ダンジョンで数多の魔剣に溺れるのは間違っているだろうか   作:征嵐

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第八話 襲撃

 今日は(主にリディが)待ちに待った、怪物祭(モンスターフィリア)です! 曰く。「今日もアルバイトだけど、今日は早く終われるの!」···お疲れ様です。リディ。ほんと、祭りで何か買ってあげよう。

 そんな決意を胸にホームの廃教会を出る。僕以外のメンバーはとうに出掛けた。いやまさか寝坊するとは思わなかった···。時刻は正午といったところか。さっき起きたばかりで、祭りで朝ごはん──昼ごはんを食べようと思います。ジャガ丸くんでも買うかねぇ···。と、思った瞬間に見知った顔を発見する。それも二つ並んで。

 

 「シルさんとベルが、ねぇ?」

 

 とても仲良さげに並んで歩いている。ふむ。デートか。羨ましい···むしろ、妬ましい······。

 

 「ま、良いけどね。僕はとりあえず、ご飯を···あ。」

 

 財布を忘れました(爆) ──いや、笑ってる場合じゃないな。さっさと戻ってお金を···お?

 

 「どこだここ」

 「本気で言ってるの···?」

 

 祭り特有の、いつもと違う交通規制に引っ掛かって「こっちが近そうだな」とかやってたら、全く知らない道に入ってました。そもそも、このオラリオは道が入り組み過ぎてる。そこに住む人、訪れる人の事を全く考えてない。もっと魔界を見習──あー、いや、危険性では変わらないか···。

 

 「とりあえず、来た道を戻りましょうよ。」

 「そうだね。それが定石だよね、グラム。でも、ね。」

 

 もと来た道を覚えていれば迷ったりしない。もといた場所に戻れるのなら、迷子とは言わない。

 

 「うーん···レゲノダは覚えてたりしない?」

 「見てもいない道をどう覚えろと仰るのですか、マスター。」

 

 だよね。今の今までマビノギオンを読みふけってたもんね。でもマビノギオンを暗記した所で、その魔導を操れる訳ではないのだけれど···知識欲の為? そうですか。

 

 「ワイバーンに空から見て貰うか···いや、もういっそカタストロフでも顕現させて飛ぶか···。」

 「オラリオを消し飛ばすつもりなら、喜んで協力するわよ?」

 「あー、うん。イデアが出るとオラリオどころじゃ済まないかもね···。NGで。」

 「はーい。」

 

 残念そうな返事を聞きながら打開策を考える。あ、そうだ。迷路と言えば!

 

 「左手方式だよね!」

 

 左手を壁につけて全力疾走。曲がり角は左一択! クラピカ理論なぞ知らぬ。···が、この方法には欠点がある。それは正解がすぐ側にあってもやたら遠回りをしなければならないこと。それに、もうひとつ。壁が繋がっていなければ使えないこと。でなければ···

 

 「あれ? ここさっきも通ったな?」

 

 これを延々と繰り返す羽目になる。

 

 「うーん? と、」

 

 人影発見! かなりの長身をフードで覆い隠した不審者スタイル···だが、背に腹は代えられぬ!

 

 「すいませーん。ちょっと道を聞きたいんですけど···。」

 

 ぞくり、と、身体中の体毛が逆立つような感触。まるで冥獣の前に立ったような、身体を突き刺す、殺気。僕自身はそんなに武道の心得がある訳ではないけれど、それでもひしひしと感じられる程濃密な──

 

 「()()()()()、マスター。」

 

 身体が支配される感覚。この冷たくも優しい感触は──最早語るまでもない僕のパートナー、魔剣グラムだ。

 

 目前には大剣の刃。フードの大男が振り下ろしたにしては、あまりにも早く、速い。

 

 左側に首を傾げる。

 

 大剣の切っ先が頭の右側を通過し──僕の右手が大剣の柄を捉える。

 

 フードの男は、何かを投擲したような姿勢で──いや、もう明らかだろう。この男は、僕の頭を粉砕する気で、大剣を投擲したのだ。だとすれば、その暗殺者じみた装いに反してこの男、特級の戦士か。

 

 男が服を脱ぎ、上半身を露出する。隆起した筋肉と、纏わりつくような剣気。

 

 猪人(ボアズ)の戦士、それにこの剣気。まず間違いない。この男は──

 

 「俺の名はオッタル。■■■■■だな?」

 「マスター、と呼んで欲しいな。それで、都市最強が僕に何の用ですか?」

 

 迷宮都市オラリオ最強の冒険者。それがこの男、フレイヤ·ファミリアの《猛者(おうじゃ)》オッタル。レベルは──7。

 

 「フレイヤ様から質問だ。「その魂は何だ」と。」

 「なんで攻撃したんだ···質問に答えられなくなったらどうするんだ···。」

 

 実はアホなのか。

 

 「フレイヤ様は「とりあえず殺しなさい。あんな汚れた魂はあってはならないわ。それが無理なら、情報を集めなさい。」とも仰っていた。」

 

 ···怖っ。なんなの? 僕の魂が汚れてるってのも酷い話···あ、いや、そりゃあそうか。100を超す魔剣に対応し、さらには廃人製造機たる魔導書を多数所持している訳で、中には外神や旧神に由来するものまである。SAN値はピンチを通り越してアンダーフローしている。が、それにしたって勝手に人の魂を覗き見て勝手に気分を悪くしても、そりゃあ僕の所為じゃない。

 

 「殺されるのは困るな。」

 「そうか、なら情報を話せ。」

 「···。」

 「どうした? 死ぬのは嫌なんだろう?」

 

 違う。そうじゃない。僕の沈黙の意味は──

 

 「何故、お前は僕を殺せる気でいるんだ?」

 

 彼我の実力差を理解できない雑魚が、僕たちの前に立つなど傲慢も甚だしい。理性なき魔物ならばまだ分かる。が、それが戦士の極致など、笑えもしない。

 

 「···!!」

 

 無言で石畳を踏み砕いて突進する。大剣を振りかぶり、そのまま脳天を──脳天を砕かんとした大剣はオッタルの肩から腰を袈裟斬りするに終わる。

 

 避けられたとは驚きだ。魔剣グラムを持っていれば剣圧で肉塊へ変わっていた間合いだ。慣れすぎた事による弊害かもしれない。──ところで、この考察は現実逃避だ。僕の眼前、オッタルは僕の振り抜いた大剣を片足で砕き、鈍く光る手甲を纏った右腕を振り上げている。まさに、絶体絶命という奴だ。···()()()()()()()()()()

 魔剣、魔鎌、魔槍、聖剣、聖槍、魔典、聖典、杖棒、魔拳、魔弓、戦斧から聖旗に至るまで、様々な凶器兵器がオッタルを取り囲み、その切っ先を、照準をぴったりと合わせている。

 凄まじい勢いで僕の魔力が喰われていくが、それに見合う破壊力は秘めている。

 

 「動かないでくださいね、凡夫。この子たちを解放すればあなたの敬愛する神フレイヤもろとも、このオラリオが吹き飛びます。それぐらいは分かるでしょう? 貴方の一ミリ用の物差しではグラム(一メートル)は測りにくそうでしたので、より多くの魔剣(一キロ)を用意しました。お望みとあらばもっと多くの魔剣(一光年)でも用意しますけれど···ここは引いてください。」

 

 オッタルが無言で拳を下ろし、三歩下がる。その間も魔剣たちは照準を外さず、命を刈りとらんとしている。

 

 「では、失礼して。」

 

 

 

 ──右手を横へ。

 

 ──魔力が渦巻く。

 

 ──大気のエーテルに色が、形が、性質が付与される。

 

 ──色は蒼く。

 

 ──形は本。

 

 ──内包するのは全ての魔法。

 

 右手にずっしりとした感触が現れ、頭にあらゆる知識が流れ込む。魔導書『マビノギオン』顕現。

 

 

 

 「記憶を消させて貰います。」

 

 抵抗しても良いことはない、と分かっているからか、オッタルは身動き一つしない。

 

 「■■■■■■■■■■■■■■■■■■」

 

 宣言通りに記憶消去の呪文を行使する。本当は詠唱なんて必要ないのだけれど、魔力も惜しいし正規の手順を踏む。オッタルの意識が朦朧としているうちに魔剣たちを戻して華麗に去ろう。

 

 「さて、ではさようなら。」

 

 オッタルの姿が見えなくなるまで歩き···はい。しまった。道がわからない。仕方ない、そこの家の人に聞こう。···ここからなら曲がり角は全部右? それで大通り? あ、どうもありがとうございました。

 

 ···クラピカ理論が最強か。

 

 

 

 

 




 感想ありがてぇです! ネタの量はこれぐらいの割合でいいかな···

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