彼も彼女たちも偽物を欲しない   作:風来のアスカ

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今回から最終章!俺ガイル新刊発売日決定した日に書いてます。


35章・実は私達は

7人の偽物の俺が全て消え、今─俺は非常に困っている。

 

一つは海老名さんと戸部のこと。由比ヶ浜から連絡が来て、二人が付き合っていると聞いた。

 

もう一つは陽乃さんのこと。こっちは雪ノ下から連絡が来て、彼氏が居るという。

 

二人、いや三人とも俺と少なからず関わった人達だ。お祝いをしなければいけないのだろう。戸部と海老名さんの事はそもそも俺の偽物が祝ってやろうと由比ヶ浜に言ったらしいし、これは仕方ない。

 

問題は陽乃さんだ。

あの人にはあんまり世話になってない。むしろ引っ掻き回されて迷惑を何度も被った。だが…雪ノ下から祝いたいと言われた。…断りてえ…。

更に言うなら─これは一色から聞いたが、三浦と葉山もいつの間にかくっついてた。葉山グループは相変わらずらしいが、大和と大岡の二人が不憫で仕方ない…。

全員一応知り合いみたいなもんだが、祝ってやるべきか…。小町は生徒会の手伝いやら由比ヶ浜達と遊びに行ったりしていて、相談する暇がない。

どうしようかと悩んでいると、携帯の着信音が鳴り響いた。画面には…雪ノ下と表示されている。

『もしもし、雪ノ下ですが。』

「おう、どうした?」

『あら?引き算くんかしら?』

「ちげーよ、俺の名前は比企谷だ。」

『失礼、噛んでしまったようね。』

「わざとだろ…。」

「ところで比企谷くん。」

かみまみたって言わないのかよ!期待させんな。キメ顔で言ってそうな声しやがって。

『今日暇ね?』

「…決定なのか?」

『あら?違うのかしら?』

「いや、違わないけど。」

少しくらい違うことを考慮しろよ。

『今日は私の家で話があるから来てくれるかしら?』

「まあいいけど。」

雪ノ下の家に着いた。何の用事か知らんが、早く済まして帰ろう。

「ヒッキーやっはろー!」

「おう、由比ヶ浜か。相変わらずアホっぽいな。」

「いきなり馬鹿にされたし⁉」

うんうん。由比ヶ浜は平常運転だな。

「さてと。」

ピンポーン。

『雪ノ下ですが。』

「無視されたし…。」

「比企谷だけど。開けてくれ。」

『あら?もう来たのね。まだ由比ヶ浜さんも来ていないのだけれど。』

「由比ヶ浜ならここにいるぞ。」

『わかったわ。どうぞ。』

雪ノ下の家はこないだ来たっきりか。偽物は来てたと思うが。

「いらっしゃい。」

パンパンパパン!

部屋に入った途端、クラッカーの音が鳴り響く。なんだなんだ⁉

「比企谷おめでとう!」

「な、何がだ。」

折本に訳もわからないうちに祝われる。

「八幡、本物だけになったんでしょ?良かったね!」

「お、おう、ルミルミか。」

「留美って呼んで!ルミルミはダメ!」

怒られた。

「比企谷くん。貴方を呼んだのは他でもありません。今までの事を全て話すわ。…緊張するけれど…」

そして雪ノ下は今までの経緯を全て話してくれた。

ここにいる7人は全員俺が好きだということ。

俺に対して告白したかったということ。

それを七夕の短冊に書いた結果、俺が意図せず増えたこと。

俺の偽物を消すために、デートの後で告白していたこと。

そして雪ノ下の告白で全員が消えたこと…。

それらを言ってる間、全員顔を真っ赤にしていた。無論俺も。だがそれよりも…。

「私達は貴方が好きになってしまったの。…わかってもらえたかしら?」

…。

「ヒッキーあたし達はヒッキーが好き。」

…めろ。

「先輩。わたし達は先輩が『本物』なんですよ。…だから先輩も『本物』を…教えてください。」

やめてくれ…。

「…あんたが好きになってくれた人に、そういう感情に臆病だってことは知ってる。だけど、私達はあんたが好きなんだ。これは勘違いじゃないよ。」

もう、やめてくれ…。

「比企谷には迷惑ばかりかけちゃったうちだけど、うちらの気持ちは嘘偽りじゃなくて、本当だから。…これならうちでも自信もって言えるから。それに最近またうちにも友達出来たしさ。…ここにいるみんなとか。」

なんで、俺なんだ…。

「八幡。私達は誰が八幡の『本物』だって、絶対悲観しないよ。八幡が教えてくれた色々があるから。」

俺なんかが…。

「それある留美ちゃん!私も比企谷に沢山貰ったー。何でも流されちゃってた私でも最近は自分で決められるようになったー。」

「違う!」

俺の叫び声で全員が固まる。俺はまた泣いてしまっていた。

「俺じゃないんだ。俺はお前らを救ってた訳じゃない。全部俺の為だ。俺が俺を救うためにやってたことだ。ぼっちだぼっちだ、なんて言っておきながら俺は結局他人を求めてたんだよ。寂しかったんだ!一人が好きだと言っておいて、奉仕部も行かなければいいのに行ってた。内申点なんて変わらないのにだ。お前らを助けた気になって、それで良かったんだとごまかし続けてたんだ。そんなのは自己満足だ。恋愛?俺が本物?俺はそんな気持ちを受け取る資格なんて無いんだ。お前らを救ったのはお前らだ。俺じゃないんだ…。」

「ヒッキー…。」

涙が溢れて止まらない。いつか俺が馬鹿にしていたリア充に、俺は内心でなりたかったのだ。それが『偽物』でも、掴めればそれが『本物』だと言い聞かせて。それを他人にまで押し付けて。

「比企谷くん。」

「…な…」

パァンッ!

雪ノ下に呼ばれ、振り向いた瞬間。俺は頬に衝撃を受けた。雪ノ下に叩かれたのだ。

「貴方に資格がない?私達の気持ちを受け取るのに、資格なんて要らないのよ。そして貴方がいつか私達を助けてくれた事は貴方だけで勝手に決めて良いことじゃない。それは私達が決めることよ。私達が救われたのは物理的にじゃないの。貴方が居たから、自分で解決できた。貴方がきっと間違ったときに正してくれるって信じることだけで、私達は進むことが出来た。奉仕部の理念そのものでしょう?私達に貴方は救われる方法を教えてくれてたの。…比企谷くん。貴方が求めていたものこそ、貴方の『本物』じゃないかしら?間違っていいの。きっとみんなで少しずつ修正していくことが、『本物』だと思うわ。…偽物の、貴方の分身は貴方の心の中の一部だったのね。今の貴方よりずっと素直だったもの。」

心の中の一部…。

「そうだよヒッキー。ヒッキーの分身はあたしのこと応援してくれたよ。あたしに告白する自信をくれるために結衣って呼んでくれた。」

素直に、か…。

「先輩責任取る時が来たんですよー。諦めてください♪」

俺の答えは───。

 

 

 

 

 

 




次回、最終回です。今まで読んでくれた皆様。最後までお付き合いください。ではでは。

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