ダンジョンで数多の魔剣に溺れるのは間違っているだろうか 作:征嵐
生え揃った足をぷるぷると振って感触を確かめる。うん。大丈夫。今までと変わず、ちゃんと僕の思い通りに動く。
「ねぇマスター。貴方、もしかして相当な愚者なのかしら?」
「唐突な罵倒が僕を襲う···。なんなのさ、アダマス。」
「足の一本に構っている暇なんて無い、ってことよ。」
霊獣姫『フォートレス』と霊獣姫『タマモノマエ』。この二匹は、どちらも特級の怪物である。中でも『タマモノマエ』は魔法攻撃·魔法防御、支援魔法に至るまでを使いこなす、才覚溢れる化け物である。そして、勇者や太陽聖域、果ては魔王までもが恐れるのは、その多彩な支援魔法だ。こちらに掛けられるデバフは『攻撃力低下』『ブレイク力低下』を筆頭に、『麻痺』『停止』『即死確率上昇』など、多岐に渡る。自己強化もそれに並ぶバリエーションで、『体力自動回復』『防御力上昇』『攻撃力上昇』といったポピュラーなものから、『麻痺無効』『ブレイク無効』といった面倒極まりないものまである。
つまり。
「はい、ガード!」
止まった時の中で大量に飛来したレーザーをアイギスが大盾で防ぐ。
「停止無効? ···じゃ、ないな。活動再開まで時間があったから···レジスト能力の上昇かな?」
時間が止まっているのに『時間があった』とはこれいかに。なんて無益なことを考えている場合じゃない。幸いにしてレーザーは全てアイギスが防いでくれたし、差し迫る脅威はない。
「いいぞアイギス。じゃあ···反撃といこうか。」
グラム単騎で突貫──なんて、愚かしいことはしない。そこまで手を抜ける相手じゃない。そもそも、魔法特化で物理防御の低い『タマモノマエ』はともかく、物理防御に長けた──どころか、物理防御力の塊みたいな『フォートレス』相手では、グラムよりも魔導書の類いの方がダメージが出る。
では魔導·物理共に秀でる魔鎌を使うか? それは微妙だ。鎌という武器は確かに物理·魔法共にそれなりの数値を誇る。が、それはどちらも本職には及ばず中途半端ということだ。(例外多数)
よって──
「行くよ、皆。
──魔核駆動開始。
──魔剣のロック、解除。
──魔剣少女をアンロック。
──魔力結晶体、解放。
──発動。『
僕のスキル『
故に。
「おいで、グラム。オルタ。あとイデアと···そうだな、マビノギオンとジェミニア、アイギスもだ。」
火力面ではグラム姉妹が。
機動力をイデアが。
補助にマビノギオンを付け。
レーザーをジェミニアが、物理攻撃をアイギスが跳ね返す。
両手には大剣が。
背中には三対の翼が。
鏡と盾と本を従えて、霊獣へ駆け──否、翔ける。
「らぁっ!!」
まず脅威のバフを扱う『タマモノマエ』に肉薄し──右手のグラムを一閃する。 が、『タマモノマエ』の張った障壁とぶつかり、競り合う。
「ソードブレイカー。」
左手のオルタを消し、一切のラグなく拳闘『ソードブレイカー』を纏わせる。そして思いっきりぶん殴り──障壁がガラスのような音を立てて簡単に割れる。
「ゼロ。」
その勢いのまま、今度は騎槍『ゲイボルグ=ゼロ』を顕現し、神速の刺突と共にさらに距離を詰める。
「■■■■■ーーーー!!!」
焦ったように霊獣が腕を振るい、僕に向けて攻撃してくる。
「アイギス?」
僕に追随するように浮遊していた黄金と純白の盾が滑らかに空を舞い、豪腕を容易く受け止める。所詮は魔法特化型か。
「せぁっ!!」
グラム二人で連撃を加え──ぐらり、と、『タマモノマエ』の姿勢が崩れる。
「はい、どうも。」
ブレイク状態。つまり──ガード不能。
「行くよ皆。ブレイズドライブ。」
BLAZEDRIVE:完全世界エイヴィヒカイト 不完全世界ファーヴニル ディープカーネイジ 鏡写しのカルトスポルクス 神魔蒼鏡アイズオブヘヴン オールオブマジック 破壊衝動ブレイクオール 最後の審判の最後は大団円
命あるモノならば──なんて次元ではない。万物が滅びる、蹂躙。しかし──
「■■■ーー■■ー■ーーーーー!!」
「■■■■■ーーーーー!!」
敵は今なお、健在。
「化け物め。」
笑いを浮かべながら、僕はそのまま攻撃を続ける。一閃し、後退し、連撃し、防御する。劣化しているとはいえ『
戦闘で昂っていた精神が一気に沈静化していく。いやいやいやいや、待て待て待て。そういえばなんでだ。──なんて、慌てられるような余裕はない。ただ、沈静化しただけ。僕の──今の、僕の頭にあるのは『この二匹を殺す』という意識だけだ。その手段は、既に僕が内包している。
「■■■ーー■■ー!!」
『タマモノマエ』が咆哮し、『フォートレス』が僕へ向けてレーザーと砲弾を雨あられと降らせる。が、甘い。
「アイギス。ジェミニア。」
「分かってるわよぉ、マスターちゃん。」
甘ったるい声と共に、付き従っていた鏡がレーザーを跳ね返す。『フォートレス』の装甲に傷ひとつ付かないのは折り込み済み。ただ僕に当たらなければそれでいい。
「行くよ、グラム。全力だ。···ごめん、先に謝っておくね。」
「構わないわよ。それが、貴方の本意ではないことも、貴方が私達のことを大切にしていることも、分かっているもの。」
──そういう事を言われると、尚更やりたくなくなる手段なんだけど。
「お疲れ様、皆。」
グラムとイデア、アイギスとジェミニア、最後にマビノギオンを残して全員を戻す。『愚かな卑怯者の鍵』は、ただ僕の中で皆が活性化しているだけの、ただ魔力消費が尋常じゃないだけのスキルじゃない事を、お見せしよう。
「■■ーー!!」
動きを止めた僕を狙い、『タマモノマエ』の魔導砲撃と、『フォートレス』のレーザー、それに主砲である極光が飛来する。
「マビノギオン、ジェミニア、任せた!!」
「ジェミニアちゃんの可愛さと強さにぃ、これ以上惚れても良いのぉ?」
「お任せください。マスター。」
マビノギオンがジェミニアに防御強化を張りまくる。同時にグラムに『どんな攻撃でもHPを1残して耐える』バフを掛ける。そして──僕はグラムを地面に突き刺し、
「頼むよ···これで計算ミスしてたら自害するしか···。」
果たして、グラムは光属性ダメージの奔流に飲み込まれ、僕はそれを祈りながら眺めていた。
「くぅ···あぁぁぁぁぁ!!!」
グラムの叫びを聞きながら、砲撃が止むのを待ち続ける。まだだ。タイミングを間違えれば、僕も死ぬ。
そして──砲撃が止み、暴走寸前のグラムが、地面に突き立っていた。
「今だッ!!」
全力疾走し、グラムを握る。僕の身体には、既にマビノギオンのバフがこれでもかという程に積んである。
「変質開始。」
スピード強化系と魔力変換効率上昇系のバフの後押しを受け、さらに『愚かな卑怯者の鍵』の効果もあって、グラムを一瞬で極状態へと昇華する。さらに──
「効果発動。『窮鼠』『逆鱗』『吸血』。」
『愚かな卑怯者の鍵』発動状態の間のみ限定的に使用可能な、魔剣強化装置。名を、『記憶結晶』と言う。
かつて、僕たちが作り上げた魔剣たちとの『思い出』だとか『記憶』だとかを結晶化し、そのまま力として振るうことが可能になるトンデモマテリアル。ちなみに結晶化するのはブキダスさんだ。ほんと何者なの···。と、まぁそれはさておき、グラムに搭載可能な記憶結晶は3つ。僕はそこに『窮鼠』『逆鱗』『吸血』という3つを積んでいる。
まず『吸血』だが、これは単純かつ明快で、攻撃で体力吸収ができるようになる。勿論、等倍ではないし効率も悪いが──ダメージ量によって大きくなるので、後の2つと相性がいい。
二番目に重要なのは、『逆鱗』。属性が優位ならば、ダメージ量が上がる。
そして最重要。『窮鼠』。効果は──受けたダメージが多いほど、ダメージが上がる。
魔剣グラム【極】の総HPを、1しか残らない程に削ってくれたのだ。さぞかし、大ダメージが出るだろう。
「死ね。」
BLAZEDRIVE:完全世界エイヴィヒカイト
空間が、死滅──いや、空間が、終わった。
感想、評価ありがとうございます!! いやほんとエタ防止になりますね()