彼も彼女たちも偽物を欲しない   作:風来のアスカ

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今回は平塚先生目線です。


20章・奉仕部活動記録

私は去年、一人の少年を奉仕部に斡旋した。当初彼は捻くれていた。今も若干捻くれているが、以前ほどではない。

雪ノ下雪乃や由比ヶ浜結衣の力もあって彼は確実に成長している。前の彼は余りにも痛みに慣れすぎていたが、今の彼はその痛みを怖がっている様だ。それは一見すると弱さかもしれないが、必要なものだ。怖さを知らねば人は強くはなれないからだ。

彼は最近人を頼ることを知った。自分をぼっちだと偽り、人に頼らなかった彼は心配の種だった。

「…平塚先生、そんなネタ古すぎですよ。年齢バレ…」

「死にたいのかね?」

「…ないですよねー。」

…まだピチピチのアラサーだもん。まだチャンスあるはずだもん。はぁ…結婚したい…。

と、それはともかくだ。私はそんな彼らの事を記録している。ずっと見ていたいがそれも叶わないからな。彼らは今年で卒業してしまうから。

「…まったく、君は変わらないのか変わったのか…だがもう君に心配はないよ。期待している。」

「…平塚先生、何かあったんですか?暗いっすけど…。まさかまた…」

「何かね?」

「…何でもないです。」

そんな彼らの記録を少し語ろうか。

奉仕部。雪ノ下雪乃が部長を務め、一人でやっていた部活、正確には同好会扱いではあるが…そこに私は比企谷八幡を去年紹介した。二人は違いこそあれ、共に独りぼっちだったのだ。

比企谷は彼の性格ゆえに、相手を突き放してしまうために。雪ノ下は彼女の優秀さを妬む者達との馴れ合いを嫌うが故に。

当然最初は二人は合わなかった。数々の依頼を彼らは由比ヶ浜と共にこなしたが、これは二人ではなし得なかった事だろう。そして彼らは関係を緩和し、更に深く繋がり、しかし文化祭の依頼で傷つき、一度は壊れかけた。

彼らはすでに奉仕部を居場所にしていた。3人が3人とも、一人であるが故に、その居場所を失いかけた。比企谷はそれを取り戻すために、二人を頼ったのだ。

私の思惑はある程度は上手くいったようだ。比企谷の更正と言う名目は正直に言えば嘘なのだ。比企谷の更正だけではなく、雪ノ下の更正でもあったのだから。

上手くいきすぎたのか最近奉仕部の部室に行くと、雪ノ下や由比ヶ浜から比企谷への熱い視線を感じてイライラしてくる。おまけに最近だとクラスを受け持ったのだが、何人か同じような目線を比企谷に向けていた。生徒会長である一色もだ。なんだアイツは。私は更正しろとは言ったが、女をおとせと言った覚えはないぞ。…今度比企谷を殴ろうかな。

3年になり、彼らは受験勉強をしながら依頼をこなしている。

新入生からの進路関係の相談。

部活動関係の悩み。

人間関係での葛藤。

概ね彼らはきちんと依頼を達成している様だ。今は「3人で」協力して。誰を傷つけることなく、自分自身も傷つけず。

さて、たまには見に行ってやろうか。

「…平塚先生、ノックをしてから入ってきて下さい。」

「ハハハ、すまんすまん。どうかね?順調かね。」

「ええまあ。由比ヶ浜さんも大体は理解しているようですし。依頼も大丈夫です。」

「そうか。由比ヶ浜に教えるのは大変だが見放さないでくれよ?」

「平塚先生ひどいし⁉」

「…善処します。」

善処って…不安なのか。

「…国会議員が、出来もしないマニュフェスト語って難しくなった時みたいだな。」

「ええ⁉ゆきのん出来ないの⁉」

「ひ、比企谷くん何て事を言うの…!」

ふむ。雪ノ下があわあわしていると言うのも珍しいものだ。いつもは優秀を絵に描いた様な雰囲気だからな。やはりこの3人は面白い。私の選択は間違っていなかった様だな。

比企谷、君は優しい。だから自分にももう少し優しくしたまえ。そうすれば二人も君に微笑んでくれるだろうからな。

…頑張りたまえ。




小休止、ってことで平塚先生の奉仕部でのお話でした。

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