ダンジョンで数多の魔剣に溺れるのは間違っているだろうか   作:征嵐

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 待たせたな(cv大塚明夫)


第四十話

 一転して静まり返ったオラリオの路上。近隣住民は避難し終えたのか、窓という窓、扉という扉は締め切られ、さながら無人都市のようだ。

 

 「マスター君、君は···」

 「···。」

 

 無言で団長の目を見返す。彼の青い目は、複数の感情を宿していた。猜疑、羨望、感嘆、感謝──憎悪。

 

 「···?」

 

 読み取った感情が不可解すぎて小首を傾げる。憎悪を心中に宿しているのに、それは僕には向いていない。僕の魔剣たちにも。自己嫌悪の類ではなさそうだけれど···。

 

 「どうしたんだい?」

 「いえ、別に···。」

 

 ちょっとした読心術を使って内心を測らせて貰いましたけど、貴方、憎悪を心に宿してますよね? どうしてですか? ──なんて聞けるか。

 

 「そうかい? それで、さっきの子たちは──」

 「()()()。」

 「──げっ。」

 

 団長のすぐ後ろに控えるロキ·ファミリアの面々のさらに後ろから、聞き慣れた、懐かしい、そしてなるべく相見えたくなかった人物の声が聞こえた。

 

 「!?」

 

 背後に迫られ、声を発するまで気配を一切感知出来なかった一級冒険者達が一斉に振り向き──視線を下げる。丁度団長と同じくらいの身長の少女が、傍らに栗毛の(巨乳)メイドを従え、傲岸不遜と言い表すのが相応しい笑みを浮かべて立っていた。その少女が、最早ただの少女でないことは、彼ら冒険者が庇護すべき対象でないことは、一級冒険者として鍛え上げた観察眼と直感が見抜いていた。

 

 「ロルリアンレット···。」

 

 魔界において、『司書王』の称号を冠し、原初の魔王と親交を持ち、単身で魔剣使い数十人を殲滅し得る怪物。自らの名を冠する『ロルリアンレット世界図書館』の主。

 

 「退け。」

 

 嘲笑の浮かぶ唇が動き、言葉を成す。数秒と経ず、冒険者の群れが紅海の如く割れた。

 

 「···え?」

 

 満足そうに唇を歪めたロルリアンレットは、しかし、その顔を怪訝な表情へと変えた。

 

 「···はぁ、モドキ。貴方、ふざけているの?」

 「···あ、バレた?」

 

 道の左右に割れたロキファミリアの中に紛れて移動し、「一般人です」という空気を醸し出していたために、群れが割れて作られた「王の通り道」には、ロルリアンレットとメイドしか残っていなかった。乾いた風が吹く前に気付いたのは、流石はロルリアンレットと言うしかない。

 

 「···。」

 

 すぅ、と、ロルリアンレットの目が細まる。うーん、非常によろしくない。

 

 「ごめんなさいでした。」

 

 即断。平伏。五体投地。所謂、土下座。地面しか見えないから分からないが、きっと彼女の顔にはサディスティックな笑みが浮かんでいることでしょう···。

 

 「はぁ。元魔王ともあろう者が、結構な姿じゃない。立ちなさい、モドキ。」

 「···じゃあ足退けてくれないかな。」

 「あら? 嬉しくないの?」

 「嬉しいです(即答)」

 

 ──いやいや、ここで下手に否定すると長引くからであって、別に本心から嬉しいから即答した訳じゃないのよ? ホントダヨ。ウソツカナイ。

 

 「で、ロルリアンレット。何しに来たの?」

 「後見人に対して随分な言い種ね? 今の貴方が、E.D.E.N.と魔剣機関が総力を挙げてでも討ち取るべき「敵」だと分かっているの?」

 

 ぐぅ。そうでした。

 

 「だから私と──」

 「私が、ワザワザ出向いてやったんだ。感謝しろ、魔剣使いもどき。」

 

 背後に気配。振り向くと、ウェーブのかかった金髪を流し、右目に眼帯を当てた女性が立っていた。──げっ。

 

 「アリス様···。」

 

 僕の後見人その2だ。魔界においてアンタッチャブルとされるレベルの二人だが、掃いて捨てても売っても斬っても焼いてもまだ余るほどに()()()()()あった僕を万一の時に殺す為の布陣と考えれば納得はできる。

 

 「えーっと···。はぁ、ルナ。だから止めとこうって言ったじゃないか。」

 『そうやって人のせいにしないと、なーんにもできないんですかー? 救えないなー。第一、マスターさんが致命傷を負ったから、私達が一斉顕現したんですよー? 分かってるんですかー?』

 「ぐぅ。」

 

 正論過ぎて何も言えないのだが?

 

 「ねぇモドキ。言っておいたわよね? 『軍勢顕現は使うな』と。封印まで施したのに、ルナで封印を狂わせて使うなんて···。さては、前回不自然に封印が緩んだのもソレのせいね?」

 

 ソレ、というのは、ルナの何でも狂わせる性質を指すのだろう。流石は司書王陛下。賢察通りです···。

 

 「封印術式は魔剣機関秘蔵の骨董品。ワザワザ私達がアレンジして抜け穴を作ってあげたのに、それだけじゃ満足出来なかったのかしら?」

 「あ、いや、その···。」

 「仕方ないだろう、ロールお嬢様? コイツに武器を扱う才能なんて塵ほども無いんだから。」

 「ぐさっ。」

 「そうね···なら、もう少し大きめの穴にするべきだったかしら?」

 「無理だろうよ。E.D.E.N.にした言い訳を覚えてないのか? 『術式が古く、また思った以上の魔法抵抗力に阻まれたせいで、上手く魔法が掛からなかった。』だぞ? コイツにそんな魔法適性がある訳もないのに、これ以上どうすると言うんだ?」

 「ざくっ···。」

 

 内側で何人かの魔剣が暴れているが、全力でそれを抑え込む。無理無理。勝てる訳無いじゃん。やめとけ。やめてください···。ロキファミリアのみんなも、そんな憐れむような目で見ないで···。

 

 「ねぇモドキ。忘れた訳じゃないでしょう? 貴方が魔王を辞める時に出された条件。」

 「はい。」

 「流石に可哀想と思って、ワザワザ面倒な術式改造をしてあげたのよ?」

 「2分も掛かって無かったよね···。これ一応対神用の完全拘束術式なんだけど。部分的に穴を開けるとか逆に難しい筈なんだけど。」

 「は?」

 「いえ、ナンデモナイデス···。」

 

 くそう。これなら団長に尋問された方がまだマシだったぜ···。

 

 


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