ダンジョンで数多の魔剣に溺れるのは間違っているだろうか   作:征嵐

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第三十四話 損傷

 理想を口にして良いのなら、一連の攻防が全て夢であってほしい。ついでにちょっとだけ早く目が覚めて欲しい。

 

 現実を述べるならば、手を組むことなんて滅多にない霊獣が結託して僕を殺しに掛かっていると推察される。

 

 どちらにせよ、この場においてロキファミリアは最早頼もしい増援ではなく、ただの的だ。──いや、それは僕も同じ。霊獣姫『フォートレス』の本体は、まず確実にこのフロアに居ない。奴ほどの巨体なら、もっと下層のドームに腰を据えるしかないはずだ。ならば、破壊したところで大して本体に影響のない浮遊砲台から狙われ、いつ誰が死ぬか分からない現状では、僕も彼らも「的」だった。

 

 だが良いこともある。相手が『アサシン』でないのなら、『即死』のスキルはない。つまり、魔力効率のよくない『新たな自分への鍵』は必要ないということだ。さっきアイズさんの武器が壊れたのも、きっと無理な位置から防いだとか、そんな理由だろう。

 

 「お疲れ様、ラストリゾート。」

 「マスター様、気をつけてね。」

 「あぁ、分かってる。」

 

 幸運の加護は無くなったが、相手が『フォートレス』なら、グラム単騎でも十分防げる。本体を攻撃するなら流石に一人では火力不足だが、浮遊砲台程度なら問題ない。

 

 「団長。敵の本体はここじゃなく、もっと下層です。僕がここを受け持ちますから、皆は外に出て、他の冒険者に迷宮に入らない様伝えてください。」

 「それは──いや、分かった。」

 

 対霊獣に関しては僕の知識量·経験が団長に勝る。彼もそれは分かっているが故に、あっさりと軍を退いた。

 

 「さて──もう一回だ、ネクロノミコン。今度はもっと下に!」

 「まかせて···今度はみつける。」

 

 ネクロノミコンを顕現させた瞬間に、凄まじい勢いで触手が奔出する。先ほどの負傷をまるで感じさせない速さと物量で、あっという間に一階層を埋め尽くす。そして下層へと走査の(触)手を伸ばし──

 

 「みつけた···やっぱり、『フォートレス』···それに、『タマモノマエ』も。」

 「霊獣姫が二体か···最悪だね。」

 

 ()()()のような例外も居るが、基本的に霊獣は冥獣よりも強い。二体同時なんて御免被る。すぐさま魔剣機関に救援要請したいのだが──

 

 「そうもいかない、か。」

 

 そもそも、そんな余裕はない。僕一人で、霊獣姫二匹を、屠るしか、ない。

 

 「最悪だ···。ねぇアークチャリオット(お姉ちゃん)。この戦いが終わったら膝枕してよ。」

 「えぇ、勿論構わないわよ?」

 「妙なフラグを立てるのは止めて頂戴···。」

 

 グラムが呆れ声を出すが、こんな冗談でも言っておかないとやってられない。ホント、面倒だ。

 

 「ネクロノミコン、敵はどこ?」

 「ん···十階層···下···。」

 

 十一階層か。存外近いな。十一階層は今ドーム状に拡張されており、そこに『フォートレス』と『タマモノマエ』がいる、ということか。

 

 本体を発見した瞬間にぴたりと止まった浮遊砲台からの攻撃に注意しつつ、下へ、下へと歩を進める。道中、一切のモンスターと遭遇しないことが、言い知れぬ不安を与える。

 

 「···みぃつけ、た。」

 

 白い体。その体長は8メートルほど。ワンドメイス型の冥獣と似たフォルムの魔導特化型霊獣。霊獣姫『タマモノマエ』。

 

 白い()()。そのサイズは20メートル以上。ピラミッド型の体から無数の砲台と、一際目を引く大口径の砲口が覗く。頂上付近に存在する女性の上体じみた器官がこちらへ目を向ける。

 

 「■■■■■」

 

 全く聞き取れない言語で、『タマモノマエ』が何事か話す。

 

 「■■■」

 

 呼応するように『フォートレス』も発声し──砲口が光る。

 

 「!!」

 

 咄嗟に4メートル近く飛び退くが、そんな程度の距離、『フォートレス』の砲撃と着弾の爆風からすればゼロに等しい。結果、僕の体は熱風と砲弾の破片を受け、ズタボロに──は、ならない。魔剣を顕現している以上、僕の傷は全てそちらへ伝わり、僕は無傷に終わる。

 

 ──ところで、霊獣姫『フォートレス』というのは、分析するのが楽な種類の霊獣だ。体を覆う装甲の色で属性が分かるし、砲撃パターン、大口径主砲のタイプから威力まで、すべて外見情報から推察できる。···多くの犠牲の上に成立した公式だが、経験に裏打ちされている以上、確実性が高い。

 

 そして、今、僕が相手にしている『フォートレス』の装甲の色は、白。属性は『光』。実弾の威力はそこまで高くなく、レーザー兵器に主軸を置く。大口径主砲は貫通力の高い熱線レーザーで、どの兵器も直線的故に避けやすい。時折織り交ぜられる、広範囲に爆風と破片を撒き散らす実弾に気を付ければ、かなり楽に相手ができる。

 

 ただし『光属性』というのが既に厄介で、特攻の付く闇属性とは相互特攻。つまり、こちらの攻撃力も1.5倍になるが、向こうから受けるダメージも1.5倍になる。

 

 よって──

 

 「ぐぅっ!?」

 「大丈夫!?」

 

 グラムが苦しげな声を上げる。損害は──半壊、といったところか。まだ戦える。暴走する前にエメラルドを使えば即座に全回復だって──いや、駄目だ。今この場には霊獣姫『フォートレス』だけでなく『タマモノマエ』もいる。奴の魔導攻撃には麻痺や勇気分解──ブレイズドライブを撃つのに必要な、『魂の力』を奪う状態異常のこと──を起こすものもある。最悪のケースは、僕が麻痺状態になり、暴走し魔核崩壊を起こすグラムをただ見つめることしか出来なくなること。そんな状況に陥ったら、流石にもう「街を壊したくない」なんて言ってられない。

 

 「直ぐに治療するから、ちょっとだけ我慢して。」

 「大丈夫よ、まだ···」

 

 言い募ろうとしたグラムだったが、過去の経験を思い出したのか、言われるがままになる。次から次へと地面を焼くレーザーを避けながら魔石エメラルドを砕き、急速回復する。LP、HP、共に全快。大丈夫だ。まだまだエメラルドもダイヤもある──が、慢心ダメ、絶対。なるべく短期決戦にしよう。幸いにして、『タマモノマエ』はまだ動いていない。『フォートレス』にバフを掛けているのか、或いは別の理由か。とにかく面倒なのは『フォートレス』だ。

 

 「やばっ!?」

 

 右ふくらはぎの辺りにレーザーが被弾し── ジュワァァァァ なんて、笑える音を立てながら、()()()()()()()()

 

 「···は?」

 「またなの、マスター!?」

 「違う! 僕が最適化を解いたんじゃない!」

 

 当然、いきなり片足になった僕は盛大にスッ転ぶ。焼き抉られたお陰で出血は殆ど無いし、神経まで焼け付いたのか痛みも少ない。少なくとも、右足の膝から先が無くなったにしては。

 

 「まずいですよ···。」

 

 『タマモノマエ』め。全く動かないと思ったら、まさか『防御貫通』バフ···じゃ、ないな。最適化を貫通するバフなんて聞いたことがない。が、起こった現象はまさに『最適化の無効化』だし、現実逃避に意味はない。

 

 「マスター、逃げて!」

 「どうやって!?」

 

 いや、マジで。ケンケン? レーザーを避けらる速度でケンケンとかなにそれ一周回って面白い。

 

 魔導書から治癒術式を使うか? 駄目だ、そんな悠長な事は──いや、できる。

 

 「アイギス! アダマス! 時間を稼いで!」

 「無様な姿ね、マスター。」

 「大丈夫ですか? マスター様。···いやwwwちょwww足やばwww」

 

 しまった。人選間違えた。くつくつと笑いながら瞳は心配そうなアイギスと対照的に、アダマスは目の奥まで笑っている。

 

 止まった時の中、足を治す。

 

 「ほんと、性格に目を瞑ればなぁ···。」

 「何か言ったかしら? マスター。」

 「あ、いえ、なんでもないです···。」

 




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