「んん…やぐら?何で私の部屋に…」
レナが私の中に入った事でチャクラ量が増えたのか一瞬目が回るが、強引に体を起こす。
私の至極当然の問に、やぐらは目を泳がせて動揺している。
どうやら寝込みを襲いに来た訳では無さそうだ。
「あ…いや、あの…別に変な事を考えてた訳じゃなくって…えっと…その…レナが居なくなるんじゃないかって…胸騒ぎがして…気付いたらレナの部屋に…ごめん、勝手に入って。」
「別にいいけど…」
しどろもどろになっているやぐらが可愛いので、ポンポンと頭を撫でる。
その胸騒ぎも、あながち間違ってはいないだろう。
ふと窓から明け方の光が入り込んで部屋を照らし、やぐらの赤い頬を際立たせる。
「むぅ…どうせ可愛いとか思ってんだろ。」
「うん、やぐらは可愛いよ。」
「…俺も一応男なんだからな。」
「?ん、そうだね。」
「絶対意味分かってねぇ…。」
何故か落ち込み始めたやぐらだが、突然私の体を引き寄せた。
唇に、柔らかい物が当たる。
驚いて目を見開けば、やぐらの顔が至近距離で映る。
綺麗な顔してるな、と場違いな事が頭をよぎる。
少しだけ開かれた紫の目はアメジストみたいに透き通ってるし、アッシュの髪はハネがちだけどサラサラだし。
頬はマシュマロのようにモチフワで、左目から頬に掛けての傷も綺麗な顔のアクセントになっている。
唇が離れ、お互いの顔が至近距離で映される。
「やぐら…?」
「…美人で可愛いのに無防備すぎ。
いくら幼馴染みだからって…いつまでもこんなに無防備だと、何時か襲うぞ?」
茶化して言っているが、やぐらの頬は赤い。
だけど、私の頬はそれ以上に赤いのだろう。
「さっきも言ったが俺も年頃の男なんだ。
どれだけ可愛かろうと、な。
俺は…レナの事…いや、何でもない。
じゃ、部屋に戻るわ。」
逃げるようにやぐらが立ち去った部屋は、シンと静まり返る。
『…ヤり逃げか。』
「変な言い方しないでよね…。」
『間違ってねぇだろ?キスのヤり逃げじゃねぇか。
せっかくいい雰囲気で告白するチャンスだったのに…。』
「い、良い雰囲気…?告白?…へ?」
『気付いてねぇの?
あいつ、やっとレナへの好意を自覚したぞ。
大分今更だがな。』
「好意…?う、うぇっ!?好意って…え?」
顔が熱い。
重明は人をおちょくる事が大好きではあるが、嘘をつくような事はしない。
だから、今の言葉も…本当だ。
そんな事を言われたら、これからやぐらとどんな顔をして話せば良いのか分からない。
取り敢えず深呼吸で落ち着き、唇に指を寄せる。
幼馴染みと言うのもあったが、キスをされて嫌な思いはしなかった。
もしもウタカタに同じ事をされても、同じ様に思うのだろうか?
想像がつかないが…やぐらとのキスの温かさを思い出し、心臓が爆発しそうな程早まる。
私は…突然キスをされて惚れる程惚れっぽいのだろうか。
まさか…そんな筈はない…と思いたい。
心の整理をしているうちに、完全に朝を迎えた。まだ、どんな顔で会えば良いのかは答えは出ていない。
幼馴染みに当然キスをされたからドキドキしているんだと、自分の心を誤魔化す他無かった。
重明:コイツらニブ過ぎだろ…。
ウタカタ:俺もレナにキスしたほうが良いのか?
重明:…自覚は促せるかもな。