真剣で人生を謳歌しなさい!   作:怪盗K

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おはこんばんにちは。

お気に入り、評価ありがとうございます。


そろそろ、タイトルを考えなきゃいけないなと思いながら、第16話となります。
ぶっちゃけ、織原修二の華麗なる日常とか、私のネーミングセンスはそんなだから決めかねたところはあるのですよね。


さて、前置きはこの程度で、駄文ですが、よろしくお願いします。


第16話

 史文恭の乱は、ひとまず彼女が帰国するという結果で落ち着いた。

 俺の懸命な説得(卑猥)により、傭兵集団の当主に俺を据えることは諦めてくれたらしい。だが、最終的に、自分と俺の子を跡継ぎとして育てればいいと言うとんでもない結論を導き出し、なんか満足げな感じで帰っていった。

 また会いに来ると言っていたし、完全に諦めた訳じゃないだろう。

 

 

「いくぞ! 修二!」

「あいよ、来な、英雄」

 

 

 今日も今日とて、川神は平和である。

 英雄の自主練に付き合い、キャッチャー役をやってやる。

 

 

「かっとばせー! キャップー!」

「おう! 任せとけ!」

 

 

 さらに、今回は風間ファミリーから翔一がバッターとして入っており、他の奴らは守備位置入ったり、観客として歓声を飛ばしたりしている。

 俺はサインで、内角低めストレートを出す。英雄はそれに目だけで頷き、投球フォームに入る。

 翔一もバットを握る手に力を込め、脇を締める。

 

 

「ふんッ!」

 

 

 英雄のストレートは既に130km/hを超えており、小学生のレベルを超えている。リトルの中では上級生を抑えて看板エースを張っており、地区大会とかは余裕で完全試合を成し遂げてしまう。

 そんな英雄のストレートを、翔一は確かに反応してバットを振る。

 

 

「へぇ」

 

 

 当たりはしなかったが、球は視えてるようだ。俺は、ボールを英雄に返し、次に外角のボール球を要求する。今度もストレート、どれくらい視えてるか、探りを入れる。

 英雄が投げ、翔一はそれを見逃した。

 

 

「ボールだ。ワンボールワンストライクだな、翔一」

「へへっ、そうじゃねーかなーって思ったんだ」

 

 思った以上に視えてるな。このままストレートを投げてたら、目が慣れていい感じに打たれそうだ。

 俺は翔一にちょっと待ってろと声をかけ、英雄に近づいて耳打ちする。

 

「英雄、どうする? 変化球主体ならそれでリードするが」

「フハハ! ストレートのみで構わん! 我の球が見える者との対戦も必要だ! それに、ストレートだけでも打ち取れる」

「おっ、自信満々じゃねぇか。なら、好きに投げるといいさね。どんな球でも取ってやるよ」

 

 

 確かに、いい練習にはなるか。英雄のリトルは、英雄のレベルに届く相手が居ねぇからな。

 

 

「悪りぃな、お前が強いから作戦会議してたわ」

「全然構わねぇぞ! 次くらいなら、打てそうな気がするしな」

 

 

 こっちも自信満々だねぇ。英雄も翔一も、同年代で刺激し合ってるようだ。

 英雄がワインドピッチポジションに入る。翔一もバットを短く持ち替え、速球に備える。

 

 

「しッ!」

「らッ!」

 

 

 翔一は確かに英雄の球に反応していた。しかし、僅かにバットに当たっただけのボールは前には飛ばず、俺のグローブの中へと収まる。

 

 

「チップ、ツーストライクだ」

「だぁ! 惜しぃ! 次だ次! 今度こそ飛ばしてやる」

「カカカ、ま、頑張れや」

 

 

 英雄は安心した様子も、焦った様子もない。ただ、静かに次の投球へと思考を巡らせる。

 どのコースに、どのスピードで投げれば、翔一の虚を付けるか。速球縛りをしてるなら、そんな所か? まあ、そんな風に考えてるなら、英雄、打たれちまうぞー。

 

 

「おら、次の球くるぞ。構えな、翔一」

「おう! 来い! 英雄」

 

 

 翔一は先ほどよりさらに短くバットを持つ、英雄のストレートを確実に捉えるために。

 

 

「ふッ!」

 

 

 英雄のストレートは先ほどよりも速くなっていた。140km/hは出ているのではなかろうか。少なくとも、並の高校球児とかには打てないだろう。

 

 

「視えた! 球の一球!」

 

 

 カキン、と甲高い音が響く。白球は青空へと登り、驚愕の表情を浮かべる英雄の頭上を飛んでいく。

 おー、中々飛ぶなー。

 

 

「オーライオーラーイ! ウェーイ、獲ったー!」

 

 

 だがしかし、打球の伸びは、センター辺りに待ってた小雪ちゃんのところで止まる。待ち構えていた小雪ちゃんは、危なげもなくグローブでボールを取る。

 

 

「センターフライ。惜しかったな、翔一」

「くっそー! 負けた!」

「……」

 

 翔一は悔しそうにし、英雄もまた苦々しそうな顔をしていた。

 そんな英雄のいるピッチャーマウンドに近づき、俺はグローブを手から外す。

 

 

「んじゃま、英雄、なんで打たれたか分かるか? 渾身のストレートだったろ?」

「……速さを重視しすぎて、球威が足りなかった。風間は既に球は見えていたが、その速さに反応するためにバットを短く持っていた。なら、重い球で球を飛ばさせなければよかった」

「そうだな、ありゃあもうちょいあたりどころが良ければホームランもありえてた。ま、そこまで気づいてんなら、もう大丈夫だろ」

「フハハハハハ! 我もまだまだ精進が足りんということか! いい勉強になった!」

 

 

 翔一も英雄も、お互いリベンジを所望してるみたいだし、もう少しやらせて見るか。

 やだネェ、才能溢れる若者ばっかりで。気づいたら、何処か遠くに飛んでっちまいそうだ。

 こりゃ、俺もうかうかしてたら、置いてかれそうだなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自然ってのはいい。空気は美味いし、くだらない俗世のしがらみなんか一切存在しない。

 木々に囲まれた中、座禅スタイルで自身の中にある気という不思議エネルギーを操る。

 

 

 清廉な気が満ちる山の中。大気と一体化するように、自分という存在を世界に溶け込ませる。自身の気と、自身の肉体の境界を無くし、それを垂れ流す。

 認識できる世界が広がる。植物の持つ脈動、動物の声、虫のさざめき。全ての命が手に取る様に分かる。

 広がれ、広がれ、この山を覆え。

 

 

「スゲェな、こりゃあ。どういう神経してりゃあこんな芸当できるんだ?」

 

 

 静謐な世界の水面に、波紋が響く。

 

 

「よぉ、釈迦堂のおっさん。人の特訓覗き見るとか趣味悪ぃぞ」

「酒集ろうとお前を探してたら、百代が山に向かったって言ってたからな。そしたら、山を気で覆ってやがる」

「探したぞ、修二。うわ、なんか変なオーラ纏ってる」

「すげぇだろ? たぶん、触ったら弾き飛ばされるから、離れてろよ? 百代ちゃん」

 

 

 百代ちゃんも来てたんか。マジでハズイな、人に努力してるところ見られるとか、切腹もんだ。

 二人と話しながらも、気のコントロールを止めない。山に流し込んだ気は、山が元来持つエネルギーと混ざり合い、莫大なエネルギーとなり俺の体へと帰ってくる。

 それをさらに山へと流し込み、また山からエネルギーが返ってくる。以下エンドレス。

 

「おっさん的にこれどう思う? 例えばドカンとかしたら」

「お前、川神を更地にする気か? おめぇ、その状態で暴走とかしたら確実に俺らは死ぬし、川神が世紀末みたいになっちまうぞ」

「だよねぇ。そんじゃま、そろそろ放出すっか」

 

 

 そろそろ俺の身体が、破裂するくらいの気が溜まったので、立ち上がり、手を空に翳す。

 百代ちゃんと釈迦堂のおっさんは、思わず身構える。安心しろって、爆発落ちなんてサイテー! なことはしねぇからよ。

 

 

「ひっさーつ!!」

「ばっ、おま!?」

 

 

 ドカーン!! ってなぁ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side:釈迦堂刑部

 

 その日も、俺はいつもと同じようにクソつまらねー鍛錬をサボってた。そして、同じく基礎鍛錬から逃げ出した百代の組手に付き合い、師範代による指導という名目で、サボりを誤魔化そうとか思ってた。

 しかしまあ、予想外の百代の進化とも言える成長速度に驚き、普通に鍛錬を積むより疲れちまった。

 

 

「ったく、修二も百代も、天才がそんなゴロゴロと転がってんじゃねぇよ」

「ぬわー! 負けた! 悔しー!」

 

 

 流石に、まだまだ負けてやるわけにはいかない。だが、あと数年もすれば、百代は誰よりも強くなる、そんな予感を感じさせた。

 百代はどちらかと言えば俺に近かった。同年代に相手になるレベルの敵はおらず、飢えて、渇いて、やがて闇へと堕ちていく。

 その時を俺は見たかったし、その後の死合を心待ちにしていた。

 

 

「はずなんだがねぇ……」

「釈迦堂さん! もう一回だ! 次は勝つ」

「やだよ、おめぇの相手すんの疲れんだ。修二にでも相手してもらえ」

「……」

 

 

 俺が百代の駄々を突き放してやると、百代はポカンとした顔をした。

 

 

「何だよ、そのアホ面は」

「いや、釈迦堂さん。修二と全く同じこと言ったから。私の相手を他の奴に押し付けようとするあたり、ドンピシャだ」

「おんなじねぇ……」

 

 

 修二、奇妙どころか、奇怪な餓鬼だ。

 少なくとも、中身がそのまんまの子どもじゃないのは確かだ。

 

 

「つか、その修二はどこにいんだよ。ルーの奴が、またサボりカーって、顔真っ赤にしてたぜ」

「なんか、山でオナニーしてくるとか言ってたぞ。見られたくないからついて来んなってさ」

 

 

 オナニー、ねぇ。流石に、そんまんまの意味じゃあるめぇ。

 ちょっくら、様子を見に行ってみるか。サボるやつを探しに行ってたってんなら、ルーや爺もうるさくいわねぇだろう。

 

 

「んじゃ、俺は修二を探しに行くから、お前は大人しくルーのとこにもどってろよ」

「ずるいー、ずるいぞー。私も連れてけー」

 

 

 しょうがねぇなぁ、ルーと爺には黙ってんだぞ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side:百代

 

 修二が居るはずの山は、いつもと全然違った雰囲気に満たされていた。

 四方八方、あらゆる場所から修二の気を感じ取れる、それこそ、この山そのものが修二と言われても納得してしまいそうになるくらいには。

 

 

「ったく、何だってこんなことになってやがる。こりゃあ、奥義の類とかってレベルじゃねぇぞ」

「釈迦堂さん、この山、どうなってるんだ?」

「百代、変に気を乱すなよ。下手すりゃあ、変な反応起こしてドカンだ」

 

 

 釈迦堂さん曰く、この山が本来持つ生命エネルギー、植物とか動物とかそういった小さな命が積み重なってできているソレと、修二の気が混じりあってるらしい。

 それに指向性を持たせれば、修二が思うがままに周囲にビームみたいに振りまくこともできるうえ、私たち自身が持つ気を上から踏みつけるようにして押さえつけることもできるらしい。

 

 いわゆる、修二以外自由が許されない領域、この山はそんな状態らしい。

 

 

「下手に気を乱したら、地雷みたいに反応させてドカンなんて、あいつがいかにもやりそうなことだ」

 

 

 確かに、この領域に対して、それならと、やろうとした相手を笑顔で踏みつけて高笑いするのが修二だ。

 

 

「すげぇな、こりゃあ、どういう神経してりゃあこんな芸当できるんだ?」

 

 

 釈迦堂さんに連れられて行った場所、気の中心部に修二は居た。

 座禅を組み、静かに目を瞑るその姿は、人という枠組みから外れた何かを思わせた。

 

 釈迦堂さんの声に、静かに目を開けた修二は、いつも通りの人を食ったような笑みを浮かべる。

 

「よぉ、釈迦堂のおっさん。人の特訓覗き見るとか趣味悪ぃぞ」

 

 

 その声に、私は安堵した。

 さきほどまで、どこか遠いところに居るように感じた修二が、きちんと目の前にいることが分かったから。

 

 

「酒集ろうとお前を探してたら、百代が山に向かったって言ってたからな。そしたら、山を気で覆ってやがる」

「探したぞ、修二。うわ、なんか変なオーラ纏ってる」

 

 

 私もできる限りいつも通りの私で修二に声をかける。

 

 

「すげぇだろ? たぶん、触ったら弾き飛ばされるから、離れてろよ? 百代ちゃん」

 

 

 目に見える光が、修二の身体を包んでいる。

 触ってみたいと思ったら、それを制すように修二が優しく言う。そして、いたずらを思いついた子供のように、釈迦堂さんのほうへ顔を向ける。

 

 

「おっさん的にこれどう思う? 例えばドカンとかしたら」

「お前、川神を更地にする気か? おめぇ、その状態で暴走とかしたら確実に俺らは死ぬし、川神が世紀末みたいになっちまうぞ」

「だよねぇ。そんじゃま、そろそろ放出すっか」

 

 

 修二が立ち上がり、手を空に掲げる。

 ああ、私にはわかった。こんだけすごいエネルギーを、修二はきっと下らないことに使うのだろう。

 

 

 釈迦堂さんは焦るが、私は落ち着いた気持ちで空を見上げる。

 

 

「ひっさーつ!!」

「ばっ、おま!?」

 

 

 修二の手から放たれた気は、空高くへと昇る。高く、髙く昇っていき、空の彼方で弾ける。

 それは億万の小さな光となって、川神市に降り注ぐ。まるで雨のように、それは降ってきた。

 

 当然、爆発の真下にいた私たちのところにも、それは降ってくる。

 

 

 小さな、白いマシュマロ。小雪の大好物で、いつも修二が与えてるやつだ。

 

 

「名付けて、マシュマロシャワー。どうだ? カッコいいだろ?」

 

 

 修二は降ってきたマシュマロを手に取り、口にする。

 釈迦堂さんと私の呆けた顔を楽しむように、色んなところで騒ぎになってるだろうマシュマロの雨の結果を楽しみにするように、修二は笑う。

 私もマシュマロをひとつ、口に放り込む。

 

 甘くて優しい、修二の味がした。




ここまで読んでいただきありがとうございます。

史文教さんは、国には帰りましたが、腹に一物抱え抱えです。今度の登場はだいぶ先になるかと思います。

また、ここで少し、修二くんの周りの子たちの話を挟んでから、次のイベントに行こうかと思い、英雄と翔一、そして釈迦堂さんとモモちゃんとなります。
あと、冬馬と一子ちゃん、そして小雪ちゃんの話を挟んで、時間をキンクリしようかと思っております。

ほんとはもっと日常イベントを出したいのですが、ダレてしまうのもアレなので。

さて、鉄は熱いうちにということで、頑張りたいと思います。

今後ともよろしくお願いいたします。

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