ダンジョンで数多の魔剣に溺れるのは間違っているだろうか   作:征嵐

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第七話 鍛鉄の神

 

 「神鋼(ミスリル)斬り、英雄殺し、聖人殺し、竜殺し、龍そのものも居れば神殺しまで···」

 「···。」

 

 この女性、どうやら常人ではないらしい。無性質にして観測不能、大気に溶け込んですらいる非顕現状態の魔剣たちを見る──どころか、その本質まで見抜いてくるとは。そういうスキルでも発現しているのか···

 

 「マスター。()()()、神よ。オリンポス12神の一柱、最高の鍛冶師と名高い、神ヘファイストス。」

 「えぇ···そりゃあ魔剣を見れる訳だよ···」

 

 アダマスの声も聞き取れているのか、少しだけ誇らしげな表情を浮かべる神ヘファイストス。

 

 「それで? 貴方は何者なのかしら? 私の自己紹介は必要ないようだけれど。一応、礼儀として言っておくわ。私はヘファイストスよ。よろしくね。」

 「···僕はただの、魔剣使いを目指すマスターです。名前は■■■■■···マスター、とだけ呼んで頂きたい。」

 

 名乗った時、少しだけ怪訝な表情をしたようだけれど···まぁ、いいか。それよりも本題だ。

 

 「それで、神ヘファイストス。お願いがありまs」

 「あれ? マスターくんじゃないか! なにをしてるんだい?」

 

 背後からした聞き慣れた声に振り向く。···神ヘスティア、貴女こそ何をしてるんですか。 バイト? え? 違う? ベルの武器を作って貰ったから代金分タダ働き? ···あの、僕の分の武器はないんですかね···。この扱いの差には断固として抗議を···いや、武器が欲しい訳じゃないのだけれど。もう十分だし。

 

 「僕は、そうですね。武器の修理(メンテナンス)を依頼しに来た。って感じですかね。」

 「はぁ!? いやいやマスターくん!?」

 

 魔剣のことは秘密だってば! みたいな目で見られても困る。迷宮の上層では傷ひとつ付かないだろうけど、万が一があっても困るし、綺麗好きな子達もいる。何より、使った武器はしっかりとメンテナンスするべきだ。その結果問題を呼び込んでしまった所で、武力で叩き潰せば──おっと、思考が偏ってるな。初めは和解を優先すべきだよね。やっぱり。魔剣たちは叩き潰す選択肢しか取らないだろうけど···。

 

 「でも、神ヘファイストスは神ヘスティアと親交···神交? が、あるんですよね? じゃあ問題ないんじゃないですか?」

 「依頼人(クライアント)の情報を話したりはしないわ。そこは安心して。」

 「ほら。」

 

 神ヘファイストスとしても、僕のこと、僕の魔剣たちのことには並々ならぬ興味があるはずだ。いや、ある(断言)。彼女の目がアイズさんの事を聞くときのベルに似てるから。

 

 「わかったよ。初めから、ボクに発言権はなかったからね···。」

 「ありがとうございます。神ヘスティア。」

 「それで、君の依頼は「その子たち」のメンテナンス、という事で良いのかな?」

 「はい。」

 「分かったわ。じゃあ書類を書いて貰うから、ちょっと来て貰える?」

 

 神ヘファイストスに付いてカウンターへ行く。背後から神ヘスティアがバスターソードを十本一気に持ち上げようと「ふぉぉぉぉぉ!!」と叫ぶ声が聞こえてくる。いや、無理だって気付きましょうよ···それは並みの冒険者でも難しいんじゃないかな······。

 

 「はい。ここにサインしてね。あぁ、一応、契約内容にも目を通してね。」

 「はーい。えっと···」

 

 契約書。この契約が成立したとき、これはステュクス川への誓いとなる。

 

 うーん。初めの一文が既にヤバいな。えっと、続きは···僕の依頼内容の詳細については担当者以外には秘密。依頼内容は武器のメンテナンス、詳細は同じく秘密。はいはい、おっけおっけ。で、漏洩時の対処は、と。武力による解決を最終手段とするが、罰則についてはこちらに決定権があり、担当者には拒否権がない。おぉ、なんだこれ···で、担当者は···神ヘファイストス!? いやいやどういうことなの。

 

 「問題があったかな?」

 「あ、いえ、えっと···」

 

 確かに、オラリオ最高の鍛冶師は彼女だろうし、魔剣のメンテナンスができるとすれば彼女ぐらいだろう。が、まさか彼女から言ってくるとは思わなかった。てっきりこちらからお願いして、あちらの譲歩──こちらの「借り」としてくると思ったのだけれど。

 

 「いえ、期待以上、最高です。」

 

 サインした瞬間に、バベル内部に届くほど大きな雷鳴が鳴り響いた。今日は快晴だった、と、言うことは、本当にステュクス川に誓ったことになるのだろう。

 

 「これからよろしくね。マスター君。」

 「えぇ。こちらこそ。あ、そうだ、神ヘファイストス。一つお願い···と、言うか、忠告があります。」

 「何かしら?」

 

 忠告、という上からの物言いに腹を立てた様子もなく、微笑とともに聞き返してくる。いや、あの、ホントに心苦しいんですけど、これだけは言っておかないとなんで···

 

 「何があっても、彼女たちを研究、模倣しようとしないで下さい。彼女たちがこのオラリオを容易く滅ぼせるのはお分かりだと思いますが、彼女たちは、それを躊躇わないことも知っておいて欲しい。」

 「···分かったわ。もともとそんなつもりも無かったけれど。」

 「ですよね。いや、念のため、というだけです。信用···信頼します。」

 

 握手を交わした後、ヘファイストス専用だという鍛冶場を案内して貰ったり、彼女が手ずから鍛えたという武器を見せて貰ったりしているうちに、少し面白いモノを見つけた。

 

 「これは?」

 

 ルーンブレードやカールスナウトに近い、刀身に文字の彫られた剣。

 

 「あぁ、それよ。ヘスティアに作ってあげた剣。銘は神様のナイフ(ヘスティア · ナイフ)。貴方の魔剣たちと同じ、()()()()武器なの。」

 「···凄いですね。いや、流石だ。」

 

 魔剣たちを任せるに足る人物がクランベリー医師以外にも居ようとは、驚きだ。いや、そりゃ、神なんだから当然なのだろうけど。

 

 

 

 





 評価、感想、ありがたいです···! モチベーションが上がる。凄く。言語中枢に問題が生じるレベルで。

 

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