サーヴァント達の家族になりたいだけの人生だった。   作:Fabulous

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エレナの子供になりたい。


エレナ 夫

「私は貴方に興味ないから。だから遠慮無く愛人でも何でも好きにしてね」

 

 私にとって結婚は人生の墓場だった。

 もともと私は結婚に対して世の女性程夢も見ず、興味もなかった。そんな私が結婚をしたのだから人生とは儘ならないものだと私自身戸惑っていた。

 

「貴方も物好きね。私なんかと結婚をするなんて」

 

 私の夫は倍以上年の離れた男性だった。

 

 政略結婚。誰が見てもその事実は明らかで私も痛いほどその事実を理解している。

 だからこそ私は早々に結婚生活に見切りをつけ仮面夫婦を貫こうと夫に提案した。それがお互いの為でもあると思っていた。

 

「何でいつも家に居るのよ。私は研究があるのよ? 貴方と過ごすつもりなんてないの」

 

 

 だけど夫は家の中でも私に構い続けた。どうせ使用人から私の実家や世間に話が伝わるのを恐れての事だろう。ご苦労な事だ。そんな事しなくてどうせ離婚など出来ない関係なのに……。

 

 

「食事なんて持ってこなくて良いわよ。飲み物もいらないわ。それくらい自分でするわよ」

 

 最近夫はどうしたわけか使用人に作らせずに自分で料理をするようになった。しかもそれで作った料理を私に食べさせようとして来た。理由を聞いても私に食べさせたいからなんて見え透いた嘘を吐くから信用できない。

 愛人と結婚するために毒を入れて私を殺そうとしてるんじゃないのかと思って手を着けなかった。

 

 

 

「貴方、メイドのあの娘なんてどうかしら? 若いしスタイルも良いし貴方のことも悪く思ってないと思うわよ。なんなら私から引き合わせてもよくってよ!」

 

 そんな夫を私も少なからず不憫に思い愛人の提案をした。子供が出来るのは少し不味いが今時どこの名家も隠し子の一人や二人いるのは普通だ。もしもの時は跡取りにもなるし一人までなら問題はないだろう。

 

 私はとってもいい仮面妻ね。

 

 

 

「お、怒らないでよ……私で良い? だから二人しか居ないならそんな表向きのこと言わなくて良いわよ。」

 

 だけどそんな私のナイスな提案を夫は一蹴し逆に叱られてしまった。

 全く……私に愛人を紹介されるのがよっぽど気に食わないみたい。勝手な人ね!

 

 

「なに驚いた顔してるのよ。そろそろ子供作ろうって貴方が言い出したのよ? ほらっ、私は準備OKだから貴方も早く服脱いでさっさと済ませましょう。私の計算だと3ヶ月間の期間でこの日からこの日までの間隔を頑張れば確実よ」

 

 

 業を煮やした私は夫の態度が未だに性交渉、と言うか子作りをしていないことだと考えそれなら完璧な妊娠プランを作成実行した。

 だが夫は何故か悲しそうな顔をして部屋を出ていきこの日は二度と寝室に戻らなかった。

 

 

 私は不満だった。と言うより激怒した。

 

(この日のために自分の周期を確認してマハトマにもちょっぴり手伝って貰ったのにそんなに私は女の魅力が無いの!?)

 

 自分の体型が女らしくないことは重々分かってはいるがそんな女と結婚したのは誰だと言いたくなる。

 

「あら貴方どうしたの……え? 誰と手紙をやり取りしてるのかって? 今書いてるのはエジソン宛だけど……彼とどういう関係? そんなの貴方に教える義理はないでしょ! わたしのプライベートを侵さないで!」

 

 夫は私が自由に世界に飛び出ることを阻止しようとしている。その証拠に最近は私の交遊関係を調査している。確かに自分の妻がふらふらしていたら体裁は悪いでしょうけどそこまで人生をあの人に制限されるつもりは無いわ!

 

(ここにいてはダメ!いつか……そう遠くない時期に決断しないと!)

 

 

「いい加減にしなさいよ! これ以上私の邪魔をしないでよ! 私にいつもいつもかまけてないで他に女を作れって言ってるのよ! 私は貴方が望む妻には成れないわ!」

 

数年の結婚生活のあと、私は夫の度重なる嫌がらせにとうとう我慢の限界が訪れ家を飛び出した。私には何の後悔もなかった。むしろこれからは何の遠慮も邪魔も入らずマハトマのために生きれる。

 

 

 

 

 

 

だからこの頬を伝う水は祝福の雨なのよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「夫人……いい加減一度家に帰ったらどうだ?」

「エジソン……貴方までそんなこと言うの?」

 

現在私はエジソンと交遊を持ちアメリカでマハトマについて探求と普及活動をしていた。

エジソンはかなり個性的だけど私の意見を尊重し貴重な意見や助言をくれ、夫に比べれば素晴らしい人だった。

 

「しかし……君の夫は今もロシアにいるのだろ?それにもう若くもないらしいではないか。一回くらい顔を出すくらいよいのでは?」

「私がなんのためにロシアを飛び出したと思ってるのよ。マハトマが私を呼んでるのよ!それにどうせあの人だって今頃若い愛人と楽しく過ごしてるに違いないわ。」

 

ただ一つ難点なのはエジソンに夫婦生活の愚痴を言って以来度々私と夫の関係修復を進めてくる事だ。

これに関しては愚痴を言ったほとんどの人が何故か同じように口を挟むようになる。全く皆お節介が過ぎる。一度夫に会ったらどんなにひどい人か嫌でも分かるのに。

 

「しかし……それで良いのかね?夫人は?」

「大助かりよ!家にいてもやれ話し合おうやれ気晴らしに旅行に行こうだなんだ煩かったからね!」

「ムム……夫人、それはますます帰った方がいいのでは?」

「しつこいわね!フン!さよなら!」

 

またやってしまった……つい怒りで失礼なことをエジソンに言っちゃった。後で謝ろう。

 

 

 

 

 

 

 

「どうして?……どうして誰もマハトマを信じてくれないの?私はただ、皆にマハトマの事を知って貰いたかったのに……どうして皆私を嘘つきって言うの?誰か……誰でもいいから助けてよ……」

 

私は今ドン底に居た。生涯をかけて探究してきたマハトマを散々にこき下ろされ私自身も詐欺師、ペテン師呼ばわりされ大勢の人達から糾弾されている。世界中で自分が独りでポツンと佇みその他の人が全員敵で囲まれている感覚だった。

 

 

 

「夫人!やっと見つけた!」

「エジソン……?エジソン……うわぁあああん!!」

 

私は恥をかなぐり捨ててエジソンに泣きついた。だけどエジソンは私に信じられないことを告げた。

 

「君が失踪中だからロシアから私宛に連絡が来たんだぞ!大変だ、君の夫が……」

「え?」

 

この日の事を私は絶対に忘れない。忘れられるわけがなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は誰もいなくなった教会の祭壇の上で夫の棺を前に立ちすくんでいた。

棺の中の夫は私の想像よりずっと老け込んでいた。背も大分小さくなり亡くなる数年前から杖をついていたらしい。

 

久々に帰宅した夫と過ごした家。驚くことに私の部屋は私が家出した時とそのままの状態だった。掃除もしっかりと行き届き、まるでホテルのようだった。

 

私は夫の部屋に初めて入った。夫婦の寝室は初めから別々だったから私は夫の部屋を見たことがなかった。

 

 

日記だ。

私は恐る恐るそのページを捲った。

 

『今日はいよいよ結婚の日だ。自分のような老いた男を選んでくれたのだからロシア一幸せな花嫁にしてあげなくてはならない。』

 

『妻は結婚当初から私の事を余りよく思ってはいないようだ。それもその筈だ。彼女はまだ17才……いよいよこれから女盛りを迎える可憐な少女だ。好き好んで私が選ばれた訳など無いではないか。年甲斐もなく自分は何を舞い上がっていたのだ。愚か者め!』

 

『しかし結婚してしまっては仕方がない。早々に離婚ともなれば世間は間違いなく私ではなく妻を責めるだろう。それでは再婚も難しくなってしまう。ならば自分が彼女の結婚生活を幸せにすることが出来る唯一の男だ。私は決めた。エレナ……君を不幸にはさせない。』

 

『今日はとりあえず会話を増やしてみた。結果は失敗。元々世代が違うため話が合わないばかりか彼女の言うマハトマと言う概念は私にはよく理解できず反って機嫌を損ねてしまった。』

 

『今日は妻の胃袋をつかもうと前々から練習したボルシチを作ってみた。なかなかの出来映えできっと食べてくれるだろうと思ったが手を着けてもくれなかった。流石に少し怒りも沸いたが男が作った料理を不安がるのも無理はないと自分で納得し、己の胃袋に掻き込んだ。』

 

『今日は結婚生活で初めての夫婦喧嘩をした。あろうことか妻が私に愛人を進めてきたのだ。私はついカッとなって強い言葉で拒否をした為妻が怯えてしまった。私は悪くないと思うがやはり男が女に怒るなどみっともない事だ。後で謝罪しよう。私が愛しているのは君だけだと。』

 

『今日の決断を私は間違ってはいないと信じている。あの場で流され彼女を抱いては取り返しのつかないことになってしまう。そのような恐怖を私は抱いた為、裸の彼女を部屋に置き去りにしたことを私は悔いていない。……だが一瞬邪心を持った事をこの日記で告白する。彼女の肌はシルクのように白く、宝石のように目を奪われた。その肢体を我が胸の中に納めることが出来たならばまさに楽園だろう。だが、それと代償に彼女の愛は永遠に手に入らない。それだけは御免だ。』

 

『妻は最近頻繁に多くの人物と手紙をやり取りしている。交遊が広がるのは良いことだが男性の宛先を見ると男として嫉妬してしまうのも事実だった。つい先日もその事で妻を怒らせてしまった。全く……まるで10代に戻った気分だ。私も妻と多くを語りたいだけなのに。』

 

『とうとう妻が家を出ていってしまった。些細ないざこざからエスカレートし妻が激怒。そのまま荷物を掴んで私の前から消えてしまった。頬の痛みを残して。』

 

『彼女の居なくなってしまった私の生活はまるで太陽が無くなった世界のように暗黒に満ちていた。周囲は離婚や愛人を進めたが私には妻しか考えられなかった。同情から始まった結婚生活だったがいつの間にか私は本気で妻を愛していたのだ。時折伝え聞く妻の噂が何よりの生き甲斐だ。』

 

『最近具合が良くない。医者が言うには長くは無いらしい。死ぬことに未練は無かった。妻と出逢うまでは。彼女に逢いたい。遠くからでもいい。私に気づかなくてもいい。一目、彼女を瞳に焼き付けたい。……あぁ……だが欲を言えば一言言いたい。君は■■■■■■■■』

 

 

日記はここで終わっていた。夫が亡くなった前日の日付けだった。

 

最後の一文を私は読めなかった。読もうと思っても目から溢れる液体がそれを阻んでいた。

 

「何よ……勝手に死んで……皆が私を葬儀中どんな目で見てたか貴方分かる?勝手に失踪して好き放題生きて夫の葬儀の時だけひょっこり顔を出して、遺産だけ貰って帰る悪女だなんて……失礼しちゃうわ。」

 

私は日記を握り締めた。

 

「大体何で貴方一人なのよ。普通愛人の一人や隠し子の一人葬儀に来るでしょう?それが私が出ていってから浮いた話一つ無いってバカじゃないの?……本当……本当に……ばかぁ……うぅ……っ」

 

私は嗚咽が止まらなかった。

 

「……ごめんなさい……バカなのは私……私の方っ……本当は気づいてた……貴方は私をいつも気遣ってくれた。でも……私はそれを分かった上で拒否し続けたっ……。怖かったの。貴方の優しさを受け入れたら、自分が最低な女だって認めることになるから……だって……それでもきっと私はマハトマを求めたから……貴方を無下にしても知りたいから、もっともっと知りたいから。そんな私はっ……貴方に貰った全てを返しきれないから……。」

 

今まで心の奥底に隠し封印していた感情が一気に吹き出てきた。贖罪、罪悪感、怒り、羞恥、後悔、多くの感情が入り交じりそれは涙としてさめざめと流れ落ちた。

 

「許して……赦して……ゆるして……ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……」

 

今すぐこの場で死にたい気持ちだった。

けどそれはきっと夫は望んでいないだろう。私は三日三晩夫の亡骸と共に過ごし埋葬まで見届けた。

遺体の夫は何も答えはしなかった。答えるわけがない。

 

 

 

 

 

 

 

 

エレナ絆レベル5イベント

 

 

「マスター、私ね。あの人が死んじゃって初めて気づいたの。自分が何を手にして何を失ったのかって。」

 

いつもの演習が終わった後でエレナに部屋まで呼び出された僕に、彼女はそれまで僕や皆の前で振る舞っていた高飛車ななりを潜めて、とても悲しげに語り出した。

 

「あの人はずっと私を愛していてくれたのに私はそれに応えようともしなかった。それどころか邪険にして居ないものとして、自分で捨てちゃった。やり直すチャンスはいくらでもあったのに私が全部台無しにした。馬鹿よね。ほんと最低で最悪の女よ。あの人が死んだ後気づいたって遅いのに。」

 

エレナの言うあの人、恐らくは彼女の夫だろう。確かエレナをずっと待ち続け最後は老衰で死んでしまい彼女が悪女と呼ばれる最大の原因でもある人だ。

 

「夫を捨ててこれで好き放題生きれるって思っても、人生って色々辛いことが沢山あるんだってことを初めて思い知ったの。こんなときあの人がいたらって虫が良すぎること考えて、罪悪感でもっと辛かった。だってきっとあの人の方がずっと辛かったにきまってる。私は大人だったけど心は結局子供のままだった。あの人のことなんか考えもせずに子供みたいに癇癪起こして、駄々こねて、逃げ出したの。本当に大切な存在からね。」

 

そこにいたのは知性と快活に満ち溢れるカルデアの頼れる女性ではなく、まるで涙ながらに赦しを乞う可哀想な少女だった。

 

 

 

 

「聖杯がどんな願いも叶えてくれるなら、あの日に戻りたい……あの人と結婚した最初の日に。日記の最後の一文、彼は私をあんなにも思ってくれたのだから……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『君は独りじゃない。私は君を信じ愛しているよ、エレナ。』

 

 

 

 

 




もっとエロを攻めるべきだろうか……。

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