真剣で人生を謳歌しなさい!   作:怪盗K

2 / 29
感想、評価、お気に入りありがとうございます。
お待たせしました、第2話となります。よろしくお願いします。


第2話

 じいさんにあばーされてからの一週間は、それはもうイカレタ日々だった。

 

 一日目、目が覚める。じいさんの顔見て唾を吐きつける、蹴られる。

 二日目、目が覚める。じいさんの顔を見て股間に一撃かまそうとする。蹴られる。

 三日目、その日は準備が整ったやらなんとか、白い密閉空間に閉じ込められじいさんに蹴られる。

 四日目、逃げ出そうとするもじいさんからは逃げられない。筋トレさせられまくる。

 五日目、仕方なしに体調不良を装う。じいさんが目を離したすきに脱走する。

 六日目、親不孝通りとやらでチンピラたちのリーゼントをもぎ取りながら、どうじいさんから逃げるか模索する。蹴られる。

 七日目、一日目に戻る。

 

 

「まじどうなってんだ、クソゲーにもほどがあるだろおい」

 

 

 修行と言うか拷問じゃねぇか、端から見りゃ虐待だぞ。こりゃ出るとこ出ないといけませんねぇ。

 自分に与えられた九鬼ビル内の部屋の中で、ベッドに転がる。ズキズキと体が悲鳴を上げてやがる。SもMもいけるハイブリッドハンサムの俺でも流石にまともに動けねぇ。

 

 

「あーくそいって、筋肉痛ってこんな痛かったか?」

 

 

 ちなみに昨日は筋トレ日だった。なんだよ腹筋1000回って、バトル漫画の住人かよ。ちなみにスクワットと背筋とかさせられた、しないと蹴られる。あのじいさん、ぜってぇカルシウムが足りてねぇだろ。

 

 

「見誤ったか。貴様が子どもと言うことを失念していた」

「うっせ、幼児虐待者め。ジャンプ買ってこいや」

「ふん、悪態をつく元気があるなら次も同じメニューでいいな。いや? むしろ追加するか」

「ごめんなちゃい許しておじいちゃま」

 

 

 できる限り愛嬌を振りまいてみる。こうしたことで落ちなかったじいさんは居なかった。

 

 

「気持ちが悪いな。今度は死ぬ直前までしごくか」

「ファッキンジーザス」

 

 

 なんてことだ、じいさんの美的感覚はイカレちまってたみてぇだ。

 じいさんは俺をいじめる未来を想像したのか、笑みを浮かべたまま部屋を出て行く。

 

 

「ちくせう、結局ジャンプは手に入らねぇのかよ」

 

 

 少年の聖書が手に入らないとかふざけてやがる。ちなみに俺はジャンプのラブコメが好きだ。

 てかガチで俺の心を折りに来てやがるな、あのじいさん。曜日も時間も分からない状態にして苛め抜いて、終わったら部屋に放り込んで軟禁だべ。

 普通、こんないじめにあったら耐え切れんぞ、流石の俺も涙目ぞ。こんなストレス感じてちゃ飯運んでくれるメイドさんにパイタッチすんのも仕方ないね。

 逃走は成功率1%ぐらいいきゃいいとこだし、あのじいさん以外はいいとして、俺の勘がじいさん並みの化け物がこの街に居るぞーってビンビン反応してる。どうせならエクスカリバーにビンビンしてほしかった。

 

 

「あ、一子ちゃんのこと忘れてたわ。くっそ、この街から逃げる前には真名解放しねぇと」

 

 

 二、三年だ。それだけ時間をかけてあのじいさんから逃げる。絶対だ。

 

 

「そうと決まりゃ、雌伏の時だなー。てかじいさんいつか殺す」

 

 

 体から力を抜き、目を瞑る。いじめられた筋肉が再構築されていくようなイメージを感じながら、今までの疲労を溶かしていく。あ、すんごく気持ちよく寝れ……スヤァ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい起きろ、食事の時間だ」

 

 

 お目覚めはメイドのキッスがよかったです。じいさんの髭はノーサンキューです。

 

 

「今何時だじいさん、そろそろ時差ぼけどころか精神がイカレちまうぞ」

「そう言う割にはまったく応えてないようだな。あと一カ月ほど続けてやろうか」

 

 

 こっちの心折る気じゃねぇわ、殺す気だわ。あ、泣きそう。確かに反社会的なことばっかしてたけどさ、この体になってチャラになったと思っていいじゃない。反省なんて欠片もしてないけど。

 てか刑務所より上等と感じるのが飯と寝床しかない現状である。ファッキン。

 

 

「と、言いたいところだが。喜べ、明日はようやくここから出られるぞ」

「お? ついに虐待バレて閑職にでもなんのか? 無職になって年金暮らしになんのか?」

「そんなわけないだろう。貴様の学校への編入が決まっただけだ。今度の月曜から通ってもらうぞ」

 

 

 そんなふざけたことを抜かしながら俺に真っ黒なランドセルを投げて寄こしやがった。なっつ、俺は天使の羽しか受け付けねーんだけど、きちんとそこんところ配慮してんのかねぇ。GPSとか埋まってそ、流石に考えすぎか。

 

 

「あいあい。くっそふざけやがって」

 

 

 ランドセルの中にはご丁寧に教科書まで入ってやがる。俺の学歴は高校中退だぞ。ちなみに放送室で女教師をガチャピン(意味深)してたら全校に放送されてて、仲良く学校からおさらばだった。刺されかけたね、相手に。

 

 

「明日明後日、土日を使って勉強をしておけ。小学校とはいえ、九鬼の名を使って編入させたからには無様な学はさらすなよ」

「ふぁー、出たよこの人。九鬼大好きすぎかよまじ」

 

 

 まあ俺もみかどっちは気に入ってるしなー。なんかあっちもシンパシーみたいなの感じてるみたいだし。

 

 

「そういやみかどっちは今どこにおるん? 時間間隔麻痺ってるから最初に会った時からいくら経ったか分かんねぇが」

「帝様は明日までこのビルにおられる。明日の朝には中東の方へ向かわれるがな」

「渡り鳥かよマジワロス。まあいいか、じいさんは着いていかんの?」

 

 

 マジお願いみかどっちこの不良爺連れてって。てかこの教育方法もチクっちゃろ、クビになっちまえ。

 

 

「誠に残念だが、俺も帝様の護衛として着いていかねばならん。紛争地帯がごたついている上、現地のやつらが九鬼に何か仕掛けてくる動きも見られたからな。傍を離れるわけにはいかなくなった」

「ひゃっほー! 現地民さんまじさんきゅー!」

「喧しい。蹴るぞ」

「アッハイ」

 

 

 じいさんの目が光り出したのでひとまず大人しくする。現地のやつらってのが何だかよく知らんが、ひとまずお礼を言っておこう。てかみかどっち中東に何しに行くんだよ、石油でも掘るのか?

 

 

「そんじゃ、俺は自由の身でおけ?」

「一般の従者の監視は付くがな……。それでもまだ調教も済んでいない獣を野に放つようなものだが、鉄心にも言ってあるから大丈夫だろう」

「おっ、一般の執事やメイドに俺を止められるとでも?」

 

 

 おっおっおっおっと反復横跳びしながらじいさんを煽る。高スペックになったこの体なら百面相しながら煽れる。

 蹴られた、解せぬ。まあ俺がやられても蹴るけども。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まじあのじいさん暴力的すぎんよー、みかどっちよー」

「アッハッハッハ! お前さんそんな目にあってたのかよ。虐待じゃねぇか、はたからみたらよ、フハハ」

 

 

 みかどっちが腹を抱えて笑う。おうこらその腹筋にパンチかますぞ。

 じいさんが出て行った後、筋肉痛もいくらか収まったので俺はみかどっちの所に向かうことにした。手土産は大吟醸とさきいかを最近手からお菓子出せるようになったのでそれで作った? まあ、食えるから問題ないだろ。

 じいさんいるかなーと思ったが居なかった。明日の荷造りでもしてんのかね? 忘れ物すんなよ? 友達いないんだから誰も忘れた物貸してくれないぞ?

 

 

「てか、この酒とかつまみはどうしたんだ? 金も持ってなかったし、買いに行くことすらできなかったろ、あむ」

「手から出しましたー。何かよくわからんが、食べ物限定で手から出せるっぽい。ほら、今度はビーフジャーキー」

 

 

 俺も酒のせいで酔ってるなー。口が滑っちまう、こりゃいかん傾向だ。酒で身を亡ぼすタイプだったわ俺。お菓子とか食べ物しか出せないとか俺の異能どうなってんのよ。どうせならお金出せるようにしてほしかったわ、一字違いだしいいじゃん別に。

 

 

「へー、便利だな。飢え知らずってか、中東行くか? あっち飢えてるやつが山ほどいるからな」

「俺一人で何ができんのよ。せいぜい一人二人満腹にして終わりだよ。みかどっちが救ってこいや。そういうの得意じゃろ、大勢でゾロゾロと行くんだし」

 

 

 たぶんじいさんが言ってた気とやらを消費して食べ物作ってんだろーなー。少しけだるい感じがするし。てかみかどっち全然酔わねぇ、うわばみかよこやつ。

 

 

「お前見た目通りの年齢じゃないだろ絶対。あー、ミスったな、学校に行かせるんじゃなくて引っ張っていくべきだったぜ」

「お断りです~。俺はフリーダムなの、世界の半分ぐらい寄こせば考えたるよ。よく考えたら勇者って世界の半分の誘惑を振り切って魔王ぶっ殺すよな、まじ鋼の精神だよな」

「だっはっは、確かにな。ま、明日にゃ俺は飛行機だ。てかよー、お前まじで子供じゃねぇだろ、俺と同い年くらいって言われても納得するぞ?」

「見た目で人を判断してください―、平平凡凡な小学三年ですー」

 

 

 まったく、見た目で判断してくれなきゃ女湯いけねぇだろうが。分かってんのかよみかどっちよー。

 

 

「どうせ女湯でも覗くんだろ? うらやましいぜ、まったくよ」

「な、なにをおっしゃるみかどさん」

 

 

 勘がよすぎませんかねぇ。いや、この場合はその勘に持ってる絶対的な信頼を驚くべきか?

 

 

「ま、いいさ、宿り木にしちゃ豪華だが、楽しんでくれや」

「ええのかいそれで、あのじいさん九鬼の従者にしてやるーとか意気込んでるんだぜ? あの洗脳教育もその一環じゃろうて」

「無理無理。お前、俺と大体一緒だわ。ま、考えてることとか、スタンスとかは違うけどな」

 

 

 そうかい。ま、俺もみかどっちとは上下関係って言われても想像できんしの。なんだかまじでシンパシー。

 いやぁ、酒が旨いなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、翌日。

 

「二日酔いと言うオチである」

 

 

 あったまいてぇ、吐き気がヤベェ。何でおんなじくらい飲んどいてみかどっち平然と中東に行けるんですかねぇ。つまみはじいさんに蹴られて全部リバースしたよチクショウ!

 

 

「とりあえず、久々の自由を……う、日差しがぎも"ぢわ"る"い"……」

 

 

 今にも吐き出しそう……もう胃液しか残ってねぇよ。

 

 

「あ! シュウジ!」

「あん?」

 

 

 何やら従順なワンコが俺を呼ぶ声がする。

 

 

「……一子ちゃんじゃねぇか。どしたよ、学校は」

「? 今日は休みよ? シュウジ具合悪そうよ? 大丈夫?」

「あー、大丈夫だいじょ、うぷ……」

 

 

 ガキの肝臓の処理能力を見誤ってた。もうみかどっちと同じペースでは飲まねぇ。

 

 

「ほ、ほんとに大丈夫? おばあちゃんの家で休む?」

「あーうー、へーきへーき。あのばあちゃんにあんま迷惑かけたかねぇんだ」

「ほんと?」

「ああ、そんで。一子ちゃんはこんなくっそ暑い日差しの中どしたよ、遊びに行くんか?」

 

 

 遊ぶとなるとあのパンツ愛好会たちか。いや、男は誰もがパンツ愛好家か。

 

 

「ええ! ヤマトたちと野球するの! シュウジも来る?」

「おうおう、そんじゃ俺がメジャーリーガーも真っ青なデッドボールかましたるよ」

 

 

 物理的には真っ赤にするんだがな。

 

 

「遊びに誘ってくれた一子ちゃんにはご褒美をあげよー」

「わーい! コロコロ♪」

 

 

 手から飴玉を異能で作り出し一子ちゃんの口に放り込む。アメとムチを使い分ける調教師としての側面も俺は持ち合わせているんだ。その内一子ちゃんには猛獣として俺の上を飛び跳ねてもらわなきゃならんからな。

 

 

「そんじゃ、行こうや。この前の河川敷か?」

「うん! こっちよ!」

 

 

 一子ちゃんに手を引かれる。やるな、キュンキュンポイントが高いぜ。

 

 

 

 

 

 

「かっきーん!!」

 

 

 子どものころの将来の夢はメジャーリーガーでした、修二です。放物線を描いたボールは遥か彼方へ! 伸びる! 追い風に乗ってどこまでも伸びるぞー! これは入ったでしょー!

 

 

「どわー! 飛ばし過ぎだぞ!」

「走れ筋肉ダルマよぉ! その間に俺はホームベースを踏んでるがなぁ!!」

 

 

 子供の草野球にはランニングホームランぐらいしかないよね。人数少ねぇと三角ベースだし。

 じいさんの蹴りを撃ち返すぐらいの気概で行ったら伸びる伸びる。子どもなんぞ勉強が少しできてスポーツができれば大体言うこと聞くようになるだろうと思ってたが思いのほか楽しいな。

 

 

「ふ、流石は俺を一度は地に伏せさせた男だ。ただ者ではないと思ったがな」

「おー! お前すんげぇだな! この前は何か気がついたら居なくなってたしな」

 

 

 うるせ、あのじいさんはしかたねぇだろ、負けイベントだ負けイベント。今は居ねぇけどな!! 最高だなぁ! おい!

 

 

「クハハハッ! いいきぶ……う、おろろろろろ」

 

 

 ホームベースまで戻ってきたが、キャッチャー役の中二君に酸スプリットアタックをかましてしまった。中二君の悲鳴を聞きながら、俺はしっかりとホームベースを踏み抜いたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:九鬼帝

 

 

「本当によかったのですか。あの小僧を置いてきて」

 

 

 飛行機の中で、ヒュームが表情を厳しくして俺に聞いてきた。

 小僧とは当然、ヒュームが連れて来たあの子供の皮を被ったやつのことだろう。人並み外れた総量の気、それだけでも監視に置くだけの危険性があるってのに、あいつ多分かなりのバカだからなー。

 多分犯罪とか後ろ暗いことも色々してたんだろ、俺には分かるわ。ヒュームも若干それを感じ取って危険だと判断したんだろうけどな。

 

 

「ありゃ抑えつけたところで反発しかしねぇよ、ヒューム。実際、閉じ込めてボコボコにしたところでさして手応え無かっただろ?」

「ええ、奴は危険だ」

 

 

 簡潔に、それでいて確信的な答え。

 

 

「そうだなー、修二は危険だわな。でもま、それ以上に、俺の勘があいつとはダチになれって言ってたんだわ」

「……」

 

 

 この勘に俺は全てを乗せて来た。勘なんて不確かなものを、俺はこの人生常に絶対的な信頼をもってやってきた。それが外れたことはなかったし、これからも俺はこの勘を信じていくだろう。

 

 

「ヒューム」

 

 

 コインをトスし、ヒュームに投げ渡す。コインはくるくると放物線を描き、ヒュームの手に収まる。

 

 

「表なら、俺の言う通りにしろ。裏だったら、おまえが言う通り、あいつは危険と判断して何らかの対策を講じよう」

 

 

 ヒュームは難しい顔のままでそっと受け取ったそれを手の甲に乗せる。

 答えを俺は間違えない、俺の勘が教えてくれる。

 

 

「表だろ? 俺の勝ちだ」

 

 

 コインの面を言い当て、俺は飛行機の窓から頬杖をつきながら外を眺める。

 

 

「面白そうなこと、やらかしてくれよ?」 

 

 

 ヒュームからの答えを聞くまでもねぇや、俺は俺の勘を信じてるからな。




ここまで読んでいただきありがとうございます。顔文字や他者視点もありましたので戦々恐々です。
出来る限り早く次も投稿できるように頑張ります。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。