私、これでも空母なんですっ!   作:テディア

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幸せな時間

みんなで囲むテーブルの上にはお菓子と飲み物。

私達が両手に握るのはゲーム機。

そして全員で食い入るように見つめるのは_。

 

「やばいやばい死んじゃう!」

「如月ちゃん、はい粉塵!」

「貫通弾の調合終わるまで時間稼ぎ頼んだよ!」

「やってみる!………あっ、ダメだった…ごめんね。」

「文月が乙った…この猿絶対許さない…!捕獲など許さぬ、討伐じゃぁあ!!」

「ちょっと神鷹!あなたガンナーでしょ!?もう少し距離取りなさいよ!」

「こんなもの当たらないし?回避があれば大体避けられるし!?」

「それ以前に時間がないよ!このままじゃ時間切れにゃし!」

 

_私が布教した(多分)国民的な某ハンティングゲームであった。

 ファンタジーしてる方ではないので悪しからず。

 

みんなで言葉を交わして楽しげに。

指を走らせて、頭を回して、目的にひた走る。

一緒に一喜一憂しながら遊ぶ。 ただそれだけ。

 

勝てるのか、それとも_負けるのか。

そんな初めての戦いが近いというのにこうして楽観的に遊んでいる_

そう言ってしまえば疑問とも罪悪感とも取れそうな気分になる。

恐らくみんなそれを忘れるかのように束の間の平穏を味わっているのだろう。

誰しも迫りくる恐怖からは目を背けたくなるはずだ。

きっと如月たちも、大鷹も。

 

そう。

今私が居る場所はこのゲームほど簡単では_

 

「…やっちゃった」

 

誰が放った声か。

目の焦点は画面を見据えているにも関わらず、意識だけが逸れていた私は

その画面に現れた文字と漏れた声で我に返った。

 

いつの間に負けていたのか、気が付けば既に終わっていたらしい。

ふっと気が抜けたところでべたりと乾いた喉に冷えたお茶を流し込む。

コップの周りで光る水滴が手を濡らし、その手を拭こうとコップを置くと

溶けかかって小さくなった氷がカラリと音を立てた。

 

「さて、どうしようか…」

 

作戦が始まる日までには時間がある。

だからまだ大丈夫。大丈夫だから。

ここでまだゆったりと。

…指を動かしながらそんなことを祈る。

 

「ねぇねぇ、これなんてどうかしら?」

 

如月から別のゲームを誘われる。

興味と好奇心の引かれるままに再びコントローラーに手を伸ばし、

そのまま画面に目線を戻した時…ふと、隣で揺れる如月の髪に目が行った。

 

長く艶やかで綺麗な髪。

そろりと如月の肩に頭を乗せてみた。

柔らかく沈み込む感覚が頬を覆い、シャンプーの爽やかな香りに包まれる。

 

その心地よさに、突然視界がとろりと歪む。

背中に当たる夕暮れの日が、とても温かくて。

微睡へと深く、より深く落ちていく。

 

「おりょ?…寝ちゃった?」

「…もう、仕方ないわね。」

 

聞こえる2人の声。

頭を撫でられて、ぷつりと意識が切れた。

閉じた瞼の裏で、少しだけ申し訳ない気持ちが燻りながら。

 

幸せの波に溶けていった。

 




遅れながら…どうぞ

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