ダンジョンで数多の魔剣に溺れるのは間違っているだろうか   作:征嵐

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第三十二話 共闘

 ラストリゾート。『最後の切り札』『最終手段』の名を関する魔剣であり、その特性は、『幸運』。···とは言うが、僕がそれを実感した事は少ない。確かに彼女とジャンケンをして勝ったことはないし、ポーカーをしたときも、彼女は初手でスペードのロイヤルストレートフラッシュを引き当てていた。だが、僕が彼女を顕現させた時にはそんな幸運は起こっていない。彼女単体での攻撃·防御性能はそこまで高くないし──()()()攻撃が逸れて行くので、負傷は殆どしないが──霊獣相手だと流石に荷が重い。

 

 「そんな子のために、()()を開発した訳なんだけどね。」

 

 あくまで彼女自身の能力である『幸運』を、他の魔剣に付与するための技。複数の魔剣を同時に顕現させ、個々の特性を生かす技術。『新たな自分への鍵(アナザーエゴ)』。ティターニア·ネオ戦の時にも使った技術だ。

 

 「まだ行けるよね。グラム?」

 「当然よ。マスター。」

 

 何度か攻撃を弾いたグラムだが、そこまでの損傷はないらしい。

 

 「よし、行くよ?」

 

 まずグラムとラストリゾートを同時に顕現し、最適化を行う。これで即死発動はかなり抑制されるはずだ。問題は僕自身への攻撃だが、グラムがそれを許す訳がない。

 

 「ッ!···そこだろっ!!」

 

 飛来した杭を弾き、即座に飛んできた方向へ攻撃する。が、やはり、そこに霊獣はいない。

 

 「やっぱり、かなり小型だ。しかも速いな···。」

 

 攻撃を弾き、切り払い、受け流しながら必死に反撃するが、こちらの攻撃は全く当たらない。天井の高さがおよそ4メートルのこのフロアで活動している時点でかなりの小型種だが、そこに速度も乗せられてはどうしようもない。

 

 「と、言うかマスター。霊獣『アサシン』は、そこそこ大型だった筈よ?」

 「だよね···。変異種、かな。」

 

 以前に討伐した『アサシン』はかなりの体躯で、固有能力である完全不可視化能力を無効化すればただの的だった。が、今回の相手は違うらしい。

 

 「ねぇマスターさーん。私、最近すっごく暇だったんですよー。どうですかー? 一緒に霊獣、救ってあげませんかー?」

 「駄目だ!」

 

 脳内で上がった棒読みの声に、即座に否定を叫ぶ。君は、君だけは、絶対に顕現させない。グレイプニル、アヴァロン、アイギス、そしてカラドボルグ=エアの四人がかりで僕の奥底に封印し、二度と使わないと誓った、君だけは。

 

 「どうしてですかー、マスターさーん。()()()()の時も、()()()の時もー、本気でピンチの時にはいつも私に頼ってたじゃないですかー。」

 「どうしても、だ。君は···しまった!?」

 

 大気を切り裂いて杭が飛来する。数は──三本。激昂した所為で反応が遅れてしまう。

 

 一本──弾く。

 

 一本──逸らす。

 

 一本──飛来した槍が、杭を弾き飛ばす。

 

 「···!!」

 「件の『冥獣』って奴かな。今の攻撃は。」

 

 颯爽と登場したのは、ロキ·ファミリアの団長──『勇者(ブレイバー)』フィン·ディムナ。後ろにアイズさんやリヴェリアさんといったメンバーがいると言うことは、遠征の途中か何かだろうか。だとしたら、遠征の初っ端からこんな強敵と遭遇するとは不運なことだ。

 

 「ありがとうございます、助かりました。」

 「いや、大丈夫だよ。さ、みんな。」

 

 ざくっ、と、旗を地面に突き立てた団長は、背後の冒険者たちに指示を飛ばす。唯一、冥獣にダメージを通せる僕を攻撃の主軸に据え、自分も含めた全員が支援とガードに回るように。

 

 ばさり、と、旗に描かれたロキファミリアのシンボルマークがはためく。──風のない迷宮内部で?

 

 「!!」

 

 団長が首を傾けると、寸前まで頭のあった位置を杭が通り抜けていった。

 

 「姿の見えない敵か、厄介だね。」

 「えぇ、物凄く。それと、今戦っている敵には、魔剣でなくとも攻撃が通ります。もし、見えたら。」

 「あぁ、わかった。皆聞こえたね?」

 

 肯定の返事を確認したところで、遠征メンバーの中で戦闘向きでない者──サポーターなどがダンジョンを出る。『アサシン』の狙いは僕のようだが、このイレギュラー達をどう捌く? お前の杭は所詮は直線攻撃。威力にしろ手数にしろ、団長以下ロキファミリアのメンバーならなんとかなるレベルだ。

 

 「ふっ!!」

 「はっ!!」

 

 アマゾネスの姉妹がそれぞれの武器で攻撃を弾く。飛来した方向には即座にエルフの少女とリヴェリアさんの魔法攻撃が飛ぶ。当然、霊獣とてそこに留まる愚は犯さず、逆に魔法を撃った直後の二人に攻撃し──団長とドワーフの男性、それにアイズさんがそれを弾く。

 

 「すごい連携だ···。」

 

 僕の持つ魔剣達でも、ここまでのチームワークは見せられまい。むしろ何人かは率先して喧嘩するだろう。

 

 「ありがとう。とはいえこのままじゃジリ貧だ。なんとかして本体を見つけないと。」

 

 そこらに散らばった筈の杭は魔力に還り、どれだけの攻撃を防いだのかは最早定かではない。この手の攻撃は弾切れなんて期待できないし──やはり、本体を見つけないと話にならない。

 

 「マスター。もっと敵の情報を頂戴。」

 「いや、情報って言われても···あ、そうだ。杭の先端には致死毒が塗られてます。」

 「はぁ!? 早く言いなさいよ!」

 

 アイズさんの問いに答えれば、間髪入れずアマゾネスの女性から指摘が飛ぶ。うん。そうだね。これは僕が悪いです。

 

 「マスター君。君の魔剣の中に、範囲攻撃の出来る魔剣はあるかい? あるなら、リヴェリアとレフィーヤと一緒に、この一帯にそれを放って欲しい。」

 「ありますけど···ここ、一階層ですよ?」

 「え?」

 「いや、ですから、壁とか天井とか、壊れちゃ不味いですよね?」

 「あ、いや、うん。そう、だね?」

 

 まさかそこまで高威力だとは思わなかった。という顔をする団長。弛緩した空気が流れる寸前に、金属の砕ける嫌な音が鳴り響いた。

 

 「っ···!?」

 

 見れば、アイズさんの剣が砕け散り、柄と僅かな剣身を残すのみとなっている。

 

 「『即死』か···!!」

 「即死!? なんなの、それ!!」

 

 そうですね。これも僕が一方的に悪いです。はい。

 

 「相手の攻撃は、一定確率でこちらの武器を壊してきます! 気をつけて!」

 「言うのが遅いよ···。」

 

 団長もため息を吐いている。が、戦場で意志疎通や情報伝達がしにくいのは当たり前だろう(開き直り)···いや、ごめんなさい。反省してます。はい。

 

 「本気でジリ貧だね、この状況は···。」

 

 団長の言葉通りだ。何か、打開策が必要だ···。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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