真剣で人生を謳歌しなさい!   作:怪盗K

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皆さまおはこんばんにちは

感想、評価、お気に入りありがとうございます。

申し訳ありません、ドイツ編前話で終わりませんでした。
この主人公、まだドイツで遊んでます。


それでは、駄文ですがどうぞよろしくお願いします。


第24話

 燦々と照りつける太陽! 弾ける水飛沫! 輝くほどに白い女体!

 細波の寄せる水辺では、楽し気な笑い声が聞こえてくる。日本人とは体の作りからして違う肢体を、軍隊という過酷な職場で磨き上げた女子たちが、今だけは職務をその軍服とたもに脱ぎ捨ててはしゃいでいる。

 俺はパラソルの下でビーチチェアに座り、そんな美女博覧会と言って差し支えのない絶景をトロピカルジュース片手に眺めていた。

 

 

「これが至高の贅沢か。ついに俺も行きつくところに来ちまったようだな」

「一体何を言っているのですか……」

 

 

 俺とフランクさんの半年の契約期間、その最終日が今日であった。思えばあっという間だったような気もするが、猟犬部隊の面々を始め、出会いの密度は中々に濃かった。

 そんなドイツとのお別れの日、フランクさんは猟犬部隊の慰安も兼ねてこのビーチを用意してくれた。ちなみに、フランクさんが職権濫用の極みを使い、訓練の名目で貸し切っている。

 ちなみに、クリスちゃんとフランクさんも一緒に来ており、猟犬部隊と一緒に遊ぶクリスちゃんを、フランクさんはストーカーよろしくカメラでひたすら激写しておられる。

 信じられるか? これがドイツ軍のトップの一角なんだぜ?

 

 

「いんやぁ、マルギッテちゃんみたいな可愛い子に酌してもらいながら、きゃっきゃっとはしゃぐ美女たちを眺める。これほどの贅沢があるかね? いやあるまい」

「本当に、最後まであなたはふざけた事ばかりを言うのですね」

「そうかい? 割と贅沢ではあると思うがねぇ。さて、俺らもそろそろ一緒に遊んでこようか」

 

 

 なにやら部隊の面々が、ビーチバレーの用意をしているようだ。流石特殊部隊、遊びだとしても、瞬時にコートが設営されていく。

 どこからかトーナメント表まで作られており、二人一組のチームでの参加らしい。

 

 

「修二くーん、たいちょー、皆めっちゃ待ってますよー」

 

 

 ジークちゃんが手を振ってるので、俺はマルギッテちゃんを伴って集まりの中に合流する。

 

 

「おっ、マルと修二も来たか。んじゃ、二人で飛び入り参加だな」

 

 

 リザちゃんは既に他の隊員と組んでるらしく、トーナメント表に名前が書きこまれていた。

 

 

「おっ、いいのか? マルギッテちゃんと俺が組んだら、優勝待ったなしだぜ?」

「言うじゃねぇか。確かに戦闘ならきついだろうが、スポーツなら何とでもなるんだぜ。なっ、ノエル」

「もっちろーん。隊長と修二くんも、油断してたら足元掬っちゃいますからね」

「待ちなさい。私はまだ出るとは」

「いーからいーから、今日はオフなんだから、マルもたまには遊びに付き合えよ」

 

 

 マルギッテちゃんはまだ何か言いたげだったが、リザちゃんが有無を言わさずに参加させる。

 ほむ、なんか引っかかるもんがないわけでもないが、まあいっか。

 

 

「それじゃあ、修二君たちも参加だねー。ちなみに、私は審判だから。びしばし厳しく判定していくよ~」

 

 

 ジークちゃんがご立派な胸を張る。トーナメント表を見れば、リザちゃんはじめ、コジマちゃんにテルマちゃん、クリスちゃんまで出場してやがる。

 まあ、俺がやるんだ、サクッと優勝してやろうかねぇ。てか、優勝賞品って何が設定されてんの?

 

 

「ちなみに、優勝者にはフランク中将がお持ちの秘蔵のワインと人気店のソーセージ&ザワークラウトのセットです」

「へぇ。フランクさんの酒の趣味は確かだからな。リザちゃんたちには悪いが、マジでやらせてもらうか」

「ふっふっふ、修二、悪いが優勝は私とコジーが頂くぞ」

「クリスと私のコンビなら、隊長と修二のコンビも怖くないぞ! 首を洗って待ってるといいぞ!」

 

 

 ほー、純粋な身体能力ならコジマちゃんもクリスちゃんも高水準だからな。こりゃあ、リザちゃん含めて一筋縄ではいかねぇなぁ。だからこそ、やり甲斐があるってもんだ。

 

 

「はぁ、全く仕方のない者たちですね。良かったのですか? 修二」

「マルギッテちゃんの方こそ良かったのかい? あんまこういう催しが好きなイメージは無かったんだが」

「そういう訳ではありません。私だってスポーツは好きです。観るのも、自分でするのも」

「へぇ、そりゃいいこと聞いた。今度サッカーでも見に行くかい?」

 

 

 半年間ずっと一緒に居たが、案外まだまだ知らないことがあるもんだ。惜しむらくは、サッカーを見に行く機会はまただいぶ先のことになっちまうことだろうか。

 

 

「また冗談を……。ただ、期待しないで待ってますよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいフィーネ、これでよかったんだよな」

「ええ。男女が一緒にスポーツをすることで、仲を深めるのは恋愛において定石です。この後はピンチを演出させましょう。試合では頼みますよ、リザ」

「はいはい、俺もたまにはマルたちとガチでやり合いたいしな。ったく、ほんと世話のかかる隊長さんだぜ」

「仕方ないかと。マルギッテも初めての感情を持て余していたのでしょう。端から見てもどかしさを感じたのは否定しませんが」

「隊長もめっちゃ可愛かったよね〜。日本から帰ってきた辺りだったっけ。何かと修二くんを追いかけ始めたの」

「全く、隊長もさっさと素直になればいいのに。しょうがないから、私たちが一肌脱いであげるのだ」

「はぁ、何で私までこんなのの手伝いを……でもまあ、隊長のためだもの、仕方ないわね」

「では、各員、手筈通りに頼んだぞ。マルさんの恋の成就のため、みんなの力を貸してくれ」

「おおー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トーナメント表第一試合の相手は、クリスちゃんとコジマちゃんのコンビであった。

 

 

「第一回戦から、優勝候補同士のぶつかり合いのようですね」

「みたいだねー、どんな試合になるのかなぁ」

「実況は私、フランクと、フィーネくんの解説で務めさせてもらう」

 

 

 ジークちゃんたち運営側が、興味深げに試合の準備をする中、俺は肩を回し身体をほぐす。隣を見れば、マルギッテちゃんも同じように軽いストレッチをしていた。

 豊満な肢体に水着が食い込み、凄まじいドスケベボディを見せつけてくる。

 

 

「修二、お嬢様が相手とはいえ、手を抜きません。それこそお嬢様を侮辱することです、ですが、絶対に怪我をさせないように気をつけなさい。……どうしたのですか? 前屈みになって」

「何でもないべ……ま、わぁってるよ。やるからには全力でだ」

 

 

 気合は十分、試合とはいえ舐めてかかれるような相手では無い。体の内で気を操作し、ヤル気を見せたジュニアを押さえ込み背筋を伸ばす。

 気の操作の応用を果たし無くくだらない使い方をしてるが、房中術にも応用できそうじゃね? これ。

 

 

「よし、行くぞコジー、二人に勝つぞ!」

「よし来た! どんと行くぞー!」

 

 

 ロリロリコンビもやる気満々のようだ。未成熟な健康美も、それはそれでそそるものがある。

 それでこそ、俺たちの相手に相応しい。

 

 

「修二、何やら二人を見る目が怪しいような気がするのですが」

「気のせいです。それはきっと気のせいです。ほら、試合始まるから、前見て前見て。ジークちゃーん! 試合始めよー!」

「はーい! それじゃあ、四人とも準備はいいかなー!」

 

 

 勘のいいマルギッテちゃんが、胡乱気な視線を向けてくるので、試合開始を急かす。

 ジークちゃんが俺たち全員を確認した後、が笛を咥える。

 

 

「それじゃあ、はじめー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「行くぞ! 騎士サーブ!」

 

 

 初手はクリスちゃんのサーブからだった。頭上に放り投げたボールを、綺麗なフォームで打ち出す。

 

 

「クリスー!! 頑張れー! 頑張る君が何よりも輝いてるぞー!」

 

 

 なんか中将閣下殿がご乱心のようだが、大丈夫か?

 しかし、恵まれた身体能力から放たれたサーブは、正確に俺たちのコート端に滑り込もうとしてくる。

 

 

「修二!」

「あいよ!」

 

 

 俺は素早くボールの着地点に走り込み、レシーブする。衝撃を手首で受け止め、マルギッテちゃんの位置へと再び打ち上げる。

 

 

「マルギッテちゃん!」

「任せなさい!」

 

 

 マルギッテちゃんが自身の元へと来たボールを、優しくトスする。それはレシーブした直後にネット際へと走り込み、跳ねた俺の目の前へとちょうど落ちてくる。

 

 

「そらっ!」

 

 

 ボールが壊れない程度の力で放つスパイクは、クリスちゃんたち側のコートの端にめり込む。

 ジークちゃんが笛を鳴らし、俺たちの点数ボードを捲る。

 

 

「まずは一点。ナイストス、マルギッテちゃん」

「修二こそ、綺麗なレシーブとスパイクでした」

 

 

 自コートのポジションへと戻ると、マルギッテちゃんが手を上げてきたので軽く手を合わせる。

 さぁて、そんじゃま、この調子で試合を進めていこうか。

 

 

 試合は進み、なんとかマッチポイントまで漕ぎ着けた。しかし、コジマちゃん達も連携とパワーを生かして、油断できない点差まで追い上げてきてる。

 

 

「コジマスパァイク!」

「くっ!」

 

 

 コジマちゃんの桁外れな膂力から繰り出されるスパイクを、マルギッテちゃんが何とか受け止める。しかし、そのボールはコートから外れていき、アウトになりそうになる。

 

 

「任せな、マルギッテちゃん!」

 

 

 俺は素早く走り込み、スライディングで飛び込んでボールを拾い上げる。

 

 

「良くやりました、修二!」

 

 

 マルギッテちゃんが浮かび上がったボールを、相手のコートへと打ち込む。

 しかしそこにはクリスちゃんが待ち受けており、そのままトスを上げる。

 

「コジー!」

「ほい来た! 任せろ!」

 

 

 コジマちゃんが再びスパイクを決めるべく、ネット際に走る。それを見た俺たちもまた、ネット際に走り込む。

 アイコンタクトすらいらず、俺たちはお互いに並んで飛び上がる。

 

「なに!? コジー、まずい!」

「コジマスパァイク!」

 

 

 再びコジマちゃんが打ち出した凄まじい威力のスパイクを、二人がかりでなんとかブロックする。

 そのまま相手コートへと、ボールを落とす。

 

 

「ゲームセット! 勝者は修二、隊長ペアー!」

 

 

 ジークちゃんが笛を吹き、試合終了を告げる。

 

 

「くぅ、ごめんクリス」

「いや、コジー、相手が上手かったんだ。落ち込むことはない」

 

 

 いやはや、だいぶヒヤッとする場面が多かったぜ。クリスちゃんもだいぶ勝負巧者になってたし、コジマちゃんは爆発力が油断できなかった。

 間違いなく強敵だった。相方がマルギッテちゃんだったから、勝てたと言っても過言じゃない。

 

 

「流石でした、お嬢様。お嬢様たちが勝っても、なんらおかしく無い試合でした」

「ありがとう、マルさん。マルさんたち、凄いコンビネーションだったぞ」

「そ、そうですか……? あ、ありがとうございます」

 

 

 クリスちゃんに褒められて、戸惑いながらも照れるマルギッテちゃん。

 その成熟した身体と内面のギャップ、やはりマルギッテちゃんのヒロイン力はハンパねぇなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はーい、それじゃあ、次の試合に移るよー!」

 

 

 そして、ジークちゃんの進行によって、トーナメントが進められていく。

 ちなみに、テルマちゃんは初戦で敗退してた。

 

 

「ちょっと、もう少し見せ場あってもいいでしょ!?」

「はいはーい、それじゃあ、次が決勝戦だよー。二組とも、準備はいいかな?」

 

 

 決勝戦は当然のように、リザちゃんとアンナちゃんペアが勝ち上がってきた。器用万能なリザちゃんと、素早い身のこなしのノエルちゃんペアはテルマちゃんをフルボッコにしていた。

 いやまぁ、テルマちゃんの運動神経がそこまでって言うのもあるんだけどな。

 

 

「それじゃあ、マル、修二、悪いけど最初っから全力で行かせてもらうよ」

「おうおう、リザちゃん。そりゃあ、こっちのセリフだぜ」

「ええ、あなたたちは強敵ですが、私たちには及ばないと知りなさい」

「隊長も修二くんも、やる気満々だねぇ」

 

 

 お互いの戦意も満ち満ちてる。

 これは、楽しい試合になりそうだ。

 

 

「それじゃあ、試合、開始ー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 試合はリザちゃん、ノエルちゃんペアのペースで進められた。

 

 

「影分身の術!」

「ずっけぇ!?」

 

 

 コート全域に、リザちゃんの分身がカバーに入る。シンプル単純に数の暴力で攻めてきたうえに、ノエルちゃんはいやらしくも的確なサポートをして点数を積み重ねていく。

 多種多様なゲルマン忍法を駆使するリザちゃんをどうにかしないと、マジで負けちまうぞ。

 でもまじでずっけぇな、ゲルマン忍法。リザちゃんにネオドイツのファイターのこと、話すんじゃ無かったぜ。

 

 

「ちくしょう、このままだとジリ貧で負けちまうな。俺がリザちゃんたちが受け止められないようにスパイクすると、ボールが壊れちまうしよ」

「ジーク! タイムです! ……修二、私に考えがあります」

「おん?」

 

 

 俺がどうすっかなとサーブ前にボールを弄んでたら、マルギッテちゃんがタイムを取って近づいてきた。

 その顔は苦境に立たされながらも、活路を見出さんだする強い意志を宿していた。まるで戦場で指揮を取るかのように、俺に作戦を耳打ちしてくる。

 

 

「リザのあの技は気をかなり使用します。それも、分身たちが激しい運動をすればするほどに、その消耗は激しくなります」

「へぇ、流石にローコストな技じゃあねぇか。そんで作戦は?」

「攻めて攻めて攻め続けます。私が前にでますので、あなたは私のフォローに回ってください」

 

 

 なるほどねぇ。悪くないんじゃないか? 下手に奇策をぶっつけ本番でするより、分かりやすいし確実だ。

 何より、マルギッテちゃんらしくていいねぇ。

 

 

「分かった。後ろは全部任せな、本気で全部の玉を拾ってやるよ。ノートスでスパイク叩き込めるように上げてやるよ」

「ふふ、頼もしいですね。それでは、任せましたよ!」

 

 

 マルギッテちゃんが、コート際を陣取る。

 俺はサーブを高く打ち上げ、分身たちを少しでも動かす。

 

 

「ノエル! 打ち込みな!」

「任せて!」

 

 

 分身がレシーブとトスをし、ノエルちゃんが打ち込む。

 俺は身体能力を上げ、ボールをマルギッテちゃんの元へと上げる。

 

 

「はぁああ!!」

 

 

 渾身のスパイク、マルギッテちゃんが全力で打ち出したボールを、リザちゃんの分身が何とか滑り込んで拾う。

 

 

Hasen(ハウゼン)

 

 

 マルギッテちゃんが再び、全力で打ち込む。今度は予想していたのか、分身はボールの落下地点に待ち構えていたが、ボールの威力に顔をしかめる。

 俺はマルギッテちゃんを信じて、もう一度ボールを拾い上げる。

 

 

Jagd(ヤクト)!!」

 

 

 もう一度打ち込む。今度もノエルちゃんがボールを拾う、明らかに分身たちをフォローする立ち回り。

 

 

「なら、それごと叩き潰すまで!」

 

 

 もう一度、もう一度、マルギッテちゃんは何度も全力でスパイクを打つ。

 マルギッテちゃんの息が上がり、身体から汗が流れ出ている。

 ほぼ守りの一手を引き受けた負担はマルギッテちゃんよりも大きいはずだが、そこはマスタークラス、まだまだやれそうだ。

 

 

「まだやれそうか? マルギッテちゃん」

「はぁ、はぁ……当然、です」

 

 

 そろそろマルギッテちゃんも限界か……。流石にダウンすれば、試合は負けだよなぁ。

 

 

「もう少しです。あと少しで、リザの体力も切れるはずです」

「分かった。信じるぜ、マルギッテ」

「…………」

 

 

 マルギッテちゃんが、呆けたように目を丸くする。

 

 

「わかりました。……ありがとう、修二」

 

 

 さぁて、そろそろクライマックスだ。

 気張れよ、マルギッテちゃん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁああああ!」

 

 

 それから何度目かのスパイクの時、リザちゃんの分身が吹き飛ばされるようにかき消される。

 それは、とうとうリザちゃんの気によって作られた分身が維持できなくなったということだった。

 

 

「くっそ、悪ぃノエル! スタミナ切れだ!」

「まさか、こんな力技で破ってくるなんて……」

 

 

 そこからの試合は一方的だった。

 スタミナの切れたリザちゃんをフォローしようとするノエルちゃんだが、数の有利と言う圧倒的なアドバンテージを失ったのは大きかった。

 マルギッテちゃんも疲労はあったが、ラストスパートと言わんばかりに攻め立てる。

 

 

「マルギッテちゃん! 最後、任せたぜ!」

「任せなさい!」

 

 

 俺が上げたボールを、マルギッテちゃんが最後の力を振り絞って打ち込む。それにリザちゃんが滑り込むも、一歩届かずにボールは相手のコートへと落ちていった。

 

 

「試合終了ー! 優勝は、修二くん、隊長ペアー!!」

 

 

 ジークちゃんの試合終了の合図が響く。マルギッテちゃんは力が抜けるように、崩れ落ちそうになるところを支えてやる。

 

 

「おっと、お疲れさん、マルギッテちゃん」

「……修二」

「マルギッテちゃん、俺たちの勝ちだ。マルギッテちゃんのおかげでな」

「いいえ……あなたのお陰でもありますよ、修二。お疲れ様です」

 

 

 穏やかな笑みを俺へと向けるマルギッテちゃんは、初めて会ったような、そんな錯覚を覚えるほど、魅力的だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕日が水平線の向こう側へと沈み込んでいく。

 夜までの僅かな夕焼けの時間を、俺はマルギッテちゃんと一緒に過ごす。

 それも、疲れ切り、満足に動けないマルギッテちゃんを腕の中に抱きかかえていた。

 

 

「まったく、リザたちにも困ったものです。初めから、こうするつもりだったのでしょう」

 

 

 口を尖らせるマルギッテちゃんだが、不思議とその声に棘はなく、むしろ少し嬉しそうだった。

 後片付けを全部引き受け、俺にマルギッテちゃんの面倒を見ろとこの場所に追いやった面々の顔を思い出す。

 

 

「まあ、リザちゃんたちも単純に楽しんでたところもあるだろうさ」

「そうですね。本当にリザ手強かったです」

 

 

 空白の時間、お互いがお互いに何も言わない時間が生まれる。

 それでも、不思議と心地が良かった。

 

 

 

 

 

「好きです、あなたのことが。織原修二」

 

 

 

 遠く、沈んでいく夕日を見ながら、そうマルギッテちゃんが囁く。

 俺は答えず、ただその夕焼けより赤い髪を撫でる。

 

 

「あなたと生涯を共にしたい。そう願うのです。でも、あなたは私のそばだけに留まってはくれない」

「……そうだな。そして、マルギッテちゃんも、ドイツからは離れられない」

 

 

 そう、俺とマルギッテちゃんの場所は遠い。

 俺は束縛を嫌い、マルギッテちゃんは、このドイツから離れられない。それは軍人であるが故の必然であり、マルギッテちゃんがマルギッテちゃんである以上避けられない現実だ。

 

 

「それでもいいのです。それでも、私は……」

 

 

 マルギッテの瞳が切なく潤む。そこには、ドイツの神童やら、古の城砦などと呼ばれる猟犬は居らず、ただの一人の乙女がいた。

 本当、なんでこの世界は愛が重いのか、チョロいのか分からない子がこんなに多いんだ。

 

 

「だから、せめて今だけは、こうして抱きしめてください。今だけは、私があなたの心の中心にいることを許してください」

「それぐらい、いくらでもしてやるよ。これからも、いつでも好きな時にな」

 

 

 マルギッテちゃん一人だけに向き合えない俺は、腕の中のマルギッテちゃんをそっと抱きしめるのだった。

 既に日は沈み、暗闇を波の音だけが彩る。

 そんな世界で、たった二人だけの時間を、願ったのだった。




ここまで読んでいただきありがとうございます。

今度こそ、今度こそドイツ編は終了です。
マルさんの話は本来、もっとさっくりとした仕上がりにして、後半の話をつけるつもりでしたが、流石マルさん、ヒロイン力が高いです。

作者が猟犬部隊好きなのも問題ですね。

ではでは、これからもよろしくお願いします。

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