個性:コジマ粒子 作:ドミナントソード♂
──戦いの中にしか、私の存在する場はない。
──好きに生き、理不尽に死ぬ。それが私だ、肉体の有無ではない。
──戦いはいい。私には、それが必要なんだ。
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変化は直ぐに起きた。ストレイドがヘッドパーツを装着してから、パワードスーツの白い塗装が剥がれ落ちたのだ。
「ター……げっト。確、に、ン……」
塗装の下からは深淵を思わせる漆黒が顔を覗かせ、唯の飾りだった筈のブースターからは、地獄の業火を思わせる、燻った炎が吹き出していた。
「ハイ、除……カイシ」
空のように澄んだ色だったカメラアイも血のような赤色に染まり、黒い鳥は、焼き尽くす為だけに行動を開始した。
──ドッッヒャアアァァァァ!!!
ただ、OBとQBを同時に発動させただけ。ただそれだけで、普段の約3倍ほどの速度が出た。突っ込む先は改人脳無。
普通の能力者ならば、対応が出来ない速度。だが、脳無は違う。たとえ対応出来ずとも、攻撃を受けてから反撃出来るタフネスさを持っている。
だが、その程度のこと黒い鳥とて分かっている。ならばやる事は1つだけ。
AAによる高濃度コジマ汚染をしながらも、QBを連続する事によって攻撃を避けるだけのことだ。
黒い鳥の超高速接近に脳無は対応出来ず、直ぐ横へと回り込まれた。そして、炸裂するAA。
「グゥッ! ここまで爆風が届くか!?」
脳無の真横で発動されたAAは、強烈な爆風と爆音、閃光を生み出し、棒立ちだった死柄木をも吹き飛ばした。
普段のストレイドでは不可能な、OBとQBとAAを同時に発動させるという荒技。上質で濃厚なコジマ粒子がありえない速度で大量に産み出される事によって可能となる、人外起動。
黒い鳥は脳無に捕捉される事なく、AAを通り抜けざまに成功させたのだった。
「クッ……脳無! 早く、そいつを殺ッッッ!? グッ、ァァァァァァァァァッッッ!!!」
死柄木が指示を出すよりも早く、黒い鳥のコジマキャノンが放たれ、死柄木は無残にも、胴体の左半分から先が殆ど消しとばされていた。
「なっ!? なんなんだよ、これぇっ!? お、俺の、俺の身体がっ!? 腕がっ!? 父さんもっ! あっ、あぁっ、あああぁぁああぁあぁぁぁ!!!???」
ショックが大き過ぎたのか、半狂乱になる死柄木。消し飛んだ部位が焼け焦げて塞がっていただけマシだろう。もしも塞がっていなければ、恐らく、どう足掻いても助かってはいなかっただろう。
死柄木の指示は中途半端にしか出せていなかったが、脳無には通じていたようだ。
AAを至近距離で受けてなお、無傷の脳無が、ゆらりと此方を振り向く。此方が圧倒的不利に感じるかもしれないが、脳無の身体は既に、コジマ粒子に蝕まれていた。それは、死を意味する。
「排除、排除、排除、排除」
黒い鳥が再び行動を開始した。空中へと浮かび上がり、安全地帯からの射撃。更に、高速で且つ、連続で行われるQBにより、脳無はまともに攻撃を当てる事も、避ける事も出来ず、コジマキャノンの餌食となっていた。
コジマキャノンを当てる度に脳無の肉体は消しとばされ、高速で修復される。
だが、その修復速度は、目に見える速度で落ちていた。
コジマ粒子の特性には、遺伝子の破壊がある。まずは個性を司る遺伝子が破壊され、その後は普通に遺伝子が破壊される。
脳無の場合は遺伝子すらも修復されているが、それでも、段々と個性としての在り方が歪み、まともに機能しなくなってきているのだ。
高濃度のコジマキャノンと常にばら撒かれるコジマ粒子により、脳無の個性は既にボロボロだった。
「排除」
コジマキャノンが、的確に脳無の心臓部を打ち抜いた。
「クウ、ウゥゥゥアアァァァァァァァ……」
脳無の個性は完全に消滅したのだろう。左胸に風穴が空いたまま、地に伏した。
「排除」
コジマキャノンが脳を撃ち抜いた。脳が修復されないことを確認すると、黒い鳥は新たな獲物へと視線を向けた。
「ターゲット、確認」
「クッ。あの脳無を倒しますか……」
先程までは居なかった筈の黒霧が、死柄木のすぐ隣に現れて居た。
「排除」
脳無ですら反応出来ない速度で2人に接近、間髪入れずにAAが放たれた。
悲鳴をあげる事なく、死柄木の姿は消えた。
「グゥッ!? 」
予め、靄を身体全の前面に展開させていたのだろう。黒霧は爆風の影響も受ける事なく、その場にしっかりと立っていた。だが、種は既に撒かれた。
「排除」
ダメ押しにと、コジマキャノンが黒霧目掛けて乱射される。だが、そのすべては靄に吸い込まれて消えていく。
「止まれ! ストレイド!」
黒い鳥は攻撃の手を止める事なく、視線だけを横へと向けた。
「クソッ、異形系の個性か!? いいか、お前はヒーローの卵だ! そして、お前はまだ子供だ! 手を汚す必要はねぇ!」
イレイザーヘッドが髪を逆立たせ、ボロボロの身体に鞭を打ちながらも、個性を発動させていた。
だが、イレイザーヘッドの言う通り、コジマ粒子は発動系の個性には分類されない。
「邪、まを、するか……」
黒い鳥の右手が、イレイザーヘッドに向けられた。
「ターゲット、確認」
「正気に戻れ! この馬鹿生徒!」
イレイザーヘッドの身体は、素人が見ても行動不能だと分かるほどに酷かった。うつ伏せの彼は、唯一動かせる首だけで導くべき生徒へのみ視線を向け、言葉をかけ続けている。いや、かけ続けるしか出来ないのだ。
彼は、動けないのだ。
脳無によって吹き飛ばされ、瓦礫に埋もれたせいで抜け出すだけの力も、余力も無いのだ。
「排除、開──」
━━ドゴォォォォォォォォォンンン!!!!!
強烈な衝撃音により、黒い鳥の手が止まった。視線が、音の発生源へと向けられる。USJの出入り口が煙で覆われていた。
そして、煙の中から、その姿が現れた。
「もう大丈夫」
それは、ありとあらゆる凡人を救った言葉。
「何故って?」
誰もが安心感を覚える、魔法の言葉。
「私が来た!!!」
普段ならば笑顔で贈られる言葉は、忿怒の形相で、
「スゥゥゥゥゥゥトォォォォォレェェェイィィィィィィドォォォォォォォォオオオオ!!!!!!」
煙の中から、もう1人の姿が浮かび上がった。
「私の息子に馬鹿な真似をさせた奴は、誰だ? 死すら生温いと思わせるほど、後悔をさせてやる」
ひどくドスの効いた声を出しながら現れた、桜色のパワードスーツを着た女性。
ヒーローネーム、シリエジオ。
ありとあらゆるモノを消す個性の持ち主。
「ここからは大人の時間だ。ヴィラン共、ただで帰れると思うなよ」
「先生! 違うんです!」
「何がだ?」
お茶子の発言に、オールマイトが聞き返した。
「ヴィランはもう、ストレイド君たちが倒しました! でも、ストレイド君の様子がおかしいんです!」
お茶子は広場を指差しながら説明した。
「……なんだと?」
オールマイトとシリエジオの視線が、広場中央へと向けられる。
「──いかん! ここから直ぐに生徒を連れ出せ!」
「どういうことだ!」
「いいから早く! 後悔することになるぞ!」
「クッ、分かった! 後は任せたまえ!」
オールマイトがは、各災害エリアへと救助に向かった。
「クッ……まさか、暴走するとは」
これについては、流石のセレンも予想外だった。普段からしつこく首輪を外すなと言い伝えて来たが、その首輪が外された。そこまでならまだ良かった。だが、暴走するなど、誰が予想できただろうか。
「これは私の責任だ。帰ったら、たっぷりと説教してやるからな!」
シリエジオが移動を開始する。
だが、広場まではあまりにも遠すぎた。
「排除」
黒い鳥の攻撃が、再開される。
「……クッ、ここまでか」
イレイザーヘッドは死を覚悟し、とうとう目を瞑ってしまった。
「開始」
──笑止
「ッッッ!!!」
黒い鳥の羽が、斬り落とされた。
照準がズレ、コジマキャノンはイレイザーヘッドの直ぐ横へと着弾した。
己の翼を斬り落とした者を確認すべく、ゆっくりと地面へと降りながら、黒い鳥が後ろを向いた。
「……フッ」
そこには、ボロボロの装甲を纏った武人がいた。
「……参る」
振るうのは紫色のレーザーブレード。
扱われるのは達人の剣技。
だが、ストレイドが戦った時よりも、圧倒的に強い。
剣技は前よりも速くなり、回避した先には攻撃が置いてある。
黒い鳥は考えた。どうすれば倒せるか。
そして、答えにたどり着いた。
──自分も、レーザーブレードを生み出せばいいと。
右の腕と手がコジマ物質で覆われ、手の先にコジマ粒子が収束、圧縮されていく。
「……ナル、ホド」
とうとう、バチバチという音を立て続けるコジマブレードが生成されてしまった。
「……オマエモ、オナジ」
振るわれるコジマブレード。だがそれは、紫色のレーザーブレードで切り払われた。
QBが脅威ならば、同じ土俵に立たせればいい。そう言いたいような戦い方である。QBを使われないよう、上手い具合に攻撃を誘導し、お互いに斬り合う。これは最早、剣の舞とでも言うような、一種の芸術性を感じさせるものだった。
「未熟」
たとえどれだけ速く移動出来ようとも、剣の振るう速度は速くならない。本来ならば優勢のはずの黒い鳥が、段々と押され始めた。
だが、彼の本当の目的は、タイマン勝負をすることでは無い。圧倒することでは無い。
「ッッッ!!??」
「帰ったら、たっぷりと説教してやるからな」
シリエジオが此方へ来るまでの時間稼ぎと、隙を作るためのものだった。
シリエジオがガッチリと黒い鳥を拘束し、彼も黒い鳥を拘束した。
「おい! そこの少年! 首輪をこっちに投げろ!」
丁度シリエジオの正面、湖の岸から此方を観察していた、首輪を持っていた少年へ向け、シリエジオは声をかけた。
「えっ? あっ、ハイ!」
投げられた首輪を上手い具合に掴み──
「いい加減にしろ! この馬鹿息子!」
──ヘッドパーツを外し、首輪を装着した。
「ウッ、ア、ァァ……」
黒い鳥から力が抜け落ち、完全に脱力した。瞼も落ち、呼吸も、ゆっくりとするようになった。
「ここまで予測済みか。奴等、まさか……」
嫌な予感が、セレンの脳裏をよぎった。
「いや、今は浄化を優先すべきか」
セレンは、正面にいる謎の男の体内に蓄積された毒性を消し飛ばし、次いで、周囲の毒性を消し飛ばした。
「さて、仕事はまだある。派手に汚染してくれたな、ストレイド」
ストレイドの襟元を掴み、引きずりながら浄化を始めた。
後に語られるこの『USJ襲撃事件』は、ヴィラン、ヒーロー問わず死傷者ゼロ、オールマイトと生徒達によって解決されたということになっている。
そして、生徒達には、箝口令が敷かれたのだった。
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──真改、どうだった?
──未熟
──そうか、やはりか
──レイレナード唯一の成功作、まだ途上か……
──ヴィラン連合の坊や達はどうした
──ダメだな。使いもんにならん
──これだから無能はダメだと言ったのだ
──文字通りの『無能』だったな
──まぁ、いい。熟すまで待つだけだ
偽りの個性(タイトル)、失礼いたしました。
あなた方(フロム脳)には、ここで果てて頂きます。
理由は、お分かりですね。