目が覚める。
溶けていたものが集まり、浮上するような感覚。
氷塊が浮き沈みするかの如く私の意識は睡眠と覚醒を繰り返し_
その末にずるずると半身を起こした。
視界は暗く、目が慣れずとも薄らと家具の輪郭が見えるような気がする。
そんな暗闇の中、窓を覆うカーテンは沈黙だけを返し時計の秒針と誰かの吐息だけが音を返す。
…まぁどう考えても睦月達の部屋だけど。
しかもご丁寧に布団まで掛けてくれてるし。
布団の中って
が、そういう訳にもいかない。
みんなを起こさないように布団の中に潜り込み、自分の
薄緑の光が布団の中を照らすせいで少しだけ眩しい。
流石に妖精さん達もみんな寝ているみたいで、いつもとすると活気がない…ような。
まぁ夜だし当たり前か。とにかく今の時刻を確認しなきゃ。
…おっふ、もうどこの寮も全部閉まってるじゃん。
しかも深夜過ぎてるし。これはもう外に出れないか。
無理矢理帰る訳にもいかないけど、大鷹心配してるだろうし、どうしよう。
大鷹はスマホの扱い全然できないし、もう寝てるよなぁ…。
とはいえ突然いなくなると睦月達も困るだろうし、今日は諦めるか。
結論に達したところで画面を閉じ、布団の外に頭を出す。
そのまま瞼を閉じ、再び微睡に身を任せようとして。
_なんとなく、薄く白んだように見える窓越しの空に目を奪われた。
カーテンの隙間から見える空はまるで霞が掛かったようで、
今にも掻き消えてしまいそうな儚さを感じる。
小さい空に煌めく星と雲に紛れる朧月が私の意識を奪った。
ふと、瞬きの中にあの不思議な夢を思いだす。
顔は見えなかったけれど、赤い色と灰色の床だけは覚えている。
不思議な記憶は好奇心を呼び、好奇心は探求心を呼ぶ。
そうしてしばしの間、影を落とした部屋の中で一人落ち着かないまま思考の海に落ちていった。
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「___ぃ_おーい、起きてるー?」
ゆっくりと気だるげに目を開ける。
頬にさらりと掛かる髪は長く、目の前にはこちらを見つめる文月の顔があった。
こちらが起きたことを確認した文月がその顔を上げた途端、朝日の眩しさに目を薄める。
開け放たれたカーテンは隅にまとめられ、窓はその光を部屋に取り入れる。
「んんっ…今片付けるから待ってて…。」
私の為に布団を用意してくれた事を思い出し体を引きずるようにして立ち上がった私は
寝ぼけて上手く動かない頭で布団を一度広げ、両端を指先で掴んでたたみ始める。
そのまま腕の中に納まるほどに小さくした布団を持ち上げて、何処に置けばいいのかと
近くにいた睦月に聞いてみる。
「あー、それー?そこのドアの先が押入れだよ!」
「じゃあそこに置いとくねー。」
笑顔で布団を落とさぬように手だけを振って答える。
少し歩いて角を曲がり、ドアの前で布団を一度抱えなおしてから扉を開けた。
…目に飛び込んできたのは綺麗に積まれた段ボールと布団。
クローゼットや艤装点検の時の予備の部品なんかが積まれている。
その中でも布類が置いてある箇所に近づくと、布団をその上に乗せた。
そうして周りにある可愛い服や荷物を流し目で見ながら振り返り、
部屋を後にすると、後ろ手にドアノブを掴み扉を閉める音と共に一歩踏み出した。