真剣で人生を謳歌しなさい!   作:怪盗K

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皆さまこんにちは。
感想、評価、お気に入り、ありがとうございます。

第21話となります。

前回ドイツ編でしたが、今回はその後片付け回となります。


それでは、駄文ですがよろしくお願いいたします。


第21話

 ドイツ、リューベックにあるフリードリヒ邸。

 それは邸宅という枠組みではなく、豪奢でありながらも気品と歴史を感じさせる、かつて地方貴族であったフリードリヒ家の城でもあった。

 

 そんなフリードリヒ邸の来賓室では、ビジネススーツを着崩した男と、軍服を整然と着込んだ初老の男が対面していた。

 

 

「それで、フランク中将閣下さんよ、俺がここに来た理由、アンタならもう分かってるだろ?」

 

 

 差し出されていた紅茶を豪快に呷り、ビジネススーツの男、九鬼帝は正面に座る男を見据える。

 世界有数どころか、現在は世界のトップを走り始めた九鬼財閥。その総帥に睨まれてなお、ドイツ軍中将は細波一つの動揺もなく答える。

 

 

「もちろんだとも。彼の、織原修二の容態は既に回復へと向かっている。ドイツの医学薬学は世界一を誇るからな」

「そうかい、それは何よりだが、何でまた、普通の病院じゃなく、あんたの居城であるここにアイツを捕まえてんだ? 別に、あいつはただの旅行客だろ?」

 

 

 九鬼帝がフリードリヒ邸を訪れた理由は、友人である織原修二が意識不明の重体という報告を受けたからだ。

 一時は生死の境を彷徨い、ドイツのある邸宅に保護されているとのことだったが、まさかドイツ軍中将の元に居るとは帝も思っても無かった。

 

 

「彼は娘の命の恩人だ。私のできる限りの、最高の環境で治療を行うのが当然だとは思うがね」

「なるほどな。まあ、馬鹿正直に言う訳はねぇ、か」

 

 

 帝は紅茶をカップに戻し、一つため息を吐く。

 そこで、気まずそうにお互いの従者が顔を見合わせる。それは人を従える立場にあり、それに相応しい圧力を自然と携える者同士が牽制しあっているからだ。

 

 

「腹の探り合いも面倒だな。……あんただから単刀直入に聞くが、中将閣下はアイツをどうするつもりなんだい?」

「……」

 

 

 帝の切り出しに、フランクは考え込むように目を閉じる。

 

 

「今回、我がリューベックに潜伏したテロリストは、マスタークラスの手練れを雇っていた。それも、絶影と呼ばれる暗殺者を」

 

 

 暗殺者、絶影。その名は帝も聞いたことがあった。壁越えの中でも実力派、それも暗器や毒の使い手であり、並の武闘家どころかマスタークラスの者すらその悪辣さで殺してしまう。

 フランクは席を立ち、帝に背を向けながら窓際に立つ。そのまま眼下に広がる訓練風景を見ながら、語りを続ける。

 

 

「私の新設した猟犬部隊は、ドイツ各地から集めた精鋭揃いだ。士官学校から引き抜いたエリートたちに、一芸に秀でた者を身分経歴問わずにスカウトしてきた。危険な任務もこなせるだろう」

「次の言葉を当ててやろうか?」

 

 

 帝が紅茶のお代わりを啜りながら、悪戯っぽい笑みを浮かべる。

 

 

「実践経験が足りない。そうだろ?」

「……その通りだ。まだ部隊として日が浅く、隊長や副隊長、一部の士官を除けば、新兵も多い。全体としての練度もまだ発展途上だ。マスタークラスの敵と戦うにはまだ、荷が重かった」

 

 

 フランクは帝へと振り返り、鋭い猛禽類のような目を向ける。

 

 

「そのために、彼が必要なのだよ。猟犬部隊が、真にドイツの、世界の平和に貢献できる精兵になるために」

「そこが分からねぇんだよ。純粋に修二の戦闘力をってんなら、やめた方がいいぞ? アイツは、誰かの元で飼い慣らされるようなタマじゃあねぇからな」

「分かってはいるさ。彼はまるで、叙事詩に語られる英雄のようだ」

 

 

 フランクは修二の話を聞いた時、クリスが無事だったことに死ぬほど安堵するとともに、その少年に心からの敬意を抱いたのだ。

 毒に侵され、銃に撃たれ、心臓の鼓動が止まりそうになりながらも、クリスを守り抜き、敵を討ち果たしたのだから。まさしく、英雄、現代に生きるサムライである。

 

 

「彼が猟犬部隊と触れ合うことは、彼女たちにとって大きなプラスとなるだろう。私は別に、彼に猟犬部隊に加入してもらおうという訳ではないのだ」

「なるほどねぇ……。考えることは一緒ってか……」

 

 

 英雄たちのクローンを用いた武士道プラン。それは、優秀な英雄クローンたちを競争の中に混ぜることで、その組織での競争意識を活性化させるという計画。

 

 

「実際、何名かの隊員は先日の事件以降、大きく成長した。それは軍人としても、戦士としてもだ」

 

 

 リザ・ブリンカーは、怪我一つ残ってなかった身体を、訓練でひたすらに虐め抜くようになった。彼女は自身の適性を活かし、ニンジャリスペクトの技にさらに磨きをかけ始めた。諜報として、斥候として、なにより戦場における遊撃手としての能力を高めようとしていた。

 

 テルマ・ミュラーは、部隊に課された基礎鍛錬が終わった後、深夜遅くまで機械駆動のプログラミングに打ち込むようになり、精錬技術にも手を出し始めた。彼女自身は、自身の身体能力の限界を見極めていた。そのために、自身が強くならないなら、強い機体に乗ればいい。より速く、より強く、より強靭に。もう二度と、守られるのではなく、護れるように。

 

 ジークルーン・コールシュライバーは、先日の事件以降、ある能力に目覚めた。それは、彼女が元々持っていた、「どこをどうすれば治りがよくなるか」感覚でわかる能力から蕾が花開くように成長したものだ。

 織原修二が使う気を用いた治療、彼女はそれを使えるようになった。彼女が持つ外科技術と気を用いた治療は瀕死の重傷も、ものの数時間で治してしまうまでになった。

 彼女の持つ気の総量が少ないから乱用はできないが、その異能は猟犬部隊でも頭ひとつ抜け出す価値を持つようになった。

 

 

「ほんの僅かな時間に、彼に影響された彼女たちは大きな飛躍を遂げようとしている。そのあり様で他者に影響を与える。これを英雄と言わずして、何と言うのかね」

 

 

 フランクは再び帝に背を向け、今度は慈しむように。視線を優しいものへと変える。

 

 

「私の娘、クリスも、彼に庇われるだけだったことが辛かったようでね。今までもしていたフェンシングに加え、軍隊式の訓練へ参加を希望するようになってしまった」

 

 

 それを聞いた時、フランクは当然却下した。しかし、クリスは冷静に、自分の立場、その危険性と自身に必要とされる能力の足りなさを自らの父へと説いた。

 親のエゴという、道理に外れた理論では覚醒したクリスを曲げられなかった。そして、渋々、本当に渋々ながら、フランクはクリスの訓練を許可したのだ。

 

 

「うちの長女はつえーし、次女には最強の護衛を付けたからなぁ。そのあたりは心配したことねぇわ」

「なるほどな。だが、親として娘の心配をするのは当然のことだが、娘の意思を尊重することも、必要なことなのだと、あの時のクリスの顔を見て思ったよ」

 

 

 フランク自身、娘のこととなると視野狭窄になることは自覚していた。それでも構わないと、開き直ってもいた。

 しかし、その結果として娘は反発し、テロリストに付けて入る隙を与えてしまった。

 

 

「一年、いや、半年だけでいいのだ。彼を借り受けたい、帝殿」

「…半年、ねぇ……」

 

 

 帝は半年という期間、修二を川神から離すメリットとデメリットを頭の中だけで計算する。

 川神における武士道プランの根回しは、織原修二のせいで遅々として進んでいないと、序列2番の老女は嘆いていた。不審な出来事があれば、何故か現場に織原修二が姿を見せるのだ。

 その織原修二が長期間、川神を離れるなら武士道プラン、そしてその裏に隠れた計画にも都合がいい。

 

 

「いいんじゃねぇの? 別に、俺はアイツの保護者って訳じゃあねぇしな」

「良かった。これで、後は彼の意思次第か」

 

 

 帝がここまでに来る途中で見かけた猟犬部隊の隊員たち。女性だけの部隊であり美人揃い、しかも一部の者は織原修二の好みにもろドンピシャだろう。

 

 

「半年で帰ってくっか……? 流石に永住とかにはならんだろうが……」

 

 

 帝は女軍人ハーレムを築き、美女たちを侍らす修二の姿を幻視した。やけに似合うドイツ軍の軍服を身に纏い、魔王のような笑みを携えて戦場を蹂躙する姿もセットで。

 

 

「それでは、彼に会っていくかね? 帝殿、まだ身体を動かすのには不自由しているが、意識は先日戻ったところだ」

「あー、そうだな。一応、面だけでも見ておくか……」

 

 

 フランクは頷き、控えていた部下へと目配せをする。

 赤髪に眼帯をした彼女は、帝たちの前に立つと、気をつけの姿勢を取る。

 

 

「彼女は猟犬部隊の隊長、マルギッテ少尉だ。彼の元へは、彼女に案内をさせよう。申し訳ないが、私は先日の件で仕事が溜まってしまってね。失礼させていただくよ」

「マルギッテ・エーベルバッハです。以後、この屋敷の案内を担当させていただきます」

「おう、知ってると思うが、九鬼帝だ。よろしくな」

「では、後は任せる。マルギッテ」

「ハッ!」

 

 マルギッテの敬礼を見送り、フランクが退室する。来賓室には、帝とその執事、そしてマルギッテだけが残された。

 

 

「では、ご案内します。着いてきてください」

 

 

 長い廊下を、三人は会話なく歩いていく。

 程なくして、一つの客室の前でマルギッテは足を止める。

 

 

「ここです」

「随分といい部屋を宛てがってんだな。おーい! 修二、元気してっか?」

 

 

 帝はノックもなしに、部屋へと入る。

 そこでは────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジークちゃーん、次は俺、君が食べたいよ〜」

「はいはい、修二くんは、ホント甘えん坊さんだね〜。はい、ぎゅー」

「ひゃっほーい!」

 

 

 バブバブと言わんばかりの、まるで赤子のように長身の女軍人に甘える間抜け野郎が居たのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今回ばかりは流石に死んだと思ったが、どうやらしぶとく生きていたらしい。なんか、クリスちゃんに言ってたような記憶もあるが、死にかけてたせいでいまいち覚えてない。

 身体が本調子になるまで、このフリードリヒ邸で面倒を見てもらっているが、これがまた居心地いいのなんの。

 

 ひたすらに甘やかしてくれるジークちゃん。これがもうたまらない、バブみを感じる。ここまで俺をオギャらせるとは、只者ではない。

 姉御肌で、面倒を見てくれるリザちゃん。カラッとした態度と、ウブな反応をする二律背反のギャップが可愛い。

 ちょっとツンツンしながらも、時折デレてくるテルマちゃん。ぶっちゃけて言えば、俺が好きなのが伝わってくるからもうツンデレ検定百点満点。

 

 なんだ? ドイツは俺の故郷だったのか?

 

 

「……ふぅ、それで、迎えにきてくれたのか? 帝っちよ」

「それで誤魔化せると思ってんのか? さっきのお前ヤバかったぞ?」

 

 

 ジークちゃんとバブバブしてたら、無粋にも帝のやつがノックもなしに入ってきやがった。

 ちなみに、ジークちゃんはマルギッテちゃんに連れて行かれた。首根っこを持たれてズルズルと連れて行かれた彼女は、今ごろお説教を受けているだろう。

 

 

「いいんだよ。俺は森羅万象あらゆるプレイができんだから」

「そうかい。まぁ、元気そうで何よりだ。死にかけたって聞いたぜ?」

「あー、それそれ、マジで今回は死ぬかと思った。鉛玉何発身体に入ってたと思う? 19発だぜ? 19発」

「それはもう死んどけよ」

 

 

 死んでないんだから仕方ねぇ。

 まあ、とりあえず、帝が来たってことは、そろそろ日本に帰るってことか? まだ自力では立ち上がれねぇんだけどなぁ。

 

 

「とりあえず、帝が来たってことは、そろそろ俺も日本に帰るのか?」

「いんや、修二、お前しばらくドイツに残れ」

 

 

 おん? どうしてまた、俺としちゃあ、猟犬部隊の面々とイチャイチャしたいから都合は悪くないが。

 あーでも、百代ちゃんたちがどうすっかなぁ。そんなに長くなけりゃあ、大丈夫か?

 

 

「大体、何でまたドイツに残るって話になったんだ?」

「それがよ、フランク中将がお前のことをいたく気に入ったみてぇでな。まあ、なんだ、タダ飯食って、美女に面倒みてもらえるんだから、いいんじゃねぇか?」

「まあ、うーん、それは魅力的なんだが……」

 

 

 フランクさん、囲い込む気か? いやでも、この前会った時にはそんな素振り見せなかったしなぁ。

 まあ、考えても仕方ねぇか。なる様になれだ。

 

 

「んじゃ、話は決まりだな。半年間、しっかり猟犬たちと仲良くしろよ」

「は? 半年?」

 

 

 流石に長くね? 百代ちゃんたち、ブチ切れるぞ?

 

 

「たまに帰ってくる様にすりゃあ、大丈夫だろ。飛行機代とかも面倒見てくれるんじゃねぇか? あの中将閣下の様子じゃ」

 

 

 んー、週一で帰るとか要求すれば、期間も短くしたりするか?

 まあ、とりあえずは

 

 

「ジークちゃんやリザちゃん辺りは、一発ヤレそうだしな、カハハ」

「お前ほんと、懲りねぇのな」

 

 

 しゃあない、男の子だからね。




ここまで読んでくださりありがとうございます。

修二くん、ドイツ残留決定!
まあ、残留と言っても、次の話でドイツ編は終わります。終わらせます。

猟犬部隊ではジークルーンさんが一番好きです。尻と身長がデカい女が好きだから仕方ないですね。


ではでは、今後ともよろしくお願いします。

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