真剣で人生を謳歌しなさい!   作:怪盗K

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お待たせしました。第七話です。



第7話

 小雪ちゃんの名字が榊原になる頃、学校は夏休みという期間へと突入した。暑い夏の日差しの中、地中から這い出てきた蝉たちが子孫を残さねぇとってミンミンと泣き散らしてやがる。

 百代ちゃんは出稽古とかいうのでしばらく川神に居ねぇし、冬馬や準のやつは学習塾、英雄はリトルリーグで皆々思い思いの夏休みを満喫してるらしい。

 

 小雪ちゃんは新しい家族と旅行に行ってるし、俺は一人だけいつものメンツからハブられてしまっていた。実は嫌われているんじゃないかと、少しダウナーになった。

 そんな暗い気分の時は甘いものを喰おうと、九鬼の本部へと戻ってきていた。メイドさんのスカートの中を駆け抜けながら、食べるアイスは美味かった。

 

 

「あー、アイスうめぇ」

 

 

 九鬼が俺のために用意してくれた部屋は既に使用頻度が悲しいことになっていたが、たまにメイドさんにセクハラをしに帰ってきている。セクハラとタダ飯食える場所としか思ってないとかバレたら、あの殺人キック爺に殺されそうだ。

 グーたらの極みを決め込んでいたら、部屋がノックされた。どうしよう、部屋中クシャクシャのテッシュだらけにして、メイドさんを困らせようとか思ったが、何のおもてなしの準備もしてねぇ。

 

 

「久しぶりだな。赤子、いや、お前は鬼子と呼ぼうか」

「チェンジで」

 

 

 俺はそっとドアを閉じた。ドアごと蹴り飛ばされた。

 

 

「ぐえぇ!?」

「お前のことは聞いたぞ、随分と好き勝手していたようだな」

 

 

 内臓とかシェイクしてくれるように、ねじりを加えてくれてやがったな。口から血が出るってことは、内臓を痛めつけられてる。

 喉に溜まっている血を吐き出してやる。血が床を汚し、飛び跳ねた雫が足にかかる。生温かい感覚に、脳みそがゆだるような、頭に血が行くのを感じる。

 

 

「不意打ちとは随分、味な真似してくれるじゃねぇか、爺。来ると思ってたぜぇ」

「ふん、殺さないようにはしたが、やはりしぶといな。貴様が九鬼の名を騙り、小娘の親権を動かしたことは知っているぞ」

「あん? 勝手に使われたから怒ってんのか? 少しぐらい大目に見ろや、年長者だろうが」

 

 

 俺は小雪ちゃんの親権を動かすために、九鬼と言うビックネームを利用した。この爺からすれば、許せねぇことだっただろう。

 九鬼大好きっ子の爺ブチ切れ案件って分かってたのになー、すっかり忘れてた。こりゃ、洒落にならねぇな。

 

 

「貴様は一度徹底的に痛めつけねば、九鬼と言う存在に対しての認識があらたにならんようだからな。こうして俺が足を運んだという訳だ」

「わざわざご苦労なこった、クソが。謝りはしねぇぞ」

 

 

 間違っていた。もっとうまくやる方法があった。そう思うのは簡単だし、謝れば爺も八割殺しくらいで勘弁してくれるだろう。

 

 九鬼にしたって、俺が勝手に名前を騙ったり、役人を金や脅しで自分の都合のいいように動かした。

 

 俺がしたのは他人の人生を自分の思うままに動かしたことだ。それが良い悪いは関係ない。ただただ、小雪ちゃんにしても、あの女にしても、榊原っていう赤の他人にしても、俺は自分のレールを勝手にぶち込んだ。

 その手段として九鬼の名を騙り、爺の逆鱗に触れた。だから、なめた真似をした俺を爺が制裁しに来た。単純な話、それだけのことだ。

 悪いことをしたら謝る。ガキでも知ってる当然のことだ。九鬼に謝る。それで丸く収まりはしないだろうが、少しばかりはそれが正しい行いなのだろう。

 

 

 

 でもよぉ、それはちぃとばかり虫がよくねぇか? もっとうまくやる方法があっただ? 俺が間違ってただ?

 

 

 

「今更よぉ、んなこと言えるわけねぇだろ? そいつは真剣さが足りねぇんじゃねぇか? あの女にも、小雪ちゃんにも。なぁ、爺よぉ?」

「ふん、吠えるな、鬼子。貴様がどう思っていようと、貴様は俺の超えてはならん線を超えた。故に、ただ制裁するだけだ」

「ハッ、やれるもんならやってみろや。短い老い先、全部持って行ってやるよ」

 

 恩を仇で返す。俺は今、最悪の道徳を体現しているのだろう。だから、爺も今までの蹴りが遊びだとでも言わんばかりの殺意を以て暴力を振るう。いいねぇ、ヒリヒリとした死の感覚が心地好いわ。

 柄にもねぇことしたツケか? いい事すればいい結果が伴うんじゃねぇのか?

 

 ただまぁ、五体満足で済めばいいがねぇ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気がついたら、全身が砕け散るんじゃないかって痛みに襲われていた。両手の感覚はなく、かろうじて、繋がっているくらいしか感じない。顔も陥没してるのか、右目の視界は黒く染まっており、左目の視界もかすれてやがる。

 あんの爺、徹底的すぎんだろうが。ラブコメ路線目指しているのにこの様は何だってんだ。

 それにしても、よく生きてるな、ほんとしぶといな、ゴキブリか?

 あーあー、九鬼から追い出されたなぁ。幸いと親切な裏帳簿おじさんからもらったマンションの一室があるから衣食住の住はなんとかなるが、他二つはどうすっかなぁ。裏帳簿おじさんに弱みを見せるわけにはいかねぇんだけどな。

 

 

「随分と派手にやられたじゃねぇか」

「……あん? 釈迦堂のおっさんか?」

 

 

 加齢臭のする影が俺を見下ろしていた。正直、視覚は今当てにはならん。ったく、イケメン顔になんてことしてくれやがる。

 

 

「驚いてたぜ。ヒュームのおっさんが本気で闘ってやがってるてな」

「あー、超人どもは気とか感じ取れるんだったな。そんなん考える暇もなかったわ」

「てか、何したんだ? ヒュームのおっさんがここまでやるなんてよ」

「あー、うん、意固地になって我を通したらボコられたんだよ。」

「……お、おう。馬鹿なんだなお前……いや、知ってたが」

 

 

 馬鹿だよ。うん、仕方ねぇ。頭よくないから。

 

 

「ひとまず、川神院に持ってくぞ。このまま放置してたら死ぬからな」

「……え? 槍でも降るの?」

「あー、足が滑ったー」

 

 

 うぎゃあああ!! てめぇ! 肉が削げた場所を踏むんじゃねぇええ!!

 のぉおおおおおおお!!!

 

 

「……カッ」

「あーあー、ガチでやべぇ状態じゃねぇかよ。ったく、梅屋一年分奢れよ?」

 

 

 傷に塩どころか靴の裏の泥を塗りこまれて、俺の意識は再びブラックアウトしていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前、ほんとに化け物だな。なんで寝て起きたら骨がくっついてんの?」

「俺も本格的に分らなくなってきたから突っ込まないで置いてくれると嬉しい」

 

 

 川神院は出稽古ということで人は少なかった。幹部格は釈迦堂さんくらいしか残ってなかった。まあ、逆に好都合だったからいいが。

 完全に粉々になっていた足の骨はまだ治ってなかったが、ポキポキ折られていた右腕の骨とかはくっついていた。俺も、化け物に足を一歩踏み入れているのだろうか。

 釈迦堂のおっさんが言うには目に見えて傷が治って行って気持ち悪かったらしい。見てみたいような見たくないような奇妙な思いを抱くしかなかった俺だが、手から出した日本酒を瓶で呷る。釈迦堂のおっさんは焼酎を飲んでる。

 ちなみにまだ太陽さんは未だ俺たちの頭の上を歩いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 釈迦堂のおっさんに口止めとして酒を山ほど手から出して渡した後、俺はマンションへと戻った。足が粉々だから逆立ちで帰る羽目になったし、てか一日くらいゆっくり泊めてくれよ。多分明日には元気になってるから。

 

 

「よぉ、邪魔してるぜ」

「ビビるわ」

 

 

 四苦八苦しながら部屋に入ると、我が物顔でくつろいでるみかどっちが居た。しかも、俺が置いておいた菓子を喰っていた。

 

 

「てか、よくわかったな。ってことは、葵紋病院も抑えられるか」

「ああ、少しばかりこの街でやることが出来たんでな。その内街の掃除をするつもりだったんだよ。まあ、遅いか早いかだけだったし、ついでに潰してきた」

「ヤのつく自営業の人とのつながりもあったんだが、やっぱ九鬼パネェな」

 

 

 ついでに潰すとか冬馬の親父さんたちも浮かばれねぇな。ただ、補給路が絶たれちまった。これはもう裏家業とかに身を染めないといけなくなるぞ。

 

 

「てか、思ったより元気だな。てっきり廃人にでもなるかと思ったんだが」

「なってたわ。自分の身体リジェネかかってんじゃねぇかってくらい、回復速いんだけど」

「なんだそりゃ、化け物かよ」

 

 

 カラカラと笑うみかどっち。

 

 

「意外とみかどっちは普通なんだわな。てっきりおこなのかと思ってたわ」

「ハッハッハ! そりゃおめぇ、あんだけブチ切れたヒュームなんて久々に見て逆に冷静になったわ。まあ、名前くらいなら幾らでも使えって感じだわな」

 

 

 懐の広さが爺と月とすっぽんだな。

 

 

「ただま、一言くらい言っておけよなってくらいか? 貸し一つだぜ?」

「何でも言う事聞かせるって! 嫌らしいことでもするんでしょ! エロ同人みたいに!」

「ハッハッハ、キモッ」

「おう、俺も言ってて気持ち悪かったわ」

 

 

 みかどっちは少し考えるようにして、菓子を口の中に放り込む。

 

 

「まあ、その内クローンたちの世話でも任せようかねぇ。お前からしたら腸煮えくりかえるようなことだろうけど、まあ、それが俺からの仕返しってことで」

「あん? クローンだ? みかどっち何かやってんのか?」

「おう、武士道プランって言ってな。過去の偉人のクローンを育ててんだよ」

「へぇ……」

 

 

 確かに、正直好きな類の話じゃねぇなぁ。手前勝手に命をいじくりまわすって、舐めてんのか? ってなるな。

 

 

「このタイミングじゃなけりゃあ、俺もブちぎれてたなぁ」

「だろ? だから今言ったんだよ。少しはお前も殊勝になってるだろうってな」

「……ぐぬぬぬ」

 

 

 俺が自戒しているタイミングを見計らうとは、みかどっち、恐ろしい子……!

 

 

「ハッハッハ。ま、ヒュームも、もうこのことでうじうじ言わねぇだろうし、俺としちゃあ最初からさほど気にしちゃいねぇから。よろしく頼んだぜ」

「……あいあい、偉人って誰なんだ? 俺的には新選組とかが好きなんだけど」

 

 

 あとは、奇兵隊とかが好きだな。まあそもそも幕末が好きだからなぁ。あのくらいの混沌していた時勢の中で誰もが必死こいてたってな。

 まあ、クローンであって本人じゃねぇだろうから、あんま気にしないでおくか。

 

 

「時代がちげぇなぁ、源氏だよ源氏。源義経と弁慶、あと那須与一。あと一人いるが、こっちは秘密だ」

「偉人当てゲームっでもしろってか? 面白そうだな」

「お、そりゃあ面白そうだ。当てられたら金一封やるぜ?」

「逆に当てられなかったら、九鬼の従者にでもなってやろうか?」

 

 

 やっぱり、みかどっちとの軽いやりとりは小気味いい。波長が合うんだよねぇ。

 

 

「んじゃま、クローンたちに会わせるとしても中学生くらいからだな。流石に今会わせても悪影響しかなさそうだ」

「おう、せやな」

 

 

 中学生かー、どんなやつらなんだろ。クローンってのは気に入らないが、偉人に会うってのは割と面白そうだな。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しゅ、修二!? 包帯ぐるぐるだよ!」

「おう、一子ちゃんか。骨はくっついたが、顔が凹んでてな。新しい顔ができるまで待っててくれや」

 

 

 次の日には、足の骨も治ってた。自分の身体が怖い。

 イケメン顔がアンパンマンどころかバイオハザードしてたから、ひとまず包帯で隠しておくことにした。ミイラ男かゾンビかどっちがいいかは首をひねるが、ひとまずミイラの方がイケメンだからな。

 

 

「おいおい、大丈夫なのか? 修二」

「おう、キャップ。大丈夫大丈夫、また皆で遊ぶなら何する?」

「野球は昨日したし、そうだなぁ。岳人たちは何かいいアイデアあるか?」

 

 

 キャップを除く男組は、ミイラから距離を取るようにしている。おう、ビビってんのか。うん、ビビるわな。

 

 

「鬼ごっこでもするか? 俺が殺人鬼役で、お前たちが生存者役。発電機を五つ付けて、出口を開いて逃げればお前たちの勝ち、捕まって生贄にされたら俺の勝ち」

「ほー、面白そうだな。でも、発電機って、どうするんだ?」

「そうだな。代わりに謎々でも置いておくか」

 

 

 さあて、全員生贄に捧げてやるよぉ! あ、一子ちゃんはえっちぃことしようそうしよう。

 




ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
小雪ちゃん編の後始末といったところでしょうか。ヒュームさん激おこでした。九鬼の名前を勝手に使ってしまったので、フルボッコでした。
主人公はボロボロにされてもギャグ補正で数日後に復活する仕様です。

これからもよろしくお願いします。

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