あなた、今のどうやって躱したの?」

 

 メイド服の女が小首を傾げながら尋ねてきた。可愛らしい仕草だったが、女の不気味さを拭い去る程ではない。

 

「それはこっちのセリフ。殺ったと思ったんだけど、何かの武技かな。それとも魔法?」

 

「あなたのは武技なのかしら。」

 

「…だとしたら?」

 

 警戒で自然と声音が低くなる。

 

「フフ、素晴らしいわ。」

 

 女がゾッとするような笑みを浮かべた。目や眉は動かないのに口だけ大きく裂けて口角が吊り上がったのだ。クレマンティーヌは思わずスティレットを順手に持ち替え、固く握り締めた。

 

「そちらの方もお強いのかしら?」

 

 メイド服の女は獲物を品定めする目でリカオンの方を見る。戦闘態勢に入っているクレマンティーヌを完全に視界から外す挑発行為だ。普段のクレマンティーヌなら一も二もなくキレて飛び掛かりそうだが、警戒心の方が優ったらしく、迎撃の構えを解かない。

 

 その間にもじっとりといやらしい視線が扇情的にリカオンを舐めてゆく。しかしそんなことも御構い無し、リカオンは2人の争いには興味がないと言いたげに全く別の方向を向いていた。

 

「あなた…。」

 

 女が眉を顰める。この軽戦士が見ているのは馬車がある方向だ。先程の自分の襲撃を察知したのは偶然だと思ったが、不可知化を看破しているのかもしれない。

 

「他の人も姿を見せたらどう?」

 

 リカオンが何もない(馬車のある)場所に向かって声を掛ける。メイド服の女は警戒レベルを一気に引き上げた。顔から笑みは消え、感情の無い暗い瞳がリカオンを冷徹に観察する。

 

 警戒で体を強張らせているクレマンティーヌも、リカオンの様子を固唾を飲んで見守っている。

 

 じっと目を凝らして見ていると、突然何もない空間がゆらりと波打った。そこから白魚のような美しい手が生えて、景色を左右に切り分けていく。

 

「お行儀の悪い覗き魔(ピーピング・トム)がいるようでありんすね。」

 

 暖簾をくぐるような仕草をしながら、突如現れたのは紫紺のボールガウンを身に纏った少女。銀の髪が星の光を浴びて妖しく輝いている。

 

「こそこそ隠れてるのに人の事言えないね。」

 

 物怖じしないリカオンに、少女はふん、と鼻を鳴らして、鋭く相手を睨み付ける。

 

「一応聞くでありんすけど、どうしてここに馬車があると?」

 

「スキル。」

 

 リカオンは歯に衣着せぬ物言いで言い放った。相手は少し面喰らう。正直に答えるとは思ってなかったようだ。

 

 リカオンのスキル『禅師峰』は所謂第六感を再現したものである。ゲームシステム上では何らかの方法で潜伏している相手を画面上やミニマップに表示するというものだ。かといって全く無効化しているわけではなく、相手が使っているスキルや魔法によってはたとえ見えていても照準固定(ロックオン)不可だったり、被攻撃時に不意打ちボーナス(クリティカル)を貰ったりする微妙なスキルだった。

 

 このスキルは合計レベルや技術値、幸運値が高い程効果が高まり、リカオンの場合、第九位階魔法程度の阻害要因なら相手を発見できた。これは世界級アイテムのような一部の事例を除き殆どの相手を見破られるので割と助けられる場面は多い。それに()()()()()()()()()()かなり現実的に処理されているらしく、何となく敵が居るんじゃないか?という霊感が強い人のような感じで危機を察知出来るようになっていた。

 

「それで、まだ居るでしょ?」

 

 リカオンの言葉に観念したように少女が両手を広げた。そして首だけで後ろを確認すると、右手人差し指をクイっと動かし出てくるように合図を送った。

 

 直ぐに後ろの空間から老執事と2人の女が現れた。誰も彼もが整った顔立ちをしている。この場にいるだけで貴族のパーティーにでも呼ばれた気分になりそうだ。

 

「シャルティア様、相手のペースに乗せられてはいけませんよ。後ろがつかえてます。手早く済ませてしまいましょう。」

 

 老執事が鋭い眼光でリカオンとクレマンティーヌを一瞥しながら、シャルティアと呼ばれた少女を窘める。

 

「それもそうでありんすね。」

 

 シャルティアが息を吐き、残念そうに言う。

 

「本当はじっくり遊びたいけど、手短にしんしょう。あなた、そこそこ強そうだから特別に私が飼ってあげてもいいでありんすよ?」

 

 リカオンの返事を待たずシャルティアは歩き出す。真紅の眼に空いた瞳孔は縦に細く狭まり、捕食者の顔になっている。最早、戦闘は避けられない。リカオンは突剣を抜き放ち、スキルによるバフをかける。

 

『スキル:金泉』

『スキル複合(コンビネーション)打&突:大寶・鶴林』

『スキル結合(リンク)突+突:鶴林・西林』

 

 手加減は一切しない。リカオンは経験則からシャルティアや老執事が強者である事を察知していた。

 

「ふふ、やる気満々でありんすね。」

 

 2体1の余裕からか、シャルティアは余裕の笑みを浮かべていた。リカオンの間合いに悠然と入ってくる。あと2歩、あと1歩。

 

 

 

「おや?」

 

「…どうしました?」

 

 シャルティアが徐に歩を止め、西の森の方へ視線を移す。

 

「後ろの客がせっかちな様で、もう着いてしまいんした。」

 

 そう言うと同時に、森から男女が複数人飛び出してくる。その集団の一番先頭の人物とリカオン達の目があった。

 

「全員止まれ!」

 

 一番先頭の人物が号令を掛け、遭遇者の様子を探る。男はこの森でこの時間に戦士、執事、メイド、ドレスの女という奇妙な組み合わせに怪訝な表情を見せる。

 

「何者だ。」

 

 男が誰何の声を掛けると同時に、場にいる全員が新しくやって来た集団に目を向ける。その中で心底度肝を抜かれた人物がいた。

 

「げぇ!漆黒聖典!?」

 

 大声を上げたクレマンティーヌに闖入者達は驚き、そしてその人物が誰だか分かると目を丸くした。

 

「お前、クレマンティーヌじゃねえか!何でこんなところに!?」

 

「…クレア、知り合いなの?」

 

「てめぇ、よくも裏切りやがったな!風花聖典を殺ったのもお前か!」

 

「はぁ?そんなん知らねぇよ!何でも私のせいにしてんじゃねえ!」

 

「───!」

 

「──、─!」

 

 

 

「何が起きていんしょうか?」

 

「分かりません。」

 

 シャルティアは折角のムードが台無しになって、やる気が削がれていた。

 

 

 ーーー

 

 

「モモン様。後120秒で目標と接触します。」

 

「ああ。」

 

 さて、冒険者狩りをするに当たって、何か口上でも考えるかな。モモンは死ぬ前に一度は言いたい台詞集個人的ベストから、格好イイ物をいくつかチョイスする。

 

 こう空からバッ、と現れて。

 

『御機嫌よう諸君、今宵の私は血に飢えていてね、悪いが君達でこの渇きを鎮めさせて貰おうか。』

 

 ひと暴れしてから。

 

『我が名はモモン・ザ・ダークウォーリアー。恐怖と共に我が名を魂に刻むが良い。』

 

「くさっ。」

 

「モモン様、何か仰いましたか?」

 

「い、いや、何でも無いぞ。」

 

 危ない危ない。中二病が過ぎて思わずツッコミが声に出てしまった。誤魔化すためにナーベラルに問いを投げかける。

 

「ナーベラル、音からターゲットの人数を割り出せるか?」

 

「10人前後かと。…少しお待ちください。街道に別の人間の話し声が聞こえます。」

 

「そうか、此処からでは木が死角を作ってよく見えんな。まあどうにかなるだろう。差し当たって、地面に降りたら相手が自分の姿を確認するのを待ってから2、3人殺して後は適当に逃がせ。魔法は第六位階から好きなものを使え。」

 

「ハッ、手筈通りに。」

 

 ナーベラルの打ち合わせにきっかり100秒。この時、モモンもといアインズは自分の計画に自信があった。実益も兼ねつつ、恐怖のモンスターロールプレイが出来る。殆ど後者のためにやっている事だが、ストレス発散の為だ、アルベドもデミウルゴスも許してくれるだろう。

 

 それにしても無意味に人を殺戮出来る事がこんなに()()()()()()()()()、無双ゲームの面白さはイマイチ分からなかったけど、今なら楽しめるかも知れない。

 

 そんな事を考えながら、意気揚々と地面に着地した。ドスンという音と共に土煙を上げる。周りからは突如空から降ってきた何者かに対して警戒や焦り、不安の声が聞こえてくる。膝立ちの状態からゆっくりと威圧的に身体を起こし、踏み反って周囲を睥睨する。

 

 

 

「あ。」

 

 そしてモモンは見つけてしまった。

 

 そこには今日の獲物なのであろう集団、ついでに驚愕の表情で固まるナザリックのNPC達、極め付けに要注意人物の女2人。

 

 モモンは意識外の状況に頭がついて行かず、数秒固まってしまった。周りの人間は派手に登場して踏ん反り返って場の注意を引いているにも関わらず、何もしない甲冑に怪訝な表情を浮かべている。

 

 場は静まり返っていた。モモンの恐怖に気圧されているのでは無い。明らかにスベっているのだ。

 

(どうしよう。この場をどう切り抜ければいい?)

 

 モモンの頭はフル回転する。奥に見える集団は、空から降って来た甲冑が敵なのか味方なのか分からず行動に移せないでいるらしい。リカオンとクレマンティーヌとかいう女は即座に此方を認識し警戒している。ナザリックのNPC達は、主人の訪問に完全にパニック状態だ。

 

 というか何でシャルティア達が此処に?あ、俺が任務を出していたからか。何で探知に引っかからなかった?あ、<完全不可知化(パーフェクト・アンノウアブル)>の馬車で阻害されてたからか。与えていたのを忘れていた。何であの女2人と接触してるんだ?気をつけるように言っ…てないわ。シャルティア達には直接指令を出してなかった。デミウルゴス経由で情報が行ってると勝手に思い込んでたわ。

 

 大体俺のせいじゃねーか。

 

 あれ、という事は今の状況って、社員が出張先で仕事をしていたら有休取って旅行してた上司がいきなりちょっかい出してきたって感じか?うわー、マジでクソ上司だ。

 

 いかん、ナーベラルが不安そうな目でこっちを見てる。何か言わなければ。何か、NPC達に対する威厳を損なわず、この場を治められる言葉を。

 

「オホン。」

 

 モモンが咳払いが場の注目を集める。

 

 

 

「御機嫌よう諸君、今宵の私は血に飢えていてね、悪いが君達でこの渇きを鎮めさせて貰おうか。」

 

 

 

 モモンもといアインズこと鈴木悟。苦手なものはアドリブ。

 

 




モモン・ザ・ダークウォーリアーって、GUNG-HO-GUNSっぽい。

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