彼も彼女たちも偽物を欲しない   作:風来のアスカ

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前回の続きです。


32章・結衣の名を

今日見に来た映画。それは恋愛モノだ。俺が恋愛モノと思うかもしれないが、別に嫌いではない。そういうラノベや純愛ものの小説だって読んでいる。

今回のこの映画はアニメでもあるし、俺も観たかった。主人公とヒロインが身体が入れ替わっちゃうと言う、結構ありきたりだが、なかなか面白いし、感動も出来ると話題だったのだ。俺と女子が身体入れ替わったら女子が発狂して自殺しちゃわないかと心配になるだろうが。

由比ヶ浜もどうやら感動してるらしく、真剣に観入って涙を軽く浮かべている。

確かに面白い。だが俺は考えてしまった。これって、俺が消えたら意味なくね?と。…まあ観たけども。

「面白かったね、あたし少し泣いちゃったー。」

「…確かにな。泣きすぎだとは思うけどな。」

「ヒッキーとあたしが入れ替わったらヒッキーどうする?」

由比ヶ浜と身体が入れ替わる…。いや、ダメだろう。色々目のやり場に困る気がするし、何より由比ヶ浜のまま風呂やトイレに行ったら由比ヶ浜が可哀相だし、そもそも俺の身体とか由比ヶ浜がヤバイ。

「死ぬな。」

「死ぬんだ⁉」

「由比ヶ浜が。」

「あたしの方だったし⁉」

「いや、だって俺が由比ヶ浜の立場で俺の身体になったら、絶望するし。」

「悲しい話だったし⁉ってかヒッキー今はヒッキーの身体なのに⁉」

「ばっか、俺はこの身体に馴れてるから良いけど、由比ヶ浜とか色々困るだろ。交遊関係とか。ぼっちなめんな。」

「何で偉そうだし⁉はぁ…ツッコミ疲れた。」

失礼な奴だなぁ。俺は由比ヶ浜の考えを正しただけなのに。

「映画も観たし、次はどこに行こっか。」

「帰」

「さないからね?」

oh…。なんて早さで答えるんだ…。雪ノ下乗り移ったのかしら。

「じゃあまたハニトー食べに行こっか。」

その後再び由比ヶ浜とハニトーを食べて、帰るということになった。…1ヶ所増えただけな気がするが、細かいことは気にしてはいけない。

「やー、美味しかったねー。」

「やはり甘いものは無敵だな。」

ハニトーしかり、マッ缶しかり。千葉県民はもっとマッ缶推すべき。

「ヒッキーは甘いもの大好きだよね。」

「世の中が苦いからな。せめて飲食は甘い位がちょうど良い。」

「後ろ向きだし…。」

そんなくだらない事を言いながら、由比ヶ浜を家まで送る。

「ヒッキーちょっと待って。そこに公園あるからさ、そこでちょっと話しよう?」

「あとちょっとでお前の家だぞ?」

「うん、いいの。」

「そうか。」

由比ヶ浜も色々あるのだ。それに俺はまだ消えていない。

「ヒッキーはさ、ちゃんとあたしの事いつまでも覚えてくれる?」

「何を言って…」

「あたしは一度だってヒッキーの事を考えてない日なんて無いんだ。忘れる訳ない。今日も、ヒッキーはヒッキーだったから、今日の事忘れられないよ。でもさ、今日のヒッキーは消えちゃうんだよね。あたしとのデートも本物のヒッキーは知らないし。」

本物…。俺は偽物だからな。

「あたしもやっぱり本物の方が欲しいもん。今日は今日で良かったけど、今日以上にヒッキーとデートしたい。いっぱいいっぱい。…ヒッキー、あたしの事一度でいいの。名前で呼んで。」

「由比ヶ浜、それは」

「ヒッキー、お願い。そしたら勇気が出る気がするの。」

勇気。俺が目の前で消えるからなのか…。由比ヶ浜はみんなと俺との仲介をしてくれていた。偽物が消えたとみんなから由比ヶ浜を介して聴いていた。つまり、由比ヶ浜は俺が目の前で消えることを知っているのだ。人が目の前で消えるなんて、怖いだろうしな。それとも…。何にせよ真剣な眼差しだ、応えてやるべきだろう。

「…結衣。」

「…ありがとうヒッキー。…あたしはヒッキーが好きです。ヒッキーとの出会い方は最悪だったけど、ヒッキーとの今までは最高だったから。ずっと忘れない。今の、今日のヒッキーも。ちゃんと本物にも伝えるから。」

由比ヶ浜は泣きそうな顔を必死に耐えながらそう言った。…そうか、『これ』が俺を消す方法なんだな…。確かに言えないだろうな。『俺』が知ったら全力で止めそうだ…。そう思いながら、俺は…。

 




由比ヶ浜とのデート篇終了です。次回はゆきのんです。 祝!やはり俺の青春ラブコメは間違っている12巻9月20日発売決定!やっと続きが読める!

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