ダンジョンで数多の魔剣に溺れるのは間違っているだろうか   作:征嵐

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 一体何回撃つのか。


第三十六話 相手が死ぬまで撃てば相手は死ぬ

 一切の存在を許さぬ空間。空間そのものすら終わらせる一撃の中、滅ばない存在が2つ。

 

 一つは当然、下手人たる僕自身。

 

 もう一つは、対物理という点においては突出した防御性能を誇る装甲に身を包む、霊獣姫『フォートレス』。彫刻めいた整った顔を持つ本体をはじめ、砲塔や装甲は所々欠損しているが、それでも尚──いや、さっきよりも濃密な敵意と殺気を放っていた。

 

 「相変わらず、馬鹿げた防御力だね。」

 

 手の中で魔石ダイヤを砕き、失った魔力を急速回復しながらぼやく。見たところ『フォートレス』の沈黙にはもう一押しが必要か。幸い、『タマモノマエ』跡形もなく消し飛んでいるし、すぐに──いや、まずグラムの回復が最優先だ。『吸血』の効果で多少回復していたが、まだまだ傷は深い。

 

 ポーチから今度は魔石エメラルドを取り出し、グラムを全快させる。

 

 「マスター、もう一撃行くわよ。」

 「 お ち つ け 」

 

 回復するや否や、僕の体を駆って突貫しようとするグラムを必死に押し止める。確かに未だ『フォートレス』が生きているというのは度し難いが、グラムと『フォートレス』では相性が悪い。物理攻撃に重きを置く大剣であるグラムと、物理防御の高い『フォートレス』では攻めにくいというのに、向こうの攻撃はバッチリ通るのだから。

 

 かといって、安直にジェミニア辺りの魔導武器を使えば、膨大なHPを削り切れない。そこで、ひと手間加える。

 

 バフ祭りの主催者たる『タマモノマエ』を殺した以上、『フォートレス』はただの砲台。もう最適化貫通なんて芸当もできまい。ならば。

 

 「凡百が。僕を殺したければ、七罪王に勝てるくらいにはなって来い。」

 

 アダマスを顕現し時間を止める。

 

 マビノギオンで以て、意趣返しとばかりバフを盛りまくる。

 

 ソードブレイカーを内包し、グラムで攻撃を加えていく。ガードも、装甲も、一撃で無為にさせる攻撃。その連撃は容易く『フォートレス』のHPを削り──不意に、背筋が凍った。

 

 「!?」

 

 咄嗟に飛び退く──が、その努力も虚しく、()()()()熱線が降り、左腕が溶ける。

 

 「レーザーだと!?」

 

 それはそうだろう。フォートレスの武装のうち、焼き抉るような攻撃をするのはレーザーだけだ。もっと重要なことが沢山あるだろう。何故最適化を貫通しているのかとか、なぜ止まった時の中を動けるのかとか、なぜ背後から攻撃が飛んできたのかとか──

 

 振り向けば、こちらへぴったりと照準を合わせる、宙に浮いた小型の砲台が目についた。

 

 「浮遊砲台? なんで···いや、バフの効果時間? クソ、これだから···。」

 

 かけたバフが死んだ後も残るとは。凄まじいまでの魔力濃度だ。

 

 「補修するヒマは無さそうだね···よし、ツクヨミ?」

 「あるじちゃんの腕になればいいのね~? ツクヨミちゃん様に任せて~。」

 

 ほんわかとした声とは裏腹に、元々左手があった場所に、禍々しいまでの黒さ──否、(くら)さを持つ靄が渦巻き始める。それは瞬く間に実体を持ち、ウォーシャドウのモノに似た義手となった。

 

 「マスター様、お身体、お借りしますわね?」

 

 その左腕──どころか全身を支配し、西洋直剣を器用に振るのは、『魔剣らしい』魔剣。ダインスレイフ。所有者を支配し、相手を殺すまで止まらない呪いの剣──とは言うが、僕にとって『魔剣』とは、そういうモノだ。支配されるのが前提。目的は『敵を殺すこと』。何故、かつて多くの魔剣使い達が彼女を嫌ったのか、僕は未だに理解出来ない。

 

 「あぁ、勿論構わないよ、ダインスレイフ。さぁ···殺せ。」

 

 右手にグラムを、光を呑み込む左腕にはダインスレイフを携え、『フォートレス』へ突撃する。奴の性質上、ゼロ距離まで近付けば攻撃も出来まい。

 

 「ふっ!!」 

 

 重さの違う二振りの魔剣を、彼女たちは僕の身体を壊すことなく使いこなす。一撃、二撃と、着実に弱点属性でダメージを与えていく。

 

 「らぁッ! ···!?」

 

 何撃目かも分からない攻撃の折、剣を振り抜いた瞬間に、右腕で魔力が一斉に弾け、小規模ながら爆発が起こった。

 

 「──は?」

 

 今のは、『タマモノマエ』のスタンダードな攻撃方法だ。

 

 気密音を立てて『フォートレス』の装甲が開いていく。

 

 装甲板の中。大きな空間になっていたピラミッド内部には果たして、霊獣姫『タマモノマエ』が鎮座していた。──なるほど、ブレイズドライブを『フォートレス』内部に入ってやり過ごしたのか。って、言うか。中、入れたんだ。

 

 「!!!!」

 

 目が合った。

 

 右腕はただ千切れ飛んだだけで、滴る血は一向に収まる様子がない。

 

 『タマモノマエ』の右腕がこちらへ向けられる。

 

 「···ヘル!!」

 「えぇ、いいわ。」

 

 ゴオッ!!と、音を立てて大気を喰らい、右腕から蒼い焔が噴出する。それはやがて小さく収束し、今度は右腕の形状に収まった。

 

 「どうせだ、アルギュロス。君もおいで。」

 「分かったわ···。」

 

 今度は一切の音を立てず、空気中から滲み出るように銀色の液体が僕にかかる。すぐにそれは固体へと変質し──白銀の鎧となった。

 

 「来いよ霊獣ども···。」

 

 呟き、グラムとダインスレイフを構える。この状態ならさすがにもう大丈夫だろう。まずタマモノマエを仕留めて···なんて算段を付けた瞬間、ぱたん。なんて、軽い音を立てて『フォートレス』の装甲が閉じた。『タマモノマエ』を中に入れて。

 

 「···ま、そうだよね。うん。僕でもそうする。」

 

 鉄壁の防御を誇る『フォートレス』の中から『タマモノマエ』が魔導攻撃。順当。順当すぎて涙が出るね!

 

 「マスターさーん。もう我慢しないでー、私を使っちゃいましょう? 一緒に救われましょうよー。」

 「···いやいや、ダメ。」

 

 ちょっと悩んだけど。

 

 「あー、悩みましたねー? い · ま。」

 「キノセイダヨ···。」

 

 仕方ない。脳死っぽくて嫌なんだけど···死ぬよりマシか。

 

 「二人とも。ブレイズドライブ。アルギュロス、防御任せる。」

 

 向こうが籠城するなら、()()()()()()()()()()()

 

 「ブレイズドライブ。」

 

 倒れない。

 

 「ブレイズドライブ。」

 

 倒れない。

 

 「ブレイズドライブ。」

 

 倒れない。

 

 「時間は止まってるんだ、まだまだ遊べるぞ?」

 

 ブレイズドライブ。ブレイズドライブ。ブレイズドライブ。ブレイズドライブ。ブレイズドライブ。ブレイズドライブ。ブレイズドライブ。ブレイズドライブブレイズドライブブレイズドライブブレイズドライブブレイズドライブブレイズドライブブレイズドライブブレイズドライブブレイズドライブブレイズドライブブレイズドライブブレイズドライブブレイズドライブブレイズドライブ────!!

 

 「はぁ···はぁ···今···何発···撃った···?」

 「さぁ?」

 「まだまだ行けますわよね? マスター様?」

 「ちょ···無理···魔力が···。」

 

 アホな事をしたとは思うが、お陰で霊獣どもは滅んだ。朽ちゆく体と、ドロップした魔石を眺めながら余韻に──なんてモノじゃないぞコレ。純粋な疲労じゃないの。

 

 「魔力欠乏とか···ホント···バカじゃないのか···僕は···。」

 

 息が整わない。ちょっとマジでヤバいと判断してダイヤを使う。燃え盛る右腕と光を呑み込む左腕を見ながら、「あー、腕も生やさなきゃなぁ」なんてことも考える。

 

 「つっかれたぁ···。」

 

 ぺたりと座り込めば、戦闘の余波で熱された岩肌が尻を焼く。

 

 「座れもしないとか···きびしいせかい。」

 

 





 はい。何回撃ったでしょう。

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