「こんばんは比企谷くん。」
「…こんばんはっす。」
城廻めぐり。前年度の生徒会長であり、去年結構お世話になった先輩だ。その癒しのパワーは一色とは違ってあざとさもなく、生徒からも絶大な人気を誇った。めぐりんパワーメーイクアーップ!…のように魔法少女になってもきっと癒しの側だな、うん。
「どっかお出かけ?」
「ええ、まあ。」
「あー、あれかな?デートでしょ。誰かなー?」
天然だから癒しにはなるんだが、何というか、こんな俺にも平等に癒しの笑顔を向けてくるので正直苦手だ。可愛いんだけどね。
「デートじゃ…」
否定しようとしたが少し口ごもってしまう。城廻先輩の表情が少し悲しそうだったからだ。城廻先輩は俺の話の返事が聞きたかった訳じゃないようだ。
「…何かあったんですか?」
「…あのね比企谷くん。私ね、大学行ったんだけどね、ちょっと困ってるんだ。…まだ奉仕部ってやってるかな?雪ノ下さんや比企谷くんに相談したいんだけどさ。」
「やってますよ。…城廻先輩の相談にのれるかはわからないですけど。」
大学…か。城廻先輩は優秀だ。それに誰にでも優しい。…本当に誰にでも。俺でさえ優しかった城廻先輩だ。きっと大学でも優しいのだろう。その後の話はそれが原因だとわかる様な事だった。
「…大学でね。ちょっと話をした男の先輩がいたの。サークルの先輩なんだけど…その人に付きまとわれてるみたいなの。友達に警察も薦められて行ったけど、何も起きてないから動けないって。」
ストーカー…か。警察は確かに動かない。何度それで被害者が出ようと、結局は動かないから犠牲者が増える一方だ。ニュースに何度もなっていても警察は動かない。動けないからだ。だが俺達は一介の高校生だ。何が出来るのだろうか。
「…城廻先輩はその人にどうして貰いたいんですか?」
「…付きまとうのを止めて貰いたい。それだけだよ。」
「…優しいですね。優しすぎます。」
本当に優しすぎだ。誰彼構わず優しい城廻先輩は知らないのだ。こういう奴はその優しさが勘違いの原因になることを。そしてその優しさは『自分だけ』に向けられたものだと思い込む。自分に好意があるのだと。ソースは中学の頃の俺。それで折本に告ってフラれたからな。折本は誰にでも優しかった。そんな事はどうでもいいですね。
「俺だけではどうにもならないです。」
「そ…そーだよね。ごめんね。無理言っちゃって。それじゃ…」
「俺だけじゃってのは、他にも居れば大丈夫って事ですよ。」
「え?」
そうだ。今の俺はもう一人でやらなくていい。一人でやるから間違うのだ。今は信頼出来る奴等がいるから。
「明日、放課後に奉仕部の部室で良いですか?」
「う、うん!ありがとう!」
あいつらとなら。きっと大丈夫だ。
「…そういうわけだ。お前らに協力して欲しい。」
「事情はわかったわ。…けれど何か方法は見つかっているの?」
放課後に城廻先輩は来るが、その前に少しでもと昼休みに部室に来ている。雪ノ下は無論いつもここに居るから大丈夫だとは思っていた。
「先輩は女の子なら誰にでも優しいんですね~。」
…何で一色がいるのん?
「世話になってるからな。誰にでもじゃねえよ。」
「ヒッキー、城廻先輩はどうしたいの?」
由比ヶ浜は…雪ノ下にくっついてるからそういうことだろうな。
「付きまとうのを止めて貰いたい、それだけだと。」
「…甘いわね…。」
「どうする?無理そうなら断ってもいいんだぞ。高校生の力じゃどうにも出来ない事もあるからな。」
「ヒッキー、あたしはやるよ。せっかくヒッキーがあたし達に頼ってくれたんだもん!ヒッキーいつも一人でやろうとするから心配だし。」
「…そうね。私も協力するわ。…別に比企谷くんのためでは無いけれど。」
「あ~、ずるいですよ~!わたしも手伝います!」
こいつら…やべ。な、泣いてなんかいないぞ!これはえっと、そう!汗だ!…。
「しょうがないなぁお兄ちゃんは。小町も手伝ってあげるよ、お兄ちゃんのために。あ、これって小町的にポイント高い!」
小町も居たんか。
「…サンキュ。」
「あ、ヒッキーがデレた!」
「で、デレてねえし!」
「全くこの男は…。」
さぁて頑張らなきゃ、な!
放課後になって城廻先輩が奉仕部に訪ねてきた。
「こんにちは~。」
「…うっす。」
「こんにちは、城廻先輩。」
「城廻先輩やっはろー。」
「城廻先輩こんにちはですっ!」
「こんにちは、そしてはじめまして!コレの妹の小町です!」
誰がコレだ。
「あ、うん。はじめまして小町ちゃん。」
相変わらず少し元気がない。きっと今日も何かあったのだろう。雪ノ下が紅茶を差し出すと一口飲んだが、しばらく話さなかった。
久しぶりの奉仕部活動です。次回は解決篇予定。