鬼鮫は焦る。レナが持つ大鎌に見覚えがあり過ぎたから。
かつて忍界の死神と謳われ、敵味方両方に恐怖とトラウマを植え付けた赤髪の女が持っていた物。
その女性が参加した戦闘では、四肢を切り取って命は助かったものの人生が終わった人間や、男性の大切な「アレ」を切り落として一生男性が女性として暮らすハメになる人間が続出し、敵味方関係なしにトラウマを植え付けた。
その女性がどこからともなく取り出す赤い大鎌は、男性でも持つだけで苦慮する重さの筈なのに平然と振り回すのだ。
一時、うずまき一族赤鬼説も囁かれたほどだ。
その女性は出産の際に亡くなったと聞いていたが…。
その一瞬の考える隙が命取りだった。
レナは音を一切立てずに柄の方を鬼鮫の足に当て、鬼鮫はその大鎌の想像以上の重さに耐えきれず転んでしまう。
うずまき一族の女性は、強気で力が強い人が多いと聞く。
30kgは超えるであろう大鎌を細腕で表情も変えずに振り回す姿に、赤鬼説にも思わず納得してしまった。
「うぐっ…」
いつの間にか首筋に刃が当てられており、両手を上げる。
やぐらに殴られた頭の痛みや、大鎌が当たった足の痛みを堪えつつ、支持を出す。
「降参です。はぁ…こんなに一方的に負けるとは思いませんでした。…明日から本格的な任務が開始します。
朝8時に第2演習場前集合。…レナに話があるのでレナ以外は解散っ!」
「いや、俺らも聞く。」
「…レナ、さっきの大鎌はどこへ?」
「うずまき一族に伝わる紋章で仕舞いましたよ。」
ほら、と見せてくれたのは、手首当たりに付いている赤い鎌の紋章。
少し鈍い光を放つそれは、昔に亡くなったあの人を突沸とさせた。
「…貴女は、うずまきアカリさんの娘、ですね。」
問いと言うよりも、再確認に近い。
よく見れば、瞳の色も同じで顔立ちも生き写しの様に似ている。
ならば、遺品をこの子が受け継いであれだけ使いこなせるのも頷ける。
「…はい。」
鬼鮫は、帰路に付きながら考える。
敵味方関係無しに恐れられ、同時に尊敬?も集めたうずまき一族の人柱力は亡くなったが娘は愛用の大鎌を受け継ぎ、強く成長した。
出来ればトラウマ製造機とはなって欲しくないが、それは担当上忍である自分の役目であろう。
自分も歳を取ったと感傷に浸りつつ、新世代のこれからの成長を楽しむのもまた一興と足の痛みを堪えて一人暮らしの部屋へ戻った鬼鮫だった。
…足の痣が治るのに1ヵ月もかかり、やはりトラウマ製造機の血は争えないのかと挫けそうになったのは余談である。