真剣で人生を謳歌しなさい!   作:怪盗K

11 / 29
大変お待たせしてしまい申し訳ございません。
色々とありましたが、ちまちまと書くのを再開させていこうと思います。

駄文ですが、どうぞよろしくお願いいたします。


第11話

 Side:ミサゴ

 

 気怠さとよく知らない充足感の中、私は目を覚ました。見慣れない部屋の風景に、嗅ぎ慣れない臭いに包まれ、私は自分の体に寄りそう別の体温を感じる。

 

 あぁ、またやってしまった。そう思うが、私自身驚くほどに胸につかえるものは無かった。

 昨日と今日、それだけで私は目の前で眠る少年に絆されてしまっていた。私が尻軽なのか、それとも彼の手管が優れているのかは分からない。ただ、私の中で少しずつ、この少年が住む領域を広げつつあった。

 

 起きているときは真正の悪餓鬼を思わせる笑みも、心地よさそうに私の胸の中で眠る表情は年相応に見えた。それを見れば、私は自身の娘とほぼ年の変わらない子どもと一線を越えたことを自覚させる。

 

 昨日まではそのことにひたすらの後悔しかなかった。だが、彼はそれす見透かしていたし、罪悪感を煽るようにして興奮へのスパイスへと変えていた。

 知らず知らずのうちに、私は彼の身体に手を回していた。それは昨夜の名残だったのか、僅かに残った理性が爪を突き立てることだけは止めさせた。

 

 

「ほんと、何があるか分からないわね」

 

 

 むずがるように漏らされた息が、私の胸を撫でた。それとともに私の腰へと手が回され、求められるように抱き寄せられた。

 ああ、ダメだ。これはダメ。

 

 彼は麻薬のようだ。ふとそう思ったが、我ながら的を得ているだろう。するりと心に入り込み、少しずつ大きくなり、気づいたころには手遅れになってしまっている。

 

 

 

 

 私は久信くんを愛していた。

 初めはその必死さに微笑ましさを覚え、次第にその仕事をするときの真剣な横顔を好きになって、燕ちゃんが生まれた時には、ずっと三人で幸せにって信じてて。もしかしたら四人に、五人に増えるかもなんて思ったりしていた。

 私は満たされていたのだ。

 

 しかし、久信くんが株で大失敗して借金を作った。それだけで私は彼から離れてしまった。

 最初は怒りでどうにかなりそうだった。私と燕ちゃんが居るのにと、もっとちゃんと考えてよと、家名に泥を塗ったのと、どうして一言も言ってくれなかったのと。

 怒りながらも、まだ愛はあった。愛していると言えた。

 

「でもなぁ……」

 

 だめだ。やっぱり上書きされてしまう。目の前の小さな男に、今までの久信くんの住んでいた場所が奪われていっている。そして、それを受け入れてしまっている。

 久信くんへの愛が、冷めていくのを感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まどろっこしい前置きを抜きにして結論だけ言うなら、ミサゴちゃんは離婚届けを旦那に突きつけることにしたらしい。俺はてっきり、そこまでせずに別居する程度だと思ってたが、ミサゴちゃんは思ってた以上に思い切りがいいらしい。

 

 

「私が気がかりだったのは燕ちゃんだけよ」

 

 

 そう何でもない風に言ってたミサゴちゃんであった。強がってたのは見え見えだったけど。

 まあ、俺からすりゃあ、ミサゴちゃんと憂いなくヤレるようになるのは大歓迎だ。ただ、人妻と言う背徳感が無くなったのは惜しいがな。

 ミサゴちゃんは親権の関係でごちゃごちゃするから、落ち着いたら連絡すると、駅まで見送りに来てくれた時に言ってた。うーむ、借金こさえてひーこら言ってる男親に親権取れるのかねぇ、そのあたりの事情は詳しく知らんからミサゴちゃんを信じる(ハート)としか言えないが。

 

 そんな大収穫の京都旅行から帰ってきた俺だったが、当然の如く始まった二学期をサボっていた。

 隠れ家もみかどっちに抑えられ、親不孝通りでの遊び相手も大抵虐めすぎて誰も遊んでくれなくなった俺は、河川敷沿いにあるボロ屋に身を寄せていた。

 なんでも、親が蒸発しちまって子ども四人だけで身を寄せ合って生活している家庭らしい。ローンや借金がないのが救いか? まあ、どん底なのに変わりはねぇか、そのパピーマミーもまっとうな社会人じゃなかったみてぇだし。

 

 

「しかし、ボロ屋だけで生き残れないのがこの日本社会なのよねぇ」

「ボロ屋って、言ってくれるじゃねーか、修二」

「あーん? ボロ屋はボロ屋じゃねぇかよ、えーんじぇーる」

「その名で私を呼ぶんじゃねぇ!」

 

 

 げしげしとチビツインテが寝そべって漫画を呼んでる俺を蹴ってくる。鬱陶しくなった俺はその足を掴んで、もう片方の足も掴んで、股を広げる。

 

 

「ちょ、おま! 修二! 何する気だ! やめ! 変態!」

「あぁん? 俺様が気持ちよくマンガ読んでんのを邪魔してくれやがった野郎を気持ちよくしてやるんだよ」

 

 

 天使の股間に足の裏を当て、俺は笑顔を見せてやる。にっこりと、目の前の名前が天使の奴より天使のような笑顔だ。

 

 

「おま……まさか……!」

「かかっ」

 

 

 電気あんまって、元は拷問の一つだったんだってな。まあ、一応は手加減してやるよ。せいぜい情けなく喘げや。

 

 

「ぎゃああああああああああ!!!」

 

 

 かかかっ、悲鳴が心地いいなぁ、オイ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「も~、天ちゃんをいじめちゃだめだよ~、しゅうくん」

「うぇえ~ん、たつねぇ」

「てへぺろ」

 

 

 日が落ちた頃に帰ってきた、将来が期待できるボディの辰子に天使をいじめすぎてたのを怒られてしまった。まあ、部屋をアンモニア臭くさせてしまったのは悪かったと思う。ただ、最後の辺りには扉開きかけてたからいいじゃねぇか。あと十分もありゃあ堕ちてたぞ。

 

 

「悪かったよ、今度お菓子買ってきてやるから許してヒヤシンス」

「ぐす……一番高いのな……」

「わーい、どんなのかな~」

「はいはい、高いのな、ピザポ●トな、辰子にはおっぱいプリンな」

 

 

 辰子や、たんと食べておっきくなるんだよぉ。天使は……まあ、生きろ、そなたは美しいよ、うん。

 てか、お菓子で機嫌が直る子どもは、ほんとに楽でいい子で楽だねぇ。

 俺はまだぐずってる天使の口にポッキーを数本突っ込み、板垣宅を出る。

 ボロ屋の外には天使や辰子たちの姉である亜巳が居た。待ち合わせたとおりの時間に来ているあたり、長子としてしっかりしないとでも思ってんのかねぇ?

 

 

「おう、待たせたな」

「時間通りだから問題はないよ。それで、修二、約束のものはあるんだろうね?」

「ああ、そういやそうだったな。はいよ」

 

 

 俺は懐に温めていた茶封筒を亜巳に渡す。

 中に入っているのは皆大好き諭吉さんが数十人。俺と亜巳はちょっとした契約をしている。

 

 

「確認させてもらうよ」

「別に枚数ちょろまかすようなせけぇことはしねぇよ」

 

 

 俺の言葉を無視して亜巳は慣れない様子で札束を数える。そんなところを見ると、まだこいつも中学生とかやっているはずの年齢であると思い出す。

 健気だねぇ、がきんちょたちのために学校まで行かなくなっちまって。こんなナイスガイに金策を頼むんだから。

 まあ、多分天使も辰子もホモガキも、中学を卒業したら働き出したりローグライクな人生を送り始めたりするだろうな。それくらいにはこいつらは仲がいい。笑わせてくれるぜ、ほんと、家族仲良く思い合って皆纏めて貧困な人生だ。

 

 

「金は確認できたよ。家には自由に入り浸りな、ただ、あまり派手に暴れたりするんじゃないよ」

「あいあい、まあ、置いてあるおもちゃ(天使)やらで遊んだりはするがな」

「まったく、あの子らも随分とあんたに懐いちまって」

 

 

 打てば響くからなぁ、天使。辰子はむしろ包み込まれて窒息しそうになるから手が出しにきぃ。ホモ? 簀巻きにして捨ててあるよ、今も。

 

 

「んじゃ、俺は帰るわ。またな」

「……」

 

 

 亜巳は何か言いそうな顔をしていたが、俺はそれに気づかない振りをして背中を向ける。

 家族、ねぇ……。この街にゃ小雪ちゃんといい、葵紋シリーズといい、あとついでに九鬼ーズといい、まともな家庭はすくねぇのか? おい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Side:亜巳

 

 

 私は小さくなっていくその背中から目が離せなかった。

 修二と私らは付き合いが長い訳でもない、特別深い訳でもない。天や辰、竜はどうかは知らないが、少なくとも私はあの奇妙な子どものことを信じている訳じゃなかった。

 親不孝通りに出没する小さな悪魔。そんな噂を聞いた私の目の前に修二が現れたのはそれはそれは衝撃的だった。

 

 

 帰ってきた自宅にわがもの顔で居座りシャワーまで浴びてのんびりくつろいでいたのだから。

 

 

「……ふっ」

 

 

 その時のことを思い出して、私はくすりと笑いを零してしまう。ただの不法侵入者かと思ったら、茫然としていた私に契約を持ち掛けてきたのだから驚きだ。

 この家を自由に使う代わりに、お金を渡す。修二が提示してきたのは、金銭に困窮していた私にとっては渡りに船だった。

 孤児院だとか、施設だとか、そういった所に行けば、私たちはどうなるか分からない。私は、私たち兄妹姉弟を離れ離れにさせるわけにはいかない。どうせまともな人生なんてもう送れないんだ、それなら、私は辰、天、竜と一緒に居る人生がいい。それで、少しでもあの子たちを幸せにしてやれれば、それでいい。

 

 

「……」

 

 

 修二がうちに入り浸るようになり、天や辰も楽しそうだし、竜も修二のことを慕っていることは確かだ。うん……慕っている。ごめん、修二。

 とにかく、我が家が明るさを取り戻したのは確かだ。

 

 だからこそ、私は感じる。

 

 

「修二、あんたは……どうして、そんなに寂しそうなんだい」

 

 

 顔には絶対に出さない、雰囲気にも絶対に出さない。いつも笑っている、いつも楽しんでいる。

 常に我が世の春、この世界は自分を中心に回って疑がっていない。修二はそんな奴だ。

 短い付き合いだが、その破天荒っぷりは十分に思い知らされている。

 

 

 でも、何故か、そう感じた。修二は乾いている。物足りない寂しさを常に味わっていると。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おん? なんか背筋というか首筋というか、その辺りがムズムズする。

 

 

「どうしたんだ? 修二、痒いのにそこをかけないような顔をして」

「すっげー的確な例えをありがとよ、おっさん。なんつーかな、誰かが俺のことえらい勘違いしさらしてくれやがってる気がするんだわ」

 

 

 板垣家を出た後、俺は川神院の釈迦堂のおっさんのところに転がり込んでいた。おっさんは酒瓶さえ持っていけば快くあげてくれるから楽でいい。

 

 

「あ~、なんか無性に歌を歌いたくなってきやがった」

「てめぇ歌なんか歌えるのか? わりぃがそんなガラには見えねぇな」

「バンドのヘルプのバイトもしてたしな。まあ、メンバーの女子を食い散らかして長続きはしなかったが」

「お前さんは、どこでも女を食いものにしてないと生きていけねぇのか?」

 

 

 ま、そうなんだろうねぇ。女は駄菓子って言う黄金の君ほどじゃねぇが、俺にとっちゃそういうのが必要なんだろうよ。

 

 

「少なくとも、セックス依存症じゃねぇから大丈夫だろ。ただの女好きだよ。女好き」

「十分アウトだろうよ。ほれ、一本明けたから次出せ次」

「はいはい、明日も稽古なんだろ。飲みすぎんなよ。俺は俺の心が赴くままに生きてるだけだよ」

「心というか股間に素直に、だろうが」

 

 ハハッ、なんも言い返せねぇ。

 かわいい子とにゃんにゃんしたい、綺麗な美人ともにゅもにゅしたい。健全な男なら誰でもそうだろう?

 人生楽しく生きたもん勝ち、人間としての節度を守ってりゃいいんだよ。

 

 

「ま、人生往々にしてうまく行かないこともあるさね」

 

 

 例えばミサゴちゃんの旦那のように株に失敗して嫁に愛想尽かされるとかな。てか、マジでナンデ株なんて始めたんだろ。俺も身を滅ぼすくらいのギャンブルとか数えるくらいしかしてねぇんだが。

 

 

「ただまぁ、百代のことは責任取れよ? 破局がイコールで川神院全部が敵になるってことだからな」

「ん~? 悪いが、俺は一度も女と別れたことなんかねぇぞ」

「ん?」

 

 

 こんなになっちまったから会いに行けないだけだが、俺は今も一人も忘れちゃいない。北欧出身だとか言ってた銀髪な女教師も、オカルト研究会とか言う謎の部の部長も、ガールズバンドでボーカルをしていた赤いメッシュの子も、おめめがしいたけの中学生も、他にもたくさんいる子たちも。

 俺は今も愛している。俺は今も想っている。相手が忘れようと、俺を捨てようと、憎もうと、殺そうとしても。

 

 

「俺は永遠に愛してるってな。それが俺なりの決まりだよ。愛は多くて浮気性だがな」

「冗談か本気か分かりにきぃこと言いやがるな。もし本気だとしたらそうとうカッコつけで狂ったこと言ってやがるな」

「男なんてカッコつけてなんぼだるろぉ? そう決めたんだよ、俺が真剣に生きるためにな。情が多くても、浮気者と罵られても、愛を貫くってな」

「ぷふっ! 愛を貫く……! はら、いた……!」

 

 

 笑ってんじゃねぇぞ、濁酒飲ますぞ。自身でも恥ずかしいと思ってんだからなぁ! こらぁ!

 やっぱ酒は碌なもんじゃねぇな! 旨いが!




ここまで読んでくださりありがとうございます。
少しずつでも書いていこうかなと思っておりますので、どうぞよろしくお願いいたします

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。