七夕、織姫と彦星が一度だけ逢うことが許される、そんな切ない日。仕事を怠けて神様を怒らせた二人ホントは逢うことを許されなかった。…うちに似ている。似てるだけで全然違うけどね。うちは許されるわけないから。
去年の文化祭、文実をサボって雪ノ下さんやアイツに全部押し付けて、アイツに文化祭のテーマで馬鹿にされて発奮したのに最後にあんな醜態を晒し、アイツに罵倒され、そしてまた発奮した。…ううん、発奮させられた。うちはその後アイツの悪口を言いふらした。アイツが全部悪いんだって。
体育祭でうちは遥とゆっこならわかってくれると、うちを評価してくれると思って、色々やったけど、ことごとくあの二人とは意見が合わず、結局体育祭も危なく出来なくなるとこだった。あの時にわかった。わかってしまった。アイツはうちがムカついたから、ただ腹が立ったから文化祭の最後やテーマ決めの時にあんなことを言ったんじゃなかった。全部自分を悪者にしてまで、全ての悪意を自分に向けさせてまでうちの失敗で崩壊しかけた文化祭自体を成功させたんだって。
…体育祭の後にそんなことに気付いたうちはアイツが、比企谷が気になってしまった。葉山くんに憧れてたうちは何にも知らない、何にも持たない、ただ臆病で、小心者で、自分を認めてもらいたいだけの薄っぺらな奴だったんだ。周りもそんなうちを腫れ物に触るみたいになって、うちは自分から一人ぼっちになることを選んだ。
下だと勝手に見下してた比企谷はうちよりも自分を持ってた。友達だと思ってたのに壊れたうちと遥とゆっこより、比企谷はもっと強い関係を持ってた。
全然比企谷は下なんかじゃない。むしろうちよりも、ううん、葉山くんよりも凄いヤツかもしれない。
気になってからうちは比企谷ばっかり見てた。怠慢で文実という仕事を放棄したうちには比企谷に逢う、逢って謝る勇気さえ持てなかった。だからずっと、ただチラチラと見てるだけだった。織姫と彦星みたいに許されるわけないから。
比企谷を見てて、結衣ちゃんが比企谷と花火大会に一緒に居たのも思い出した。結衣ちゃんは知ってたんだ。比企谷がホントは凄いヤツだったんだって。あの時うちは結衣ちゃんも下だって笑ったけど、違う。後悔しても悔やみきれない。
３年になって、また比企谷とは同じクラスになれたけど未だにうちは一歩を踏み出せないでいる。あの時から一人ぼっちになったうちと違って、比企谷の周りには今、沢山の凄い人たちがいる。雪ノ下さん、結衣ちゃんは勿論、入学してからずっと有名になってる妹さん。去年の生徒会選挙で１年にして生徒会長になった一色さん。女子より可愛いかもしれない戸塚くん。ちょっと怖いけど、意外と比企谷の近くでは乙女な川崎さん。２年の時は城廻先輩や雪ノ下さんのお姉さんまで比企谷の周りにいたし。そしてあの葉山くんも。それだけじゃない。三浦さんも、戸部くんも、海老名さんも比企谷を認めてた。
うちはダメダメだ。多分うちは今、比企谷が好きなんだ。だけど許されない。比企谷を認めもせず、勝手に見下してたうちにそんなことが許される訳がない。気持ちだってうちは雪ノ下さんや結衣ちゃんや生徒会長にも勝てないだろう。あの人達は比企谷に心から繋がりを求めてる。うちは謝る勇気さえ持てない、繋がりを怖がってる。
学校の帰り道、駅前で何かやってるらしく、ざわついてる。どうやら竹を飾って、短冊に願いを書いて括ってるみたいだ。…うちも書いて見ようかな。
比企谷に謝って、いや、あの時の比企谷の周りにいたみんなにも謝って、そして伝える勇気を貰えるように。
比企谷とみんなに謝る勇気と、この気持ちを伝える勇気を下さい
短冊にそう書いて誰にも見られない様に括りつける。…卑怯だよね。あんなことを比企谷にしたのにホントは許されない。でも織姫や彦星みたいに一度でいいから、一度だけでいいからそれを許されたい。そう願ってるんだから。
でも、今決めた。絶対にうちはもう逃げない。うちは、相模南は、比企谷やみんなに謝る。きっと誰もうちを許してくれないけど。謝らなきゃ始まらない。謝らなきゃうちは織姫になれないから。そしてみんなに謝ったらうちは比企谷にこの気持ちを伝えよう。フラれてもいいから、うちは比企谷が好きだって言おう。ズルいとみんなに言われるだろうな。お前は何様なんだって。比企谷にあんなことをしておいて、好きだって、言える立場じゃないだろうって。でも言うんだ。もう後悔はしたくないから。
今回は多分一番嫌われてる相模南視点でした。俺も正直に言うと嫌いですが、多分八幡の事を好きだろうって事でヒロインの一人です。文実サボってたという点が織姫と彦星っぽいなと言うことで今回のお話でした。次回は前回の続きに戻ります。