サーヴァント達の家族になりたいだけの人生だった。   作:Fabulous

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ほんわかじゃなくてすまない


エリザベート・カーミラ 夫

女は壁一面至る所に拷問器具が並べられた暗い部屋に佇んでいた。

女の足元は赤い液体で満たされヒールを染め上げていた。

女の口元は狂ったように吊り上がり頬は蒸気し興奮の息をぎらつく歯から漏らしていた

女の目の前には椅子に拘束された少女が虚ろな目で天井を見上げていた。

少女の目は既に光を失い生前必死に抵抗したのか腕と足の拘束具周辺は擦り切れ肉が抉れていた。

少女の体は全身に裂創・切創・刺創・挫傷・咬傷・熱傷などが見受けられ明らかに凄惨な拷問をされたのが見受けられた。

 

薄暗い部屋のか細い明かりがゆっくりと落ちた。

 

 

 

 

 

 あるところに一人の裕福な貴族の少女がいました。少女はたいへん元気な子でいつも周りを困らせていましたが少女の家族はそんな娘を叱らずのびのびと育てました。

 

「きゃっ!」

「あっ私のお皿が……」

 

いつものように朝食を食べるためにテーブルに座った少女でしたがこの日は使用人の女性の小さな失敗で少女のお気に入りの皿が割れてしまいました。

 

「どうしてくれるのよっ! 私のお皿割れちゃったじゃないーー!」

「も、申し訳ありませんっ……すぐに片付けますっ」

「早くしなさいよーー!」

「ありがとうございますっバートリー様ッ!」

 

少女はとても感情が豊かな子でした。少女はひざまずいてひたすら謝る召使いの背をゲシゲシ足蹴にします。ですが召使いは少女にお礼を言います。なぜでしょうか?

 

「まぁ可愛い私のエリザベート怪我はない? こんな無礼者はすぐに豚の餌にでもしますからね」

「ひいぃぃ! お許しくださいお許しくださいお許しくださいィっ」

 

少女、エリザベートの母親は娘をとてもとても愛していました。ですので娘に相応しくない召使いには特に厳しく指導していたので娘であるエリザベートも母親をマネて厳しく指導していたのです。

 

「お母様! それじゃあこの召使いは死ぬまでマヌケってことじゃないっ。この私の召使いがそんなんじゃ示しがつかないからしっかり私が躾をするわ!」

「まぁなんて私の娘は偉いのかしら。こんな朝食のパン以下のノロマを見捨てないだなんてまるで聖職者のような高潔な魂ね。私も先月五人処分してしまったから今月はお仕置きだけにしないとね♪」

「と言うことだから貴女は後で私の部屋に来なさいよ! たっぷり躾てあげるんだから!」

 

「はいィ! こんなウスノロに情をかけていただいてエリザベート様には感謝してもしきれません~ッ」

 

そうなのです。エリザベートの両親はとても召使いに厳しかったのです。もちろん小さなミスでも召使いが全て悪いですがエリザベートの家族は世間でも特に厳しいと恐れられていました。

 

「まったく! もうお皿を割っちゃダメなんだからねッ」

「申しわげッありッま……ぜん! 二度どッいいィだぢまぜんんッッ」

 

ですがエリザベートはそんな家族のなかでもとても優しい心を持ち、躾の際も家族がよく使う刃物や焼きごて等は使わず自分の手足を使い大変愛のある躾をしました。そんな優しいエリザベートに召使いは感謝の涙を流しながらお礼を言いました。

 

 

 

 

 

 

「あんた……じゃなくて、貴方が私の旦那様ね! 私はエリザベート。貴方の奥さんになる女よ! こんな最高の美人をお嫁さんにもらうなんて貴方は世界一幸せ者よ、よろしくね♪」

 

 エリザベートの美しさは国中の噂となりやがて強く聡明な貴族の男性と結婚し大きな大きなお城に多くの召使いが侍り二人仲良く暮らしました。エリザベートの夫は沢山の戦いで活躍し国の英雄と讃えられながらとても優しい性格で自然や領民を愛しそれ以上に妻であるエリザベートを大切に愛しました。そんな夫をエリザベートも気に入り二人はお揃いの夫婦として仲良く暮らしました。

しかしそんな仲睦まじい夫婦にもケンカをすることがありました。それはお城に移り住んだある日のことです。

 

 

 

 

「どうして朝食にフルーツが無いのよ! どういうことなの料理長!?」

「もも申し訳ありませんっ。産地の天候不良でどうしてもフルーツがご用意できませんでした!」

 

エリザベートは朝の朝食にフルーツを食べるのが最近のブームでした。理由は貴族の奥さま情報でフルーツを食べると綺麗になるとの噂を聞き夫の為にも早速自分もやってみようと思ったからです。

 

「そんなの知らないわよ! 用意するのがあんたの仕事でしょ!?」

「明後日までにはッ、明後日までには別のフルーツをご用意致しますのでどうか──」

「うるさいうるさいー! お仕置きよっ」

「ヒィッ」

 

あぁ、なんて情けない料理長でしょうか。自分のミスを棚に上げて天の、神のせいにするなど考えられません。エリザベートがフォークを手に取るのも無理はないでしょう。

 

「このーー! て、止めないでよ貴方。え? 許してやれ? なんで??」

 

エリザベートが愚かな料理長にお仕置きをしようとフォークを振りかぶった瞬間、夫の制止の声がかかりました。エリザベートの動きが止まりすかさず夫が周りの召使いたちに退室を命じると蜘蛛の子を散らすように料理長やメイドたちが部屋を出ていきました。

 

「なんで止めるのよ!? ちゃんと躾ないとあいつらバカだから分からないのよ!」 エリザベートは顔を真っ赤にしながら言いました。

 

「え? 僕らが少しだけ我慢すればいい? 嫌よ!! 私は今っ、今日っ、この朝食でフルーツを食べたいのよッ。だいたい貴方は召使いに甘過ぎるのよ! お母様ならとっくに殺してるわよッ。…………ほぇ? そ、そんダメよ今夜もなんて……昨日の夜だって……えへへ。ま、まぁ貴方がどうしてもって言うならさせてあげないこともないわよっ。さっそく準備しないと♥️」

 

エリザベートの鼓膜をつんざくような怒声に若干眉をひそめながらも夫はエリザベートをなだめました。エリザベートの耳元に近づき二言三言話すととたんにエリザベートは恥ずかしげに顔を赤らめ体をもじもじさせ先程までの怒りは何処かへ消えてしまいました。

 

そんな様子を扉の隙間から覗いていた召使いたちはホッと胸を撫で下ろしました。二人の夫婦はとてもお似合いのカップルでしたがこと、召使いの待遇に関してはいつももめていました。大概は今回のように丸く収まりますがその度に召使いたちは生きた心地がしませんでした。

 

夫はそんなエリザベートの性格を度々注意しましたがエリザベートは夫の忠告などどこ吹く風のよう気にも止めませんでした。夫も夫妻ならば大丈夫だと信じてもいましたのでそこまで強く怒ることができませんでした。

 

 ですがそんな日常の中で、ある運命的な出来事が起こりました。とても運命的な──

 

 

 

「この馬鹿ァッ、マヌケッーー!」

 

今日も召使いにお仕置きをするエリザベートは最近、うるさい夫が外出中の合間を狙って事におよんでいました。今日のお仕置きされる召使いはエリザベート付のメイドです。彼女は今朝から風邪気味であった為にエリザベートの着替え中にくしゃみをしてしまい、夜に帰ってくる夫の為に万全の準備をしようと朝から決心していたエリザベートはそれに酷く怒ってしまいました。

 

「あんたのせいで風邪ひいちゃったらどうしてくれるのよっ! ()にも会えなくなっちゃうじゃないー!」

「お許しください! 仕事を休めば給金がっ、家に幼い妹と弟がいるんですっ」

「うっさいッ! あんたなんかの家族より私たちの夫婦仲の方がよっぽど大事なのよ! お仕置きよッ」

 

怒りの収まらないエリザベートは近くに偶然あった花瓶の取っ手を持ち勢いよくメイドのこめかみに叩き付けるとメイドは小さな悲鳴をあげ床に倒れました。花瓶が割れ床にサッと赤い液体が飛び散りメイドはしばらく声にならない呻き声をあげながら頭を抑えその場から立ち上がりませんでした。それを見たエリザベートは自分の手に持つ取っ手だけになってしまった花瓶と頭から血を流し倒れたメイドを交互に見ながら急に自分が何か恐ろしいことをしてしまったのでは、と考えて狼狽えました。

 

「ね、ねぇ……大丈夫? 凄く痛そうだけど……その……は、早く起きなさいよっ」

 

「──ぁッ、ぐギ……」

 

しかしメイドは絶対であるエリザベートの命令にも反応こそすれ、とても従う気配はありませんでした。これを見てエリザベートはもし夫がこの事を知ればきっと自分を叱ると思い恐怖しました。

 

「きょ、今日のお仕置きはおしまい! これで許してあげるわッ。誰かっ、この娘を連れていきなさい!」

「ぁ……ぁぐ……は、い。ありが、とうござい……ます」

 

ようやく反応ができたメイドはエリザベートの命を聞いた他のメイドたちの手を借りながらなんとか立ち上がると振り絞るように礼を言い部屋を出て行きました。その場には決して少なくない量の血の痕がカーペットや壁に飛び散っておりエリザベートは直ぐ様に掃除をするように召使いに命じ自室へ籠ってしまいました。

 

「……ッ」

 

エリザベートは後悔していました。大好きな夫の為に完璧な出迎えを邪魔されたとはいえあそこまで痛めつけるつもりはなかった、と流石に少し反省もしていました。

 

 

と、ここで終わればおてんばな奥さまの物語で済みましたがこのお話はこれでは終わりません。

 

自室のベットに布団を頭から被って籠っていたエリザベートの心の中には反省や後悔の感情とはまったく別の物が生まれていました。エリザベートはメイドを殴りつけた右手に目を落とし先程の感触を確かめました。人の肉を抉り血を流させた感触をエリザベートは心底恐ろしい物だと思いましたが、同時に彼女の心の中に今まで感じたことのない快感とも言える刺激が確かに生まれたのです。

 

(あれ? ……私って………)

 

エリザベートはその情景を反芻しました。

花瓶を掴み振りかぶった際にこれから何をされるか分かり恐怖したメイドの表情。

こめかみに当て一瞬で歪む可愛い顔。

激痛を感じるも主人である自分の前で必死に耐える様。

怒りなど微塵もなくただただ恐怖と苦痛に支配された瞳。

 

(血とか……悲鳴をあげてる人間のこと…………)

 

 

そんな姿を見て女として、人として、興奮を隠せない自分の精神と肉体に戸惑いながらもエリザベートは全身が痺れるような幸福を覚えたのです。

 

 

 

 

(めっちゃ好き♥️)

 

 

 

 

 

その夜、エリザベートは閨で夫の首筋に噛みつきました。

 

「んっ……ふぅ……あむ、んっ♥️ん♥️」

 

愛する夫の皮膚に唇を落として舌を這わせ気分を高め口を開きゆっくりと歯を夫の首の肉に食い込ませる。最初は本当に恐る恐る軽く前歯を当てる程度、次に徐々に歯を入れていき犬歯までいったら今度は少し力を入れて噛みつく。

 

「んむっ……くぁ、くぅぅ♥️ はあ♥️」

 

そして自分の与えた苦痛によって顔を歪ませ背筋を震わす夫を目で指で腕で胸で舌で余すところなく感じました。

突然のエリザベートの行為に驚いた夫でしたがまたいつもの気まぐれだと思いそれほど気にはしませんでしたが、対するエリザベートは生まれて初めての行為に今までで最大の興奮を感じていました。

 

 

「~~~~~~っっ♥️♥️♥️」

 

自分だけの背徳欲求を愛を確かめ会う最中に愛する夫を擬似的に苦しめることで満たすという変態的な行いにエリザベートはかつてないほどの絶頂に達してしまったのです。

それからというものエリザベートは必ずと言っていいほど閨で夫の体に何かしらの傷をつけました。ある時は歯で、ある時は爪で、またある時は道具を使って夫の体に傷をつけ流れ出る液体を舌を這わせ舐めまわしました。

 

「好きっ好きっ、私っ貴方のこと大好き♥️」

 

 そんな生活が数年続く間に、エリザベートは少女から大人の女性へと成長しました。可愛らしい瞳は知性と色香を備え、笑うとキラッと八重歯が見えた口元は蠱惑的な微笑を浮かべ、まだ幼かった肢体は女性的な丸みを帯び、少女の体は男の視線を釘付けにする美しくも妖しい魅力を持つレディへと変貌しました。

 

「貴方、御武運を祈っているわ。領地のことは私に任せなさい。あらなに、私が愛人でも連れ込んだら心配かしら? 生憎そこまで飢えてないし寂しくもないわ。そんなに心配なら早く帰ってくることね」

 

その頃になると夫は戦争で度々城を留守にしてエリザベートは一人で留守番をすることが増えました。

 

(ああっ、行かないで! もし貴方に何かあったら──イヤっ私を独りにしないで!)

 

夫の前で気丈に振る舞う彼女でしたが心の中ではとても寂しがりました。そんな心の隙間を埋めるためにエリザベートは夫のいない間は召使いや領民にお仕置きをして気を紛らわせました。

数年の間にエリザベートの召使いや領民に対するお仕置きは今までとは比べ物にならないほど酷しいお仕置きになり、それまでは酷くても物を投げたり叩いたり程度のお仕置きがムチを振るい肉を抉り、刃を突き立て皮膚を剥ぎ、棍棒で骨が折れるまで殴打し何人もの召使いや領民が神様の下へ旅立ちました。誰もエリザベートに逆らいはしませんでした。何故なら貴族であるエリザベートに何をされても召使いや領民は反抗する権利を持っていませんし彼女の為になることをするのは召使いや領民にとっても幸せなことだからです。

 

「料理長、今朝のフルーツはとても美味しかったわよ。いつも良い仕事をするわね」

「ありがとうございます。奥方さまの為になったのでしたら感激の極みです」

「でも紅茶が温かったわよ」

「そ、それは……申し訳ありません! 明日からは──」

「制裁」

「うっウワァッ! や、止めろっ離せ! お前たちも同僚だろ!? 奥方さまッお許しくださいッお許しくださいーーー!」

「まったく使えない男。あいつの処理は貴女に任せるわ、副料理長」

「……しょ、処理……とは?」

「…………レア?」

「……は?」

「だからレアにしたら。それとも貴女はウェルダンの方が好き?」

「そ、それはつまり……火あぶ──」

「早くしなさい。ランチが遅れたら貴方も付け合わせになってもらうわよ」

「は、はい!」

 

エリザベートの言葉に震えながら召使いたちは返事をするとその姿を興味の無いように見つめた彼女はすぐに部屋に籠りました。

 

最初は嬉々として夫や召使いを傷つけていたエリザベートも段々と鬱屈した気分になっていたのです。自分の所業に後悔したのでしょうか? いいえ、違います。

 

(もっと……もっと……傷つけたい…………!)

 

いつしかエリザベートの行っているお仕置きは趣味に変わってしまいそこに罰ではなく快楽を求めていくようになってしまったのです。

 

(どうしてこの程度で死んじゃうの? お願いだから目を覚ましてよ。もう一度起き上がってよ!)

 

ですがエスカレートするお仕置きに貧弱な召使いや領民は耐えられずバタバタと神様の国へと行ってしまいました。

そして最もエリザベートを悩ませていたのが大好きな夫のことでした。エリザベートは流石に夫に出来ない行為は密かに召使いや領民たちに行っていました。しかしいつしか最愛の夫に自分の本当の欲望を打ち明けられないことがフラストレーションとしてエリザベートの中に貯まっていたのです。

 

(あの人の肉を切り裂きたい……口いっぱいにほおばって咬み砕きたい……あったかいあったかぁい内蔵を引きずり出してグチャグチャに踏み潰したい……)

 

ですがそんなことをすればいくらなんでも身の破滅だとエリザベートも分かっていたので実行には移せませんでしたが夫が城を空ける度にその思いは増し帰ってくると更に思いは急上昇していったのです。

 

 

 

 

(もう無理よ! こうなったら夫に全て打ち明けるわ)

 

 

 

 そんなエリザベートの我慢がとうとうはち切れたある日、彼女は妥協案を選びました。その妥協案とは夫に自分の趣味や今まで行ってきたこと全てを話し、夫を仲間に引き込むものでした。エリザベートにとって愛する夫をお仕置き出来ないことはこれ以上ないほどの苦痛でしたが夫に秘密を抱えることもまた、彼女にとっては同じくらい胸を締め付けていたのです。

彼女には自信もありました。夫との仲はその辺の俗物夫婦と違って強い愛で結ばれていると。自分の秘密を打ち明けたとしてもきっと優しく抱き締めて受け入れてくれると本気で信じていました。エリザベートの心中は既に夫と仲良く召使いや領民をお仕置きすることを想像し小躍りしていました。

 

ですが、それはあまりにも自分本意で楽観的な思惑でした。エリザベートが幼いときから異常な状況下で果てしなく残酷に甘やかされたとはいえそれは大きな間違いだったと言わざるをえません。悲劇の引き金はこの時、他でもないエリザベート自身が引くことになったのです。

 

「……え? どうして叩くの……? なん……で」

 

エリザベートは人生初めて感じる頬の痛みに戸惑っていました。愛する夫による初の暴力。目の前の夫は今まで見たこともないほどに怒りに燃えておりエリザベートは怖じ気づいてしまいました。

 

「ま、待って! どうして行っちゃうの!?」

 

さよなら、と一言だけ呟きエリザベートに背を向ける夫の姿に彼女は言い知れない不安と吐き気を感じ夫にすがりつきました。

 

「行かないでッ! 私を見捨てないで!」

 

一瞥だけ、夫は涙を浮かべたとても悲しい目でエリザベートを見ましたがその手を振り切り城を去ろうとしました。エリザベートは直感的にこのままでは大変な事になってしまうと思い絶叫し半ば半狂乱になりながら夫に詰め寄りました。

 

 

その後の事をエリザベートは忘れたくても忘れられませんでした。

 

 

 

 

 

その夜、とても恐ろしい出来事がエリザベートの身に起こりました。エリザベートが長く戦争で会えなかった夫と自城で再会を喜びあっていた時、城に突然巨大なコウモリが現れたのです。コウモリは一瞬でエリザベートの夫の首に喰らいつき夫は悲鳴をあげました。夫の叫び声を聞いた召使いたちもコウモリを追い払おうとしましたが逆に次々とコウモリに襲われてしまいました。

あまりの恐怖に自分の名前を呼び続け助けを求める夫をエリザベートはただ見つめることしかできませんでした。

すべてが終わると辺りには血を吹き出し息絶えている夫と召使いの亡骸、その返り血を全身に浴びたエリザベートただ一人が呆然と立ち尽くしていたのです。

 

 

 

 その後、エリザベートは夫や領民を殺した無実の罪で捕まってしまい自分の城であるチェイテ城の寝室に閉じ込められてしまいました。窓や扉は厳重に閉じられ隙間は漆喰で塗り固められ一筋の光すら入り込まない無明の暗黒です。

 

 

 

「暗い……暗い……出して……ここから出してッ! 誰かッ! 貴方ッ何処へ行ってしまったの? 私を助けて!」

 

エリザベートは訳が分かりませんでした。いきなり最愛の夫を失いおまけにこれまでの身分も権力も奪われただ死ぬことを待つだけの身となってしまった事に絶望していました。

 

一日に一度食事を差し入れる僅かな隙間が開くと監視役の人間がエリザベートが死んでいるか確かめます。監視役の人間はいつまでも泣き叫ぶエリザベートに業を煮やし怒鳴りました。

 

「いい加減にしなさいッ!誰も助けには来ません。貴女は死ぬまでそこで後悔し続けるのです。それが領民や夫を殺した貴方の罪なのです」

 

エリザベートは監視役が何を言っているのか理解できませんでしたが夫を殺したと言う言葉にこれまでの心の奥底に沈んでいた記憶が呼び起こされてしまいました。

 

 

「夫……殺した? 誰が? 私が? だってあれはコウモリが、コウモリが………………あ……あァあぁあ"あ"ァぁ!」

 

残酷なあの夜の出来事を遂に思い出してしまったエリザベートはとうとう精神が爆発してしまいました。

 

「ああああああいない! あの人はもういないっ! 殺してしまった! 私が殺してしまったッ! アあああぁァァァアアァッ!!!」

 

コウモリはエリザベートでした。全ては彼女が作り出した幻だったのです。

 

「私……取り返しのつかないことを……なんでっどうしてっ……」

 

 

エリザベートのその場に崩れ落ち目からは止めどなく涙が溢れ落ちました。彼女はその人生において初めて心の底から後悔をしていました。心からあの夜、夫を殺してしまったことを悔やみ嗚咽を漏らしました。

 

「どうして拷問しなかったのよ私ィ!!! これじゃ殺し損じゃない! ああっ神様お願いです! あの人の苦しむ顔をッ声をッもう一度聞かせてくださいッッッ。次は上手く拷問しますからーーーー!」

 

監視役の人間は途中まで哀れな貴族令嬢の後悔の念を黙して聞いていましたがエリザベートがまったく検討違いの後悔をしていると分かるとぎょっと背筋が凍りました。どうか早く彼女が死ぬようにと監視役の人間は神様に祈りました。

 

 

それからだいぶ時が流れた後に、エリザベートは暗い部屋の中で最後まで泣き叫びながら死にました。その死体は美しかった彼女からは信じられないほど変わり果て、息子たちも母の亡骸だとは信じませんでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エリザベートは一糸纏わぬ姿で浴槽に入っていた。

 

 

浴槽には湯ではなく赤い赤いどす黒く赤い液体が満ち満ちておりコポコポと底から泡が湧いている。

 

「ふふふふふふ、素敵な湯加減。やっぱり生きたままの搾りたてが貴女の体温を感じていいわぁ。貴女の命が素肌に染み込んでくる、貴女が私の一部になる、貴女が私になるぅ……」

 

 

エリザベートの浴槽から所々黒く変色した青白い少女の死体が浮かび上がる。

 

エリザベートは口を大きく開き舌をぬるりと出し少女の落ち窪んだ眼球を舐めずりそのまま舌を更に少女の眼球の奥の奥まで突き入れおぞましい水音が少女の頭蓋に響く。

 

「ん……ぅ……ふぅ……あっ視神経……んむぅ……」

 

エリザベートは恍惚とした表情で少女の眼球を舌で弄び口元からは少女の体液と彼女の唾液が、彼女の豊満な胸元にだらしなく垂れ下がっていた。

 

 

次第に当初はつい見惚れてしまいそうな色香を放っていたエリザベートの表情は次狂気を帯びていく。

 

「んふっ……んふっ……んふぅぅ……フひゅっ、クひュヒひヒヒヒ」

 

血走った目を見開き尖った歯で少女の顔に噛みつき猛獣のような爪は頭部をガリガリと掻きむしり浴槽に毛髪と肉片をおとす。

 

「おいしい……おいしいッおいしいッおいしいッおいしいッおいしいッおいしいッ。スキよ、愛してるわ。だからいっぱい頂戴、私にちょうだァい」

 

エリザベートは少女の頭を噛み砕き飛び出た脳にかぶりつきながら両手で少女の胴体を引き裂き自らの死人のように青白い肌へその血肉を浴びせた。エリザベートの瞳は焦点を失い美しかった顔は何かとても恐ろしい怪物の様だった。

 

 

 

 

 

エリザベートは彼女のお陰でようやく気づくことができました。

 

「私の名前は藤丸立香、よろしくね♪ 貴女の名前は?」

 

幸せになる方法なんてとっても簡単な方法だったのです。

 

「旦那さんを生き返らすのが貴女の望みなの? そうだよね、大好きな人ともう一度会いたいよね」

 

それは誰でもできる方法。幸せになるなんて簡単。どんなに辛くても、苦しくても、

 

「ありがとう、部屋に招待してくれるなんて初めてだね♪ ドキドキしちゃう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人間をやめてしまえばいいのですからね。

 

 

 

 

 

「キャアアアッ!」

 

 藤丸立香はベッドから恐怖の声をあげながら跳ね起きた。部屋は照明が落ち暗く、立香は起きたばかりでなにも目には入らなかった。

だがその時、暗い闇の中から二つの金色に光る双眼が浮かび上がり立香に話しかけた。

 

「あらマスター、お目覚め?」

 

金色の双眼の正体、カーミラは立香を心配したようすで現れた。

 

「え……あ、いや……カーミラだよね? でもさっきお城で……お風呂で……あれ、夢だよね?」

 

立香はいましがた体験した語るも恐ろしいカーミラの物語のせいで上手く彼女の目を合わせることが出来なかった。

 

「何か悪い夢でも見ていたのかしら? 私の部屋で眠ったと思ったら随分うなされていたわよ。寝汗もびっしょり……早くバスルームに行った方がいいわ、風邪をひいてしまったら大変よ」

 

そんな戸惑う自分に普通に心配の声をかけるカーミラに立香は恥ずかしくなり素直に礼を言いバスルームへと向かった。

しかしベットから降りカーミラに背を向けた瞬間、耳元を這いずるような声が囁いた。

 

 

 

 

……いつか一緒に入りましょうね♡

 

 

 

 

驚き振り返るとそこには変わらず黄金色の双眼が立香を見つめているだけだった。その表情は闇に溶け決して見えはしなかった。

 

 

 

「貴方、私は元気でやってるわ。寂しくさせてごめんなさい。でも大丈夫よ。すぐに迎えに行くわ。その時は、たぁっぷり歓迎するから……ね」

 

 

 

 

これは一人の少女の物語。でも半分くらいは本当のこと。

 

私たちは、そんな世界で生きている。




ホラーにも手を出してみました。
エリザベートにビンタされたい。
カーミラ様に踏んづけて欲しい。

でも拷問だけは勘弁な!

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