筆が乗るなら、勢いがあるうちに書いてしまおうということで、書かせていただきました。
少し粗が多いかもしれませんが、ご指摘いただければ幸いです。
駄文ではありますが、よろしくお願いします。
小雪ちゃんたちを置いていき、学校から抜け出した後、俺は人気のない場所へと向かった。
盗聴器を壊したせいで、恐らくこちらが気づいたことは勘づいてるだろう。
私有地につき立ち入り禁止という看板を踏み越え、山の中へと分け入っていく。
隠す気がなくなった気配が、ピッタリと張り付いてくる。
「それでよぉ、お前さんはどこぞの誰なんだい?」
山を分け入って、緑に囲まれた中、俺は木々の向こう側へと声をかける。
「織原修二。やはり気づいたか」
轟音、それと地震のような振動。
それとともに、俺の目の前の森が消失し、小さな広場が作り出された。
自然を破壊しながら姿を現したのは、褐色肌に中華風の服を纏った美女。
その手には、身の丈と同じ大きさの棍棒。光を飲み込むような、真っ黒な鉄塊を軽々と片手で持っている。まるで草むしりでもするかのように、森に空白を作り出したソイツは、棍棒を肩に担ぎ、こちらを見据えてくる。
金色の虹彩は油断なく、こちらを冷静に見定めてくる。銀の髪が日の光を反射し、まるで光をまとってるかのようにも見えた。
「気づいたのはさっきだがねぇ。古めかしい格好しといて、やるこたぁ軍隊じみてやがるからタチ悪りぃな」
「今はもう、機械の時代だからな。使い始めたのは最近だが、自分の実力に自信を持つ武闘家ほどこっちの方が役に立つ。正直、まだ気付かれるとは思っていなかった」
そう言いながら、美女はイヤホンを取り外し、投げ捨てる。
「それで、何で俺のことを監視してたのさ。清廉潔白に生きてきたし、人の恨みを買う覚えはねぇんだがな」
「依頼があったのさ、織原修二、お前を殺すようにとな。心当たりはあるだろう? 九鬼に差し向けた暗殺者を何度も撃退したろう?」
あー、あの爆破事件以降何度か遭ったなぁ。あのおっさん以外は1人ぐらいした骨のある奴は居なかったが。
「逆恨み甚だしいな、オイ」
「ああ、私もそう思うが、よくある事だ。九鬼そのものへの暗殺なんてリスキーな依頼は引き受けないが、ただの子供がターゲットなら話は別だ」
なるほどねぇ、こりゃ、本格的に相手潰した方がいいカァ?
だがまぁ、理解はできた。どこからの縁かも分かったよ。
「だが──」
「それで、俺の首には幾らかけられてたんだ?」
「は……?」
「だから、やっこさんは俺の首にどれだけの金をかけて、お前さんらはどれだけの金で引き受けたんだ?」
「………」
答えるか否か、美女は考え込む。
そして、
「……5000万だ」
「あ………? ……ドルか?」
「円だ」
5000万? 俺が? この俺さまが?
へぇ、そうかい。俺はお前らにとっちゃあ、5000万の価値しかねぇのか。
なるほどなるほど。
この世界で唯一無二、天上天下唯我独尊な俺様が、ねぇ。
「ぶっ殺してやるよ、舐め腐りやがって」
完全にキレちまったよ。屋上行こうや。
初動は俺からだった。
ぶっちゃけて言えば、頭に血が上ってた。
「……なんだ、この……押さえつけられるような、闘気は」
「ビビってんじゃねぇ!! 殺しに来たんだろうがよォ!」
地を駆ける、身体を低く、潜り込むように。
完全に反応が遅れている。タイミング完璧、威力も速さも充分。
俺の握りしめた拳は、心中へ目掛けて叩き込まれる筈だった。
女の左目が怪しく光る。
そして、咄嗟に持ってた棍棒を間に割り込ませる。
「小賢しいんだよ、んなもんで防げる訳ぁねぇダロ!」
「ぐっあ」
棍棒諸共殴り飛ばす。踏ん張ったようで、足を地面にめり込ませながら、数メートルほど滑る。
やっぱ、なぁんか変な絡繰持ってやがるか?
「待て……私はお前を……」
「待てねぇなぁ! カハハッ!」
完全に俺はプッツンしてた。
ラブコメしたいだけなのに、強引にバトル展開に持っていこうとする世界にも、こそこそ人の命を奪うのを他人にさせる愚図にも、小雪ちゃんに盗聴器仕掛けた目の前の女にも。
「仕方あるまい。本気でやらねば、こちらがやられるか……」
美女は棍棒を振りかぶる、それは追撃をしようとした俺を脳天から砕く勢いだった。
俺は笑ってその一撃を頭で受け止める。
頭蓋に衝撃が走る、足が地面にめり込む、衝撃で地面が割れる。
「な……!」
「だぁから、惚けてんじゃあねぇ!!」
視界が赤く染まる、ダラリと垂れる熱さが心地よい。
ノーガードだからこそ、ノーラグでカウンターを出せる。
前蹴りで狙うは腹、武器は俺の頭にめり込んでるからガードできない。
「っう……」
「ガッ、クソがっ!」
モロに入れたつもりが、相手も合わせて蹴りを入れてきやがった。
ダメージはねぇが、反動で逃げやがった。あっちもまともにダメージ入っちゃねぇ。
あーくそ、あんな武器持ってパワータイプかと思ったらテクニックも充分すぎるわ。
それに、何でか分からんが反応が良すぎる。まるで動き読まれてるみてぇな反応しやがる。
「ふん!」
「無駄ァ!」
今度は向こうから仕掛けてきた。音速を軽く超えてる棍棒に対して、拳を叩きつける。
鈍い音が鳴り、火花が散る。続けて乱撃、黒い暴力が暴れ回る。
それを正面から殴りつけ、押し返す。
カハハ! 手ェ痛ぇなぁ!
一撃、大振りな横薙ぎが振られる。同じように弾き返し、それに反撃しようとするが、瞬間、棍棒が軌道を変え横っ面にぶち当たる。
首が捻り飛ぶレベルの衝撃が走り、きりもみ回転しながら俺の体は木に叩きつけられる。
まただ、完全に当たるタイミングだった筈なのにズラされた。
「もう、油断はしない!」
追撃は地面に落ちるよりも早かった。地面に打ち据えられ、二度、三度、滅多撃ちにされる。
血が飛び散り、黒い棍棒を赤に染める。骨が砕け、肉が破裂する。
反撃を許さんとばかりの破壊だが、
「カハッ、いいねぇ。だぁがぁ? 俺を壊すにはちと足りねぇなぁ」
振り下ろされた棍棒を掌で受け止める。引き戻そうとする力を、握力で止める。
何でも視えてるって訳じゃあ無さそうだな。
「化け物が……」
「ひっでぇな……ボコボコにしといてその台詞かよ」
掌に力を込める。腕に血管が浮き出て、棍棒から僅かに砕ける音がする。
「握撃って知ってっか?」
「まさか……離せ!」
「砕けちゃうんだなぁ! コレが!」
棍棒を握り砕く。焦って蹴りつけてきた足を空いてる手で掴み、引きずり倒す。
そのまま、マウントポジションを押さえる。拳を突きつけ、やっこさんの武器の残骸を投げ捨てる。
「それで、どうするよ。武器も無くなったし、チェックじゃねぇか?」
「はぁ……ただの鋼鉄じゃないのだがな……降参だ、降参」
参ったと言わんばかりに、残された棍棒の取っ手を投げ捨て、両の手の平を頭の上に上げる。
「うし、終わり! あー、疲れた。てかいってぇー」
マウントポジションを外さないまま、大きくのけぞる。
「知ってはいたが、本当に信じられんような戦い方をする奴だ」
「そりゃどーも、てか、どうするよ、こっから。俺を殺しに来た暗殺者を、野放しにしたくないんだけど」
「全く、話を聞いてくれ。私たちは確かにお前の排除の依頼を受けた、だが、お前を殺す気はないんだ」
「あ?」
既に俺の中のイライラは収まっており、どうしたもんかと尻に敷いた美女の処遇を考えていた。
美女を尻に敷いたまま、事情を改めて聞いてみる。
この美女、史文恭ちゃんだが、曹一族とか言う傭兵集団の師範代らしいんだが、ぶっちゃけ、壁越え相手にできる人材が少なすぎて出張らざるを得なかったらしい。
川神院と九鬼のお膝元だから、人員を引き連れる訳にもいかず、孤独にぼっち任務を受けたらしい。
三ヶ月ほど前に。
史文恭ちゃんはまず身辺調査を始めたらしい。壁越えターゲットは初めてらしく、慎重に慎重を期すために。気配を絶っての尾行や監視をしたが、気付かれそうになり中断、盗聴器や隠しカメラでの監視に切り替えた。
ここで史文恭ちゃん、俺の勘の良さを警戒して、俺本人ではなく、周囲の人物、小雪ちゃんや板垣家、川神院の修行僧たちにそれらを仕掛けた。
そんなこんなで監視する事ひと月程、史文恭ちゃんはあることに気づいたらしい。
「お前は、次期曹家の当主たる才を備えている。お前を監視して、私は確信した。中国へ来い、織原修二」
「急になんか馬鹿な展開になってやがる。もうお腹いっぱいなんだよ」
さらに話を聞けば、史文恭ちゃんたちにはライバル組織がいて、最近負け越し気味らしい。その上、当主が高齢で、実質的な運営を史文恭ちゃん始め、幹部連中で分担している現状らしい。
「興味ネェなぁ。てかなんだ、傭兵稼業とか血生臭いのは基本パスなんだよ」
「貴様の戦い方こそ血生臭いだろうに……んんっ、まあいい、コレを見てみろ」
史文恭ちゃんが何かを取り出したそうにするので、馬乗りから退いてやる。
取り出されたのは手帳サイズのアルバム、史文恭ちゃんは、それを俺に差し出す。
「あ? ……んだこりゃあ、証明写真? 随分と多いな」
「曹一族は、大半が女性の構成員だ。そして、そのアルバムはお前が、我らの頭領になれば、そこに載ってる構成員を好きに抱き、孕ませることができるぞ」
「ブッ──」
アルバムの中は、美少女、美女ばかりだ。
中華美女たちによる夢のハーレム。美少女満貫全席。
「く、ぐぅぬぬぬぬ」
「凄い苦悩の仕方だな」
ここで史文恭ちゃんたちのリーダーになっても、俺なら何とかなるとは思う。それなりに上手く立ち回り、相手組織とかもぶっ潰して天下取れるだろうさ。
しかしまあ、個別ルート入る感じでエンディング入る。
「つーわけで、非常に、ひっじょーに惜しいが、断らせてもらうよ」
ほんと、ほんっとうに惜しいがな。チクショウ……チクショウ……。
「血涙流すほどなら、受ければいいと思うが……」
「俺は自由でいたいの。何も背負ってないから、どこまでもこの足で歩けるの。それに、俺は誰かを背負うほど力持ちじゃねぇんだよ」
「そうか……」
史文恭ちゃんは、起きあがろうとするが、キツそうだ。
「最初の一撃と軽減したはずの蹴りだけでこのザマか……。やはり、貴様は化け物だよ」
「失敬な、意外と傷つくんだよ、化け物呼ばわりは。ぶっちゃけ、俺が一番そう思ってるし」
既に砕かれた骨は繋がり、傷は塞がっている。半年以上前のかの爆発事件の時より治癒速度は速くなっている。
正直、さっきのめった打ちは砕かれた側から治る、そしてまた砕かれるの繰り返しだから、滅茶苦茶痛かった。
「ま、いっか。さてと」
掌に気を集中させ、史文恭ちゃんの腹部に当たる。緑色の発光を出すと、それは史文恭ちゃんの体へと染み込むように取り込まれていく。
自分の体を治す力が気だとするなら、こういう応用もできると思ったが、ほんと、何でもできるじゃねぇか。
「それは……」
「文字通りの手当てだよ。自分が治せんだ、他人に応用できるかなってやってみたらできただけだよ」
「やってみたらできた……か」
史文恭ちゃんは身体を起こし、俺を見据える。
特徴的な金色の瞳は、何を考えてるのか分からない。
「修二と呼んでも?」
「好きな呼べばいいさ、なんなら、ダーリンとかハンサムでもいいゼ?」
「そうだな、なら、ダーリンと呼ぶとしよう」
ジョークなのに……、真面目に返されると滑ったみてぇで恥ずかしい。
「ダーリン、お前を曹一族に引き込むのはひとまず保留にする。だが、諦めるわけではない、いつかお前を当主と仰ぐ日を気長に待つとしよう」
「個人的な付き合いなら、史文恭ちゃんとかならバッチこいなんだがねぇ」
「そうか、それはそれは」
史文恭ちゃんの目が妖しく光る。
俺の第六感が、狙われていると警鐘を鳴らした。
よくよく見なくても分かるほど、史文恭ちゃんはエキゾチックな美女だ。スタイルもいいし、胸も豊かだ。胸が豊かだ!!
美女に迫られるのはいい、男としての肯定感が満たされる。
だぁが? 俺も最近主導権を握られっぱなしの場面が、多い気もする。
「これ以上、主導権を握らせる展開は許されねぇ。というわけで、ヒャッハー!!」
「うわっ!」
史文恭ちゃんにルパンダイブをかまし、押し倒す。
さあさあ、ウブなネンネじゃああるまいし、その甘体を味わわせてもらおうかぁ!
「ま、待ってくれ……。わ、私はそこまでするつもりは。せいぜい、キスくらいで、そもそも初めてで」
「問答無用じゃぁい!」
「あぁもう! どこまでもふざけた奴! いいだろう、叩きのめしてやる!」
カハハ! やっぱりこういう方が俺の性に合うなぁ!
マジ恋の中華組、好きなんですよね。
と言うわけで、曹一族から史文恭さんの参戦でした。
彼女の戦闘力に関してですが、原作では林冲が壁の上に立ってるということを書かれていたので、それと同じくらいかなと思い、今回のような仕上がりになっております。
修二くんは耐久力とパワーだけなら壁越え最上位、他は現在の史文恭と同じくらいの実力と思ってください。
本当は、史文恭に着いていく中国編とか考えていたのですが、流石に幼少期編が長くなり過ぎるので、今回は没にしました。
さて、ここまで読んでいただきありがとうございました。今後ともよろしくお願いします。