真剣で人生を謳歌しなさい!   作:怪盗K

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お待たせいたしました。

感想、評価、お気に入りありがとうございます。

これより中学生編となります。
では、駄文ですがどうぞよろしくお願いいたします。


2021.11.15 冒頭での過去回想を改変


中学生編
第25話


 中学生に上がるまでの間に、色々なことがあった。それはもう、それだけで長編を何部か書けてしまうくらいには事件に巻き込まれた。

 

 史文恭ちゃんの誘いに乗って、いつものメンバーで中国に行けばマフィアの抗争に何故か俺だけ巻き込まれた。何でか手を組んだ敵対組織同士のマフィアから山中へと逃げ込んだら、少女に絡んでたロリコン虎と一夜のランデブー。そしたらお代わりだと言わんばかりに、追っ手に傭兵が増える始末。

 なんでや、むしろ俺人助けしたんやけど。

 

 超絶不幸ガールと一緒に歩いてたら、隕石が地球に落ちてきてそれを何とかぶっ壊したのはよかったが、またしても死にかけた上に、頭の中身までぶっ飛んで行った。なぜか知らんが、その後久遠寺とかいう超どでかい家で記憶喪失な品行方正ショタ執事として働いてたり、記憶が戻った瞬間次女のロリニートが発狂したり色々あった。まあ、ようやく好みに合った専属執事ができたと思ったら、記憶取り戻した瞬間悪辣非道なヤツになったらしゃあないわな。

 

 

 

 

 あとは……あぁ、岡本の婆ちゃんが死んじまって、一子ちゃんが川神院に引き取られたな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 月が天に輝く、涼しい夜。

 まん丸の自己主張の激しいそいつは、星々の慎ましやかな燦めきなんぞ知るかと言わんばかりに夜闇を照らす。

 しかし、そのおかげで、明かりをつけずとも縁側に腰掛けた俺は、しっかりとした手つきで月見酒を味わえた。

 盆に盛られた団子は山ほど作ったはずだったが、育ち盛りのワンコに大半を喰われ、残りは後少しとなっていた。ったく、遠慮なく貪りやがって、食ってすぐ寝たら太るぞ。

 

 

「いい月だ。あんだけでかけりやぁ、手を伸ばせば取っちまえそうだな」

「そうだねぇ。ほんと、綺麗なお月さんだこと……」

 

 

 しわがれた老婆の声はか細く、俺の言葉に応えてくれた。

 

 

「……」

 

 

 俺は静かに酒を飲み、団子を口に放り込む。わざと、くちゃくちゃと音を立てて、ゴクリと飲み込む。

 

 

「一子のことなら、川神の爺さんに頼んである。ああ見えて、意外と金は持った爺さんだからな。飢えることも、寒さに震えることもあるめぇて」

「……そうかいそうかい。ほんと、修二くんは気が利く男の子だねぇ」

「当たり前だろう? 俺は世界一のハンサムだぞ」

 

 

 静かな夜に、俺が下品に酒と団子を食らう音だけが響く。

 

 

「私は……あの子でただ、自分の寂しさを埋めたかっただけだったんだよ。家族に先立たれ、一人でいることに耐えられなかったのさ……」

 

 

 俺はその告白に応えず、ただ同じように咀嚼音を返す。

 

 

「そんな私が、今度はあの子を一人にしちゃうところだった。ほんとに、ありがとうねぇ……。修二くんが居れば、あの子は、きっとこれからも幸せだろうねぇ」

「まあ、生憎と俺は金と女にがめつくてな。いい女は捕まえて放さないのさ。なにより、アンタは最後の最後に託せたからな」

「ふふ……修二くんとは、六十年くらい早く会いたかったねぇ」

「そうか? 残念だったな、俺は六十年前のアンタじゃなくて、今のアンタに会えて良かったよ」

 

 

 酒を杯に注ぎ直す。それを月に翳すように、掲げてあげる。

 

 

「今日はほんとうに、月が綺麗だ」

 

 

 小さな湖面に揺れる月。それは形を変え、揺ら揺らと今にもかき消えそうになる。

 

 

「……ごめんなさいねぇ。もう、お月様も、見えやしないよ」

「そうか。……明日の月は、欠けちまうみてぇだな」

 

 

 ことりと、肩に軽いものが寄りかかる。軽い軽いその月を、倒れてしまわないように、手を振るう。

 俺は湖面の月を空へと帰したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 中学進学までカウントダウンが始まった今日この頃、最近は百代ちゃんが新しい妹の一子ちゃんを可愛がるあまり、俺が少し蔑ろにされ軽い寝取られ気分を味わっていた。

 一子ちゃん繋がりで風間ファミリーの面々との交流も増えてきて、大和坊はようやく暗黒時代を卒業したが、数々の歴史はしっかりと保存してある。

 

 そんな折、珍しく日本に一週間ぐらい滞在してる帝からの呼び出しを受けた。いつもならブッチして、屁でも返すんだが、借りを返せと強制的に呼び出された。

 

 

「んで、何の用よ。借りを返すのは構わんが、つまんなかったら殴るかんな」

「おお怖い怖い。ま、取り敢えずはこれを読んでみて見ろよ」

 

 

 帝がポイっと、何かの資料を投げ渡す。俺は欠伸をしながら、それを流し読むが、次第に眉根に皺が寄っていく。

 

 クローン。

 

 遺伝子という人間そのものを形成する情報を操作することにより、同じ遺伝子を持つ人間を造り出す技術。命を自由に造り出すという禁忌だとか、現代倫理に則っての善悪だとか、そういう小難しいことはぶっちゃけどうでもいい。それを論ずるのはどっかの偉ぶった学者さんたちに任せとけばいい。

 その資料には、そんな空想科学の産物について書かれていた。

 

 

「随分とまぁ、大仰な存在を生み出したなぁ。えぇおい」

 

 

 俺は不機嫌も隠さずに、渡されたそれを乱暴に投げ捨てる。その中には、四人の人物の情報が顔写真とともに記されている。身長、体重、特技や趣味、果ては日常生活の様子まで、個人情報がこれでもかと書かれている。

 プライバシーって何かな? って尋ねたくなるほどの情報だが、なぜかスリーサイズについては書いてなかった。

 それが一番大切なところだろうがよぉお!

 

 

「どうよ、うちの従者の中で一番頭のいい奴が考えた、武士道プランは」

「何年か前の貸しがなけりゃあ、今すぐにでもお前を殴ってるよ。クソッタレめが」

 

 

 対面で偉そうに足を組んでいる帝が、俺の反応を楽しむように笑う。クソほど腹立つ。

 

 武士道プラン。

 

 過去の偉人のクローンを蘇らせ、それと今の若者と切磋琢磨させることによって、両者の成長を促す。九鬼が人材育成の新施策として、クローンたちが成長し、高校生として社会に適応できるまで待ってから公表する予定らしい。

 

 

「過去の偉人、源義経、武蔵坊弁慶、那須与一。んで、秘密の秘密の葉桜清楚ってか。この計画の主導者は義経好きだったのかネェ。まあ、んなことよりも、エゴイスト地味た思想がこのプランからは滲み出てるがな」

「くっはっはっは。そう言うか。マープルが聞いたら、悪態つきそうだな」

「人材不足でしょうがないから、過去の偉人蘇らせて競わせようとか、普通思いつかねぇよ。勝手に若者に絶望したロートルが、老いさらばえて頭アッパラパーになったか?」

 

 

 この計画の根底から滲み出ているのは、現代社会への諦観だ。こいつは今生きてる若者に、期待なんかしちゃいない。先細っていく未来でも見たのか? 悪りぃが、テメェの感じた絶望なんか世の中の大半の人が感じてねぇよ。

 

 

「ま、今を精一杯生きてんだ、俺たちはよ。だが、頭のいいやつは未来を見過ぎて、足元見えてねぇ。んな前見すぎても、転んじまうってのによ」

 

 

 帝が酒を呷り、コップを空にする。

 

 

「そいつには同感だ。ぶっちゃけ、武士道プランってこんだけの計画じゃねぇだろ。正直、ここまでの手段をすんのに、目的がショボすぎる」

 

 

 ここまでネジの外れた奴が、切磋琢磨? 笑わせてくれるぜ、気に入らない若者皆殺しくらいはしでかしそうだ。流石に過激過ぎるかねぇ?

 

 

「勘がよすぎるのも、考えもんだな。まあ、その辺りは俺からはノーコメントで。取り敢えずは修二、お前に義経たちの面倒を見て欲しいんだわ」

「読めねぇなぁ。大事な大事なクローンに、なんだって俺を引き合わせるんだ?」

 

 

 絶対悪影響だぜ? しかも与一以外美少女だから、アタックかけていくぞ? 絶対。なんなら性教育とかしかできねぇよ?

 

 

「あー、お前って、ぶっちゃけて言えば、世代の代表格なんだよ。川神百代始め、揚羽や英雄、葵冬馬あたりも将来有望だ。まあ、お前の周りには粒揃いの奴らばっかりだ」

 

 

 初耳だわ。まあ、俺ほどハンサムなら同年代で隣に並べるやつなんて、いるわけもねぇか。

 

 

「俺だって、マープルのやってることに思う所が無い訳じゃねぇんだ。ただ、あいつらの想いを受け止めんのも、頭の役目だからな」

 

 

 大変だねぇ。組織のトップってのは、やっぱ地位や名誉なんて碌なもんじゃねぇな。

 

 

「んで、俺への貸しを使ってって訳か」

「おう、マープルに若者舐めんなって殴りつけてやれよ。まあ、それはともかくとして、俺としちゃあ、義経たちには幸せになってもらいたいんだ。俺たちの都合で生んじまった癖にだが」

 

 

 そうかい。今すぐその老害駆逐した方が早ぇ気もするが。まあ、いいや。

 

 

「わぁったよ。こいつら自体は面白そうな奴だし、からかってやるぐらいはしてやんよ。ぶっちゃけ、可愛い娘には目がねぇの、俺」

 

 

 偉人のクローンと大車輪プレイとか、ワクワクしない? 俺はするわ。

 まあ、そう言う意味じゃあ、プレイの幅が広がっていいかもしれんな、武士道プラン。

 

 

「くはは、知ってたわ。いつか刺されるぜ?」

「……百代ちゃんからのガチのジャレつきの方が、刺されるより辛くね?」

「ごめんて」

 

 

 ツマミを手から創造し、二人分適当にばら撒く。

 

「で、本音は?」

「え? お前が混ざった方が端から見てて面白そうだから」

「ファック!! だと思ったぜ!」

 

 

 だって帝オメェ、俺と思考回路似てるもんなぁ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー、それでは諸君、今日から君たちと同じ学び舎で寝食を共にすることとなる、織原修二です。よろしくお願いします」

 

 

 ただっ広い教室には机が五つ、うちの四つは埋まっており、興味深げな視線が八つの瞳から飛んできている。

 

 

「織原修二君だな! 義経は源義経だ、よろしく頼む!」

 

 

 ふむ、75点。最終的にはそんなに大きくならないが、健康美はそれはそれで大きさに劣らない魅力となる。そのままの君で健やかに育ってください。

 

 

「主が挨拶したなら、私らもしないとね〜。武蔵坊弁慶、弁慶でいいよ」

 

 

 なっ!? 91点だと!? 俺と同年代で、いや、これは大きさだけで無い、彼女自体が醸し出す気怠げな雰囲気が退廃的で男の欲求を刺激してやがる! なんてポテンシャルの持ち主だ!

 

 

「私は葉桜清楚。よろしくね、織原くん」

 

 

 ……ん? バグったか? 俺のおにゃのこスカウターが二重で表示されてやがる。85点と56点?ふむ、評価はっと。

 

 えー、表は清楚な雰囲気を出しながらも、夜は淫猥な娼婦の如く淫れる。ギャップに男は弱いので、是非俺を萌えさせてください。

 

 ……おん? まだ反応しやがる。えーなになに、我が強く、性への刺激に弱いあなたは、普段は下に置く男に、夜は教え込まれると言う強みを持っています。そのギャップはあなたが覇王でありながらも、一人の少女だからできる唯一無二のものです。その強みを活かしましょう。先生期待してます。

 

 なんだこれ、こんなこと初めてだぞ。全く違うおにゃのこスカウターの結果が出るとか。

 

 

「ふっ、このタイミングで転入生とはな。俺たちと同じ運命の子と言うわけか。せいぜい、束の間の幸せを大事にすることだな。那須与一だ、俺にはあまり近づくなよ」

 

 

 厨二病、プライスレス。

 まあ、清楚ちゃんのことはある可能性があるか? まあ、後で少し調べてみるか。

 

 

「あー、堅苦しいのは苦手だから、下の名前で呼んでもいいか?」

「義経は構わないぞ! むしろそっちの方が親しみやすくて好きだ!」

 

 

 あらやだこの子、とても良い子だわ。

 

 

「んじゃ、義経ちゃんだな。俺も修二で良いぜ。これからよろしくな」

「うん! よろしく、修二!」

 

 

 差し出した手を無邪気に握り、満面の笑みを浮かべる義経ちゃん。

 

 

「私も別に、弁慶で良いよ。何なら、与一みたいに姉御とかでも可」

「んじゃ、弁慶ちゃんと与一な」

「あ、姉御をちゃん付け。……なんて度胸のある奴だ」

 

 

 与一がそんな驚いた反応すれば、いつの間にか弁慶ちゃんにアームロックを決められている。

 

 

「与一ぃ、それはどう言う意味だい? 私がちゃん付けされちゃあ可笑しいのかな?」

「いだいだいだ! ギブ! 姉御、ギブ! ギブ!」

 

 

 あー、なんか骨が軋む音してるけど、どんな握力してんだ?

 

 

「こら、弁慶! 与一も、せっかく修二が来た日に、喧嘩しちゃ駄目だぞ!」

「はーい。主に言われちゃ、しょうがない。反省するだぞ、与一」

 

 

 与一はまだ頭で頭を抱えている。ドンマイ。

 

 

「あはは、賑やかでごめんね。うるさいかも知れないけど、皆仲良しなんだよ」

「俺も賑やかなのは嫌いじゃあねぇから、大丈夫だぜ。っと、悪いネェ。敬語は苦手で。構わないか?」

「うん、大丈夫。修二君の喋り方は、ぶっきらぼうだけど優しさを感じるから」

「トンクスな、清楚ちゃん」

 

 

 さぁて、どうこいつらの鼻っ面、へし折ってやろうかねぇ。

 ぶっちゃけ、クローンって俺嫌いなんだわ。




ここまで読んでいただきありがとうございます。

中学生編のイントロみたいな話です。
マジ恋は登場人物が多いので、中々スポットの当て方に戸惑うところでございますが、中学生編はクローン組がメインとなります。

これからもどうぞよろしくお願いいたします。




ここで少し小噺をば。
ここからは読んでも読まなくても意味のあまり無い部分となります。


修二君は生きる事、人生というものに対しとても真剣です。

以前小雪ちゃんの事件の時は、自分が彼女の未来、環境、全てを取り上げて、自分の思い通りにした事への責任として、言い訳も逃げもせずヒューム卿と殴り合いました。
結果として小雪ちゃんは良い方向へと向かいましたが、修二君は他人の人生を思い通りにしたこと。結果の良い悪いではなく、その他人の人生をねじ曲げたことへの彼の矜持として、我を通す闘争を選択しました。


さて、そんな修二くんは、目的のために作られた命とも言えるクローンという存在をどう思うでしょうか。

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