ダンジョンで数多の魔剣に溺れるのは間違っているだろうか   作:征嵐

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 タイトル思い付かない病、再発。


第三十八話 

 以前、魔界にはとある魔王がいた。彼は強大な力も、膨大な富も、優れた知略も、麗しき容貌も、何一つ持っていなかった。かつていた魔王のように、世界を壊すことも、世界を創ることも、絶大な富を手にすることも、世界を裏から支配することも、何一つとして求めなかった。

 

 彼は、ただ愛されていた。彼には、彼には従う魔剣たちがいた。しかし彼には、それらを振るう技量や資質は備わっていなかった。

 

 魔剣は言った。「必ずしも王が武器を振るう必要はない。資質がないのなら、私たちが働こう。私たちが、貴方の願いを叶えよう。」

 

 魔王は問う。「君たちの願いはなんだ。君たちが幸せなら、それでいい。」

 

 魔剣は言った。「──ただ、貴方の側にいたい。」

 

 当時、覇王の資質なき魔王には敵が多かった。見目麗しい魔剣少女たちが側にいることも一因だっただろう。「何故、あんな雑魚が。」「その玉座は、あんな奴には相応しくない。」そんな声を上げた『強者』たちは、次々に魔王へ反逆した。

 

 「──なら、そうしよう。」

 

 魔界で育ち、数多の魔剣の加護を、祝福を、支配を受けた体の膨大な寿命が尽きるまで。必ず生きて、君たちの側にいよう。そう決意した魔王は、魔剣少女たちを軍勢として用い、あらゆる外敵を排除していった。強大な武力は、彼自身ではなく、彼を慕う者たちが持っていた。

 

 魔剣たちは一人で一城を落とすだけの力を振るい、魔王を守護した。自分の居場所を、自分の大切なモノを守護した。そうしていつしか、彼は『剣統べる魔王』として、世界に認められた。──しかし、強大な力というモノには、「より強大な力に屈する」という宿命がある。

 

 次代の魔王と竜王は結託し、魔王を攻めた。次代の魔王は、特に封印に長けた魔術師だった。

 

 「貴様の素質──『魔剣を軍勢として統括する才能』を封印する。」

 「それで彼女たちが傷付かないのなら、そうしよう。」

 「貴様の魔王としての権利は全て剥奪される。」

 「元より、彼女たちと居られれば、それで良かった。」

 

 剣を統べる素質。『剣王領域』は、次代の魔王と竜王によって封じられた。『剣統べる魔王』は、それ以来姿を消し、今もどこかで魔剣たちと平和に暮らしていると言う──。

 

 

  △ ▽ △ ▽ △ ▽ △ ▽ △ ▽ △ ▽

 

 

 「──って、そこまで美談じゃないけどね。」

 

 オラリオの一角を埋め尽くす魔剣たちを見て、魔界に伝わるお伽噺の一部を思い出していた。何を隠そう、この僕が『剣統べる魔王』である。いやでもここまでカッコよく魔王じゃなくなった訳じゃない。そもそも今代魔王と竜王ぐらいなら二人同時でも勝てる。──いや、勿論、正規の『愚かな卑怯者の鍵(ワールドイズマイン)』があればの話ね?

 

 「そうですねー。だって、マスターさんが魔王を辞めたのは、ただ面倒臭かっただけですもんねー?」

 「次の魔王と竜王の封印だって、魔王を辞めさせない為の脅しだったのに···まさか呑んじゃうなんて。」

 「魔界史上最も平和で強力な治世だったのに、残念な事をしましたね。」

 「ルナ。それは言わない約束。ヘル。呑まれて困る条件なら脅しにはならないよ。そしてマビノギオン。平和だったのは君たちの圧倒的制圧力による治安の向上のお陰だし、『強力』とは言っても戦争が終わればその言葉も無意味になる。」

 

 戦争が終わるかどうかは知らないけど。

 

 「でも、流石に「魔王辞めていいかな? 面倒だし。」って言われた時は驚いたわ。」

 「いや、グラム。何度目か分からないけど取り敢えず僕の言い分をだね。」

 

 儀礼式典の類いは面倒極まりない。何が面倒ってもうとりあえず堅苦しい。あとやたら長い。しかも普段の行動まで制限付くんですよ。あとそこそこの頻度で来る挑戦者とか。

 

 「あーあ。封印も壊れたし、またアイツらが来るのか···。」

 

 魔王と竜王による封印術式『【ヒト】を殺すのは常に【ヒト】である』は、僕の持つ素質『剣王領域』と、その発露である能力『愚かな卑怯者の鍵』を封じるSS級の魔術だ。無理矢理に外そうとすれば、僕の魂に傷が付くレベルで強固なモノ。解除条件は『施術者の死亡』か『被術者が致命傷を負う』こと。もし封印が解かれれば、即座に魔王と竜王が出張封印しに来る。──きっと暇なのだろう。

 

 「態々私を封印するなんてコトしなくてもー、向こうを倒しちゃえばいいのにー。」

 「やっぱり暇だった?」

 

 ジャガーノート=ルナの顕現を制限していたのは、その狂気が『封印術式を狂わせてしまう』からだ。ルナを出せば封印が解ける。封印が解けると魔王が来る。で、魔王や竜王がのこのこ顔を出そうモノなら、まず間違いなく魔剣達が襲いかかる。そりゃ、行動を大幅に制限されていればキレもする。封印状態の僕が、完全な状態の──つまり、極状態と記憶結晶、それに各々の特殊技能や技巧を扱える状態の──魔剣少女を顕現させられるのは、最大で一人。今まで100を超える魔剣たちが顕現していた事を考えれば、凄まじい制限力だ。

 

 で。魔王をうっかり殺してしまうと、「責任取ってもっかい魔王やれ」と、『図書館』辺りが言ってくるに違いない。そんなの面倒すぎ──あれ? やっぱり自分の為に制限してね? 

 

 「マスターさーん?」

 

 おぉ···ルナちゃんやっぱりお怒りのご様子···。

 

 「てへっ?」

 

 ペロッと舌を出してみたり。

 

 「てい。」

 

 べし。と、脳天直撃チョップが下される。そこまで痛くないけど。むしろ距離の方が問題で──っと、()()()()()()()()()?

 

 「マスターちゃーん。コレどうすればいいのー?」

 

 頭上に掲げられ、ふりふりと振られる輝かしい直剣の切っ先に、まるで炙られたマシュマロのように突き刺さった『アサシン』。下手人はその直剣の持ち主であり、そのものである太陽の魔剣ガラティーン。

 

 「流石に早かったね···。」

 

 僕という人形を操るより、自分の体を動かした方が早くて強くて正確なのは道理だが。

 

 「貴方が指示を出すまでも無かったわね。マイマスター。」

 「そもそもその指示が必要なのか、僕は当時から疑問だったんだよ、ミストルティン。」

 

 はぁ、と、溜め息を吐いて自分の胸を見る。傷痕から吹き出す焔は未だに煌々と燃え盛っている。──傷を治すのには指示を出さなきゃいけないの? 

 

 「マビノギオン。」

 「もう少し、マスターの魂の輝きを見ていたいのだけど···。」

 「駄ァ目。これ地味に眩しいんだから。」

 「はーい。」

 

 残念そうな声を出したマビノギオンが片手を翳すと、一瞬で傷が癒える。

 

 「はーい、お疲れ様。取り敢えず···魔王と竜王が来るから。歓迎の準備しよっか。」

 「えぇ···歓迎しましょう。盛大に、ね。」

 

 顔は笑っているのに声が一ミリの笑っていないグラムに苦笑しながら、ガラティーンの方へ向かう。取り敢えず、『アサシン』を拷問なり解剖なりして、情報を集めなければ。

 

 

 


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