真剣で人生を謳歌しなさい!   作:怪盗K

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お待たせしました。第六話となります。
どうぞ、駄文ですがよろしくお願いします。


第6話

 俺が番長だということをすっかり忘れていたので、番長らしいことの一環として高学年のがきんちょども、腕白坊やどもを簀巻きにして河川敷に吊るしたりした。俺は俺以外が弱い者いじめをするのは許せないが、俺が弱い者いじめをすることには寛容であった。

 

 俺の傍若無人らしさがいい具合に他校どころか市外にまで広がって俺としては満足だった。ついでにと親不孝通りでチンピラに絡まれている三姉妹をナンパしたりしたのだが、そのチンピラも兄弟らしく流れで姉妹たちの家で御馳走になったりしてた。

 

 あ、もちろん性的な意味でもご馳走になったよ? 長女が中学生くらいだったから脱ロリと言えなくもない。いや、まだ周りロリ寄りだけども。ガタイのいいチンピラ君は外に放っておいたけど。

 

 ただ、その後これからはアイスの季節だなーと油断してたら、小雪ちゃんが足技を覚えたり、百代ちゃんが俺の浮気性にブチぎれてサンドバックにされたり、散々な目にあった。

 一番怖かったのは何故か目からハイライトが消えた小雪ちゃんだった。あの手に持ってたライターと灯油はあかんて。俺が百代ちゃん以外の女の子とにゃんにゃんしようとすると発動するモードだから、対策は簡単だったが。

 

 一子ちゃんワンコ計画などが遠のいたぞちくしょうめ。

 

 それはそれとして、最近優しいおじさんからお金をもらったので、俺はそろそろ秘密基地計画を本腰入れようと思い立った。

 まったくもー、裏帳簿なんて危ないもの、ちゃんと保管しとかないなんて不用心だなー。ま、結構あくどいことして手に入れた金のようだし、泣き寝入りするしかないでしょ。

 

 

「葵紋病院ってどっかで聞いたことあるような? 気のせいか」

 

 

 最近冬馬が、父親の頭の毛が薄くなってきたと言ってたし、準の父親も最近じゃ過労気味らしい。

 一体何があったんだろうか、しんぱいだなー。

 

 

「それじゃア、今日は型の基本をやってみようカ」

「は~い」

 

 

 最近小雪ちゃんが川神院で武術を習い始めた。俺としては小雪ちゃんに戦闘能力を持たせたくないのだが、主に俺の身の安全のために。

 小雪ちゃんが百代ちゃんに頼み込みやがって、いつの間にか門下生の一人になってしまってた。

 

 

「中々筋がいいじゃねぇの、あの白いの。百代が連れてきただけはあるじゃねぇか」

「釈迦堂さんじゃん。小雪ちゃんのハイスペックさを見誤ってたなぁ。小雪ちゃん割と闇深いから、将来俺を蹴り殺しかねないのよねぇ。一度メラメラと炙られたし」

「…………お前どうしたんだよ、ソレ」

 

 

 いまだにブチ切れぷんぷん丸の百代ちゃんに、簀巻きサンドバックにされた後に川神院の門前に吊るされたんだよ。

 

 

「百代ちゃんが最近バイオレンスすぎてヤバい」

「俺からすりゃあ、あんだけボコボコにされてぴんぴんしてるお前も化け物だけどな」

 

 

 手からビームとか出る人と同カテゴリにはしないでほしい、せいぜい食べ物くらいしか出ないから。十分人じゃねぇな。お菓子マンとか名乗って義賊よろしく空からお菓子でも降らしてやろうか。

 

 

「釈迦堂の旦那ー、助けてくださいよー」

「おめぇ最近羽振り良いんだろ? なんか奢れよ」

 

 

 ごみかよこのおっさん。

 

 

「ちっ、勘のいいおっさんだな。梅屋でいい?」

「特盛りつゆだく、あと単品でとろろな」

 

 

 やっぱごみだよこのおっさん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局釈迦堂のおっさんはおかわりをたらふくしてくれやがった。豚丼美味かったからいいけどさ。

 楊枝で歯の間のカスを取り出しながら、帰ってきてもまだ続いていた小雪ちゃんの稽古を眺めていた。隣では釈迦堂さんがビールを呷っていた。

 それ、俺が俺用に出してたもんだったはずだったんだがな。まあ、まだまだ出せるからいいけども。

 

 

「あ、そうだ。釈迦堂さんこの後暇?」

「あん? 暇っちゃ暇だが、どうしたんだ?」

「いやねー、夏休みに関西のあたりに行こうかと思ってんだが、おっさんなんかうまい飯屋とか知らないかなって思ってな。どう? 酒くらいなら出すよ?」

「ほー、小学生のくせに関西旅行かよ。そうだなぁ、あっちの方なら、幾らか店知ってるが、大半が居酒屋だぞ?」

「それそれ、どっちかってっとそっちの方が知りたいんだわ」

「店に入れねぇんじゃねぇか……?」

 

 

 そのあたりはね、その時にどうにかするわ。世の中金と暴力の強さは計り知れないからな。

 

 

「修二ー! 稽古の相手をしてくれー!」

 

 

 百代ちゃんが胴着を着てこっちに走ってきた。汗を綺麗な黒髪から垂らしながら、笑顔を浮かべながらこっちに美少女がやってくるのは絵面的に非常に保養になる。

 でもな? その手に纏ってる赤いオーラは何だい? それで俺を殴り愛たいって?

 

 

「オー、バイオレンス」

「まあ、百代に目ェ付けられたのが運の尽きだな。どうせ最後にはピンピンしてるんだからいいだろ?」

 

 

 仕方ねぇから寝技に持ち込むか。大人の寝技なら俺の方が経験値上だからまだまだ勝てるはずだ。アヘ顔にしてやんよ、俺はアンパンマン顔になる可能性大だけど。

 

 

「一応爺の目もあるから、自重はしろよ?」

「ナチュラルに心を読むのは止めろって超人ども」

「ほらー! いーくーぞー!」

 

 

 ドナドナドーナーと百代ちゃんに首根っこを掴まれて引きずられていく。最近テンプレ化してきたな、これ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 百代ちゃんの闘い方はシンプル、倒される前に倒すっていう、多少の被弾を省みないスタイルだ。

 稽古というか、ほとんど組手だが、その攻撃の破壊力は────

 

 

「せやぁ!」

 

 

 多分コンクリぐらいは軽く粉砕できるんじゃない?

 

 

「……百代ちゃん、これ稽古よね」

「ああ、そうだぞ? 楽しいだろ?」

 

 

 楽しくねぇよ、身体も心もいてぇよ。

 なんでこんなモンスターに育っちゃってんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 百代ちゃんとの稽古が終わったころにはボロボロになってしまった。百代ちゃんも俺のHPバーが尽きないからって喜々としながら殴りかかってくるし。釈迦堂のおっさんを筆頭に大人たちは見ているだけだし。

 その内大人組にはケツから気功砲をぶち込んでやる、百代ちゃんには、んほぉってさせてやる。

 

 

「修二、ボロボロだねー」

「おう、せやろ」

 

 

 最近常時ボロボロがデフォになってしまってる気がする。まあ、それはいいんだが、皆俺への畏怖や敬意を忘れてきているようだから一度きちんとしめてやらないとな。

 

 

「あ、そうだ。小雪ちゃん」

「んー?」

 

 

 初めて会ったころと比べると小雪ちゃんはずいぶんと変わった。元気になったし、冬馬や準も居る。なにより、笑顔が増えた。やっぱり笑った表情はいい、まあ、泣いた顔も嫌いじゃないけど。

 

 

「家出しよっか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、こちら匠である私が親切な大人から頂戴したお宅を改造したものでございます」

 

 

 裏帳簿おじさんがくれたのはおっきなマンションの一室だったからな、ここを俺の城とした。1LDKに憧れていた俺は、搾り取れる分だけ搾り取らせてもらった。

 まずはキッチン、外国の映画に出てくるようなでっかい冷蔵庫を兼ね備えたオール電化のだ。家賃や電気代も全部裏帳簿おじさんが払ってくれるらしい、やったね、優しい裏帳簿おじさん大好き。

 

 

「うわー! 修二見てみて! おっきいベッド!」

「せやろ」

 

 

 将来、何人もの女と同時にプレイできるように、寝室のベッドは一番でかいサイズだ。むしろ部屋ごとベッドと言っても過言では無い。おかげでその部屋にベッド以外置けなくなったのは、ちょっとやりすぎたかと思っているが、ヤリ部屋なので別にいいか。

 リビングには俺が手づから創り上げた家具が並んでいる。匠にかかれば、思いのままに創り上げられる。

 

 

「ここが私たちの秘密基地になるの?」

 

 

 ふかふかベッドでぼふんぼふんと跳ねながら、小雪ちゃんが笑っている。

 

 

「そうだけど、ひとまずは小雪ちゃんと俺の家だよ。今日から、そうだなー、一週間ちょいってところか、ここで生活することになるな」

「え……え?」

 

 

 小雪ちゃんは虐待を受けている。これは確定事項だ。小雪ちゃんマザーは、ちょいと手遅れ気味だった。

 ああ、性的な意味でね? もう少し若々しかったら性的な解決をしてたよ? 年齢は若いんだろうけど、過労とか心労とかで半分ゾンビみたいになってたし。

 

 

「まあ、小雪ちゃんのママンを爺さんどもに丸投げしてる間はここで一緒に過ごそうってことだ」

「……うん」

 

 

 聡い子だ。俺のようなくそ雑魚ナメクジな脳みそとは違って、これだけで察してくれた。

 

 

「小雪ちゃんはママンが好きかい?」

「うん……」

 

 

 小雪ちゃんはベッドに顔をうずめ、隠す。

 

 

「ママとはお別れになるけど、そう事を運んだ俺が嫌いになるかい?」

「ううん……修二は……大好き」

「そりゃ結構」

「でも……ママは優しかったんだ……僕……が………僕が……悪い子、だっただから」

「おい、小雪ちゃんや。一ついいことを教えてあげよう」 

「……何……?」

 

 

 あまり気が進まないが、約束は守るタイプだからな、俺。まあ、半分くらいの確率で破るけど。

 俺はベッドに登り、うずくまる小雪ちゃんの頭を撫でつける。その華奢な体を持ち上げ、その頭を胸に抱く。そして、その毒を小雪に飲ませる。

 

 

「小雪、愛してるわ」

 

 

 できる限り想いを伝えられるように。届けと願った人が居たから。

 

 

「……僕も……僕もだよ……大好き……大好きだよ……」

 

 

 ったく、女を泣かすのに。俺以外言葉を使ってやるのはこれっきりだぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちわー、三河屋ですー」

 

 

 猫も寝静まった深夜、俺は一つのぼろアパートへと宅配に来た。届けものは暴力だ、ぼっこぼこにして海に捨ててやんよ。

 最近百代ちゃんの真似してたら、出来るようになった波動拳をお見舞いしてやる。

 俺がドアノブをぶち壊しながらお邪魔すれば、そこには腐臭を漂わせた死人のような女が居た。

 

 

「……誰よ……あんたは」

「あん? んー……三十五点。もう少し健康と美容に気を使ってれば、人並みに気を配れば、貴女は人一倍美しいでしょう。次に応募される際にはその素材を生かしてください。審査員一同期待しております」

 

 

 俺からすれば人と言うよりは汚物だしな、今のあんた。

 

 

「……いきなり何言ってるのよ……狂ってるの?」

「まあそうだな。間違っちゃねぇわ。でも、あんたみたいな逃げよりはましだろ?」

 

 

 そう、目の前の汚物は逃げるために狂った。現実に耐え切れなくて、戦うこともできずに、賢く退くこともできずに。

 女は何かをその濁った眼を俺へと向けてくる。およそ、まともに生きてきた人間が見れば、おぞ気を感じるだろう。

 

 

「……何が分かるのよ……あんたに」

「何も知らねぇよ。ただ、そうさな」

 

 

 女が泣いていた。助けてと言っていた。それに体が反応した。

 ああ、今回は股間じゃねぇ。俺の心臓が俺を動かした。珍しいんだぞ? いつも下半身が第二の脳なのに。

 

 

「……そう……あの餓鬼……変なのを送り込んで」

「ま、そういうこった。歯ぁ食いしばれや。汚物からオブジェに変えてやっからよ」

 

 

 三河屋として宅配物は殺してでも届けてやんよ。

 

 

「……放っておいてよ……もう、嫌なのよ……痛いのは。もう、これ以上私を苦しめないでよ……」

「あっそ。知るかよ」

 

 

 一発、その頬骨を折らない程度の威力で殴りつける。

 娘と同じように細い身体が吹っ飛び、壁にぶつかる。やべ、寝てる子を起こしちまう。

 

 

「……」

「どうよ、殴られたのは久々か? 目が覚めたかよ」

「ふざけんじゃ……ないわよ……。あんたに何が分かるのよ。苦しんで、つらくて、それでも娘のためって思ってたのよ? でも、私の痛みを理解しないあの子の笑顔がイラつくのよ。誰のお陰で生きていられると思ってるのよ……誰のおかげで……!」

 

 

 頬骨ぐらいは砕く力込めたと思ったんだがな、思ったより元気だな。

 

 

「……娘なのよ? ……愛してるのよ? ……誰よりも大切に想ってるのよ? でも、もう……無理だわ。あの子の笑顔がチラつくだけで……あの子の顔を見るだけで……私は……」

「最初媚売るような笑顔だったしな。余計イラついたろ、あれ」

 

 

 悪循環って怖いねぇ。悪ぃことってのは、どこまで行きつくからな。

 

 

「……………そう……あんたみたいなのと一緒に居るなんて……あの子も災難ね……」

「まあ、否定はしねぇよ。ただ、可愛がらせてもらうがね。肌がすべすべになったぞ? 気がついてたろ」

「そう……。ねぇ……あんたが、終わらせてくれるの?」

 

 

 それが願望か。そりゃそうだろうな。

 誰にも助けてもらえず、世の中の悪意に晒され続け、それでも娘は守りたいと思い続けた。そのためだけに、生きている、生きていた。

 だが、歯車が狂えば、自分の背に居た娘を自分の悪意が傷つけていた。そこからは転落だ、まさしく転がり落ちて行くだけ。傷つけられ続け、傷つけ続け、狂い、汚物へと成り果てていた。

 

 

「ああ、終わってしまいたい。けど、最後に残った愛情が、終わらせてくれない。私が終わってしまえば、一人残された愛しい我が子。誰が一体その娘を守るというの? ってか」

 

 

 立派な母親だこって。気が狂ってて好きだぜ、そういうの。

 

 

「……」

「いいぜ、終わらせてやるよ。後は俺に任せな」

「……任せられると思えるの……?」

「安心しろって。お前よりはヤワじゃねぇから」

 

 

 汚物は目を瞑り、鼻で笑う。それは俺に対してか、それとも自分自身に対してか。

 そして、眼を開くと、そこには月明りに照らされた光の粒があった。最後、こびりついて離れない想いが、最後の母親の口から洩れる。

 

 

「……小雪、愛してるわ」

 

 

 気づくのがおせぇよ、ヴァーカ。




ここまで読んでいただきありがとうございます。
そろそろ秘密基地ということで、親切な裏帳簿おじさんが場所を提供してくれました。
ラブコメを目指してあまりシリアスにならないようにしているのですが、流石に小雪ちゃん関係は上手く行かないものです。

小雪ちゃんのママンには主人公が触れることはもうないでしょう。やりたいことは終えたので。次は小雪ちゃんをマシュマロ布団にするだけと思ってます。

では、これからもよろしくお願いします。

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