学戦都市アスタリスク 本物を求めて   作:ライライ3

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お待たせしました。やっと出来たので続きをお楽しみください。

誤字、脱字、感想等あれば、よろしくお願いします。



第十三話 再会

 真冬の季節が過ぎて気温が少しずつ暖かくなり、少しだけ朝日が早く昇るようになってきた。

 しかし山の景色は未だ雪景色で覆われたまま。

 だが、少しずつ春の訪れが刻々と近付いてきているのが肌で感じ取れる。

 

 二人が家族になってから三ヶ月の時が過ぎていた。

 

 相も変わらず二人の修行の日々は続いている。

 

 

 比企谷八幡が范八幡と名前を変えたあの日以降、彼にある変化が起こった。

 それは、彼の使用できる星辰力の量が増大し、能力の制御も格段に安定したのだ。

 

 范星露曰く、自身を許せない心が使用できる星辰力を無意識に押さえつけ、心の揺れが能力の制御に不安定さをもたらしていた、との事だ。

 新たな家族が心の楔を解き放った影響か、八幡は能力をある程度操る事に成功していた。

 勿論、范星露と死闘を繰り広げたあの夜には遠く及ばない程度ではあるのだが……

 

 そして三ヶ月の時が過ぎた現在、修行の内容も大幅に変更されていた。

 

 現時刻は午前7時55分。

 家の近くの崖に二人の人物が佇んでいた。

 

「スタートまで後少しじゃな。準備はよいか八幡よ?」

「いつでもOKだ」

 

 星露の問いかけにストレッチしながら返す八幡。

 

「条件はいつもと変わらず。8時におぬしがここを出発し5分後に儂が追いかける。8時30分までにおぬしが儂の妨害を掻い潜って先に村に到着すればおぬしの勝ち。時間オーバーになれば儂の勝ちじゃ」

「……ああ」

 

 ストレッチを終えスタート準備に入る。星辰力を解放し全身に行き渡らせていく。

 

「ふむ、以前よりも星辰力の使い方が上手くなったの」

「……あれだけ修行したからな。嫌でも上手くなるさ」

 

 自身の両手両足に視線を巡らす。リング型煌式武装は取り付けられたままだが八幡の動きに淀みはない。

 細かな星辰力の制御が出来るようになったので、普段と同じ動きが出来るようになったのだ。

 今も取り付けている理由は修行用の重り以外の理由はなくなっている。

 

 雑談を話ている間に時刻が迫ってきた。

 現時刻 午前7時59分50秒。

 

「10……9……8……7……6……5……」

「ふぅぅぅぅぅ」

 

 深呼吸をする。

 

「4……3……2……1……スタートじゃ!」

 

 スタートの合図共に空中へ駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 八幡はこの三ヶ月、村へと訪れて体力作りと星辰力のコントロールの修行を行った。当初こそ星辰力コントロールに苦労し、村へたどり着くのに片道3時間以上掛かっていた。

 しかし、八幡がリング型煌式武装に慣れてくるとその記録は徐々に更新されていき、今では村へ到達するのに片道一時間と掛からない。

 

 そして細かな星辰力コントロールが出来るようになってから、修行は更に加速した。星露から本格的な星仙術を仕込まれた八幡は僅か一か月弱でその結果を見事に出した。

 

 そして今――――-八幡は空を駆け村へと向かっている。

 

 

 足を動かし虚空を踏む。その瞬間に星辰力を両足に集中させ足場を生成する。ただし集中させるのは虚空を踏み出す瞬間だけ。

 無意識にこれが出来るようになれば空を駆けるのは案外容易い。

 空を駆けるだけなら、界龍の生徒であれば時間を掛けて習得することが出来るし、万有天羅の弟子でなくとも空を駆けることが出来る生徒は多い。

 

 ただし、瞬時に様々な方向へと向きを変え、尚且つ超スピードで動くとなると難易度が格段に跳ね上がる。スピードを出すためには足場の生成を瞬時に連続で行う必要があり、そのためには細かな星辰力コントロールが必要不可欠なのだ。

 そして次に必要なのが身体能力である。いくら足場を生み出したとしても、それを生かす事のできる身体能力がなければ意味がない。

 足場を連続で生み出す星辰力コントロールに、それを生かすための身体能力。両者が合わさって初めて大空を自由に高速で駆ける事ができるようになるのだ。

 

 現状の八幡もこの段階までは進んでいない。空を駆ける事が出来るようになったが星露クラスには程遠い。

 現状の最速は、先の戦いで見た雪ノ下陽乃と同程度のスピードを出すことが出来る。ただし、あの時の雪ノ下陽乃のスピードは最速ではないだろうし、切り返し後の再加速に時間が掛かるなどまだまだ課題が多い。現状で高速戦闘を行うのはまだ無理だろう。

 そんな事を考えながら進んでいくうちに…

 

「……来たか」

 

 後方から接近する巨大な星辰力を感知した。距離はおよそ200m。瞬時に迎撃を選択し能力を発動する。

 八幡の後方に闇の球体が十個ほど出現する。

 

「ターゲットロック。いけ!」

 

 球体が槍へと変化し射出される。

 高速で射出されたそれらは星露の元へと接近するも、瞬時に横へと方向転換した星露にいとも容易く避けられてしまう。

 しかしこれで終わりではない。

 

「まだだ!」

 

 避けられた槍がその場で急停止。直後、反転し星露を再び追尾し始めた。星露が軽く驚いたのが感じ取れる。

 これも修行の一つの成果である。元々相手の星辰力を読むのは得意な方だ。相手の星辰力を感知しながら能力で追尾し続けるのはそう難しいものではない。

 

 しかし

 

「……やっぱり足止めにもならないか」

 

 予想通り射出された闇の槍が順に迎撃されていく。だが問題ない。この勝負は相手を倒すことが目的ではない。時間内に目的地にたどり着くことが出来ればいいのだ。多少の時間稼ぎができればそれでよい。

 現時刻はスタートしてからおよそ10分経ち残り時間は20分。現在地は二つ目の山の上りの中腹辺り。このまま何事もなければ後5分ほどで村へと到着する。

 

 ここからが本番だ。

 

「はちまぁぁぁぁん!!」

 

 後方の星辰力がさらに巨大化する。同時に対象のスピードが加速。一気にこちらへと接近してくる。

 だがこれは予想できていた。

 元々、この修行時の星露はかなり手加減したスピードでこちらを追ってきている。

 彼女が本気なら追跡後一分も経たずにこちらが捕まっている。しかしそこまで大人げない事は星露もしない。

 精々、道中の後半になるとスピードが倍になる程度だ。

 

「ちぃっ!」

 

 こちらもさらに加速するがスピード差は歴然。両者の距離は徐々に詰められ後方にピタリとつかれる。

 方向を変え何とか振り切ろうとするも振り切れず、星露の手が八幡に触れようとしたところで――――

 

 

 闇の魔法陣が星露を捕縛する。

 

 

「……設置型か。空中に設置するとは中々やるではないか」

「…………」

 

 捕縛された状態で星露が呟く。

 八幡はその呟きに答えず、捕縛された状態の星露を油断なく見据える。

 

 設置型は主に罠として使用されることが多い。対象が入り込んできた所で術者が魔法陣を起動し、捕縛・攻撃などが行われる。設置型は魔術師や魔女ならば使用する者が多いが、空中を高速で移動しながら、なおかつ空中に罠を張る使い手は星露の記憶の中でも数少ない。今の界龍では雪ノ下陽乃ぐらいだ。

 

 しかし注目するところはそれだけではない。

 

「誘導されたか。儂としたことがまんまと嵌ってしもうた」

 

 設置型は如何に相手を誘導し誘い込むかが鍵になる。いくら罠を仕掛けても相手が嵌らなければ意味がないからだ。

 星露の顔から笑みが零れる。

 

「くくくく!よい成長ぶりじゃ。しかしこの程度で儂を捕縛し続けるなどとは「思ってないさ」

 

 星露の言葉を遮り八幡が呪符を四枚取り出す。同時に起動。

 

「急急如律令、勅!」

 

 星露の右上・右下・左上・左下の四方向に小規模の魔法陣が出現。そこから鎖が出現し星露の両手両足に絡みつく。

 

 並みの相手ならこれで充分。しかし相手は万有天羅。この程度では足止めにすらならないのは八幡が誰よりも分かっている。

 

 右手を星露に向け広げイメージを開始。何よりも固く、破られず、そして侵されない。そのイメージを持って能力を発動。

 

「闇よ閉じろ!」

「むっ!」

 

 星露を基点として闇の球体が広がっていく。闇は星露を呑み込みその姿を隠す。そして巨大化を続け直径5mほどの球体を作り出した。

 

 現状の星辰力の半分以上を注ぎ込んだ。今の星露の状態のままなら破るのに時間が掛かるはず。

 星露に背を向け目的地へと急ぎ駆け出す。

 

 そして一分が過ぎ村が近付いて来た。後二分もあればゴールに到着する。

 

 だが

 

 後方からの巨大な圧力を感知。直ぐに回避行動を取る。次の瞬間、目の前を高速の物体が通り過ぎる。一瞬の交錯の間にお互いの視線が絡み合う。やはりというべきか范星露であった。

 

「もう来たか」

「来ないわけがなかろう!」

 

 拘束を一瞬で断ち切りこちらの場所へ瞬時に移動してきた。見る限り全力ではないがかなり本気のようだ。獰猛な笑みを浮かべるその姿はあの夜を思い出させる。

 

「滾らせてくれるのう、八幡!」

「くっ!」

 

 しかし考える暇はない。接近し波状攻撃を仕掛けてくる彼女の動きに八幡は対応が遅れる。ここが地上であればまだ反応できたであろうが、ここは空中だ。慣れない空中戦では防御で精一杯であった。

 直後、星露の姿が眼前から消える。

 

「こっちじゃ!」

「っ!?」

 

 直上からの声と同時に衝撃。反応できなかった八幡は上空から地上へと叩き落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ、少しやり過ぎてしもうたか?」

 

 上空から地上を見下ろしゆっくりと降下しながら星露が呟く。眼下には、八幡が地上に衝突した際に発生した雪煙が視界いっぱいに広がっている。

 地上に降り立ち周囲を見渡す。未だ雪煙は晴れない。

 

「見えぬな……」

 

 右手を掲げ軽く払う。すると轟音と共に突風が生まれ、周囲の雪煙と積もった雪が全て吹き飛ばされた。

 視線をうつすも

 

「……いないか。やるのう」

 

 八幡の姿はそこにはなかった。地面衝突後、星露が地上に降り立つまでの僅かな間に、雪煙に乗じて逃げ出したようだ。

 星露は目を閉じ周囲の気配を探る。

 

 しかし

 

「捉えきれぬか。儂を誤魔化すとは大した隠形よ」

 

 星露が八幡の中で一番評価しているのが隠形であった。元から隠形はかなりのレベルであったので、潜伏に徹されると星露ですら捕捉するのが難しい。近場にいれば発見することも可能だが、この様子だと遠くに離れているだろう。

 

「まあよい。どうせ目的地は決まっておるからの。そこで待つとするか」

 

 そう言うと星露が空中へ飛び上がり村へと向かう。

 それを遠目に眺めながら八幡が呟く。

 

「……やれやれ、どうしたものかな」

 

 

 

 

 

 

 

「……来たか」

 

 村の入り口で待ち構えた星露が八幡の姿を確認したのは、午前8時25分を過ぎた所だった。

 残り時間は約5分弱。星露が突破を許さなければ彼女の勝ちとなる。

 星露は八幡に向かって歩み寄り話しかける。

 

「正面から来るとはの。何か策でも思いついたか?」

「特にないな……というか、さっきのアレで決まったと思ったんだがな」

 

 八幡は思わず苦笑する。予定としては先程の拘束中にゴールするはずだった。

 

「狙いとしては悪くなかったぞ。儂も思わず本気を出してしもうた」

「そこは手加減してほしかったがな」

 

 そう言いつつ能力発動。手に闇の刀を生み出す。

 

「ま、駄目なものはしょうがない。何とかするさ」

「ほう、いい度胸じゃ」

 

 八幡は刀を持って、星露は素手のまま構える。

 そしてお互いに星辰力を高め、睨み合う。

 

 星露に対して正面から戦闘を挑んだ場合、恐らく傷一つ与えられない。

 理想は正面突破だがその隙は全く見当たらない。

 やるとすれば不意を打つ必要がある。

 

 だったら

 

「行くぞ、星露」

「来い、八幡」

 

 八幡が右足で地面を思いっきり踏みつける。

 すると、星露の影から黒い紐のようなものが数本現れ星露の両足に絡みつく。

 

「なんと!」

 

 星露が驚愕の声を上げる。そして一瞬だけ足元に視線を送ってしまう。

 それだけで充分だった。

 

 次の瞬間には、本日最速のスピードで八幡が星露に接近していたからだ。

 

「卑怯とはいわないだろう?」

「言うわけなかろう!」

 

 八幡が上段から闇の刀を袈裟斬りに斬り下ろす。

 が、星露が獰猛な笑みで笑いながら右腕で刀を跳ね除ける。

 

「儂の影に干渉しよったか!」

「正解だ」

 

 跳ね飛ばされた刀が空中で弧を描き、今度は逆袈裟で斬り下ろされる。

 

「影も闇の一部。そうイメージすれば難しい事じゃないさ」

「なるほどのう!」

 

 今度は左腕で防御。刀の動きを止めようとする。

 刀と腕が衝突し刀が止まる―――直前に刀が向きを変え横振りへと変化する。

 星露は屈んでこれを躱した。だが止まらない。刀は連続攻撃で星露に襲い掛かっていく。

 

「ほう、これはなかなか」

 

 星露が感心したように呟く。修行を開始して三ヶ月。それまでに八幡の剣術を受けた事は幾度もあるが、今のような連続攻撃は初めて見たからだ。

 

「連撃を主とした攻撃か。しかも繋ぎ目が滑らかになっておる」

「……まだ未完成のもどきがいい所だがな」

 

 刀藤流奥義 連鶴

 

 宗家でも使い手が少ないその奥義は、紙での鶴の折り方49の繋ぎの型を組み合わせる事により連続で放たれる技である。これを極めれば、繋ぎ目のない連撃を放ち一度捉えた相手を逃がすことはないと言われている。

 かつての師に見せられ、体感した時はどんな手段を用いても逃れる事はできなかった。

 

 星露がその場を動く気配はない。だが幾重にも及ぶ八幡の攻撃は全て防がるか避けられていく。太刀筋はおそらく見切られている。連鶴の完成は未だ遠く未完成のまま。だったら持てる手札で挑むのみだ。

 

 八幡は突きを繰り出す。渾身の力を込めたその突きは、例え序列上位クラスですら防ぐことは難しかっただろう。しかし、直撃する直前に神速で動いた星露の手が八幡の刀を掴み取る。

 

 動かそうにも刀はピクリともしない。

 

「くっ!」

「いくつかアドバイスじゃ」

 

 星露が闇の刀を握りつぶし、刀身が消えた刀はそのまま消失する。

 再度刀を生み出すも、それまでに生じた僅かな隙に掌打を鳩尾に叩きこまれ、八幡が吹き飛ばされる。

 

「能力の展開速度がまだまだじゃ。刀を生み出すのに約1秒。それだけあれば壁を越えた者達には致命的な隙となる」

 

 星露の足に絡みついた黒い紐はいまだ解けていない。彼女が本気なら直ぐに解けるはずなので、あえてそのままにしてあるのだろう。

 

 このままゴールに向かう選択肢はない。背中を見せたら最後、止めを刺されるのは間違いないからだ。

 残る手段は後一つ。だが果たしてそれさえ通用するかどうか。

 

「さて、もう終わりか?」

 

 その問いに答えるように、八幡の身体から闇の棘が3本生み出され、星露に襲い掛かる。

 しかし星露は動かない。それどころか、あえてその身を晒し防御する素振りすら見せない。

 

 闇の棘が星露に直撃する。しかし、その身に纏う星辰力が闇の棘の進行を阻んだ。

 驚く八幡。何らかの手段で防がれるならともかく、星辰力のみで止められるのは予想外もいい所だ。

 

「……マジか?」

「両者の星辰力に差があればこういう事も可能になる。それ以前に能力の圧縮率が足りぬな……技の名でも付けてみたらどうじゃ?」

「技の名前?何か意味あるのか?」

「あるぞ。能力においてイメージが大事なのは言うまでもなかろう。技の名を付ける事によりイメージが強固となり、能力はより強くなる。アスタリスクの能力者も技の名を付けておるぞ」

 

 その提案はきっと正しいのだろう。

 しかし誰かに習った技の名ならともかく、自身で名を付けるのは憚れる。

 

「……中二病っぽくて嫌だ」

「おぬしの学年は中学二年じゃろう?」

「ああ、分からないならいいんだ」

「?」

 

 こくりと首を傾げる星露になぜか癒される。

 しかし、近接戦は相手のが上。遠距離攻撃はそもそも通らないとなると、本格的に打つ手がない。

 やはり切り札を切るしかないようだ。

 

 意識を集中し刀を生み出す。

 

「ふぅぅぅぅぅぅ」

 

 呼吸を整え全身の力を抜いていく。

 正面にいる星露を見据え居合の構えを取る。

 

 星露はやはり動かない。こちらの行動に興味を持ったのか待ちの姿勢を崩さない。

 

 残り時間は約30秒。

 

 これが最後の勝負だ!

 

「刀藤流 抜刀術―――”折り羽”」

 

 

 

 

 

 

 

「刀藤流 抜刀術―――”折り羽”」

 

 八幡が呟いたその言葉を聞いた瞬間、星露の目の前に八幡は居た。

 その速さは正に神速。否、それ以上のスピードだ。収められた刀が星露を仕留めようと鞘から繰り出される。

 それに対し星露の身体は動かない。いや、反応すらできなかった。

 

 そして星露の身体が両断された。上下に分かれたその身体から血飛沫が大量に飛び出し、辺りを鮮血に染める。

 しかし星露の表情は笑っていた。それはもうとても嬉しそうに。

 

 そして上半身が地面に投げ出され―――――

 

「喝!!」

 

 星露の一声により虚像が彼女の脳内から姿を消す。

 しかし折り羽によって送られたイメージは、多少の時間稼ぎになった。八幡は星露を避けて村へと駆けている最中だ。後数秒で村へと到着してしまうだろう。

 

 星露はその後ろ姿を見て―――まったく別方向へと移動した。瞬時に目的の場所へと到達し足払いを掛ける。すると何もない空間にも関わらず、何かが倒れた音がする。倒れた何かに馬乗りになり拳を突きつける。

 

「惜しかったの。じゃが、儂の勝ちじゃ兄上」

「………降参だ」

 

 星露の下から八幡の姿が現れる。そして八幡が降伏の意を伝えて決着は付いた。

 

 星露の勝利である。

 

 

 

 

 

 

「そういえば八幡よ。今日の午後は客が来るのでな。本日の修行は中止してこの村で客を出迎えるぞ。ほれ、あ~~んじゃ」

 

 星露から差し出された箸に口を付け乗せられた物を食べる。出来立ての焼き鮭は脂がのってとても美味しい。

 

「……客?星露の知り合いか?」

「まあ、そんな所じゃ」

 

 今度は八幡が星露に向かって箸を差し出す。それを星露が口の中に含みかみ砕く。

 この村で作られたキュウリの漬物だ。

 

「うむ、良い味付けじゃな。村長よ」

「はい。ありがとうございます」

 

 星露の誉め言葉に村の村長も機嫌がよくなる。

 彼らにとって、万有天羅よりに褒められることは何よりも嬉しい事だ。

 

「なぁ、星露」

「何じゃ?」

「……いい加減この罰ゲーム止めにしないか?見られながら食べさせ合うのはさすがに恥ずかしいんだが」

 

 お互いに食べさせ合っているのは、星露が考案した罰ゲームであった。

 別に星露に食べさせるのはいい。幼女に食べさせるのはそこまで恥ずかしい事ではない。

 だが、村長に見られながら食べさせ合うのはさすがにアウトだ。村長が微笑ましくこちらを見てくるのも羞恥の心を加速させる。

 

「何を言う。兄妹が仲良くするのは当然ではないか。のう村長よ?」

「はい。仲が良いのはよろしい事かと」

「はぁ~~」

 

 溜息を付き諦める。新しい妹が一度決めた事をめったに曲げる性格でないことは、この三ヶ月で理解した。

 それに別に嫌というわけではないのだ。こちらが本当に嫌な事を星露は強要しない。

 今回のこの罰ゲームも、こちらの羞恥の表情を楽しんでいるに過ぎないのだ。

 

「ほれ、手が止まっておるぞ」

「……分かったよ」

 

 口を開けてこちらを見つめる星露に八幡は手持ちの箸を再び運び始めた。

 

 二人が食事を終えた後、別室の居間に足を運び畳の上で休憩をとる。

 星露は正座をして八幡の頭を膝にのせて膝枕をする。八幡の頭を撫でながら彼女は話し始める。

 

「……儂は一度界龍に戻ることにした」

「界龍に?」

「うむ。このまま修行を続けてもよかったのじゃが、学園の卒業式も近いのでな。さすがにそれをすっぽかす訳にはいかぬ……虎峰もまずい状態みたいじゃしの」

 

 最後に呟かれた言葉は聞こえなかった。

 

「じゃあ俺も一緒にか?」

「いや、おぬしは此処に残れ。連れて行ってもよいが、儂もしばらく忙しくなる。ここで修行した方がいいじゃろう」

「そうか、じゃあ自主練だな」

 

 八幡の言葉に星露は首を横に振る。

 

「いや、これから来る客がおぬしの修行相手じゃ」

 

 

 

 

 

 

 

 八幡の目の前に二人の人物がいる。二人とも八幡の知り合いだ。一人は最近に、そしてもう一人は幼少の頃以来の再会だった。

 一人目は雪ノ下陽乃。伏し目がちに伏せられたその顔からは、どんな表情をしているかは読み取ることが出来ない。

 

 そしてもう一人が

 

「お久しぶりです。先生」

 

 八幡の剣術の師である我妻清十郎だった。

 

「うむ、久しぶりじゃな、八幡君」

 

 我妻清十郎

 齢八十と超えて直現役である刀藤流分家の剣士。

 非星脈世代でありながらその強さ故、剣聖の名を称えられた存在である。

 真っ白な白髪と長い顎鬚を携えたその姿は、昔と何も変わっていないように見えた。

 

「……どうして先生が此処に?」

 

 八幡としては当然の疑問であった。

 雪ノ下陽乃ならともかく、かつての師が訪れてくるなど予想外もいい所だ。

 

「今回此処に来たのは誘いを受けたからになるかの」

「誘い?」

「そう。儂が呼んだ」

 

 答えたのは星露であった。

 

「感謝するぞ、我妻清十郎。儂の誘いを受けてくれたことを」

「いえ、気にする必要はないですぞ万有天羅。私としても今回の誘いは渡りに船でしたので」

「そうか。しかし………」

 

 星露が清十郎を見つめる。そして何を思ったか獰猛な笑みを浮かべる。

 

「……強いのおぬし。おぬしを見ていると嘗ての新選組を思い出す」

「ふぉっふぉっふぉっ、新選組に例えられるとは光栄ですな。しかし私はただの老人。大したことはありませんぞ」

「ぬかせ。おぬしがただの老人なわけがなかろう」

 

 二人揃って笑い出す。

 ひとしきり笑った星露は八幡に向き直る。

 

「というわけで八幡。おぬしの師を呼んだので暫し修行の相手をしてもらう。さすがの儂も刀藤流に関しては門外じゃからの」

「そうか。でも……」

 

 八幡の顔に苦渋の色が浮かぶ。

 

「……俺は勝手に道場を辞めた身です。そんな俺が……いいんですか、先生?」

 

 清十郎は八幡に近付く。そして幼少時にした様に八幡の頭を撫でながら答える。

 

「構わんよ。君が悩んだ末に剣を辞めた事は知っている。その剣を再び取るというのなら、師がそれを導くのは当然の事」

「……先生」

 

 思わず目頭に涙が溜まる。

 

「万有天羅からは厳しくしていいと言われておるが、覚悟はよいか?」

「はい。お願いします」

「うむ、よい返事じゃ」

 

 頷き返事をする八幡。

 そんな姿を微笑ましく見ていた星露だが、陽乃を見てある提案をする。

 

「儂は少し席を外す。我妻清十郎、おぬしも付き合って貰えぬか?よい茶があるから一緒に飲もうではないか」

 

 その言葉を聞いた清十郎は八幡と陽乃をそれぞれ見てから頷く。

 

「おお、それはいいですな!是非とも付き合わせてもらいますぞ」

 

 そう言うと二人は立ち上がり部屋から出ていこうとする。

 ずっと黙っていた陽乃は、そんな星露に声を掛けた。

 

「……ありがとう、星露」

「気にするでない」

 

 星露と清十郎は部屋から出ていった。

 そして部屋に残されたのは八幡と陽乃の二人である。

 

 ―――――さようなら。陽乃さん、ルミルミ

 

 二人の再会はあの時の戦いのとき以来となる。

 先の別れをした後となって、八幡としては少々気まずい。

 

「……あの……その、お久しぶりです、雪ノ下さん」

「…………」

 

 挨拶をするも返事がない。

 

「この間はご迷惑をおかけして申し訳ありません……星露のおかげで何とか助かりました」

「……………」

 

 話を続けるも返事がない。陽乃は俯いたまま沈黙を保っている。

 

「……やっぱり怒ってますか?」

「……怒ってないよ」

 

 その沈黙が怒りから来たものだと思った八幡が問いかけるも、陽乃はそれを否定した。

 返事を返した陽乃は八幡に近寄り――――

 

 そして八幡の身体に正面から抱き着いた。

 

「雪ノ下さん?」

「……心配した」

 

 陽乃は呟く。その声はどこか震えて弱々しく感じる。

 

「心配したんだから……君と戦って、君がいなくなって、もう会えないかと思って……私」

「それは……」

 

 抱き締められた腕の力が強くなった。

 

「よかった、無事で」

 

 そこで八幡は気付いた。陽乃の目から溢れる涙に。その涙と震えた声が彼女の言う事が本音だと知らせてくれた。

 そのままの格好で数分の時が過ぎる。しかし陽乃は八幡の背中に両手を回し抱き着いたまま動こうとしない。

 

 そうなってくると一つ問題が生じる。

 

「……雪ノ下さん?」

「………何?」

「離してもらえませんか」

「やだ」

 

 即座に拒否され、さらにぎゅっと抱きしめられる。

 

「…………私のこと嫌い?」

「……嫌いじゃありません。ただこの状態に問題があるわけでして」

「……ああ、そういうことね……役得と思って我慢しなさい」

 

 八幡が何を言いたいか理解するも、陽乃は気にせずそのまま抱きしめる。

 雪ノ下陽乃は年上の美人で、おまけにスタイルも抜群だ。そんな女性に抱き着かれて落ち着けるわけがない。陽乃自身から漂ういい匂いと、自身の胸に押し付けられた二つの柔らかな感触。

 はっきり言って年頃の男の子には刺激が強すぎる。

 

 しかし、自身を心配してくれた陽乃を跳ね除ける気は起こらないのも事実だ。命がけで助けようとしてくれた陽乃を嫌いになどなれるわけがない。決して胸の感触が気持ちいいからでは……ないはずだ。

 そんな事を考え、自身の煩悩と葛藤する八幡を他所に、陽乃は満足するまで八幡を抱きしめ続けた。

 

 

 

 

 

 

 

「う~~ん。満足したわ」

「ほんと勘弁してください……」

 

 結局十分ほど八幡を抱きしめていた陽乃。陽乃はどこかすっきりとした表情になっていたが、八幡は逆に少し疲れた表情を見せる。

 

「……雪ノ下さん。少し変わられましたか?」

「そう?」

「ええ、何か前より表情が柔らかくなったような気がして」

「学園の皆にも言われたね、それ」

 

 そう言って陽乃は笑顔を見せる。

 その笑顔は明るく、明らかに以前よりも魅力的に感じられた。

 

 先程の行動もそうだ。

 雪ノ下陽乃という人物は、人前で涙を見せるような人物ではなかった。いくら落ち込んでいても、自身の弱みを晒すような行動は取らない人だと思っていた。

 

「家の問題が片付いたからかな。晴れて自由の身になって、肩の荷が降りた感じ?」

「……そうですか。思ったより早かったですね」

 

 以前聞いた話だと、後一年ぐらい掛かりそうだと陽乃が言っていたのだ。

 あれから三ヶ月しか経っていないので、随分と早く終わったものだ。

 

「お母さんぶっとばして飛び出してきちゃった♪初勝利だよ、初勝利」

「何やってんですか、あんた」

 

 解決方法が肉体言語だった模様。

 穏便に事を済ますと言っていた筈がどうしてこうなったのだろうか。

 

「まあ、私の話はいいとして、比企谷くん……じゃなかったね。私はどう呼ぶといいかな?范くん?それとも八幡くんの方がいい?」

「……どちらでもいいですよ。好きに呼んでください」

「そう?じゃあ八幡くんにするね。私のことも陽乃でいいよ。というか、この前陽乃って呼んだのに雪ノ下に戻ってるのはどういう事?」

「いや、あれはその場のノリというか、場に酔ったという感じで。やっぱり女性を名前で呼ぶのはどうかと思いまして……」

 

 早口で誤魔化す八幡。それに対し陽乃は上目遣いで八幡を見て一言言い放つ。

 

「……駄目?」

「………陽乃さんとお呼びします」

 

 物凄い破壊力だった。

 陽乃はそのまま接近し八幡の眼を覗き込む。両者の距離はおよそ10cmほどになる。

 

「な、何ですか?」

 

 陽乃の顔を間近で見る。整った容姿に魅力的な笑顔。思わず八幡の顔色が朱に染まる。

 

「う~~~ん。やっぱり目の淀みが薄くなってきてるね。八幡くんの方も何かあった?」

「ああ、この目ですか。星辰力が戻ってから徐々に薄れてきてる感じです。元々目が腐ったのは小学校低学年からで、星露の推測だと星辰力の封印時に身体の一部に障害が発生した影響じゃないかと言ってましたね」

「ふ~~ん、そっか。でも……」

 

 陽乃は八幡の頬に手を添える。そして、はにかんだ笑みで八幡に言った。

 

「私はどっちの目も好きだよ。今の君も。昔の君もね」

 

 八幡の顔が真っ赤に染まった。

 

 

 

 

 

 

 

 話が済んだ八幡と陽乃は席を外した二人を探す。しかし家の中にはおらず、外に出て村の中を探し回る事にした。

 暫く探していると、村の入り口で星露と清十郎が談笑をしている姿が見えた。

 二人がそこに近付いていくと、星露がこちらに気付き声を掛けてきた。

 

「おお、二人とも。話は終わったようじゃな」

「うん。そちらも盛り上がってるようだけど、何を話してたの?」

 

 陽乃の言葉ににやりと笑う星露。

 

「うむ、八幡の幼少時の話を聞かせてもらってな。中々面白かったぞ」

「え~なにそれ、面白そう。私にも聞かせてよ」

「いいぞ。後で教えてやろう……そろそろ時間じゃな」

 

 そう言うと星露は八幡の方に視線を向ける。

 

「八幡よ」

「何だ?」

 

 手招きする星露。それを見た八幡が星露に近付いていくと、星露は八幡の手を取り思いっきり引っ張った。

 思わず前のめりになる八幡。

 

 そして、近付いた八幡の首に星露が抱き着いた。

 

「星露?」

「……しばしの別れじゃ。アスタリスクで待っておるぞ」

 

 その言葉には強くなることへの期待。そして、別れによる寂しさが含まれているように感じた。

 八幡も星露の背に手を回し抱き返す。

 

「……ああ、なるべく早く行けるように頑張る」

 

 二人はしばらく抱き締め合った。やがて名残惜しさを感じながらも二人は離れ、星露は離れて見守っていた陽乃の元へと歩いていく。

 八幡は清十郎の元へと歩いていき星露の方へと向き直る。

 

「またな、星露」

「うむ、おぬしも日々の鍛錬を忘れぬようにな……我妻清十郎よ。八幡を頼む」

「任されましたぞ、万有天羅」

 

 大きく頷く清十郎。

 

「せっかく会えたけどもうお別れだね。しかたないけどさ……界龍に来たら私の相手をたっぷりとしてもらうからね、覚悟しておくように」

「……お手柔らかにお願いします」

 

 八幡と陽乃も別れの挨拶を済ませる。

 

「では行くぞ、陽乃」

「……うん」

 

 その言葉が最後だった。

 周辺の星辰力が蠢いたかと思うと、次の瞬間には二人の姿が消えていた。

 

「……呪符もなし、印もなしか……先は長いな」

 

 その所業を見て八幡は呟く。

 自分と星露との差を感じられずにはいられない。

 

「まあ、頑張るしかないか」

 

 それでも努力を続けるのは怠らない。

 新しい妹の期待に応えるため、強くなると決めたのだ。

 

「……先生。これからよろしくお願いします」

「うむ、では準備が出来たらさっそく始めるとするかの」

 

 そう言うと村の中に戻っていく清十郎。

 朝日が昇り、晴れ渡った空を見ながら八幡を思う。

 

「……絶対に強くなってやる」

 

 強くなりいつか万有天羅を倒す。

 それが新しい妹の望みであり、自らに課した目標でもあるからだ。

 

 その目標は果てしなく遠く、そして遥かな道の先にいる。

 普通なら諦めるところだし、そもそも強くなるなんて事は少し前の自分では考えもしなかった事だ。

 

 だが

 

 ―――――おぬしには才がある。儂がこれまで見て来た誰よりもじゃ

 

 星露は言った。自分に才能があると。

 それこそ朝が来たら朝日が昇るのは当然だと言わんばかりにだ。

 だったらそれを信じ突き進むのみだ。

 

 強くなる事への決意を固め、八幡は清十郎の後を追っていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「さて、着いたの」

「あれ?黄辰殿じゃないんだ?」

 

 星露と陽乃が現れたのは、界龍にある建物同士を繋ぐ通路の一つであった。

 界龍は各建物が全て通路で繋がっているのが特徴である。

 

「うむ、久方ぶりの学園じゃからの。しばし歩いていくのも一興であろう」

「そっか。で、目的地は?黄辰殿?」

「いや、生徒会室じゃな。虎峰の様子を見に行くとしよう」

「あ~~そうだね。虎峰ってば結構精神的にやばい状態だからそれもいいかもね」

「……そこまでか。苦労をかけたようじゃから労ってやらねばな」

 

 二人は目的地へと向かい始めた。

 通路に人は誰もおらず二人の歩く音のみが響き渡る。そんな中、陽乃が星露に話しかける。

 

「ねぇ星露。どうして八幡くん連れてこなかったの?」

「先程も言うたであろう。刀藤流は儂も専門外じゃと」

「……本当にそれだけ?確かに学園に部外者が入るのは駄目だけど、星露ならどうとでもしそうだよ」

 

 陽乃は八幡を一人村に残したことを気にしていた。

 刀藤流の鍛錬だけが理由なら、我妻清十郎を界龍に招待してもよかったのだ。普通は部外者が学園に入るのはNGであるが、生徒会長の星露の許可があればどうとでもなる。

 

「……おぬしなら気付くか」

 

 やはり他にも理由があったようだ。

 仕方ないとばかりに星露は話し始める。

 

「あやつの精神状態の確認じゃよ」

「精神状態の確認?」

「そうじゃ。あれから三ヶ月の時が経ち、八幡も精神的に安定したように見える。じゃが、儂がいない状態でもどうなるか気になっての」

「大丈夫なの?もしまたあんな事になったら」

「それは大丈夫じゃ」

 

 陽乃の不安を一言で切り捨てる。

 

「その前に我妻清十郎が八幡を制圧する。アレに掛かれば造作もないじゃろう」

「……そこまでなの?剣聖の実力は」

「儂も奥底までは読めなかったがの。非星脈世代であれほどの実力者がいるとは。やはりの人の世は面白いのう」

 

 くっくっくと笑う星露。

 どうやら星露は何の心配もしてないようだ。

 

「安心せい。そもそも八幡が暴走する事はなかろう……それこそ昔の知り合いに直接会わん限りはの」

「そっか。なら大丈夫かな」

 

 それからは無言で歩いていく。

 通路を渡り幾つかの建物を経由して、やがて目的地前に到着した。

 目の前の扉に手を掛けた星露が、ふと何かを思い出したように陽乃へと振り向く。

 

「そういえば目的はもう一つあったの」

「八幡くんを残した理由?」

「そうじゃ。弟子の成長を自ら確認するのもよいが、それだけではつまらん」

「つまらんって」

 

 陽乃が苦笑いをする。八幡を残した他の理由に気付いたからだ。

 

「その方が楽しそうじゃからの!」

 

 そう言い放つと星露が扉を開ける。

 

「今帰ったぞ!」

 

 中にいる面々がこちらを見た。

 星露の一番弟子である武暁彗。水派を統括する道士、三番弟子のセシリー・ウォン。木派を統括する拳士、四番弟子の趙虎峰。セシリーと陽乃の友人でもある梅小路 冬香。双子の兄妹である黎沈雲と黎沈華。そして特務機関(睚眦)の工作員 アレマ・セイヤーンだ。

 

 界龍が誇る層々たる面々が様々な表情でこちらを見つめていた。

 驚いている者。嬉しそうな者。そして泣きそうな顔でこちらを見ている者など様々だ。

 

「……そういう事か」

 

 陽乃が呟く。

 星露は八幡に期待してるのだ。師である星露がいなくとも強くなる事に。そしていない間に何処まで強くなれるかを、だ。

 

 なら、自分も期待するとしよう。

 

「私も借りを返したいしね」

 

 やられっぱなしは性に合わない。

 しかし先ほど見た八幡の実力は、まだ自らに遠く及ばないように感じた。

 あの時の八幡が、いや、それ以上の実力となった八幡を自分の実力で倒す。

 

 打倒 万有天羅を掲げている陽乃としては、それぐらい出来なくては話にならない。

 

 陽乃もまた決意を固め、駆け寄る学園の仲間の相手をすべく、自らも歩を進めた。

 




今回の話で序章が終了となります。

陽乃さんはヒロイン入りが決定しましたので、ご報告しておきます。

次回はいよいよアスタリスク、ではなく閑話の予定。

予定の閑話は二つ。
星露がいない間の界龍、そして各学園の話。
そしてもう一つが、八幡がいなくなった後の陽乃視点での総武の人達の話。
陽乃さんの方は荒れそうだけど書かない訳にはいかないのが悩み所ですね。

さてどっちから書こう。

そしてその二つが終わったらいよいよアスタリスクです。

此処まで長かった。現時点で一年以上掛かるとは思いもしなかった。

なるべく見捨てられない様に頑張ります。

では、次回もよろしくお願いします。

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