学戦都市アスタリスク 本物を求めて   作:ライライ3

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今回は少し短めです。



第十九話 双子との話し合い

「この辺りか……」

 

 八幡は歩きながら空間ウィンドウを開き、目的地を確認する。

 前回、シルヴィアと双子に会うと約束し、後日にその連絡を取り合ったのだが、落ち合う場所を決めるのに時間が掛かった。

 あの夜以降、安全を確認するためにクインヴェールからの外出を控えていた双子の少女たち。あれから時が過ぎて、マフィアの残党も残らず確保されたことで、ある程度安全は確保されたそうだ。それで恩人である八幡に是非とも会いたいと二人が強く希望し、今回の会談の流れとなった。

 

 しかし、双子の件は公式には事件として扱われていない出来事だ。その話を公共の場所で話すのは不味いため、場所の選定に難航した。そこで八幡は陽乃に相談した。人と秘密裏に会って目立たなく、腰を落ち着けて話が出来る場所はないかと。

 陽乃は少し考え、ここなら大丈夫だよとその場所をデータで送ってきた。

 

「……ここか?」

 

 地図を確認しながら辿り着いた場所は、商業地区のメインストリートから少し奥に入り、入り組んだ路地の先にあった一軒の店。窓ガラス越しに見る店内に客らしき姿はなく、休業中かと勘違いしてしまうほどだ。八幡はドアを開け店内に入る。

 

 するとそこには懐かしい人物がいた。

 

「やぁ、少年。久しぶりだね」

「…………マスター?」

 

 それは八幡にとっては思わぬ再会だった。その人物は、八幡と陽乃が地元を去る前に通っていた喫茶店のマスターだったのだ。

 マスターは初老の男性だ。髪は真っ白に染まり、短くも小奇麗に整えている。そしてその風貌は年よりも若く見え、年齢を感じさせない顔立ちだは前回会った時と変わっていなかった。

 

「どうして此処にいるんですか?」

「陽乃ちゃんからアスタリスクに誘われてね。二人が来なくなってから直ぐに店を畳んだのさ。アスタリスクにも興味があったからね」

「そうだったんですか」

 

 マスターは笑みを浮かべながら言う。

 

「今日は君たち四人の貸切だよ。オープン前だから時間は気にしなくていいよ」

「……ありがとうございます」

 

 八幡がマスターにお礼を言う。そこで店の入り口の扉が開きチリリンとベルの音が聞こえた。視線を送ると店内に入ってくる少女たちが見えた。

 

「来たようだね」

「ですね」

 

 二人は訪問客である三人の少女たちを迎えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「改めまして先日のお礼を言わせてください、八幡様。私たち姉妹を助けて下さり本当にありがとうございます」

「……ありがとうございます」

 

 目の前でリースフェルト姉妹が頭を下げて八幡にお礼を言う。

 

「もう大丈夫なのか。出歩いても?」

 

 八幡が心配するのは二人の今の状況だ。二人を狙う輩がまだ存在しているとしたら、出歩くのも危険が伴う筈だ。しかしグリューエルはそれを笑って否定する。

 

「その辺りは問題ありません。私たちを狙った目的と黒幕は調査して突き止めましたし、既に報復の方も済ませてあります。ね、ヒルデ」

「はい、お姉さま。相手のネットワークに侵入してウィルスを送付済みです。黒幕のデータベースの凡そ五割程破壊に成功しました。そのついでに相手の悪事の証拠を掴みネットワーク上にアップしましたので、近日中に逮捕されるはずです。勿論、こちらに繋がる証拠は残していません」

 

 しれっと怖い事を言う姉妹。その台詞に頭を抱えるのは生徒会長のシルヴィアである。

 

「……あなた達そんな事してたの。聞いてないよ、私?」

「ええ、言ってないですから」

 

 シルヴィの追及をグリューエルは悪気のない笑顔で返答する。

 

「とりあえずもう危険はないと思っていいのか?」

「はい。黒幕の方もこちらの報復だと認識しているでしょうけど、繋がる証拠がなければこちらを追及できません。これ以上私達姉妹に手を出すことはないでしょう」

「それでも相手がこちらを狙うなら、次はもっと強力なウィルスを送ります。お仲間の居場所も割れていますので容易です」

 

 グリュンヒルデが事も無げに簡単そうに言う。

 

「……凄いな、二人とも」

「……そうあれよと作られ、育てられましたから、私達姉妹は」

「そのぐらいは簡単です」

「ちょっと二人とも! その話は!」

 

 姉妹が出した話題をシルヴィアが慌てて止めようとする。

 

「…………それは俺が聞いてもいい話か?」

「……出来れば聞いていただきたいです」

 

 二人の姉妹が真剣な瞳で八幡を見る。

 

「……分かった。聞かせてくれ」

「ありがとうございます」

 

 一礼してグリューエルが話を始める。

 

「星脈世代。万応素の影響を受けて誕生した新人類の事をそう呼びますが、誕生する条件は今なお不明のままです。星脈世代同士から生まれる子供は星脈世代の確率が少しだけ高い。現在でもそれぐらいしか判明していません」

 

 続けてグリュンヒルデが喋り出す。

 

「そして生まれてきた子供が星脈世代だとしても、その子供が優秀とは限りません。星辰力の総量。能力の有無。身体能力の高さ。それらは成長しないと優秀かどうかは判明しません」

「……そうだな。それは俺も知っている」

 

 それは星脈世代としては常識の話だ。星辰力は成長期に大きく変動するし、能力も幼少期に発現することもあれば、そうでない場合もあるのだ。

 

「優秀な星脈世代が生まれるか分からない。なら生まれる前の子供の遺伝子に手を加え、優秀な星脈世代を生み出そうとする一つの計画がフラウエンロープで発案されました────その結果生まれたのが、私たち姉妹になります」

「遺伝子のサンプルの一つとしてリースフェルトの王族が選ばれ、私達は人工子宮から生まれた────だけど研究は失敗でした」

 

 姉妹は淡々と話しを続ける。

 

「一応の成功例として生まれたのは私たち二人だけでした。だけど、私たちの性能は研究者たちの要求する水準に達していなかった。能力は発現せず、強大な星辰力も持ち合わせていない。だけど代わりに、私達には一つだけ誰にも負けない力がありました」

「それがこれです」

 

 グリュンヒルデが空間ウィンドウを開く。

 

「……ネットワーク関係か?」

「はい。正確には電子戦ですね。この力なら私達姉妹は強いですよ」

「二人で力を合わせれば、統合企業財体にも侵入可能です。今回狙われたのはこれが恐らく原因ですね」

 

 それが本当なら確かに強力な力だ。狙われるのにも納得する。

 

「フラウエンロープ。確かアルルカントの運営母体だったか?」

「はい。その通りです」

「その研究者たちはよく二人を手放したな。そのままフラウエンロープ所属になってもおかしくないだろうに」

 

 二人の力を知れば手放すなど考えないはずだ。だが二人がクインヴェールにいる以上、何かがあったはずだ。

 

「そうですね。一度は私達に失望した研究者たちですが、この力を知った途端手の平を返しました。それ以降は、この力だけを伸ばす様に訓練していました────あの日までは」

「あの日?」

「あの日、近くの研究所が何者かの手によって壊滅しました。その連絡を受けて研究所内は一時騒然となりました」

「研究者たちは何者かの襲撃と判断したようです。当然、施設内は大混乱────つまり脱出のチャンスです」

「…………もしかして」

 

 その後の様子を想像したのか、シルヴィアの頬が引き攣る。

 

「まず最初に行ったのは、ネットワークに侵入して警備システムのダウンです。次に防災システムを起動して研究所を混乱させました。その後、研究所のデータを全て破壊しました」

「そして混乱の最中二人で研究所を脱出。戸籍がないため公共機関には頼れなかったので、孤児院を駆け込み保護を求めました」

「そして暫くした後、何処からか事情を知ったユリスお姉さまが私たち姉妹を保護しに孤児院に現れ、強引にリースフェルト家に引き取られました────以上です」

 

 二人の話が終わった。少し考え込み八幡を質問をする。

 

「今回の黒幕はフラウエンロープという事か……」

 

 八幡が出した結論をグリュンヒルデは首を縦に振る。

 

「はい。フラウエンロープ所属のとある一派の仕業のようです。直接手を下すのではなく、マフィアやレヴォルフを利用して私たちを誘拐しようとしたみたいですね」

「…………なるほど」

 

 疑問点は解消された。次にシルヴィアが一つ息を吐き喋り出す。

 

「しかし二人とも。今回は八幡くんのおかげで無事に済んだけど、次が安全という保障はないよ。今後の為に対策を立てないと」

「それは身に沁みました。今回の件で実感しましたが……私達は強くなる必要があります。最低でも冒頭の十二人クラス。いえ、可能ならそれ以上の強さが欲しい所です」

「……でもお姉さま。私達の実力は高い方ではないですし、星辰力と身体能力も決して優れているとは言えません。どうすればいいか…………」

 

 困り果てた二人にシルヴィアは考え助言する。

 

「そうだね……出来れば優秀なコーチがいるといいかな。二人だけで練習しても限界があるだろうし。私が相手をしてもいいんだけど毎日はちょっと無理かな」

「いえ、シルヴィア様のお手を患うわけにはいきません。あくまで私達姉妹の問題ですから」

「シルヴィアさんにはとても感謝しています」

 

 シルヴィアに礼を言って考え込む姉妹。

 そんな二人の様子を見て八幡も考える。暫く考えると、ある一つの案を思い付く。

 

「…………一つだけ宛てがある」

「ほんと?」

「ああ。引き受けてくれるかは分からないが、優秀なコーチなら一人心当たりがある」

 

 脳裏に浮かぶのは一人の人物。もし彼女が引き受けてくれるのなら申し分のない人材だ。

 

「もしかして界龍の人? だったら難しいんじゃないかな。他所の学園の生徒を鍛えるなんて奇特な人はいないと思うよ?」

「まあ、物は試しだ。頼んでみるだけ頼んでみるさ。頼むのはタダだからな」

「うーん。八幡くんがいいならそれでいいけど」

 

 納得しきれないシルヴィアだが、とりあえず八幡を信じる事にする。

 その様子を見ていた双子が八幡に話しかける。

 

「あの、ありがとうございます。八幡様」

「……ありがとうございます。八幡さん」

「いや、まだ決まったわけじゃないからな。あまり期待はしないでくれ」

「それでもです。私たちのために色々と便宜を図ってくださる。その気持ちだけで充分に嬉しいです」

 

 グリューエルの言葉に合わせ、隣のグリュンヒルデがこくこくと首を縦に振る。

 二人は真っすぐに八幡を見つめ、その眼差しと素直な誉め言葉を受け、慣れない八幡は頬を少し赤くする。

 

「あ、八幡くんが照れてる。可愛い」

「はい。とても可愛らしいです」

「男の人が照れている姿も中々いいものですね」

「…………あのな。男が可愛いと言われても嬉しくないから、ホント」

 

 口ではそう言うものの、最近は可愛いと言われることが増えていると感じる八幡である。

 

「さて皆さん。盛り上がっている所申し訳ありませんが、少しよろしいですか?」

 

 そこでマスターから声がかかる。

 

「注文いただいたお品をお届けにあがりました。ごゆっくりとお楽しみください」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ファンクラブ?」

「はい。ファンクラブです」

 

 注文した品を楽しみ一息付いた所で、グリューエルから話が振られた。その内容はファンクラブについてである。

 

「このアスタリスクで有名な方々。特に星武祭で活躍された方や冒頭の十二人を中心に、ファンクラブが存在しています」

「そんなものもあるのか。流石アスタリスクだな」

「序列上位の人にファンクラブは付き物。因みに、ファンクラブの会員数が一番多いのはシルヴィアさんです」

 

 グリュンヒルデの視線の先には紅茶を楽しむ歌姫の姿がある。

 

「ほう。流石リューネハイムだな」

「えーと、私の場合は歌のファンの人達も応援してくれてるから、その分だけ人数が多いのかな?」

「なるほどな。で、そのファンクラブがどうかしたのか?」

 

 八幡はグリューエルに聞き返す。

 

「えーと、その、ですね」

「?」

 

 グリューエルは頬を染め、もじもじと身体を動かしながら言葉を濁す。その姉のじれったい態度を見かね、グリュンヒルデが姉の代わりに言葉を発する。

 

「……八幡さん。少し宜しいでしょうか?」

「何だ。グリュンヒルデ」

「ヒルデで結構です……お姉さまはファンクラブを作りたいと申し上げたいんです」

「ファンクラブか。別にいいと思うが」

「え! い、いいんですか!」

 

 八幡の許可を得てグリューエルは喜びの声を上げる。

 しかし

 

「あ、ああ。誰のファンクラブを作るのかは知らないが、いいんじゃないか?」

 

 当の本人は全く分かっていなかった。その反応にシルヴィアは思わず苦笑する。

 

「…………あの八幡くん。誰のファンクラブの事か分かってる?」

「いや? クインヴェールの誰かじゃないのか?」

「違うよ。グリューエルちゃんは八幡くんのファンクラブを作りたいって言ってるんだよ」

「…………は?」

 

 思わず絶句する。

 

「いやいや、俺は序列外だぞ。それに俺のファンクラブなんて作った所で誰も入らないだろう」

「そんな事ないよ。少なくとも加入予定メンバーはこれだけいるよ、ほら」

 

 シルヴィアは手元の空間ウィンドウを八幡へと流す。

 

「…………ちょっと待て」

「どうかしましたか?」

「メンバーについて色々言いたいことがあるんだが」

 

 八幡がメンバーを確認するとそこには数人のメンバーが記載されていた。

 

「グリューエルにグリュンヒルデ「ヒルデです」……ヒルデに……後、何でお前の名前があるんだ、リューネハイム?」

「うん。私は八幡くんのファンだから」

「……はぁー。それに何で陽乃さんまで入ってるんだ」

「それは私が陽乃さまに相談した所、『面白そうだから私も入る』とおっしゃってましたので」

「陽乃さん…………」

 

 八幡は頭を抱える。

 

「……そんな事より八幡くん。私は一つ言いたいことがあります」

「そんな事って。俺にとってはとても重要なことなんだが」

「八幡くんの実力ならファンクラブは出来るから、早いか遅いかの違いしかないよ。それより八幡くん」

「何だ? リューネハイム」

「それだよ!」

 

 シルヴィアは大声を上げる。

 

「私たちが初めて会ってから結構時間が経ちました」

「……まあ、そうだな。俺がアスタリスクに来てもう一か月は過ぎたな」

「親しい友達にはシルヴィって呼ばれてるので、私の事は今後シルヴィと呼んでほしいです。勿論、グリューエルちゃんとグリュンヒルデちゃんもだよ」

 

 シルヴィアが双子に話しを振る。すると二人は頷きながら答える。

 

「分かりました。シルヴィさま」

「はい。今後はそう呼ばさせてもらいます。私のこともヒルデとお呼びください」

「うん、分かったよヒルデちゃん。さあ、八幡くんも呼んでみて」

 

 三人が八幡を見つめる。それに対し八幡は少し考えそして口を開く。

 

「…………リューネハイム」

「むぅぅ。二人の事は名前で呼ぶのに」

 

 頬を少し膨らませて拗ねるシルヴィア。

 

「……勘弁してくれ。二人は年下だからまだ呼べるけど、リューネハイムは無理だ」

「え~それは差別だよ。断固撤廃を要求します」

「要求は却下されました」

「なら上告して再申請を要求します」

「残念。その上告は棄却されました」

「むぅっ、だったら────」

 

 二人は言い争いを始めた。

 

「……どうします。お姉さま?」

「放っておきなさい。二人ともアレで楽しんでいるようですから」

 

 二人の口喧嘩をグリューエルは微笑みながら見つめる。

 

「しかし、八幡さんもシルヴィさんの名前を呼んであげればいいのに。どうして呼ばないのでしょうか?」

「…………男の方にも色々あるのよ、ヒルデ」

 

 グリューエルは気付いていた。八幡がシルヴィアの名前を呼ばないのは、単に気恥ずかしいのが原因だろうという事に。

 そして八幡がシルヴィアを女性として意識しているが、自分達はそうではない事にも気付いてしまった。

 

「………………少し妬けますね」

「お姉さま……」

 

 グリューエルは自身の心情を思わず吐露し、そんな自分に苦笑する。

 その間にも二人の争いは続いていた。

 

「大体八幡くんはこっちから連絡しないと全然連絡してこないよね。どうしてかな?」

「……それはつまりアレだ。アレがこうしてアレだからだ」

「理由になってないよ」

「…………まあ、こっちにも色々あるんだよ……そう、やんごとなき事情という奴だ」

「……絶対それ、大した理由じゃないでしょ」

「………………そんなことはない、ぞ?」

「八幡くん? 人と話するときは相手を見て話さなきゃ駄目だよ?」

 

 二人の口論は傍から見てもシルヴィアの方が優勢だった。

 

「時間の問題ね」

「そうですね」

 

 その後、十数分の激しい闘いが繰り広げられた。八幡の抵抗空しく敗北を喫することになり、シルヴィアのことをニックネームで呼ぶようにと押し切られてしまった。

 喜ぶシルヴィアに疲れ切った八幡。そんな二人を双子は苦笑しながら見守り、マスターは高みの見物をしていた。

 

 因みに、范八幡のファンクラブは本日付で結成される事になり、結成時の会員は八幡の関係者のみの少数で構成された。

 

 本人は会員なんて増えるわけないと高を括っていたが、本人の予想に反し会員数は徐々に増えていくことになる。

 

 そして、ある出来事を切欠に爆発的に会員数が増える事になるのだが────それは少し先の未来の話である。

 

 




今回は双子とシルヴィアのお話でした。

誤字、脱字、感想等あれば、よろしくお願いします。

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