「じゃあねー。また来るから。」
「睦月も如月ちゃん達と一緒に待ってるね!」
睦月ちゃんお手製の朝ご飯を食べてお風呂を借り、綺麗に一日を始めた私は
こうしてドアの前で手を振りながらみんなの部屋を後にする。
少しだけ洋風な感じの睦月型駆逐艦お手製料理は私たちの料理とはまた別の美味しさがあった。
あとシャンプーいい匂いだったなぁ…
…そんな事を考えながら出入りの激しい駆逐艦寮の出入り口を抜けて、
少しだけ騒がしくて忙しい鎮守府の朝を謳歌し、部屋へと歩き出す。
_明後日。
その時をもって私たちはこの鎮守府を後にし、作戦海域へと出る。
海の色が赤く染まれば染まるほど。
空の色が黒く濁れば濁るほど。
危険度は跳ね上がり、深海棲艦達がより多く住み着く。
普通なら青色の穏やかな海域と鎮守府間での演習を積み重ねた上で赤色の海域へ出撃する筈…。
なのだが。
どうやら上の方はさっさと私を危険な場所へと送り出したいらしい。
今日まで許される範囲で情報を集めたが、特段これといった理由も分からなかった。
もっと深い理由があるのか、それとも嫌われているのかはわからない。
ただ一つ。明確に分かることは_
「…ただいま。」
「__、おかえり。」
私は、私のために。
この笑顔と日常と平穏の為に。
どうしようもなく愛しいお姉ちゃんの為に。
大鷹と二人でここへと帰り着く。
そう、そのために___
「あ、朝ごはん作っておいたから食べてね?」
「_え。」
「え?」
私が駆逐艦寮に泊まったことは睦月型姉妹から伝えてあった事は聞いていた。
聞いてはいたが、朝ごはんも食べて来るとは思わなかったのか…。
…まぁしょうがないよネ。
「えっと、睦月ちゃんの所で食べて来たから。だからお昼に温めて食べる…ね?」
「………まぁいいです。次から出来ればちゃんと私に伝えてから行ってね?」
「はい・・・」
姉から発せられる姉妹パゥワーとジト目によりメンタル撃沈である。
次からせめてメールぐらいは早めに送っておこうと心に刻んだ所で大鷹が振り返り、
「あと私はちょっと鳳翔さんの所に行ってくるからね。多分夕方には帰るから。」
と微笑みながら言い放った。
…だけならよかったのだけども。
この後、一緒に行くと言おうとした所で、微笑んだまま「お留守番よろしくね。」と、
残酷な室内ボッチ宣言をくらった事で朝方から一日中全力で暇を持て余し、
最終的にお昼を食べた後のお昼寝でがっつり寝てしまって起きたら夜ご飯。
せっかくの作戦前の時間を駄目な生活で終えてしまうという後悔有り余る一日を
過ごしてしまった事は今後お酒の席などで語られる笑い話となるのだがそれはまた別のお話。
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お土産で貰った最中アイスを左手で持って食べながらソファーに体を預ける。
弾力で弾む体は程なくして沈み込み、そのままスカートのポッケからスマホを取り出す。
適当にアプリを開いては気分に合わせて遊んでいく。
RPG、FPS、TPS,カードゲーム、将棋に囲碁…
大鷹がいないからだろうか?
普段と違って落ち着かず、やけに多くのゲームに没頭してしまう。
もっとも、言い換えれば時間を無駄に浪費しているだけなのだが。
あれから。
時間が過ぎ去っていく事にも気づかず、夢中で一時の時間を費やした。
既に外はほんのりと赤みを帯びていて、時計の針も下向きになりつつある。
「ん…ふぁ…あぁぅ…」
欠伸と同時に眠気を覚えてしまう。
体を精一杯伸ばした後、近くのベットに大きく倒れこむ。
眠気には耐えられない。
大鷹が帰ってくるまで寝ようと、すぐ傍の布団を掴んで引き寄せる。
その布団の中に包まり、足と腕を折り畳んで胎児のような姿勢で瞼を閉じて微睡に落ちた。