真剣で人生を謳歌しなさい!   作:怪盗K

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皆さまおはこんばんにちは。

評価、お気に入り、感想ありがとうございます。

さて、第17話となります。

今回で日常イベントは区切りとなり、時間を小学五年生くらいまで飛ばします。

それでは、駄文ですがよろしくお願いします。


第17話

 空からマシュマロが降るという、謎現象はすごい話題となった。怪奇現象にしても、規模が規模だし、マシュマロという物的証拠が残されている。

 九鬼のイベントだとか、川神院の修行の一環だとか、色んな憶測が飛び交っている。

 

 

「てか、あのマシュマロ事件、犯人はお前だろ」

「まぁ、あんなことするのは、修二君くらいしか居ませんからねぇ」

 

 

 冬馬と準にはバレてたようだ。付き合い長いし、マシュマロって分かりやすかったか? 小雪ちゃんは街を駆け回って集めまくってたみたいだし。

 小雪ちゃんは今も、その際に集めたマシュマロを詰めたお菓子箱を抱えている。

 

 

「うま、うま、修二の味がするー!」

「こら! ユキ! さっきから食べすぎです! ほら、1日10個までって約束したでしょ!」

「あー! 返せ、かーえーせーよー!」

 

 

 小雪ちゃんは幸せそうにマシュマロもぐもぐしてる。ほんま、かわえーなー。

 そんな小雪ちゃんから、準がマシュマロを詰めたお菓子箱を取り上げる。

 

 

「修二君、少し相談があるのですか、よろしいですか?」

「あん? 珍しいな、お前さんが俺に相談だなんて」

 

 

 準と小雪ちゃんが戯れているのを見守りながら、冬馬がすすすっと距離を詰めてくる。

 なんか最近、距離が近い気がするんだよな、こいつ。

 まあ、最近は女の子に声をかけられて、そのまま仲良くいい雰囲気になったりしてるから、大丈夫だろ。

 

 

「そんじゃま、修二お兄さんのお悩み相談のお時間だ。どんな内容なんだ?」

「ええ、大したことでは無いのですが、父の書斎から、非合法な方法で得たと思われる金銭についての帳簿が見つかりまして……」

 

 

 あ、ヤバ、あのおっさんドジ踏みやがった。

 

 

「あー、うん、ダイジョーブダイジョーブ。多分もう悪いことシテナイヨー」

「そう、ですね。確かに、帳簿の年月日はだいぶ前で止まってましたし、もう悪事はしてないのでしょうが……」

 

 

 あー、まあ、俺が強請ってたし、九鬼が介入して悪事なんて何もできなくなっちまったからな。

 むしろ、俺が搾取の限りを尽くして、そのあとに九鬼にトドメを刺されて、最後に息子に悪事がバレるとかいうオーバーキルとか、可哀そーだなー。

 

 

「とりあえず、お前はどう考えてるんだ? いや、どっちかってぇと、親父さんをどうするんだ?」

「正直、父がしていることは許されることじゃありません。それに、まさかと思って調べれば、準の父も関わっているみたいです」

「アーウン、ソウダネー」

「準は、私に任せると言ってくれました。しかし……」

 

 

 告発するか、それとも見逃すかって所か。

 

 

「父の罪を告発することは、こう言ってはなんですが、簡単です。証拠は準の力を借りれば、すぐ押さえられると思います。

 ですが、その結果、私と準は犯罪者の息子、母さんたちも肩身が狭くなる」

 

 まあ、少なくとも、葵紋病院の院長の息子、妻から、犯罪者の家族へと世間の見る目は変わるだろう。

 

 

「それに、修二君やユキ、英雄にも、迷惑をかけてしまうでしょう。こんな僕たちと仲良くしてたなんて、と」

 

 

 なるほどねぇ、冬馬らしいっちゃ、冬馬らしい悩み方やな。

 

 

「冬馬よぉ、お前さん、俺らがそんな風評とか世間体とか気にすると思うか?」

「ですが、世間の評価というのは、馬鹿には出来ません。あなたや英雄、百代さんは自分で自分を守れるかもしれませんけど、ユキは、そんなに強くありません」

 

 

 確かに、小雪ちゃんは冬馬や準からすりゃあ、まだまだ守らなきゃいけない子なんだろうさねぇ。

 

 

「おーい、小雪ちゃん! 準で遊んでないで、こっち来てくれー!」

「ウェーイ? 修二、なになに?」

 

 

 お菓子箱を取り返し、準の口の中にマシュマロを詰めて窒息させてる小雪ちゃんを呼び寄せる。

 俺に駆け寄り、撫でてと言わんばかりに突き出してくる頭を撫でてやる。

 白くサラサラの髪を梳かしてやれば、気持ち良さそうに目を細める。

 

 

「小雪ちゃん、冬馬と準をいじめる奴がいたらどうする?」

「えー? うーん、こらしめるー?」

「それで、小雪ちゃんを逆にいじめようとして来たら?」

 

 

 冬馬は心配性なんだよ、たまには、守るだけじゃなくて、守られてみろ。

 

「やり返すよー、いじめはダメなんだからー」

「ユキ……ですが、それはあなたを周囲から孤立させてしまいます」

「大丈夫だよ、トーマ。僕にはもう、みんなが居るから」

 

 小雪ちゃんが、冬馬の頭をよしよしと撫でる。

 

 

「修二も、モモちゃんも、英雄も、トーマの味方だよー」

「ユキ……」

「それに、そんなので離れていく奴らなんて最初っから期待できないのだー」

 

 小雪ちゃん、随分と逞しくなって……お兄さんは感慨深いぜ。

 

 

「フフ、いつの間にか、ユキも強くなったのですね」

「そうだぞー、ルー師範代も褒めてくれるんだー」

「ま、お前が思うより、お前の周りの奴らは強いんだよ。あの風間ファミリーも、なんか言えば手ェ借りれるだろ」

 

 

 冬馬は笑みを浮かべ、吹っ切れたような目を俺に向ける。

 

 

「分かりました。私は、私のやりたいようにしようと思います」

「おうよ、ま、なんかフォローが必要だったら言えよ」

 

 

 まあ、俺が何かしなくても大丈夫そうだネェ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 葵紋病院の院長が替わり、俺はいい金蔓が居なくなり困っていた。

 仕方ないので、お馬さんとお船で金を稼ぐことにしたが、ミサゴちゃんにバレてマジ切れされた。

 ミサゴちゃん、旦那との破局の原因が株とあって、ギャンブルじみたのにはすっごい過敏に反応する。

 

 

「次黙ってやったら、許さないから」

「ごめんて。でも、どうやって金稼ぐかなぁ」

「お願いだから、借金までしてギャンブルとか止めてよ?」

 

 

 喧嘩後のセックスは燃え上がるというが、確かにお互い不満をぶつけ合った後には、お互いがまた求め合う欲求も高まる。

 ベッドの中でのピロートークにしては、夢がないが、金策にこれから困るだろうから仕方ない。

 

 ミサゴちゃんとは、たまにこうしてベッドを共にする。

 ミサゴちゃんもいい大人だし、家庭ぶっ壊した責任取れとは言わないが、釣った魚には餌をやれと睦言を強請る。

 その少女のようないじらしさがまた、可愛らしく感じる。

 

 

「それじゃあ、私はそろそろ仕事に行かなきゃいけないから、先に出てるわよ?」

「あいあい。そういや、ミサゴちゃん、娘さんは元気そうかい?」

 

 

 ベッドから起き上がり、色気のある背中を見せつけながら下着を身につける。

 その尻を撫でたい願望を我慢するのは、中々に至難の技だったが、俺の内なる野獣をやっとかっと抑えつける。

 

 

「元気よ。今も一日に一回は連絡を取ってるわ」

「そりゃ重畳。前会った時は、すんごい剣呑な眼で見られたからねぇ」

 

 

 そりゃ、母親寝取って、家庭をもう取り返しのつかないような状態にした張本人だからな!

 そのうち刺されそうな気がする。いや、マジで。

 

 

「そりゃ、あなたがふざけた調子で新しいパパだよ! とか言うからよ。燕ちゃんも意固地になって、久信君のところに残っちゃったし」

「カカカ、まあ、その場のノリでやっちまったことは反省してるさ。燕ちゃんの攻略難度上がっちまったしな」

「うちの娘を狙わないッ!」

「あいたっ」

 

 

 ミサゴちゃんから遠当てが飛んできて、俺の頭を小突く。

 

 

「それじゃあ、またね。修二」

「あいよ、またね。ミサゴちゃん」

 

 

 身だしなみを整えたミサゴちゃんが、部屋を後にする。

 残されたのは大人の女の残り香と、鎖骨に一つ残されたキスの痕だけ。

 俺は深く息を吐き、目を閉じる。先程の気味良いやり取りの余韻に浸りながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぼ〜くらは〜、あるいて〜いく〜」

 

 

 夕暮れの川沿い、肩車をした小雪ちゃんが、楽しそうに歌っている。ぐわんぐわんと俺の首を揺らしながら、小雪ちゃんは綺麗な声を響かせる。

 音程は外れてるし、抑揚も下手っぴだが、ほんとうに楽しそうに歌いやがる。

 

 

「みんなと〜、いっしょに〜、どこまでも〜」

 

 

 何気に、久々かもしれない、小雪ちゃんと2人っきりなの。

 いつの間にか、俺の周りも賑やかになっちまったなぁ。割と最初っから騒がしかったけど。

 

 

「あめがふっても〜、ゆきがふっても〜、わらってられるさ〜」

 

 

 将来、小雪ちゃんはどうなってるんだろうか。

 こんなクズな俺に良いようにされてると気づき、離れていってしまうのだろうか。

 百代ちゃんも、冬馬も、準も、英雄も、そのうち餓鬼のまんまじゃ居られない時が来るのだろう。

 

 

「ららら〜、これからも〜、きっとたのしいことがあるさ〜」

 

 

 元から子どもじゃない俺は、置いてかれちまうだろうな。

 

 

「だから〜、あるいていこう〜、どこまでも〜」

 

 

 小雪ちゃんは、最後にビブラートを効かせて、曲を締める。

 肩車のまま、体を丸め込んで、俺の顔を覗き込む。

 

 

「ね! どうだった! 修二。僕の歌!」

「35点。小雪ちゃんよぉ、もっとテンポってのがしっかりしてねぇと、曲じゃなくてただの朗読だぜ?」

「……」

 

 

 小雪ちゃんの顔がドアップで、前が見えねぇじゃねぇか。

 

 

「修二、泣いてるの?」

 

 

 あん?

 

 

「何言ってんだ? 小雪ちゃんや」

「修二、最近さ、僕気づいたんだ。修二のこと」

 

 

 ええい、近すぎんぞ。その真っ赤なお目々しか見えねぇ。

 

 

「おう、小雪ちゃんの癖に言うじゃぁねぇか。この織原修二、泣くのはガチャで爆死した時だけって決まってんだぜ?」

「修二、ほんとはすごい寂しがり屋だよね」

「……寂しがり屋だぁ?」

「うん。だから、修二は、僕たちを大切にしてくれるんだなーって」

 

 

 ああ、そうだよ。大切だよ。

 だから、止めろ。

 

 

「小雪ちゃんよぉ。俺がそんな、寂しい淋しい、1人にしないでって言うような奴に見えるのか?」

「んーん。だってー、修二、我慢しちゃうよね」

「……」

「壊れちゃうぞー、ずっとそんなのだと。ガシャーン! って」

 

 

 小雪ちゃん、止めてくれよ。頼むからよ。

 

 

「修二ってさ、凄いよね。頭もいいし、運動もできる、顔だってカッコいい。だからきっと、ひとりぼっちなんだなーって」

 

 

 ……。

 

 

「修二は、ヒーローだから。でも、きっと、誰も修二のヒーローにはなれないから」

 

 

 小雪ちゃんが、俺の肩の上から飛び跳ねる。白い髪をはためかせ、ウサギのように、俺の目の前へと向き直る。

 よく分からなかったが、その声は優しかった。ぼやけて見えなかったが、その目は優しかった。

 

 

「僕が、修二のヒロインになってあげる。僕が、修二を一人ぼっちにしないであげるんだ」

 

 

 あぁ、くそ。

 完敗だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 恋愛という戦いで負け星が付いたのは、前世も含めて初めてだ。

 こいつは俺の考えだが、恋愛というのは如何に相手が欲しいものを与えることができるかってことだと思っている。

 

 その理屈で言うなら、小雪はズドンと、一発で撃ち抜いてくれやがった。

 

 

 ああそうさ! 俺より低い奴らどもばっかりの世界!

 完璧でハンサムな俺はずっと孤独を感じてたさ! 誰も俺を満たせねぇ訳だ! 俺は俺で満たされてたから!

 

 

 だが、ああ、くそ! よく見破ってくれやがったなぁ! おい!

 俺が一番欲しいもんをよぉ!

 

 

「あぁ! 悔しいなぁ!」

 

 

 こんな年端もいかない餓鬼に!

 その感情の正体も知らなさそうな小娘に!

 

 

 俺は負けた! 惚れさせられた!!

 この寂しさを埋めさせられた!

 

 

「よく分かったな、小雪ちゃん」

「へへー、分かるに決まってるじゃん。僕、修二のことずーーっと見てたもん」

 

 

 虎視眈々と狙われてたって訳だ。小雪ちゃんを舐めてた俺は、足元掬われたってことか。

 カハハ、ここまで清々しい負けなら気持ちもいい。

 

 

「よし、小雪ちゃん。結婚しようぜ」

「ウェ!?」

 

 

 小雪の手を取り、俺は抱き寄せる。

 ワルツを踊るように、小雪ちゃんを俺を軸にふわりと回転させ、腕の中に抱き込む。

 華奢な膝の裏と背中を持ち、走り出す。

 行く先なんて考えてない、ただこの体の持つ熱が足を動かす。

 

 

「カハハ! 二度と離れられると思うなよ! 俺を負かしたんだ! 責任は一生掛けて取ってもらうぞ!」

 

 

 腕の中の小雪は、俺の首に手を回す。

 

 

「うん! 修二、大好き!」

「俺もだよ、バカヤロウ!」

 

 

 あぁ、俺もまだまだ、若いなぁ。

 恋愛で、こんなに心が弾むなんてよ。




ここまで読んでいただきありがとうございます。

蛇足ですが、修二くんの攻略難度はクソチョロです。
マジ恋ヒロインたちよりもチョロいです。

前世からの天才ぼっちなので、そばにいーるよーとか言えば攻略できます。


さて、次回は私もみんなも好きなあの子の登場です。

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