真剣で人生を謳歌しなさい!   作:怪盗K

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皆さま、おはこんばんにちは。

お気に入り、評価、誤字報告ありがとうございます。
お待たせしました、第26話となります。

それでは、駄文ですが、どうぞよろしくお願いします。


第26話

 煌めく白刃が空を走り、世界が斬られたの如く静止する。鍔が鯉口と打ち合った音が鳴り、世界が再び動き出す。

 義経の目の前に置かれた巻藁が、綺麗な切断面を見せながら崩れ落ちる。

 

 

「ヒューッ」

 

 

 生まれながらにして、最高のスペックが約束されていやがる。

 そんな義経の一太刀を見て、俺は口笛を吹く。それとともに、どうすっかなと頭をポリポリと掻く。

 

 

「修二君! 修二君! どうだった!」

「すげぇなぁ。純正な剣士と立ち会ったことはねぇが、義経ちゃんが随分な使い手だってのは分かった」

 

 

 自己紹介を兼ねた特技披露、義経の演武という見世物は、俺に英雄のクローンという現実を見せつけるには十分だった。この前までランドセル背負ってるはずの年齢だったってのに、一端の武芸者という風格を出してやがる。

 

 

 

「さて、それじゃあ次は私、って言いたいんだけど、正直特に何もないんだよねー。だからパース」

 

 

 お茶らけた様子で弁慶は、手をひらひらと振る。

 

 

「弁慶、せっかく修二君にいいところを見せれるチャンスなんだぞ、いいのか?」

「うーん、主がそう言うなら、ちょっとだけ」

 

 

 そういうと、弁慶は義経が真っ二つに斬った巻藁でお手玉をしだす。はるか頭上、十メートルくらいの高さまで放り投げながらも、握力と腕力だけで軽々と扱って見せた。

 パワータイプかよ、重ねたトランプとか捩じりとれねぇかな。まだ、やるかいとか、そんなこと言ってみてほしい。

 

 

「んじゃ、俺もそろそろ見せてもらうだけじゃなくて、見せてやるか」

 

 

 俺は手のひらを握りしめ、開く。その手には最中がいくつか握られている。

 

 

「ほーら、義経ちゃんにプレゼントだ」

「おお! すごいな、いったいどっから出したんだ? 修二君」

「弁慶ちゃんはなんかリクエストあるかい? だいたいのもんは出せるぜ?」

 

 

 端から見ればただの手品だが、実際は種も仕掛けもない超能力だ。

 

 

「ん~、そんじゃ、ビーフジャーキーで」

「お茶の子さいさいってな。ほれ、コンビニのあるやつだが、たまにはいいだろ?」

「……ありえねぇ。なんだ、俺が見逃したってのか」

「ふーん、与一が見逃すって、なかなかやるねぇ」

 

 

 与一には駄菓子の詰め合わせを、清楚ちゃんには中華まんを。

 

 

「実はこれは手品じゃなくて、超能力なんだよナァ。食べ物を手から出せる程度の能力ってか」

「マジかよ、マジもんの超能力……?」

「んまあ、中国の専門家たちが言うには、異能ってカテゴリらしいからな」

 

 

 厨二病の与一くんはガチの超能力にビビってしまったようだが、まあ、でも微妙ぞ。この能力、どうせならもっとチートっぽい能力がよかったわ。どうせなら異世界転生テンプレセットとか欲しかったわ。

 

 

「ま、ぶっちゃけしょぼいがな。宴会芸にしちゃあ、微妙だし」

「そんなことないぞ、修二君! とっても素敵な力だと、義経は思う」

「つまみには困らなさそうだし、私としちゃあ羨ましいけどね」

 

 

 つまみって……弁慶ちゃんアンタねぇ。

 義経ちゃんたちには、おおむね好印象のようだ。与一はなんか、衝撃を受けてしまってるようだが、駄菓子じゃ気に入らなかったか? もー、贅沢な子だね。しょうがない、今日だけ記念でハーゲンダッツをあげよう。

 

 

「でも、なんで私には中華まんなんだろ」

「え、故郷にちなんだがいいかなって」

「え?」

「え?」

 

 

 清楚ちゃんの反応を見て、俺はインコのように同じ声を返してしまう。

 そういや、秘密にしてたんだっけか。

 まあ、別にいっか。どうせなら、そのうちぶちまけても良いんじゃね?

 

 

「あー、とりあえず、この後どっか飯食いに行くか? せっかくだしパーチ―しようぜ、パーチ―」

「スルー!? 無理だよ!? ちょっとあんまりにもあんまりな暴露じゃない!?」

 

 

 清楚ちゃんが慌てた様子で俺に詰め寄ってくる。柑橘を思わせる良い匂いが、ふわりと舞う黒髪とともに振りまかれる。

 いやー、これはしまったしまった。つい口が滑っちゃったなー。大人たちが大事に大事に隠してきたもん、チラ見せさせっちゃったなー。

 

 

「え、もしかして、修二君、私が誰のクローンか知ってるの?」

「あー、まあ、知りたきゃ教えてもいいけど……その、もうちょっと、好感度稼いでからじゃないと……」

 

 

 でも、ただ教えてやるのもそれはそれで芸がない。どうせなら楽しめそうな方にやろう。清楚ちゃんには悪いが、もう少し頑張ってもらおう。

 

 

「なにその与一君がしてるゲームみたいなシステム!? 」

「ちょ!? 何故知ってる!?」

 

 

 与一くんも中々に思春期をしているようで結構結構。まあ、とりあえず、釣り針垂らすのはこれでいいだろ。俺はいつだって、超絶美少女という大きな魚を釣り上げるフィッシャーなのだ。

 

 

「んじゃ、清楚ちゃん。教えてほしかったら、デートとか恋愛イベント重ねて、俺の好感度を上げるんだな。攻略方法とかは与一くんにアドヴァイスしてもらうといい」

「ほんと!? 約束! 約束だからね。絶対教えてくれるんだよね! 与一君ちょっとこっちきて!」

「ちょ、力つよっ、グエッ──」

「お、おう……俺様嘘つかナイ、ハンサム嘘つかないヨー」

 

 

 お、思った以上に食いつきやがった。なんだこの暴れ、俺、釣りはじっくりと楽しむ派なんだが。

 まあ、それだけ自分のルーツが気になるんだろうねぇ。物静かな文学少女だったのに、根はしっかりとした我の強さがあるじゃあねぇか。

 

 

「修二君が来て、一気に賑やかになったな。義経たちは、修二君を歓迎するぞ」

「ま、俺は最高峰のエンターテイナーだからな。賑やかしはお手のもんよ」

 

 

 その後は義経ちゃんたちは島内の小さな喫茶店で、ささやかな俺の歓迎会を開いてくれた。隣の席には清楚ちゃんが陣取り、趣味とか特技とかを質問攻めしてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 葉桜清楚という人物は、穏やかで読書好きな文学少女。帝から渡された資料にも同様のことが書いてあったし、実際彼女は本を読むのが好きなのだろう。名は体を表すというばかりの、物静かな文学少女かとも思ったが、随分と普通の等身大の女の子だった。

 しかしまぁ、清楚ちゃんも自分のこと争い事や暴力とは程遠い場所にいると考え、自分は文化人のクローンと思っていた。そんなところに、ぼんやりと、しかし心の奥底にこびりついた自身の正体への疑念を、ちょこっと俺は刺激してやった。

 

 そんな初顔合わせの翌日から、清楚ちゃんは俺を籠絡しようと必死にアプローチをかけてきている。アドバイザー与一君は何を言ったのか、手作りのお菓子を作ってきたり、デートに誘ってきたりと、健気に俺の好感度を稼いでる。

 でも実際、顔を赤らめながら男をお茶に誘う彼女の様子はそれだけで値千金の価値があるだろう。

 

 

「お前は一体、何考えてんだよ、織原修二」

「んー? 別に、ただ面白そうだから、ちょっとからかってるだけだぜ」

 

 

 正直、会って始めてわかることもあるもんだ。英雄のクローンだのなんだの言っても、まあまあ九鬼もまともな情操教育してるみたいでなによりだ。

 

 

「まあ、安心しろよ、与一。清楚ちゃんの正体について知ってるのは本当だよ、教えるつもりもあるのもな」

「なら良いけどよ……」

 

 

 学校が休みの日、俺は与一を連れ出して堤防で釣り糸を垂らしていた。

 青空の元、心地よい春風を感じながら、のんびりと釣りをする。最近どころか、川神に迷い込んでから随分とこんな穏やかな時間を過ごすのが久しぶりだ。

 まじでなんでこんなイベントが目白押しだったんだ?

 

 

「まあとりあえず、与一よ。お前って、義経達にムラムラしねぇの? 毎日一緒に居るんだろ?」

「ブッ!? おま、何言ってんだよ!」

「いや、だって、お前弁慶ちゃんは言わずもながだが、義経ちゃんや清楚ちゃんも超可愛いじゃん、セッ●スしたいって思わねぇの?」

「思うか馬鹿! 生まれた時から一緒なんだぞ。義経は俺たちの主だし、姉御はゴリラだから恋愛対象外。葉桜先輩もそんな対象に見れねぇよ」

 

 

 お前ホモなん? という言葉が思い浮かんだが、なんか口に出したらガチっぽくなりそうなのでやめておく。とりあえず、後でゴリラのことは弁慶ちゃんにチクッておくか。

 

 

「つまんねーなー、そんなもんか」

「突然ぶっ飛んだ話しといて、その言いざまかよ。というか、一つ聞きたかったんだが」

 

 

 俺はリールを巻き取り、一度針を引き上げる。餌を食い逃げされており、いそいそとミミズを針へと付けなおす。

 

 

「んー、なんだ?」

「お前は一体何者だ? 少なくとも、只者じゃあねぇだろ」

 

 

 いつの間にか、与一の手には釣り竿ではなく、弓が持っているらしく、ギリギリと弦の鳴る音が肩越しに聞こえる。与一の身体に流れる気が膨れ上がり、波が引く様に絞られた矢へと集められる。

 義経ちゃんの演武や弁慶ちゃんのお手玉見たときも思ったが、やっぱスペックたけぇなぁ。

 

 

「織原修二、怪しすぎるんだよ。普通の学生と積極的に交流するためって話だが、今までそんな話が出たことは無かったし、学校も違うし人数も少ないが、同年代はこの島にいない訳じゃない」

 

 

 まあ、ぶっちゃけ帝の急なねじ込みだから、仕方ねぇわな。でも俺そんな怪しいか?

 お、魚がかかった。

 

 

「与一よぉ、俺が何者かそんなに重要か? 九鬼の手の者、外部からのスパイ、傭兵、殺し屋。有り得そうなのから、ぶっ飛んだの、いろんな可能性があるな」

「何が言いたい。俺の矢はもう、いつでも撃てるんだぜ」

「ようは、俺がどこのどいつかってことより、何をしに来たのかの方が重要だろってことだよ」

「じゃあ、お前の目的は何なんだよ」

 

 

 目的かぁ、そうさねぇ。

 

 

「義経ちゃんたちとセッ●スしてぇなぁ」

 

 

 偽らざる本音であった。

 

 

「アホかお前!? ここに来てそんな俗な回答するか普通!? てかお前そんなこと考えてたのか!?」

「いやだってヨォ、可愛い子が居たらセッ●スしたい。これって、原始の欲求じゃん? 大事なことだと思うのよ、俺は。ほら、種の繁栄って全人類の責務じゃん?」

「原始過ぎてもはや原始人なんだよ! 現代人じゃないなら石器時代に帰ってもらえねぇかな!」

「まあ、冗談は置いといて。まあ、帝と俺は仲良くてな、友達少ないお前らと友だちになってくれって頼まれたんだわ」

 

 

 目的の九割は性欲由来だがな。

 

 

「会ってみれば、思った以上に面白そうな奴らだったからな。もっと面白くしてやろうって考えてる訳だ」

「……」

「なあ、与一よ。お前たちクローンは何のために作られたと思う?」

 

 

 源義経、武蔵坊弁慶、那須与一。そして、西楚の覇王。

 目的を持って、マープルとかいう婆さんの作った命。作られた命は生まれた命と違い、何かを求められるもんだ。

 

 

「九鬼は、偉人のクローンであるお前たちを求めるだろう。お前たちの名前の前には、必ず偉人のクローンって言葉を付けてな。俺はそいつが気に入らねぇんだよ」

「なるほどな……お前が馬鹿だってことは分かった」

「そうか? まあ、とりあえず、クローンだ何だとチヤホヤされてる、これからされるお前らの鼻っ面をぶん殴りに来たんだよ」

 

 

 与一は大きくため息をつき、弓を下ろす。弓矢をそばに置き、釣り竿を再び手に取る。

 余計なことを言いすぎたな。柄じゃなく説教くさくなっていけねぇいけねぇ。

 

 

「世界一のハンサムな俺からすりゃあ、お前が誰のクローンだろうが、どんだけ偉人とおんなじだろうが、どーでも良いんだよ。義経ちゃんは義経ちゃん、弁慶ちゃんは弁慶ちゃん、お前はただの与一。んで、清楚ちゃんは項羽ってだけだ」

「そうか……アンタからすれば、俺はただの中学生……か」

「ああ、思春期真っ盛り、悩みもする、はしゃぎもするし、グレたりもする、ただの那須与一だよ」

「……ありがとよ、兄貴」

 

 

 与一はまた釣り糸を垂らし始める。

 兄貴か、そう呼ばれるのも、悪かねぇな。

 

 

「ん? ちょっと待て、こうう? え? ……え!?」

 

 

 おっと、また口が滑っちまったようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side:那須与一

 

 

 自分は何故産まれたのか。

 小さい頃は気にもならなかったその事について、少しずつ考えるようになった。平安時代の英雄、那須与一のクローンである俺は、一体何のために生み出されたのか。

 マープルや九鬼の人間に聞けば、過去の偉人と今の若者を交流させることで、お互いに切磋琢磨させるためだと言われた。

 

 九鬼は大企業だ。望めば大体のものは与えられるし、偉人のクローンとして全員優れた能力を持っている。

 

 主人は単純とも言えるが、素直に自分の境遇を恵まれていると受け入れ、その恩に報いるために日々を邁進する。姉御もそれに従い、日々を過ごしている。

 俺も素直に、その後ろをついていければ、どんなによかっただろうか。俺はそこまで、良い子になれなかった。

 俺は那須与一じゃなくて、那須与一のクローンだった。周囲がそう求めてたから、そうならざるを得なかった。

 

 

「与一君。男の子って、やっぱり肉じゃがが好きなのかな。カレーとどっちが好きかな?」

 

 

 葉桜清楚先輩。俺たちと同じクローンでありながら、その正体を秘密にされている、俺たちの家族。

 兄貴からその正体を暴露され、正直に言えば顔を合わせずらい。彼女が昔から自身の正体を気にかけていることを、知ってる身からすれば。

 

 

「あー、兄貴ならどっちも好きだと思いますよ。てか、好き嫌いとかなさそうですし。いっそ、両方とも作ったら良いかもしれませんね」

「そっか。たしかに修二くん、いつもたくさん食べてるもんね。ありがとう、与一君」

 

 

 手を振って台所へと向かう葉桜先輩に、俺は少し冷や汗をかく。もし兄貴が言った正体だとしたら、兄貴はそのうち殺されるのでは無いだろうか。

 ……何だか、あの人殺しても死ななそうだな。

 

 

「まあ、何とかなるだろ。兄貴なら」

 

 

 俺は俺だ。ただの那須与一だ。そう思っただけでも、気が楽になる。

 明日が楽しみだ、兄貴がまた馬鹿やってくれる気がするから。




ここまで読んでいただかありがとうございます。

あれ? ヒロインは与一君だったっけ? と思いながらも、クローン組で一番クローンであることに苦悩してるのが与一君だったので今回は与一君にフォーカスしました。

清楚ちゃんマジ西楚とバラしていこうとするスタイルの主人公、彼は覇王の攻勢を乗り切れるのか。

では、これからもよろしくお願いします。

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