学戦都市アスタリスク 本物を求めて   作:ライライ3

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たくさんの応援メッセージありがとうございます。テンション上がったので更新します。


第三十三話 彼女たちは何を思うか

「ふぁぁぁぁ~」

 

 大きな欠伸を上げて目を開ける。すると視界に日の光が飛び込んでくる。

 

「ん~~朝か……」

 

 ぼうっとなりながら上半身を起こす。そのまま壁に掛けられた時計を見る。

 

「……10時か。あれ? 目覚ましなったっけ?」

 

 普段ならもっと早く起きている。意識がまだ完全に覚醒しないまま原因を探し―――

 

「あ、そうだ……今日は抽選日で休みだったな」

 

 今日は王竜星武祭の本選抽選日の為、完全休養日なのを思い出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、おはようございます。梅小路先輩」

「おはようさんどす、八幡はん。今日はえらいゆっくりしてるなぁ」

 

 八幡は私服に着替えた後に向かった先、食堂で梅小路 冬香に出会った。

 

「梅小路先輩も朝食ですか?」

「そうどすえ。一緒に食べはりますか?」

「ええと。じゃあ、よろしければ」

 

 二人で一緒に朝食を食べることになった。とりあえず、こちらが後輩なので準備をしようとするが。

 

「ええからええから。座っとってええで。八幡はんは王竜星武祭で頑張ってるさかいね。先輩に任してや」

 

 そう言われ先に席に付いて待つことになった。朝食自体は既に作り置きされている。それを冬香は温めなおし、盛り付け、そして二人分の朝食を運んできた。

 

「ほな、よばれまひょか」

「はい、いただきます」

 

 二人で手を合わせ朝食を食べ始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日はえらいゆっくりしてるけどいけるんどすか?」

「ええ。今日は抽選会で休みですし、抽選の結果が送られてくるのは午後になるそうですから」

「さよですかぁ。そないなら大丈夫やねぇ」

 

 朝食を食べ終え、まったりとする二人。特にやる事もないので、のんびりとお喋りをしていた。

 

「そういえば、八幡はんと二人きりで喋るのは珍しいわぁ」

「そう、でしたっけ?」

「短時間ならともかく、こないゆっくり喋るのは記憶にありまへんなぁ」

「…………確かに」

 

 言われてみればその通りだった。短時間ならともかく長時間話すことは今まで無かった。せっかくなので気になることを聞いてみることにした。

 

「梅小路先輩は確か術の研究をされてるんですよね?」

「そうやなぁ。梅小路家に代々伝わる秘術や式神を研究してはるよ。なんや? 興味あるん?」

「ええ、映像では見たことありますけど……実際どんな感じなのかは興味があります」

「ほなら、少しばかりお披露目しまひょか」

 

 冬香は立ちあがり懐から扇子を取り出す。そして扇子をふわりと翻した。

 

「―――急急如律令、勅」

 

 冬香の声が響く。そして虚空から一体の式神が現れる。一つ目で一本足の怪物。俗にいう妖と呼ばれるものだった。

 

「これがうちの式神、百鬼夜行の一体やね」

「おお! これは凄いですね」

 

 その式神に感嘆の声を上げる八幡。

 

「百鬼夜行と言うと、他にも種類が沢山いるということですか?」

「そうやなぁ。日ノ本に伝わる妖怪の殆どは作りだせるで」

「なるほど。いや、ありがとうございます。珍しいものを見させてもらいました」

「かまへんよ。このぐらいは大したことあらへんわ」

 

 冬香が扇子を閉じると、それに合わせて式神も姿を消した。

 

「まあ、うちのこれは秘術と星仙術の合わせ技といった感じやけどなぁ」

「そうなんですか?」

「梅小路家も歴史が長いさかい、失伝した秘術も多くてなぁ。それを補うために、星露はんに頼んで星仙術を学んでるわけや」

 

 八幡にとっても興味深い話が出てきた。

 

「では、能力でもああいった物を作り出せると?」

「可能やで。この手のものに必要なのはイメージやさかいね。それが出来る能力者も数は少ないけどいる思うで。うちの式神もそうやけど、自律行動を組み込めば自身の行動は阻害されへん。慣れたら結構便利やで」

「百鬼夜行と言うと、文字通りの意味ですよね……なるほど、それは怖いですね」

「ふふふ、ご想像にお任せすんで」

 

 冬香は意味深に笑った。

 

「そういえば、うちからも八幡はんに一つ聞いてもええですか?」

「ええと、はい。なんでしょうか?」

「界龍の生活はどない感じ? 楽しく暮らせてはる?」

 

 八幡はその質問に直ぐに答えを返した。

 

「そうですね……まあ、悪くはないと思いますよ。平穏とはいえない学園生活ですけどね」

「そうかぁ。ほならよかったわぁ」

 

 八幡の回答に満足したのか、冬香はにっこりと笑った。そして唐突に八幡に近付いて―――その頭を撫で始めた。

 

「あ、あの? な、なんですか。いきなり?」

「あらぁ、こうされるのんは嫌?」

「い、嫌ではないですが……気恥ずかしくはあります」

 

 照れながらも正直に答える八幡。そんな彼の様子を見ながら、冬香はなおも頭を撫で続ける。

 

「正直に言うとな。界龍に来た頃の八幡はんは、危うい感じがしたんやで」

「そうなんですか?」

「そやで。動物に例えると、そうやなぁ……警戒心丸出しのハリネズミって感じやったわぁ」

 

 その例えに八幡も苦笑する。身に覚えは―――結構あった。

 

「それはまた、随分危ないですね……今はどうですか?」

「今は問題あらへんよ。かいらしいかいらしい、うちの後輩やで」

 

 一通り撫でて満足した冬香は八幡から手を下した。

 

「ところで八幡はん。この後はどないすんの?」

「そうですね……抽選の結果が届くまでは瞑想でもする予定です」

「そうか。頑張ってや」

「はい。ありがとうございます、梅小路先輩」

「あ、それや」

「?」

 

 冬香が何か言いたいようだ。

 

「冬香でええで。いつまでも名字で呼ばれるんは寂しいさかいね」

「ええと……はい、冬香先輩」

「うん、よろしい」

 

 八幡の返答に冬香はにっこりと笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

「…………」

 

 少女二人が机を対面に座り勉強をしている。二人に会話はない。だがその勉強も進みは遅い。両者ともにお互いに話そうとし、だが互いに遠慮しあい沈黙を守っている。

 

「……あの、ゆきのん」

「……なにかしら?」

「……ううん。なんでもない」

「…………そう」

 

 まず沈黙を破ったのは由比ヶ浜結衣。隣にいる雪ノ下雪乃に何かを言おうとする。しかし何も喋らない。そんな結衣に雪乃も問うことはしない。

 

 その原因は分かっている。彼女の様子がおかしい理由も。自身が冷静ではない理由も。その全てがだ。

 

「……はぁ」

「ゆきのん?」

「由比ヶ浜さん?」

「うん、なに?」

 

 こんな状態では勉強どころではない。気分転換が必要だ。

 

「お昼にしましょうか。少し休憩しましょう」

「……うん、そうだね」

 

 一先ず休憩にしよう。話はそれからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 お昼を終え二人はテレビを見ていた。映っているのは王竜星武祭の抽選会の映像だ。しかし抽選はまだ始まっていない。お偉方が色々と話している映像が映し出されている。

 

「……まだ抽選は始まらないんだね」

「抽選は最後だからまだ先ね。それまでは退屈な話が続くわ」

「どうして偉い人の話って長いんだろうねぇ?」

「それは……色々と語りたい人が多いからじゃないかしら、恐らく」

「そっか……」

 

 ぼうっとしながら二人でテレビを眺める。暫くするとお偉方の話が終わり映像が切り替わる。

 次に映ったのは選手紹介だ。予選を突破した選手の紹介がされるようだ。

 

 そして選手の紹介が始まった。名前、所属学園、予選での活躍。それらが順番に映し出されていく。王竜星武祭は最も激しい争いとなる大会だ。予選を突破した選手は実力者が揃っている。

 

 そして―――

 

「―――比企谷くん」

「……やっぱりヒッキーだよね、この人」

「…………こんな所で何をしてるのかしらね、あの男は」

 

 件の男、范八幡の紹介が始まった。それを二人は複雑な気持ちで見つめる。二人にとっては少し前まで一緒にいた人物だ。

 

 二人の表情は少々異なる。結衣は悲し気に、雪乃は少々呆れ気味に。比企谷八幡だった男の映像を眺めていく。

 

「……ねぇ、ゆきのん。陽乃さんも界龍なんだよね」

「ええ、そうよ」

 

 結衣が何を言いたいのか、雪乃はすぐに察した。

 

「な、なら陽乃さんに連絡すれば「無駄よ」えっ?」

 

 だからこそ、彼女の言葉を途中で断ち切る。

 

「……姉さんと連絡は付かないわ。番号も変えてしまったようだし、それに……」

「それに?」

 

 姉は家を捨てた。それを言うのは何故か憚れた。

 

「とにかく、彼と連絡を取る手段はないわ。諦めなさい」

「諦めなさいって……ゆきのんはそれでいいの?」

「いいも悪いもないわ……わたしにとってはどうでもいい事よ」

「ゆきのん……」

 

 雪乃の言いように結衣は悲しむ。彼女の言葉と表情がまったく一致していないからだ。雪乃の表情には言葉とは裏腹に諦めと苦痛が同居していた。

 

 しかしそれを指摘した所で雪乃が認めるはずもない。

 

「ねえ、ゆきのん……わたし決めたことがあるんだ」

「由比ヶ浜さん?」

 

 雪乃は結衣を見る。彼女は何時になく真剣な表情をして雪乃を見ている。

 

「わたし、わたしね。アスタリスクを受験しようと思う。だから―――」

 

 由比ヶ浜 結衣は雪ノ下雪乃へ告げる。

 

「―――ゆきのんも一緒に行かない?」

「……っ!」

 

 結衣から告げられた言葉に雪乃は絶句する。

 

「…………」

「わ、わたしは…………」

 

 結衣はもう何も言わない。雪乃をじっと見つめるだけ。そして雪乃は動揺する。自身の感情に考えが及ばず、困惑し言葉が出てこない。そんな雪乃を結衣はただじっと待つ。

 

 そして雪乃が出した答えはー――

 

「…………少しだけ考えさせてちょうだい」

 

 答えを先延ばしすることだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 座禅を組み瞑想に耽る。目を閉じて身体からは力を抜き、思考はクリアに。そして星辰力は一定量を維持したまま。八幡はこの状態で瞑想を続けている。

 

 瞑想を始めて二時間が経過している。一定量の星辰力を長時間維持するのは、かなりの労力が必要だ。しかし、星辰力コントロールを鍛えるのにこれに勝る修行方法はない。

 

 それ故に、八幡はこの修行を長期間続けているのだ。

 

「…………ふぅぅぅっ」

 

 瞑想を解除し目を開ける。瞑想後に少し休憩。そして再び瞑想に入る。やることはこれの繰り返しだ。

 

「水でも飲むか……!」

 

 水分補給をするために立ちあがり―――懐にある携帯端末から着信の音が鳴った。

 

「通信か…………来たか」

 

 直ぐに端末を取り出してウィンドウを開く。そして待ち望んだものが来たことを確認した。

 

 ―――王竜星武祭の抽選結果だ。

 

「さて、俺の場所は何処かな……っておいおい、トップバッターかよ」

 

 本戦初試合が自身の試合なのを発見した。次いで対戦相手を確認する。

 

「相手は星導館序列3位 ファードルハ・オニールか。純星煌式武装の使い手か」

 

 相手の事は以前データで見たことがあった。無数の光刃で出来た刀身を、蛇のようにくねらせて相手を攻撃する純星煌式武装。蛇腹剣型純星煌式武装《蛇剣オロロムント》。

 

 能力は斬った相手を幻惑に誘う毒を発生させる。その為、直撃はおろか掠っただけでも相手を戦闘不能にする強力な純星煌式武装だ。

 

「かなり強力な純星煌式武装のようだが、一撃でも喰らったらダメなのは普段の鍛錬と一緒だな……やり様はいくらでもあるか」

 

 侮っていい相手ではない。しかし戦う強さと手段は手に入れている。なんとかなるはずだ。

 

「さて、他のメンバーを確認していくか」

 

 自身の知り合いの三人を優先的に、トーナメント表を確認することにした。そして最初に発見したのはグリューエルだった。

 

「グリューエルが俺のすぐ隣か。勝てば俺と戦う可能性はある。だが、相手はアルルカントの序列十五位。虎峰とセシリーが負けた相手と同種の新型煌式武装の使い手か……厳しいな」

 

 グリューエルの実力の伸びには驚かされた。だが、アルルカントの新型煌式武装の相手は厳しい戦いが予想される。

 

「そして陽乃さんとシルヴィは反対側のブロックか。二人が当たるとしたら準決勝か……どっちが強いのかねぇ?」

 

 雪ノ下陽乃とシルヴィア・リューネハイム。両者ともにアスタリスクでの最上位の実力の持ち主だ。どちらが強いのかは個人的にも興味がある。

 

「さて、自分のブロックの他の選手も見てくか…………星導館 東薙 茨、レヴォルフ モーリッツ・ネスラー、クインヴェール ネイトネフェル、アルルカント カーティス・ライト。そして…………オーフェリア・ランドルーフェン、か」

 

 こちらのブロックに大本命がいた。

 

「……当たるとしたら準決勝。星露が同格と認める相手。どう戦う? いや、そもそも戦いになるのか? 星露にだってまったく歯が立たないのに……って何考えてんだ、俺は」

 

 頭を左右に振り自身の考えを打ち消す。いつの間にか思考が対オーフェリア戦にシフトしていた。

 

「はぁっ、そんな先のこと考えるほど余裕があるわけないだろう。まずは目先の一戦からだ」

 

 ウインドウを操作し、星導館の公式データベースへアクセス。そして冒頭の十二人の一覧からファードルハ・オニールを選択。彼の戦闘一覧を周囲に映し出す。

 

「…………やれるだけのことはやる。それだけだ」

 

 そう言って、范八幡は対戦相手の戦闘データの確認を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「報告は以上です、会長」

「はい、ありがとうございます。夜吹くん」

 

 星導館の生徒会長室で、夜吹英士郎はクローディア・エンフィールドに定例報告をしていた。彼女は提出された報告書に目を通す。

 

「……特に大きな問題はないようですね」

「今は星武祭ですからね。下手に揉め事を起こして発覚でもしたら、痛い目に合うのは何処も分かってますよ」

「そうですね……星武祭ですからね」

 

 英士郎はクローディアの表情が優れないのに気付いた。

 

「どうかしましたか、会長? ご気分でも悪いんですか?」

「いえ、そういうわけではないです。王竜星武祭の抽選結果がちょっと……」

「ああ、なるほど」

 

 英士郎はクローディアが落ち込んでいる理由が分かった。

 

「うちの対戦相手の殆どが格上でしたね。次の試合にどれだけ残れるやら」

「……残念ですが殆どの方が負けてしまうでしょうね。相手が悪すぎます」

 

 クローディアは断言する。そして英士郎も釣られるように頷く。

 

「ですよねぇ。孤毒の魔女、黒炎の魔王、世紀の歌姫、舞神。これだけの面子が相手じゃ希望はないですね」

「せめて他の方が勝ち上がることを祈りますよ」

 

 苦笑するクローディア。先の四人を相手する生徒には、気の毒だがもう諦めている。せめて他の出場者が勝ち上がるのを期待するしかない。

 

「あ、でもあの人がいるじゃないですか。うちの序列3位が。相手も序列外だし普通にいけるんじゃないですか―――って、通信が入った」

「………………」

 

 喋り途中に通信が入った英士郎は、ウィンドウを開き確認する。その為、彼はクローディアを見ていなかった。

 

 

 ―――先程とは打って変わって、真剣な表情を浮かべているクローディア・エンフィールドを。

 

 

「ああ、はい、分かりました。すぐ行きます―――すいません、会長。副業の方から連絡がありまして」

「かまいませんよ、行ってください」

「ありがとうございます。それでは、失礼します」

 

 そう言って、夜吹英士郎は生徒会長室を後にした。そして残されたクローディア・エンフィールドはポツリと呟く。

 

「―――その序列外が一番問題なんですよ、夜吹くん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 幾つもの空間ウィンドウが周囲を囲む。そこには色んな映像が映し出されている。公式プロフィール、王竜星武祭の予選での戦闘、勝利インタビュー。様々な情報がそこには表示されている。

 

 それらは全てある人物に関係するものだ。

 

「―――范八幡、ですか」

 

 その名前を知ったのは、王竜星武祭の予選トーナメント表を眺めていた時だった。見つけた瞬間、自身に衝撃が走ったことをクローディアは覚えている。

 

 直ぐに界龍の公式データベースにアクセスし、本人の情報を探りに行った。だが情報がまったくない。序列戦はおろか、決闘の記録すらなかったのだ。

 

「はぁ、夜吹くんですらあの認識ですからね……まあ、無理もありませんか。この予選ですら彼はすべての実力を発揮していない」

 

 クローディアの前には二つの映像があった。一つは王竜星武祭での戦闘、そしてもう一つは―――雪ノ下陽乃との戦闘だ。

 

「……能力を使用しない状態であの戦闘力ですか。今の全力がどのくらいか……想像できませんね」

 

 入学前の時点で雪ノ下陽乃に食い下がれる程の実力者。それが今まで成長してないなどあるはずがない。

 

 そして―――

 

「比企谷八幡。そして范八幡と范星露。無関係のはずがありませんね……あの公主が向かえ入れた? 彼はそれ程の実力を? それとも気紛れ?」

 

 考えれば考えるほど分からない。ただ入学させるだけなら名字を変える必要などない。范星露の関係者になるなど、無駄な注目を集めるだけだ。普通なら取る選択肢ではない。

 

 夜吹英士郎に調査を依頼するか一瞬だけ考え―――直ぐに諦めた。間違いなく范星露が絡む調査になる。そんなものは命が幾ら有っても足りはしない。英士郎だって土下座してでも断ってくるだろう。

 

 ―――藪をつついて蛇どころか大蛇が出てきてもおかしくはない。

 

「はぁぁぁ、考えても無駄ですね。理由なんて現時点で分かるはずもありません。それこそ本人か公主に直接聞かない限りは」

 

 それでも答えるとは思えないが。考えながらクローディアは苦笑した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 一人の少女が映像を見ている。その映像には少女にとって大事な人物が映っていたからだ。

 

 少女をそれを何度も見返す。その姿が見えることに喜びを。自分が彼の近くにいないことに悲しみを。相反する感情を同時に持ちながら少女が映像を見返す。

 

 何度も、何度も、何度も、何度も。

 

 会いたいと毎日願った。もう会えないと毎日嘆いた。無気力で惰性の日々を送り、まるで世界が色褪せたようにも感じたものだ。

 

 そんな後悔する日々の中―――ようやく少女は兄の居場所を知った。

 

「…………お兄ちゃん」

 

 その少女―――比企谷小町は万感の想いでそう呟いた。




本戦前のちょっとしたお話でした。雪乃と結衣。そして小町ちゃんの再登場です。

本戦出場だとニュースで全選手の紹介とか普通にありそう。という事で、三人にはこの段階でバレました。今後もちょくちょく登場する予定です。

誤字、脱字、感想等あれば、よろしくお願いします。

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