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では、第4話となります。よろしくお願いします。
僕の毎日は、痛いことばっかりだった。
僕の家にはお父さんは居ない。お母さんは僕を嫌っている。学校でも皆に嫌われている。
皆、僕を嫌な目で見つめてくる。
独りぼっち、誰も僕を好きになってなんてくれない。ボクが、何か悪いことをしたの?
なんで、ボクは皆と一緒に居ちゃいけないの?
お母さん、どうして僕を叩くの?
先生、どうして僕から目をそらすの?
なんで、なんで、なんで僕ばっかり?
『あんたなんて生むんじゃなかった』『こっちに来るな! 汚いんだよ!』『小雪ちゃんは、ちょっと他の皆と遊ばないようにしましょう』
あぁ……そっか……。僕は生きてちゃいけないのか……
何でここに居るんだろう。分からないや
そう思った瞬間から、僕の世界から色が無くなった。
僕の髪とおんなじ真っ白と真っ黒だけの世界。皆が気味悪がる紅い目だけが、白と黒以外に残された色。
こんな目をしてるから。僕の見た目が違うから。僕のお父さんが死んじゃったから。
ボクハ、ココニイナイホウガイインダ
そんなことをずっと思っていたある日。
「おっ? アルビノか。綺麗な目をしてるな。お前、名前は?」
キレイ……? 君は……?
「さっき先生に言われてイカシタ自己紹介してだろうが、織原修二だよ。あ、ここは質問に質問で返すんじゃない! ってキレる場面だったか?」
よく分らないよ……僕は、小雪……。
「小雪か、いいじゃないの。真っ白の髪に似合っててよ。うし、そんじゃよろしくな小雪ちゃん」
僕の返事を聞かず、彼はその手で僕の手を握った。
その瞬間、僕の世界は色を取り戻した。
やはり、番長になったからには威厳とかそういった類のステータスも必要になってくるだろう。
今まで偉い人は自分の銅像とか、でっかい建築物とかで自分の権威を大胆に表現したらしい。
という訳で、俺は聖帝十字陵の建築に着手することにしたのだ。
「そのためには人手と金、あと場所が必要だな」
人手は親不孝通りでいくらでも調達できる。がきんちょどもをお菓子で釣り上げて働かせればいいし、足りなければ親不孝通りで不良どもを暴力と恐怖で従わせればいい。
場所に関しても目星はある。手がねぇわけじゃない。
ただ、金は一朝一夕で手に入るものじゃねぇ。遊ぶための小銭ならともかく、聖帝十字陵の資材とかの購入資金にはまとまった金が必要だ。
「どっかにでけぇ金になる話はねぇかねぇ」
楽して稼ぎたい。不労所得で生活してたい。
所詮、番長になったところで資本主義からは逃げられないのか。どうしたもんか。
「しゅーっじっ!」
「おっと」
河川敷で一人どう金策しようかなーと思ってたら、背後から百代ちゃんが飛びついてきた。女子の割には高身長だが、百代ちゃんくらいならどうとでも受け止められる。
「修二ー! ボクもー!」
「あ、流石に定員オーバー」
百代ちゃんに続いて小雪ちゃんまで背中に乗っかってきた。流石に踏ん張りがきかず倒れ込む。河川敷の柔らかい草が受け止めてくれる。
「小雪! 修二は私のだぞ!」
「ぶー! ももちゃん一人占めしちゃやだ!」
俺はおもちゃか。まあいい、将来性的におもちゃにしてやる分、それくらいは大目に見てやろう。
「んで、冬馬と準は?」
「置いてきた! 冬馬ってば足が遅いんだもん」
ナチュラルにおいてくる小雪ちゃんもドSの素質があるのかもしれない。
「それよか修二、今日はここで遊ぶのか?」
「いんや、今日は十字陵の建築予定地の下見のつもりだったんだよな」
「じゅうじりょー?」
百代ちゃんがひっついたままの体勢で寝転がる。小雪ちゃんも俺を間に挟んで川の字のように河川敷に横たわる。
「偉い人のお墓だが、お師さんみたいな、入れる人も居ねぇしなぁ。いっそのことでっかい建物なら何でもいいか?」
「秘密基地みたいなもんか?」
あー、ショッカー基地みたいな秘密の実験施設とかも悪くないな。むしろ十字陵とかよりもそっちの方がいいかもしれん。誰の目にもつかんからえっちぃことも悪いこともし放題だし。
「そりゃあ、いい! うし、そんじゃ、秘密基地にすっか」
「ああ!」
「うん!」
小雪ちゃん、ほんとよく笑うようになったなー。
「という訳で参謀、なんかいい場所とかなさそう? 廃ビルとか、こう、どことなく退廃的で勝手に使っても誰も気にしなさそうな場所」
「そうですね……心当たりは幾らかありますね、修二君の参謀になるにあたり、色々調べてきたので」
「若が悪い道に進んで行ってしまってる……俺はどうするべきなんだ……」
想像以上に参謀が有能だったでござる。
「冬馬、そういう情報ってどこから仕入れてくるんだ?」
「それはですね、百代さん。デキル男の秘密というものです」
口に人差し指を置いてウインクをする冬馬。中々に様になってるな、俺ほどじゃないが、将来は冬馬もいい男になりそうだ。
「そんじゃ、場所は冬馬に任せるとして。設備とかも整えねぇとな。木材とかあれば匠である俺が家具とか作ってやる」
「まじかよ!? そんなことできんのか!?」
うるさいぞ、小雪ちゃんに髪を全部持っていかれたハゲ。さっきから全自動太陽拳してて眩しいんだよ。
「うぇーい! 準ピカピカしてるー!」
「あんたが剃ったんでしょ!! あーもー! 頭が涼しいんだよこのやろー!」
ここ数日髪が無くなったせいか準が荒れてる。糖分が足りないんだろう、ほら、飴ちゃんあげるから元気お出し。
「ハッカ味じゃねぇか!!」
うるせーなー。俺が嫌いだから余ってんだよハッカ味。
「木材なら、家の裏の森から持ってこれるぞ」
「そういや、川神院の裏って森だったか。今度遊びに行こっと」
俺は大自然が好きだ。動物とかと戯れるのは心が癒される。
「そうか! それじゃあそのまま家に遊びに来ないか? 修二のこと、皆に紹介したいし」
「お、おう。今度な?」
百代ちゃんが言う皆って家族だよなー。正直彼女って言ったけど、両親に挨拶とかできるような人間じゃないからなー。
あれだ、娘がチャラチャラしてガム噛んだチャラ男を連れてくるようなもんだぞ。
「ボクも一緒に行く! ももちゃんの家に行ってみたい」
「ああ! 小雪もこい、何なら今から行くか?」
ん? よくない話の流れな予感。
「モモさんの家って川神院だよなー、なんか少し気後れするっちゃするな」
「でも、中々ない機会かもしれませんよ? 川神院は高名な寺院ですが、友達の家として見るとまた別の面が見えて面白そうです」
準と冬馬も反対ではなさそう。うーん、どうしたもんかねぇ。
「なぁ、修二。一緒に来てくれないか?」
百代ちゃんが少しうるんだ瞳で求めるようにこっちを見てくる。
その瞳に逆らえる男は居ないと思うんだ。ちょっと卑怯だ。
「ほっほっほ、よく来たのぉ。百代が友達を連れてくるなんて初めてかもしれんからのぉ、ゆっくりしていっておくれ」
「あっはい」
百代ちゃんのお爺ちゃんって、護廷十三隊の総隊長だったんだ。初めて知ったわ。
「やっぱり、ひろいなー。モモちゃん家」
「そうだなー、やっぱり修行僧たちも住み込みで鍛錬してるからあっちの離れの方がその人たちの住んでる場所になるんだ」
「へー。あ! 準がたくさん居るよ!」
「ハゲてるけど違いますっ!!」
「アハハハハハ!」
「ふふっ……すいません、準……少し面白かったので……ふふっ」
「若ぁ……」
やっぱり、武の総本山とか言うだけあって、それなりに腕の立ちそうなやつらが集まってんのなー。あのジャージのジャッキーもどきとかは俺でも勝てるか危ういわ。
「君が織原修二君かの」
「……あっはい」
後ろに回り込まれたのに気配を全く感じなかったんですけどこの爺さん。
「百代から聞いたが、交際しておるというのは本当かな?」
「まあ、そういうことになるかねぇ。百代ちゃんもその気だし、俺も悪くはないとは思ってるし。ま、ガキの遊びの延長戦だが、悪いようにゃしねぇよ」
正直、誰それと付き合うとか。言葉でしかないと思うしねぇ。大事なのは名より実だと思うのよね。
「ふぅむ……」
爺さんは何かを考え込むように髭を撫でる。
「釈迦堂のようにも見えるが、随分と素直にも見えるのぉ。いや、野性的とでもいうのか、まるで獣に育てられたかのようじゃのぉ」
「おい、何勝手に人を分析してやがる」
「おぉ、すまんすまん。百代の彼氏がどんな人となりか気になっての」
年季の入ったしわくちゃの顔の癖に、いやに覇気がありやがる。なんだ、こんな爺さんどっかで会ったぞ。なんかキックで百人くらいなぎ倒しそうな髭爺だった気がする。
金色の髭でビリビリ帯電しそうな爺さんでもあったな。
「あの爺と同類かよぉ……」
「ふぉっふぉっふぉ、ヒュームから少し程度は聞いておっての。獰猛な小型犬とな」
「ぐぁあああ、あの爺めぇ。どっか行ったと思ったらこれだ」
大魔王からは逃げられないってか? ふぁっく、ぜってぇ逃げ出してやる。
「俺はハンサムなドーベルマンなんだよ、そこらの柴犬と一緒にするんじゃねぇ」
「調子が出てきたようじゃのぉ。どうじゃ? どうせならウチの門弟たちと組手でもしていかんか?」
「パスで、無駄な労力は払わない主義なの。それよか遊んでた方が楽しいしな」
小雪ちゃんたちは百代ちゃんたちの案内でお家探検に向かったようだ。俺を置いていくとか、扱いがひどくないか? それとも爺とのランデブーに気を遣ったってか? そんな気は遣ってほしくなかった。
「まあ、百代が騙されてるわけでもないようじゃしの。ひとまずは健全なお付き合いを頼んじゃよ」
「プラトニックなお付き合いよりもエスニックなお付き合いに定評があるんだがねぇ。まあ、まだ勃たねぇから……うん」
「……………すまん」
「ええんや……」
爺さんが慰めるように背中をさすってくる。
触んなボケ。泣いてなんかないやい。
準が修行僧と間違えられて鍛錬に強制参加されたりしたが、百代ちゃん家訪問はおおむね大団円で終わった。
「モモちゃんの家、楽しかったなぁ。それに武道ってかっこよかったし」
小雪ちゃんも小雪ちゃんでご満足なご様子。しゅびしゅびと足を繰り出したりして遊んでる。
「筋肉が……いつつ……明日は絶対筋肉痛だぞ……」
「家に帰ったら父さんたちに筋肉痛に効く薬をもらいましょうか」
「あー! しゅーじー!」
五人で河川敷の近くを歩いていたら、帰り道だったのか、正面から一子ちゃんが走ってやってきた。
「おー、よー、一子ちゃん。帰りか?」
「うん、修二も? そっちの人たちは友だち?」
「ああ。小雪ちゃんと冬馬とハゲだ」
俺だけハゲじゃねぇか! とかなんか煩いハゲは放っておく。
「初めまして、一子さん。葵冬馬と言います。よろしくお願いしますね」
「こ、小雪だよ……」
「ほーら! わしゃわしゃしてやるぞ!」
「きゃー!」
俺は一子ちゃんを抱き上げ、犬をかわいがるように撫でまわす。一子ちゃんは悲鳴を上げるもまんざらでもないご様子。
「んー、どうせなら一子ちゃんの家のおばあちゃんに顔を出しに行くか」
「修二、家に来るの! やった、おばあちゃんも喜ぶわ!」
「それじゃあ、今日のところはここで解散ですかね」
冬馬がそう言い、準を連れて家路へと向かう。
「小雪ちゃん、どうせなら一緒来るかい? 一子ちゃんもいいだろ?」
「私はいいけど……おばあちゃんが」
「あのばあちゃんなら喜ぶさね。せめて、喰いもん持ってくか。ほれ、行くぞ小雪ちゃん」
「え……あ……うん」
俺だけならともかく、小雪ちゃんも遊びに行くとなるとなぁ。流石に手ぶらは俺の良心が痛む、特にあの善良を絵に描いたおばあちゃんだと。
「おやおや、修二君もすみにおけないねぇ」
「ま、俺くらいのいい男なら自然と女が集まっちゃうのさね」
ほんと、あったかい場所だなと思う。一子ちゃんがあんだけ無邪気で無防備な女の子になったのも分かるってもんだ。
「小雪ちゃんだったかい? 何にもないところだけど、ゆっくりしていってね」
「……うん」
俺たち以外にはビビりまくりになる小雪ちゃんも、おばあちゃん相手なら大丈夫そうだな。
「んで、また勉強を見てほしいのか? 一子ちゃんよ」
「うー、せっかく遊びに来たのに。お勉強~?」
不満たらたらと言った感じの一子ちゃん。一子ちゃん、覚えは悪い訳じゃないから、やる気出せばいいのにねぇ。
ちなみに、小雪ちゃんは天才型だから、ろくに勉強しなくても授業聞くだけで問題はなさそうだ。まあ、今まではまともに授業も受けれなかったみたいだけどな。
「保健体育の実習をしたいと思います」
「保健体育? 体育じゃないの?」
「小雪ちゃーん、昨日の続きするよー。今度は一子ちゃんも一緒だ」
ぐへへへ、両手に花とはこのことよ。今日はどこまでしよかなー。
善良なおばあちゃんの家でその孫を好き放題するなんて、背徳感がビンビンで昂ってくる。
女の子は甘いお菓子でした。
「なー、ばあちゃんさ。もう一人くらい、子ども見る余裕ってある?」
「そうねぇ……ちょっと無理をすればいけないこともないけれど」
流石に無理か。うーん、あんまりこのおばあちゃんの優しさにつけ込むのは嫌だし、九鬼に借りというか、しこりを作るのも嫌だしなぁ。
「修二君」
「おん?」
「好きなようにしんさい。それで困ったら、うちにおいで」
ほんと、おばあちゃんの目は、節穴だねぇ……。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
独自の設定なども出てきたので、タグの方に独自設定を追加したいと思います。
不定期更新ですが、できる限り次も早く行使できるように頑張ります。
これからもよろしくお願いします。