ダンジョンで数多の魔剣に溺れるのは間違っているだろうか 作:征嵐
「いや、先にいなくなったのはリディの方だからね? 僕は悪くない。」
「えー? そうだったっけ? まぁいいや! はい、これ!」
満面の笑みでリディが差し出したのは、ぎっちりと中身の詰まった麻袋。ありがとう、と受けとると、どうも中身はメダルらしい。
「メダルじゃなくて
「お、おう···と、取り敢えずご飯食べていいかな?」
その後、リディにヘスティア·ファミリアに所属することや、恩恵を貰ったこと、シビアすぎるステイタスや正確無比なスキル表記について話していると、ベルもフラフラとした足取りで酒場に入ってきた。
「ベル。お疲れ。ここに座りなよ。」
「あぁ、マスター。ありがとう···。」
「おぉ···大分疲れてるね···ま、飲もうよ!」
大ジョッキに入ったエール──風のジュース──を掲げてベルのテンションを引っ張り上げる。お酒は二十歳になってからだぞ!
「で、ベル。ちゃんと金髪のおねいさんにお礼は言ったの?」
「アイズさんのこと? いや、それが会えなくって···」
うーむ。こうなったらダンジョン出口で待ち伏せ···いや、ホームの出口で待ち伏せ? てかあの人、アイズさんって言うのか。そこ知らなかったんだけど。
「ダンジョンにいればそのうち会えるんじゃないかな?」
「そうかな···あ! そういえば! マスターが連れてた女の子! どこでいつ知り合ったの!?」
「女の子?」
···あぁ。いや、待て。魔剣少女のことはなるべく秘密にした方がいい、と神ヘスティアに言われているし、僕もそうだと思う。彼女たちは強力に過ぎる。一振りでオラリオ全域を滅ぼせる子だって、いるにはいるのだし。···ここははぐらかすべきか。
「あ、アイズさんだ。」
「え? ···ッ」
「えっ」
ベルの後ろを指して言った瞬間にロキ·ファミリアの面々がわらわらと酒場に入ってきた。やべぇよやべぇよ···やっぱり僕には預言者の才能があるよぅ······。
───現実逃避、了。
ベルは顔色を赤から青に変えている。まぁ、そうだろう。今まさに、ロキ·ファミリアの連中はベル(と僕)の血まみれ事件をネタに爆笑している。···いや、ベルが青ざめているのはそこじゃないな。あの狼人の「雑魚ではアイズの隣にはいられない」という一言。想い人の横に相応しくない、とこんな形で告げられれば、そりゃあ気分も悪いだr──ん? ベルがいない。慰めの言葉でも掛けてやろうと思ったのになぁ···。あ、女将さん? なんです? え? お勘定? ベルの分も? お、おぅけぃ。
で、まぁ。腹いせとベルの本質を知らない
「あの、すいません。ちょっといいですか?」
「あぁ? ···さっきのトマト野郎じゃねぇか! なんだよ?」
「あぁ、いえ。···さっき、ベルの事を「雑魚」だと言っていましたが、貴方も人の事を言えませんよね? 録な武器もないくせに。」
「······あ?」
テーブルが一気に静まり返る。制止の声が狼人にも僕にも飛ぶが、そんな事はどうだっていい。僕は今、この「雑魚」と話をしているんだ。
「お前、レベルは?」
「1。」
端的な問いに端的に返す。ロキファミリアの面々が一気に狼人を制止する。まぁ、そうだろう。僕の一撃では目の前の狼人──レベルは3か、4か──には傷すら付かない。
「そうかよ。じゃあ教えてやるよ。俺が雑魚かどうか。」
そう言って狼人は外へ出ていく。ありがたい。リディのバイト先をぐちゃぐちゃにする訳にはいかないからね。
「ねぇ、マスター。誰を使うの?」
「落ち着いてよグラム。君たちSランクなんか使ったら面倒すぎる。」
不貞腐れるような雰囲気を出して黙ったグラムと入れ替わるように狼人が話しかけてくる。
「俺はベート·ローガ。レベルは5だ。」
「あれ? 5か。見誤ったかな···。名乗るような名前はないけれど、マスター、とでも呼んでください。」
「おい
「···。」
うおおおおおお!? 冷静なようでめっちゃキレてるぅ? いや、でも、今、なんて言った?
「殺しましょう、マスター。」
「えぇ、そうね。主様、殺しましょう。」
「拷問したいけれど···まぁ、いいわ。殺しましょう。」
落ち着けぇぇぇぇ!! 殺すのには全面的に同意するけれど、落ち着いてぇぇぇぇ!!
「あぁ···もう、いいよ。かかってこいよ、犬。」
「ぶっ殺す!!」
僕の豹変にも気づかない程、向こうも怒り心頭なのか、地面が陥没する程の踏み込みと共に殴りかかってくる。同時に、僕の周囲に魔剣たちが一斉に顕現し、切っ先や魔導の照準をベートへ合わせる。気分はどこぞのAUO。
「!?」
ベートは驚いた顔をしているが、安心して欲しい。顕現しているのはルーンブレードや胴太貫を始めとするAクラスの魔剣だけ。死にはするだろうが、余波でお仲間が死ぬ可能性は半分以下──30%ってところだろう。アイズさんはベルの想い人だから、残さないと不味いか? いや、彼女たちを侮辱した奴の同輩なんて、残した方が気分が悪い。
「死ね」
「···!!!」
ベートが咄嗟に後ろ向きに跳躍して先頭だったルーンブレードを回避し──ブロードソードに貫かれる。血が迸る。腕が千切れる。血が迸る。両腕が無くなる。血が迸る。脚が飛ぶ。血が迸る。両脚を失う。血が溢れる。臓物が腹から漏れ出てくる。血が無くなる。まだ死ねない。筋肉が剥がれていく。痛い。骨が折れる音が聞こえる。痛い。首がぐるぐると回転している。痛い。すごく痛い。まだ──死ねない。
「おぶっ···おえぇぇぇぇ!?」
「良かったですね、外で。店の中なら女将にぶん殴られてました···よっと。」
背中を押す。嘔吐によって体力を消耗していたベートは踏ん張ることすらできず、自分の吐瀉物に倒れ込んだ。
「じゃ、失礼しますね。」
ペコリ、と、唖然としているロキファミリアの面々に一礼してさっさとダンジョンへ向かう。どうせ、ベルはそこにいるだろうし。
「ミア母さん。ヘスティアファミリアの子がどちらも食い逃げしました。」
「追いな。リュー。」
「はい。母さん。」