ダンジョンで数多の魔剣に溺れるのは間違っているだろうか   作:征嵐

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第三十三話 共闘?

 

 Q.今、必要なモノは?

 A.打開策ぅ···ですかねぇ···。

 

 マス太おにいさんになるまでもなく、姿の見えない小型で高速の敵を相手にするには、奇策妙策が必要だった。脳死広範囲殲滅攻撃ぶっぱをしようにも、ここ一階層では万が一壁をぶち抜いてしまったら詰む。フロア自体を陥没させて数階層分下げようにも、敵が霊体化して浮遊できるのなら意味はない。むしろ今度こそ都市へ解き放ってしまうかもしれない。

 

 Q.じゃあ、どうする?

 A.どうしよう···。

 

 「マスター君。君の魔剣に、敵を探すことに特化した武器はないのかい?」

 「ありますよ?」

 

 ネクロノミコンとか、ティンダロスとか。

 

 「じゃあ、それを──」

 「いや、まぁ、ちょっと事情がありまして。今は使う訳にいかないんですよ。」

 

 ロキファミリアの皆が怪訝そうな表情で僕を見る。が、これは戦力の秘匿とか、そんな問題じゃないんですよ。単純に、皆が発狂しないための処置であってですね。

 

 「──分かった。君の武器だ。君が一番良く分かっているだろうしね。」

 「えぇ、そう···でしょうね。きっと。」

 

 会話の合間にも杭の攻撃は止まない。弾き、逸らし、受け流す。が、こちらは冒険者──恩恵があるとはいえ生物。つまり、疲労からは逃れられず、そろそろ危ない。

 

 「マスターさーん。もう良いじゃないですかー。一緒に救ってあげましょうよー。一緒に狂気に身を委ねちゃいましょうよー。」

 

 棒読みに。それでいてどこか艶やかな誘惑に抗うように、グラムを持つ手に力を込める。

 

 彼女の銘──名前は、『ジャガーノート×ルナ』。「破壊によって救済を与える」戦斧『ジャガーノート』と対を成す、「狂気によって救済を与える」騎槍。その姿を見た者は誰であろうと狂い──精神を砕かれる。そして、それは幾多の魔導書で散々精神汚染を受け、SAN値のアンダーフローした僕も()()()()()()。···が、僕はそんな理由で彼女を封印した訳じゃない。僕の都合で魔剣たちを縛るつもりは、ない。──魔剣に使われる僕が彼女たちを縛るなんて、土台無理な話だけど。

 

 「駄目だ。それだけは、絶対に。」

 「ちぇー。変態マスターの癖にー。」

 

 いくら罵倒されようと、こればかりは譲れない。脳内に響く声と音声で対話している僕の姿は、ロキファミリアから見れば既に狂っているのかもしれないが。

 

 「マスター。」

 「···うん。」

 

 今は感傷に浸っている場合じゃない。虎視眈々と、霊獣がこちらの命を狙っているのだから。

 

 「安心してよ、ルナ。いつか絶対、君を使うから。」

 

 ルナを、「使う」。Aランク魔剣すら「使えない」僕が、SSランクの彼女を? 笑えもしない。

 

 「待ってますねー。一体何時になるんでしょうねー。あーあ、救われないなー。」

 

 だけど彼女は、微笑の雰囲気を漂わせ、己を縛る四人の封印に身を委ねた。

 

 「話は終わったかな、マスター君。そろそろ打開策を···ッ!」

 

 飛来する杭を防ぎながら団長が言う。分かってる。このままじゃ不味い。むしろロキファミリアの皆がいる所為で対応できなくなっている。かといって助けに来てくれた相手に「邪魔だ、どけ。」では流石に失礼にあたる。

 

 「···じゃあ、全員、目を閉じて耳を塞いでください。魔力感知もしないで。」

 「!! ···分かった。皆、彼の言う通りにしよう。」

 

 戦場のど真ん中。攻撃を受けている最中にこの指示は、「死ね」という指示に他ならない。が、流石に団長は何かしらの策があってのことだと察したのか、率先して言われた通りにすることで、噴出寸前だったロキファミリアからの批判を押さえ込んだ。

 

 「感謝します、団長。···さぁ、やっと出番だよ、ネクロノミコン。」

 「···ん、わかった。」

 

 ──右手を横へ。

 

 ──魔力が渦巻く。

 

 ──無色無性質のエーテルに、色がつき、性質が付与される。

 

 ──その色は黒。光を飲み込む漆黒。

 

 ──その性質は極めて邪悪。

 

 ──形状は本。銘は『死霊秘法』

 

 

 

 ──魔導書『ネクロノミコン』顕現。

 

 

 「■■■■(ころせ)

 「まかせて···。」

 

 本が独りでに開き、大量の触手が溢れ出てくる。壁や床を即座に覆い尽くし、続いて空間を圧迫し始める。ロキファミリアのメンバーに触れないように細心の注意を払って行われた蹂躙は、ネクロノミコンの一言で無意味と化した。

 

 「いない···? 魔力、も、ない。」

 「■■■(バカな)!?」

 

 壁一面、なんて規模ではなく、フロア一つを完全に触手で埋め尽くしても尚、見つからないなんて、それは霊獣『アサシン』じゃない。それは──

 

 「遠距離操作砲台···。」

 

 自在に霊体化させられる浮遊砲台を持ち、本体からは極太から米粒まで様々な弾幕を張る超大型霊獣。かつて、僕や魔剣機関の勇者、果ては七罪王まで駆り出した、古代文明を入れてもトップ10に入るロマン──じゃ、なかった。トップ10に入る殺戮兵器。霊獣姫『フォートレス』。似たような魔剣にラグランジェが居るが、彼女のレーザーよりも遥かに凶悪で、強力だ。レールガンですら火力負けする。

 

 大気を裂いて、そしてネクロノミコンの触手も切り裂いて、()()()()()()()()杭が迫る。確定だ。小型の『アサシン』が同時に四体存在するのでなければ、不可視化された浮遊砲台──不可視化された、だと?

 

 霊獣姫『フォートレス』に、そんな能力はない。確かに実体化、非実体化の切り替えは早いが、不可視状態での攻撃は『アサシン』のスキルだったはず。魔導特化の『タマモノマエ』や『ロイヤルメイジ』が不可視化の魔術を使ったのなら話は別だが···。

 

 「まさか、ね。」

 

 ネクロノミコンを非顕現状態へ戻し、迫る杭をグラムで弾きながら呟く。そんな夢のような──訂正、悪夢のようなタッグがあってたまるか。

 

 




 ルナとジャガノは別物扱いとさせて頂きます。何故って? だって、ジャガノとルナが同時に編成できるから。

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