真剣で人生を謳歌しなさい!   作:怪盗K

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皆さまおはこんばんにちは。

感想、評価、お気に入りありがとうございます。

大変お待たせいたしました、第23話となります。



それでは、駄文ですが、どうぞよろしくお願いします。



第23話

 趣あるリューベックの街を、俺はホットドッグ片手に練り歩く。肉厚のソーセージの割れる食感を楽しみながら、大きく口を開けてかぶりつく。

 二口、三口でホットドッグを平らげ、包み紙で軽く口を拭う。そのまま丸め、道に設置されたゴミ箱に投げ入れる。

 

 

「どーすっかなー」

 

 

 俺がリューベックで食べ歩きしながら思案に耽っているのは、誰を日本に連れていくかだった。

 クリパパこと、フランクさんの説得はクリスの上目遣いでワンパンだったし、俺の飛行機代とかも全額負担してくれるとのことだ。やっぱ持つべきものは金持ちのパパだな。

 

 しかしここで、フランクさんは逆に俺たちだけではなく、猟犬部隊の誰かを連れていくことを条件に出してきた。

 いやまぁ、ガキ二人で海外旅行とか普通はあり得ねぇから当然なんだけども。

 

 

「順当に考えりゃあ、リザちゃんが無難なんだよねぇ」

 

 

 テルマちゃんはまだ男嫌いが激しいから、旅行とかに連れ出すならもうちょい矯正してからだし、フィーネちゃんは仕事忙しそうで邪魔するのも気が引ける。

 やっぱまだまだ猟犬部隊は新設された部隊だし、フィーネちゃんも副隊長としてやるべきことが山積みだろうさ。

 ジークちゃんとコジマちゃんは、シンプルにお守りが増えるから今回はパス。だるい、面倒い、仕事しろ。

 

 となると、消去法でリザちゃんになるよなぁ。少しの間現場離れても何とかなって、引率もできる。リザちゃん本人も日本に、というか忍者に興味がある。

 

 

「うっし、そんじゃ、リザちゃんに声かけてみるか」

 

 

 手の中で先程のホットドッグを、異能で作り出しながら、俺は旅のプランを考える。

 温泉旅館だな! 浴衣着たリザちゃんと卓球してポロリさせよう! クリスとこっそり混浴して性の目覚めを促してやろう!

 

 楽しくなってきたネェ。

 

 

「なぜ、そこでリザなのですか。織原修二」

「……いつの間にそこおったん? マルギッテちゃん」

 

 

 俺がホットドッグを取りこぼしそうになるのを何とか堪えて後ろを振り向けば、いつもの軍服に身を包んだマルギッテちゃんが居た。

 いや、マジでビビった。考え事してるとは言え、こんだけ近づかれて気づかなかったのはこの体になってから初めてかもしれん。

 

 

「あなたが先程、ホットドッグの屋台で値切り倒して店主を半泣きさせたあたりからです。ああ言うことは辞めなさいとは言いませんが、程度を考えるべきです」

「あのハゲが俺を、にわか観光客だと舐めてぼったくろうとすんのが悪ぃんだよ。ま、味は悪くなかったがな。マルギッテちゃんも食う?」

 

 

 もう一回、ホットドッグを手のひらから作り出しながら、マルギッテちゃんに差し出す。

 

 

「食うかい? 出来立てほやほやだぜ」

「いただきましょう。しかし、何度見ても不可解な能力ですね、その食物を作り出す力は」

「んー、まあ、そうだナァ。どういう原理か俺自身もわかってないし、ぶっちゃけて言えば、科学的原理をこの能力に求めるのはナンセンスな気がすんぜ?」

「ふむ……そうですか」

 

 

 いつぞやの中国からのヒットマンこと史文恭ちゃん曰く、異能のカテゴライズで、その中には他人に精神を憑依させたりとかってのもあるらしいから、そんなのと比べれば可愛いもんじゃろ。食べ物しか出せないし。

 

 

「ま、こういった能力を解明しようとするのが科学者なんだろうが、マルギッテちゃんは別にそういう訳じゃねぇだろ」

「ええ、まあ、ただ不可思議だと思うのは致し方ないと理解しなさい。それだけ端から見ればその力は異質なのです」

「あいあい」

 

 

 まあ、質量保存の法則とか言い出したら、それこそキリがねぇしな。

 

 

「それはそうと、織原修二。クリスお嬢様を連れて日本に行くそうですね。中将から聞きましたよ」

「ん、あー、そうだな。その話をするってことは、もしかしてマルギッテちゃんが一緒についてくんのか?」

「ええ。中将から直々に、クリスお嬢様の日本での護衛と身の回りのお世話を仰せつかりました」

「なるほどなぁ。親馬鹿のフランクさんらしいが、猟犬部隊は大丈夫なんかねぇ」

「問題ありません。一週間ほどだけなら、先に仕事を済ませておけば何とかなります」

「まあ、それならそれでいいけどよ。無理はすんなよ」

 

 

 俺の心配に対して、マルギッテちゃんはいつもと変わらず凛とご立派な胸を張って答える。

 

 

「心配されるほどではありません」

 

 

 いやはや、ほんと、カッコいい女やねぇ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おお! これが日本の景色か! 修二!」

 

 

 テンション爆上がりのお嬢様が、車窓から見える景色に歓声を上げる。隣に座る俺の肩を、ぐわんぐわんと揺らしてくる。

 あーあー、はしゃいじゃってもー。

 

 

「こら、お嬢様。はしたないですよ」

 

 

 案の定、はしゃぎ過ぎたクリスちゃんは、マルギッテちゃんに嗜められる。

 フランクさんに日本への一時帰国と、クリスの観光を提案したところ、快く旅費を出してくれるとのことだった。

 ただ、態々マルギッテちゃんの任務を全部キャンセルさせ、お目付役兼護衛として付けさせるのはどうかと思う。いやまぁ、引率は居た方がいいのは確かなんだけれども。

 

 

「修二、川神ってどんな所なんだ?」

「変態と脳筋が住まう町」

「ごほん。お嬢様、川神は日本の中でも有数の武術の名門、川神院に、世界有数の財閥、九鬼財閥の極東本部があります。それらの他にも、商業施設もありますし、歴史ある武家の本家も多い、賑やかな都市ですよ」

「おおー! マルさん物知りだな!」

「恐縮です、お嬢様」

 

 

 俺の適当な説明に、マルギッテちゃんがきちんとした補足をつける。それにクリスちゃんが感心し、マルギッテちゃんはご満悦のご様子だった。

 こやつ、さては川神のこと勉強してやがったな? 実は結構楽しみにしてんのか?

 この数か月で分かったことなのだが、マルギッテちゃんはすごく面倒見がいい。そりゃあ、軍人だから厳しいは厳しいが、クリスちゃんの相手でも分かるように、相手によってはどちゃくそに甘やかす。

 俺の生活習慣がだらしないからと、最近は朝起こしてくれたり、一緒にランニングに連れて行こうとしたりする。なんだ、何処かかでフラグ立ててたか?

 

 

「修二も、適当なことを言わないように、お嬢様は純粋なのですから」

「あいあい、さーせんっした」

 

 

 純粋培養しすぎなのも問題だとは思うがねぇ。少しは社会の汚れを見せてやらなきゃ。

 俺が一番汚い? あとで屋上な。

 

 

「まあ、退屈はしねぇだろうさ。クリスちゃんなら、仲見世通りだけでも一日中遊べるだろ」

「そうか、楽しみだな!」

 

 

 無邪気に川神を楽しみにするクリスちゃんに、俺は苦笑し、マルギッテちゃんは嬉しそうに見守っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「修二ー!!」

 

 

 駅に着いた途端、赤いお目目の兎が俺の顔面にへばりついたてきた。柔らかいお腹が顔に押しつけられ、成長している胸が頭の上にのっけられる。前後ろ逆さまの肩車状態になり、足が首をめっちゃ強い力で締め付けてくる。

 

 

「おーい、小雪、俺様に会えて嬉しいのは分かるが、前が見えねぇ」

「えへへ、よっと、これでいーい?」

 

 

 器用に頭の上で宙返りすると、小雪はきちんとした肩車の形に座り直す。

 俺の頭の上からどけって言いたいんだがねぇ。まあ、寂しい思いさせた分、許してやるか。

 

 

「おーい、ユキ、あんまりはしゃぎすぎんなよ。ここ駅だし、他の人に迷惑かけちまうぞ」

「ちぇー。はーい!」

「お久しぶりですね、修二君。また背が伸びましたか?」

 

 

 準と冬馬もゾロゾロと合流してくる。小雪は準に言われ、軽やかに俺の肩から降りる。

 

 

「まあな、いいもん食って、寝てりゃあな。あれ、百代ちゃんと京ちゃんは?」

「モモ先輩は川神院の修行って言ってたぜ。あと、椎名は……」

「修二、おかえりなさい」

 

 

 背後からぬぅっと、京ちゃんが顔を出す。そのまま京ちゃんは頬と頬を擦り合わせるようにして、背後から抱きついてくる。ちゅっと唇を軽く首筋に当ててくるあたり、やっぱりこの娘のエロさは同年代のそれでは無くなっている。

 

 

「お、おう、ただいま。元気そうで何よりだぜ」

「うん、ずっと健気に待ってました。なぜなら修二の正妻ですから」

 

 

 京ちゃんは最近、百代ちゃんや小雪に対抗してなのか、自己主張をさらに強めて、攻勢にでてきている。俺がアイドル並みにプロデュースしたおかげで、今や立派な美少女になってきているし、ドキマギさせられることも多くなっていた。

 

 

「修二、彼らが前に言っていた友達か?」

「ん? ああ、そうだぜ。おら、てめーら、このちみっこいのがクリスちゃんで、こっちのがマルギッテちゃんだ」

 

 

 クリスちゃんたちを小雪ちゃんたちに紹介したところで、俺たちの川神観光が始まった。

 クリスちゃんははしゃぎにはしゃぎ、仲見世通りを回った時なんぞ迷子になりかけるという事件までおこりかけたが、おおむねうまくいっただろう。

 

 

「うまい! うまい!」

 

 

 クリスちゃんは葛餅が気に入ったのか、既に三杯もお代わりをしている。

 

 

「なるほど。日本の甘味はあまり食べたことはありませんが、確かにこれは世界中から評価されるのも納得です」

 

 

 マルギッテちゃんもしっかりお代わりしてるしな。案外甘いもの好きなん?

 

 

「それで修二、クリスとはどうやって仲良くなったの?」

「ん、あー、そこのあたりは口止めされててな。ま、いつものごたごたと思ってりゃあいいよ」

 

 

 マジで俺、何でこんなにポンポンとマスタークラスと出会ってんだ?

 世界でも指折りなんじゃねぇの? そんなエンカウントするもんじゃねぇだろ。乱数バグってんのか?

 

 

「ふーん、そっか」

 

 

 葛餅を頬張りながら、小雪ちゃんは意味深な視線をクリスちゃんへと向ける。

 

 

「あむ? どうした? 小雪」

「べっつにー! ほっぺに粉が付いてるよ。ほら!」

「おお、ありがとう!」

 

 

 ちと不安なところもあるが、大丈夫そうか。京ちゃんは吹っ切ってるようで、ニヤニヤとしながら俺を見てきている。

 

 

「どうしたのよ、京ちゃん」

「うーん、修二に言うのはフェアじゃないと思うんだけど、ぶっちゃけ修二も気づいてるよね。クリスのこと」

 

 

 京ちゃんがスススッと俺を近づき、耳打ちをしてくる。

 んーまぁ、そりゃあなぁ。可愛い女の子だし、そうなるようには仕向けたからな。ハンサムな俺は、全く罪づくりな男だぜ。

 

 

「私は修二らしくていいと思うよ。修二は一人の女の子には縛れないしね」

 

 

 ふっと、甘い声を吐息と共に吹きかけられ、背筋にぞわりといいしれぬ快感が走る。

 

 

「でも、私たちも考えてるんだよ。修二が自由を愛してるように、修二が好きで、恋して、愛してるって。見てもらいたい、大切にしてもらいたい。それだけは忘れないでね?」

 

 

 そのまま耳を甘噛みし、濡れそぼった舌を耳へと這わせる。

 

 

「ステイ、ステイだ。京ちゃん、それ以上は収まりがつかなくなっちまう」

「……私としては、それでもいいんだけど……でも、とりあえずは修二を味わえたから満足しとくね?」

 

 

 京ちゃんは顔を離し、見せつけるように舌で唇を艶かしく舐める。

 小学生の手管じゃねぇよ。誰だこんなエロティックモンスター生み出したの。

 俺だよバカ!

 

 

「こほん! 修二、そろそろ約束の時間です。仲睦まじいのはよろしいですが、お嬢様の前であると言うことを忘れないでください」

「悪りぃなぁ、マルギッテちゃん。流石の俺も、京ちゃんがここまでのもんだとは思ってなかったんや」

 

 

 時計を見れば、おやつの時間を少し過ぎた頃。

 今回のクリスちゃんの観光地案内の締めくくりとして、川神院を案内する予定だった。エロ爺さんやエセジャッキー、どう見ても反社会的な世界の住民と、どうしようもない上層部だが、川神院は世界でも有名な道場だ。

 ハゲどもが声を張り上げながらガチムチしてる光景しかないが、クリスちゃんとマルギッテちゃんは何故か興味があるらしい。

 まぁいいんだけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで川神院にたどりつき、他のメンツが爺さんの案内で応接間に案内された後、俺は一人の猛獣に捕まっていた。

 

 

「修二ー、手合わせしてくれよー」

「久々に顔合わせたってのに、百代ちゃんそれは無いんじゃねぇかなぁ」

 

 

 当然の如く百代ちゃんに絡まれていた。鍛錬の途中だったのか、道着姿で微かに汗ばんだ身体を惜しげもなく押しつけてのしかかってくる。

 中学生となり、発育も倍プッシュで成長した百代ちゃんの身体は未成熟さはあるが、十分に女の身体であり、そこから伝わる柔らかさはホントもうご馳走様としか言いようがない。

 

 

「だってお前が帰ってきたと思ったら、一時帰国ってだけだし。おまけに女連れって、こんな可愛い彼女ほっぽって何してるんだよー! かーまーえー! かーまーえーよー!」

 

 

 実はと言うほどでも無いが、百代ちゃんは小雪ちゃんや京ちゃんよりも甘えたがりだ。いつもは年上だからと余裕ぶってるが、実は一番精神年齢が低い、ちなみに一番高いのは冬馬と準だ。

 

 

「あーあー、分かった分かった。ちょっとだけだぞ、俺もクリスちゃんの案内やらで疲れたんだし」

「うっし! 言質は取ったからな! 逃げるなよ!」

 

 

 爺ー! と声を張り上げながら百代ちゃんはどこぞへと走っていく。

 それに手を振りながら、俺は百代ちゃんの姿が見えなくなるといい笑顔を浮かべる。

 

 

「さぁて、抜け出すとしますかね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、東、川神百代」

「押忍!!」

「西、織原修二」

「……あー、うす」

 

 

 目の前にはやる気満々な百代ちゃん。その立ち上る気が熱気を持ち、陽炎が生まれている。凄まじいまでの闘気が俺にたたきつけられる。俺は顔を引きつらせながら、なんとか名乗りに返事を返す。

 

 

「やる気ないのぉ。もうちっと気合入れられんのか?」

「だってよぉ。逃げ出そうとした瞬間、空から隕石降らすとか容赦なくね?」

 

 

 気を薄弱化させて逃げ出そうとした瞬間、目の前の爺さんは惜しみなく奥義を使って俺を捕まえに来た。やってやろうかとも思ったが、それこそ百代ちゃんも嬉々として飛び込んできてスマブ◯が始まっちまう。

 

 

「お主がドイツにいる間、モモは随分とフラストレーションを溜めておってのぉ。ほれ、彼氏なんだから彼女の欲求不満には付き合わんか」

「実の孫娘のことなのに欲求不満とか言ってやんなよ。あー、わーったよ。たまには真面目に組み合うよ」

「よし、久々に本気でやれそうだ! 爺! 合図を早くしろ!」

 

 

 百代ちゃん、嬉しそうやネェ。

 まあ、たまには俺様が最強だってことを、教え込まにゃならねぇか。

 

 

「それでは、両者……始めェエイッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side:マルギッテ•エーベルバッハ

 

 

 その闘いは、私が知っているものではなかった。

 格闘技、軍隊格闘術、トンファーを始めとした複数の武器術。私が修めている武術はこの程度で、日本の諺、武芸百汎とは自惚れても言えないが、それでもこれだけは言えた。

 

 

 目の前の闘争、これは人の闘いでは無い。

 

 

「川神流 致死蛍!」

「散弾ではなぁ!」

 

 

 無数の気弾が修二に襲いかかる。その密度は銃火器であるマシンガンの比ではなく、修二の目の前の空間そのものを埋め尽くすようにして放たれた。

 それに対して、修二が行ったのは気を乗せた怒号。音という波に乗せられた気は迫り来る気弾の悉くを粉砕していく。

 

 川神百代、織原修二。二人は人間では無いのでは。そんな風に私の理性は感じてしまった。

 

 

「川神流 無双正拳突き!」

 

 

 ただの正拳突き、しかし、その内包された破壊力は計り知れず。ただの基礎を極め、奥義へと昇華させ、相手を必殺する技へと。そこに積み重ねられた歴史と研鑽、武術とは斯くあれかし。

 

 

「……」

 

 

 その一撃必殺の技を、修二も技を以って返す。そこにあるのは先ほど感じたものとは真逆の天賦の才。

 突き出された拳を優しく包み込み、そっと虚空へと走らせる。それとともに包み込んだ手は蛇の牙と変わり、捕らえた獲物を離さずに川神百代の身体を投げ飛ばす。

 

 

「ほぉ……合気か。やるのぉ」

 

 

 武神が隣で感心する。

 合気、日本固有の相手の力を利用した武術。欧州には存在しない、理外の技。

 

 

「本当に末恐ろしいとは思わんかの? マルギッテ嬢。あれで、まだ齢十を僅かに超えただけなんじゃよ」

「……確かに。それは……そうでしょう」

 

 

 背中から地面に叩きつけられた川神百代は、自身の拳の力をそのまま受けたかのように息を吐きだす。しかし、次の瞬間には掴まれた腕を掴み返す。

 

 

「川神流 雪達磨」

「そいつぁ、効かねぇんだなぁ? 百代ちゃんよぉ」

 

 

 川神百代の腕が冷気を放つ。外気功による自然現象の再現、あんな技を喰らえば、凍傷は避けられないだろう。

 対して、修二も外気功を炎へと変える。両者の拮抗は一瞬、効果なしと判断した川神百代は寝そべった姿勢のまま引きずり倒そうと修二の腕を引き寄せる。

 

 

「それは悪手じゃよ、モモ」

「なぜ? 相手にマウントを取られるよりは、同じグラウンドで戦うのは悪い選択肢では無いのでは?」

「確かに、それも間違いでは無い」

 

 

 ほれ、と鉄心殿が目線をやれば、勝負の様相は一瞬で変わってしまっていた。

 川神百代は間接を完璧に極められ、修二の手が卑猥に彼女の身体を弄っていた。

 

 

「修二は自身でも一番寝技が得意と言っておるからのぉ。というか、普通祖父の目の前で孫娘にあんなことする?」

「……」

 

 

 修二の寝技の技量に感心すべきか、それともその技量の根源が邪な欲求から生まれたものであることを嘆くべきか。私と鉄心氏の心は一致した。

 

 

「くそっ、ひわっ!? こら、しゅーじ! だ、あっ……!」

「カハハ、ここか、ここがええのんかぁ? 全く立派に育ちやがってヨォ!」

「だぁぁあ! 人間爆弾!」

 

 

 次の瞬間、川神百代の体が爆発した。

 

 

「……はぁ、はぁ……」

「……自爆技かよ」

 

 

 爆風が晴れれば、傷だらけの修二と同じく傷だらけの川神百代。

 しかし、両者の傷はみるみるうちに塞がっていく。修二の体質は知っていたが、川神百代のはいったい如何なる技によるものか。

 

 

「さて、遊びはこの辺りでいいだろ。そろそろマジで付き合うぜ」

「……あぁ、そろそろ私もウォームアップが済んだところだ」

 

 

 無傷に戻った二人がお互いに駆け出す。

 織原修二は愉しむように、川神百代は幸せそうに。

 

 

 そこにはたった二人の世界しかなかった。

 

 

 それを見た時、何故かズキリと痛みが走った。

 その痛みを自覚すれば、あとは早かった。

 修二が他の者と戯れるのを咎めるのも、今回の旅で中将に無理な自薦したことも、時折その姿を探してしまうのも。

 

 始まりは何だったのか。

 意外と気が利くことに気づいた時からか、その快活な笑みにつられて笑顔が出た時からか、小気味良いやりとりが日常に組み込まれたからか。

 お嬢様も彼が好きなのだろう。その素直な好意は誰の目にもわかる。周囲の女の子たちも、誰もが彼を見ている。そこに私のいる場所は……。

 

 試合は激しさを増す。

 私の胸の痛みも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そこまで! ……流石にこれ以上は、修繕費が馬鹿にならんわい」

 

 

 爺さんの合図に気張ってた身体の力を抜き、大きな息を吐く。

 百代ちゃんも相当に疲労したようで、ゴロンと武闘場に寝っ転がる。

 

 

「疲れたにゃーん。修二ー、抱っこ」

「俺も疲れてんだけどネェ。それも百代ちゃんに付き合ったせいで」

 

 

 仕方ないので、伸ばされた両手を掴み上げ、背中におんぶする。

 

 

「そこはお姫様抱っことか、気を利かせてもいいんじゃないか?」

「疲れてんの。それに、こっちの方が尻とおっぱいが当たって俺が幸せ」

「うわ、ナチュラルにセクハラを。まあ、いっか。うりうり」

 

 

 セクハラと言いながらも、百代ちゃんは俺の背中との接地面を広げる。

 しかしまぁ、全力でやったんだが、勝ち切れなかったゾ。ぶっちゃけ、武術という分野だけ見れば百代ちゃん、俺よか天才なんやなぁ……。

 

 

「イチャつくんなら、さっさとどっか言って欲しいんじゃがのぉ……」

「爺! 修二との甘いシーンを邪魔するなよなー!」

 

 

 爺さんが胡乱な目で出ていけと言うので、仕方なく百代ちゃんを背負ったまま舞台から降りる。

 

 

「修二……お前、こんなに強かったんだな」

 

 

 舞台から降りた俺に駆け寄ってきたのは、クリスちゃんだった。そのすぐ後ろには何か考えているマルギッテちゃんがいる。

 

 

「お、修二がドイツで知り合ったクリスか……ふむふむ、可愛い子だな。なぁ? 修二」

「そっと首に回す腕に力込めるのやめて下さい死んでしまいます」

「ふん、女好きめ。私は川神百代だ、モモ先輩でいいぞ。 私もクリスって呼ぶから」

 

 

 こーら、ちゃっかりマウント取りに行こうとしないの。

 

 

「悪りぃな、クリスちゃん。百代ちゃんは一つ上だから、偉ぶりたい年頃なんだ」

「いいや、構わない。あれだけの武威を誇るのだ。私はモモ先輩を尊敬するぞ!」

「おお! 修二! クリスはいい奴だな! 私を尊敬するって言ってくれたぞ!」

 

 

 クリスちゃんは純粋すぎて心配だが、百代ちゃんはアホにチョロくて心配だよ……。

 てか、マルギッテちゃん、だいぶ難しい顔してるな。

 うーむ、こりゃ、俺が下手に触れない方が良さそうだなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side:クリスティアーネ•フリードリヒ

 

 

 夜、私とマルさんはお父様が用意してくれたホテルで、今日のことを話していた。同じベッドに入り、部屋の明かりを消して話し込む。

 昔はよくこうして夜更かしして、お父様に怒られた。

 

 

「今日はすごく楽しかったな、マルさん!」

 

 

 日本に来てよかった! 私は心の底からそう思った。修二が育ったこの地は、気持ちがいい。修二のように、侍の魂を受け継ぐ者たちが数多くいる。冬馬や準もいい奴だし、小雪や京も私とマルさんのことを快く受け入れてくれた。

 

 

「そうですね、お嬢様。世界は広いと、改めて感じました」

 

 

 しかし、どうしてかマルさんは元気が無さそうだ。

 修二がモモ先輩と試合をしてから、どこか心あらずといった感じに。

 

 

「修二のこと、何かあったのか? マルさん」

 

 

 修二がドイツに来て、色々と教えてもらった。勉強や人との付き合い方、それは世間知らずの私にとって、世界を広げてくれることに等しかった。

 人の気持ちを慮る。今、マルさんは何か悩んでる。修二が教えてくれたから、分かった。

 

 

「なにもありませんよ、お嬢様。ただ、修二が思った以上に強かったので、驚いたのです」

「確かに凄かったなぁ。モモ先輩もだが、どうやったらあんな強くなれるんだろうな」

 

 

 私の今してるフェンシングで勝てるのだろうか。うーん、難しそうだ。マルさんたちの訓練に混ぜてもらって格闘技も習ってるけど、勝てるビジョンが浮かばない。

 

 

「悔しいな、マルさん」

「え……?」

 

 

 でも、マルさんとなら何とかなるかもしれない。猟犬部隊のみんなとなら、もしかしたら勝てるんじゃ無いだろうか。

 

 

「ドイツに戻ったらもっと頑張らないとな。本当は一騎討ちで勝ちたいけど、あれは難しそうだ」

「…………お嬢様」

 

 

 なんとなく、マルさんが何を思ったのか分かった。

 そっか、マルさんも、修二が好きなんだな。

 

 

「大丈夫だ、マルさん。私たちなら追いつける。だから、一緒に頑張ろう」

「……ありがとう、ございます」

 

 

 私を抱きしめるマルさんと、そのままそっと眠りについた。




ここまで読んでいただきありがとうございます。

今回はクリス&マルさん話でした。
ひとまず、ドイツ編で書きたいことは書けたので、また時間を飛ばします。

ではでは、これからもよろしくお願いします。

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