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第29話となります。
どうぞ、駄文ですがよろしくお願いいたします。
「さて、全部、台無しになっちまったね」
崩壊してまるで世紀末のような有様になった学校を見下ろしながら、マープルの婆はさして残念そうでもなくそう告げる。
「清楚、そして項羽、全部教えてやるよ。武士道プランの本当の計画を」
「んだよ、追い詰められた殺人犯の告白なら、岬って相場が決まってんだろ。蹴り落としてやるから、そっち行こうぜ?」
「お黙り、織原ボーイ。大事なところなんだよ」
へいへい。なんかしみったれた話でもしそうだから、空気軽くしようってのによ。まあ? 今更しおらしくなっても、隙がありゃあケツ蹴り上げてやるがな。
「清楚、私があんたらを作ったのは、いつも言ってた若者たちと競い合わせるためなんかじゃあないんだよ。あんたたちの生まれた意味は、もっと大局的なものだ」
「……私たちの、生まれた意味……」
ある意味で、清楚ちゃんたちの真のルーツ。作られた命である彼女たちの持つ、至上命題とも言える武士道プランの本当の目的。
「それは、あんたたちが世界をより良く統べる者となること。より良い世界へと導く指導者となるためだよ」
それはとても独善的で、自己中心的な理想。世界の未来に、若者に期待を抱かなかった天才が老いてたどり着いた狂気。
ほんと、ふざけてやがるぜ。骨董品のような婆が余計なお世話だってんだ。
目の前の清楚ちゃんたちを、この時代に生きている者たちを、全てを馬鹿にするような計画。クローンがどうのとか、そう言う次元じゃなく世界への宣戦布告にも等しい愚行。
「だから、アンタは王として。義経たちは将として。そういう理由でアンタらは選ばれて、生み出されたんだよ」
「だから、私は項羽だったの?」
「そうだね。このダメになっていく世界を引っ張っていくには、覇王という気質が必要だった。あんたには、世界を引っ張っていくだけの力があるんだよ」
「そっか、何となく、マープルが考えてることが分かった気がしました」
自身の生み出された真の理由を知っても、清楚ちゃんは微笑んだ。
「でも、ごめんなさい。私たちは、そのために生きることはできません」
きっと、清楚ちゃんが言う私たちには、項羽ちゃんだけじゃなく、義経ちゃんたちも含んでるのだろう。
「私たちの人生は、英雄としてじゃなくて、ただの清楚と項羽として生きます。あなたが望む英雄として、定められた道を進むことはできません」
それは当たり前のこと。ただの己として生きていくということ。
「……やれやれ、花が芽吹くみたいに、一気にでかくなっちまって。やっぱり、英雄だね、アンタは。何だか、独り立ちする子どもを見送る親の気分だよ」
「親としては不合格も甚だしいがな。てか、どうすんのよ。リアル世界征服考えてたんだろ?」
マープルは困ったように、だが、嬉しくもあるような、そんな顔をしていた。その顔を見て、俺も少しはこの婆さんが血の通った人間であるのだと思った。
清楚ちゃんを、義経ちゃんたちを大事なクローンとしてだけじゃなくて、少なくとも親代わり程度のことはしてやってたんだろうな。
「中止だよ中止。アンタみたいなのがいる限り、世界相手取っても、勝てないってのが分かったからね。ほんと、ふざけた餓鬼だよ。全部台無しにしてくれて」
「くはは、安心しろよ。俺の気に入らねぇことしてたら、またカチコミに来てやるからよ?」
もし俺が居なかったとしても、世界を取るなんて無理だったろうな。目の前の婆には、世界を相手取れる知識も知恵もあったし、財力や武力も用意できたんだろう。
しかし、圧倒的に人望が足りない。その思想が人を心酔させれるものではない。そうであるなら、やがてその勢いは失速する。人間、何かをするには理由が必要な面倒くさい生き方がデフォだからな。
この婆さんに喧嘩を売る機会が次あるかは分からんが、まあそん時はそん時はだ。
「武士道プランは表向きの計画通り、若者との競争による相乗効果を目的とした平和な企画に終わるだろうよ。満足かい? 織原ボーイ」
「んー、婆が拗ねても可愛かねぇが、いいんじゃねぇの?」
好きにすりゃあいいんじゃねぇの? 俺も気に入らねぇからって、好きにしただけだし。
ま、取り返しのつかないとこに行き着く前で良かったんじゃねぇの? 清楚ちゃんたち巻き込んで婆さん爆散するとか洒落にもなりゃしねぇ。
俺は婆さんから目を離し、空を見上げる。あーあー、もうこんな時間だよ。楽しみにしてたドラマ見逃しちゃったじゃねぇかクソッタレめ。
「あー、流石に疲れたわ。カレー作る元気もありゃしねぇ」
「ふふふ、それはまた今度にね。よいしょっと」
清楚ちゃんが掛け声を一つ、俺の体が浮き上がる。
俺の身体は清楚ちゃんの腕の中に納まっており、いわゆるお姫様だっこの形で運ばれていた。
清楚ちゃんのやわっこい体を堪能できるのは最高だが、ちょっとばかり格好がつかない。まあ、抵抗する力すらも今はないのだが。
「あー、清楚ちゃんって、前から思ってたけど、意外と押せ押せだよね?」
「だって、覇王だもの」
さいですか。
あー、ただ、人に運ばれてる時の揺れって、眠りに誘う心地よさがあるよなぁ。
清楚ちゃんなら、フィジカル的にも落としたりもしないだろ……。
「……」
「おやすみなさい、私たちの
目を閉じた俺の頬に、二度、熱が触れた感触があった。
「おい、兄貴。この前、何があったんだよ」
爺と婆の襲撃という最低のイベントから、早いもので一週間も経っていた。そこで俺はまた、いつぞやの堤防で釣り糸を垂らしていた。
あの時、与一たちのところには九鬼の従者部隊が来て、避難というか、現場に向かわないように言いつけられてたらしい。
ちなみに、今現在遠くの方では義経ちゃんと弁慶ちゃんが同じように釣りに興じている。その後ろでは、パラソルの下で清楚ちゃんが、ニコニコと俺たちを見守っていた。
「あん? 別に大したことはねぇよ。清楚ちゃんが覚醒したり、ヒュームの爺が襲ってきたり、それを清楚ちゃんとの合体技で倒したりした程度だよ」
「いや、マジで何があったんだよ」
いや、俺からしてもなんであんなことになったのか分かんねぇよ。爺とやり合うのはもっと先だと思ってたんだよ、具体的に言うなら高校生辺りで。
ぶっちゃけ言えば、まだ体の出来上がりが不十分なんだよなぁ。小学生のころと比べりゃ、そりゃあ身体も出来上がって来てるが、それでも大人の身体とは言い難い。
百代ちゃんも俺も、体が出来上がっていくと一緒に気の総量も馬鹿みてぇに増えてきてるしなぁ。てか、百代ちゃんが暴れたとき俺か鉄心の爺さんしか宥められんの、下手しなくても爆弾じゃね?
「とりあえず、あの日から兄貴と葉桜先輩の距離感っていうか、葉桜先輩側からの距離の詰め方が露骨なんだよ」
「まあ、あの子は一人で二人分のパッションを持ってるからなぁ」
真逆のようで似ている二人を同時に相手せにゃならんから、意外と体力つかうんだよな。まあ、それも可愛いところだと思えば、全然気にならんがの。
たぶんだけど、清楚ちゃんと項羽ちゃんなら百代ちゃんとかのレベルまでパワーアップするんだろうなぁ。ほんと、俺はラブコメしたいんだけど、バトル漫画の住民になった覚えはないんだけど?
「兄貴よ、あんた、そろそろここから出ていくつもりなんだろ?」
「んー? まあ、そうだなぁ。そろそろこの辺りで釣れる大物は釣り終えたし。場所を変えるか」
与一は今日はボウズらしく、バケツの中には一匹も魚が入っていない。俺はそこそこに釣果があるが、なんか小魚ばかりだ。ていうか、向こうではしゃいでる女子たち、たらい持ってね? え? もしかしてアレに魚入れてんの? どんだけ釣ってんの?
かー、全部あっちに持ってかれてんのか。女好きの魚ばっかかよ。
まあ、義経ちゃんや弁慶ちゃんは、また今度の機会だな。特上の餌を用意して一本釣りしてやんよ。
とりあえず、今はやりたいこと一通りやり終えたしな。
「もう少しくらい、この島に居てもいいんじゃねぇか? 葉桜先輩も、俺たちも兄貴と一緒に居るのが楽しいんだ」
おいおい、そんなしけた面してんなよ。俺は男になつかれても蹴り飛ばすだけなんだが、まあ、今回は勘弁してやるか。
それにしても、随分と短期間で好感度上がったもんだ。それだけ思春期だったんだろうな。
「……そうさなぁ。あの婆がお前たちがこの島から出すのがいつ頃かは知らんが、少なくとも中学生の間じゃねぇだろうな」
だが、もう二度と会えないわけじゃない。意外と近いもんだぜ? 川神とこの小笠原。
「さて、と」
俺は釣り糸を巻き取り、適当にその辺に置く。どこまでも広がる青い空と、綺麗な空気と輝く水面、いい場所だ。この島は優しい場所だった。
楽しい一夏だったろ? また遊ぼうや。
「何年後になるか分からねぇが、また会おうぜ、
俺は釣り竿と、少しの魚が入っただけのバケツを残して、その島から姿を消した。
「とまぁ、そんな感じでなんとかなったぜ。おら、酒寄こせ」
「そうかい。まあ、やるじゃねぇか。ヒュームに助っ人つきとは言え勝ちを拾うとはよ。おら、つまみ寄こせ」
九鬼極東本部ビルの最上階、社長室と銘打った帝の私室。
俺がつまみを帝に放り投げ、帝は酒瓶を俺に放ってくる。俺は酒瓶のままラッパ飲みし、帝はビーフジャーキーを歯で嚙みちぎる。
「くっそつらかったんやが、まじで。てか、帝っちはヒュームの爺が出張ること知ってたんだろ?」
ぶっちゃけ、どうせ全部最初っからある程度どうなるか予想ついてたんだろう。俺が清楚ちゃんたちを焚きつけることも、あの婆がそれを排除するために動き出すことも。
「ん? まあな、俺が動けばマープルも対抗して動くだろ」
「ファック。やっぱ一発殴らせろ」
こっちもそのことについても承知だが、そうぬけぬけと言われるとめっちゃ腹立つ。
俺が拳を握るのに対しても、帝は飄々と笑いながら今度はチーカマを頬張る。
「だが、相変わらず手の早いこって、葉桜清楚を落としたんだろ?」
「あん? なんだよ、藪から棒に。人の色恋に興味津々ってキャラでもないだろうに」
てか、まだ手は出してねぇよ。まあ、将来また会ったときに美味しくいただこうとは思ってるが。
「英雄のクローンすら躊躇いなく口説き落とす、どんだけ女好きなんだよって思ってな」
「男の子はいつの時代でも女に弱いんだよ。帝だって、不倫経験者だろ?」
「げほっげほっ、お前ばっ、お前、マジその話題やめろや」
俺が帝の下事情について突っ込むと、珍しく取り乱したように噎せてこちらに胡乱な目を向けてくる。
俺はこれ幸いにと、帝のやらかしについてそれはもう自分でもいい笑顔だろうなって思う顔でからかってやる。
「けっひゃっひゃっ、避妊し損ねた帝くんよぉ。嫁さんにバレたときの気分はどうでしたかぁ?」
「うっぜぇ! おい誰かこの下種を殴ってくんねぇかなぁ!? てかてめぇの方が浮気しまくりじゃねぇか! 知ってんだからな、ウチのメイドにも手ぇ出そうとしてるって! てか、松永とか忍足には既に手ェ出してんだろうが!」
「ばっきゃろー! 最近入った中華風の美女とか金髪ロックなアメリカン美女とか、あんな上玉居たら声かけねぇ訳にはいかねぇだろうが! それに、ミサゴちゃんとあずみちゃんはメイドになる前から手を出してるのでセーフでーす!」
最近、九鬼に若手が増えてきてるが、どいつもこいつも粒ぞろいで、流石天下の九鬼ってところか。美男美女揃い、適当に声をかけても外れがないってやべーな、なんか最近は危険人物扱いで俺の情報が回ってるみたいだけど。
「てか、お前んのとこ、見た目も審査基準に入れてんのか?」
「そんなことはねぇが、まあ、有能かどうかが一番だよ。てか、その辺の人事は人事部に一任してるよ」
人事部の職員は面食いなのだろうか。うむ、俺の目の保養のためにも、ぜひともそのままの審査基準で居てほしいものだ。
「ぷはぁ、あー、何の話をしてたっけか。ああ、そうそう。ひとまず貸し借りゼロだな。いや、むしろおれの方が貸してんじゃね? 労力的に」
「がめつい奴だぜ。ノーだノー。お前だって好き勝手してるんだから、これ以上はいいだろ? 衣食住提供してる俺にもっと感謝しやがれ」
「ちっ、まあいいや。とりあえず、清楚ちゃんたちはいつごろ公表する予定なんだ?」
流石に通らねぇか。まあ、ごねるようなもんでもねぇし、別にいっか。
とりあえず、武士道プランの公表時期は知っておかねぇとな。その時期に俺が居なかったら、つまんねぇし。
「なんだ、気になんのか? 一応は下の奴らが高校二年生になったらっつー予定だな。大人と子供の間、そこで若者たちと交流させるんだとよ」
「ま、いいんじゃねぇの? その頃には清楚ちゃんたちも熟れてるだろ。ちょうどいい食べ頃にな」
あの清楚な女の子と、気高い覇王様がどうなってるか。今からでも楽しみでしょうがない。
「お前ほんとそればっかだな」
「いいだろ? いい男には、いい女が必要なんだ」
そう、極上の男である俺には、極上の女が似合うのだ。
「いい男ねぇ。悪ぃが、鏡がねぇから今は見えねぇや」
「かはは、ボコすぞ」
俺と帝は、そんな調子で酔いつぶれるまで、酒を飲み、騒ぎ、部屋を散らかしまわした。
翌朝、クラウディオの爺さんにめっちゃ説教食らった。二日酔いの頭を、正論で殴らんでくれ……。
二度と酒は飲まねぇぞ、くそ。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
今回でいったんクローン編はおしまいとなります。
今回は清楚ちゃんと項羽ちゃんがメインで義経ちゃんと弁慶ちゃんがチョイ役でしたが、今後で彼女たちもいっぱい書ければと思います。
中学生時期の物語をあと一つ挟むか、原作時期に入るか。その辺りをちょっと悩みながら、ヒロインたちとどんなイベントを起こさせてあげようかなと考えております。
あ、我が姫のヒロイン可愛いですよね。私はアレクちゃんが好きです、ルートはよ。
さて、長くならないうちにこの辺りで。
どうぞこれからもよろしくお願いいたします。