ダンジョンで数多の魔剣に溺れるのは間違っているだろうか   作:征嵐

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 ルナ引けたぜイエェェェェェイ!!!

 8月からずっと石貯めてた甲斐があった···。

 あ、お待たせしました。


三十一話 見敵

 霊獣と言うのは、元は魔剣使いだったモノたちが死に、歪に最適化された魂だけがこの世に残り、彷徨う姿のことだ。彼ら彼女らにかかれば、冥獣ごとき一捻りだろう。僕も以前に交戦したことがあるが、グラムのブレイズドライブやイデアの崩壊の極光に絶えた挙げ句、僕に()()まで使わせた。たった一匹で、アビス級冥獣の比ではない強さを誇っていた。

 

 「霊獣まで出てくるとなると、いよいよオラリオも終わりでしょ。」

 

 オワリオ。という単語が浮かんだが、グラムとジャガーノート辺りに「もうダメかもな、こいつ。」という目を向けられるのが読めるので、口には出さない。

 

 「救いようがありませんねー···。」

 「私たちに聞こえていないと思っている辺りが、本当に愚かね。」

 

 そうですね。魂レベルの最適化までしてますものね。当然、心中の独白ぐらい読んできますよね。···死にたい。

 

 「駄目かな、オワリオ。語感は良いと思うんだけど···って、そうじゃなくって。霊獣だよ霊獣。」

 

 割りとマジで、霊獣がオラリオに解き放たれるのは不味い。霊獣は冥獣とは違って通常の武器──勿論、高ランクのモノ限定だが──でも、ダメージを与えられる。が、桁外れの耐久力と攻撃力を前に、オラリオの冒険者()()が抵抗できる訳がない。以前に霊獣が出現したとき、低レベルの魔剣使いが群れを成して襲いかかり、群れごと一掃されるのを見た。

 

 「この閉鎖空間から逃げるなら、霊体化でもしたのでしょうね。」

 「だとしたら、移動力は、そこまでないから···。」

 「そうだね。でも、人間の足よりは余程早い。だから···。」

 

 三対の翼を広げ、飛翔する。右手に掴んだ杖を翳し、一層までの直通ルートを作り上げる。

 

 「いいぞイデア! そのまま飛ぼう!」

 「えぇ、マスター。行くわよ?」

 

 ぱぁん! と、大気を鳴らして飛翔する。手に持つ杖の先端から極太のレーザーを放ち、天井を抉り抜いて垂直に。上へ。上へ。誰かを巻き込もうが知ったことじゃない。その1人の犠牲でオワ···オラリオの大多数が救えるのなら、僕はその合理性に従うまでだ。

 

 「気に入ったの? オワリオ(それ)。」

 「実は結構···。」

 

 グラムとそんな気の抜けた会話をしながら1層まで戻る。流石に都市と迷宮を隔てる最後の壁までぶち抜く訳にはいかない。霊獣じゃなく普通のモンスターでオラリオが壊滅してしまう。この迷宮には冥獣もいることだし、尚更だ。一部、『猛者(おうじゃ)』や『勇者(ブレイバー)』と言った化け物──人間基準での、だが──が存在するとは言え、通常武器の通じない冥獣には対抗できまい。

 

 「···。」

 

 一階層をぐるりと廻り、霊獣を探す。が、居ない。想定よりも移動が遅い、という事は、大型の霊獣なのか、そこまで高位の霊獣じゃあないのか。···計算ミスの可能性も微粒子レベルで存在しているけれど。ところで微粒子レベルってサイズだと凄く小さいけど、個数だと莫大だよね。閑話休題。

 

 「ここから下がってみるか···。」

 「ここで待った方が良いんじゃないかしら?」

 

 確かに、索敵掃討よりは待機迎撃の方が良いことは確かだ。だが、相手が突進系の攻撃を得意とする霊獣姫『ジャンヌダルク』や、魔導能力に特化した霊獣姫『タマモノマエ』や『ロイヤルメイジ』であった場合、僕を突破して都市へ出てしまう恐れがある。それは非常によろしくない。よって──

 

 「!!」

 

 待機状態にあったグラムを顕現させ、体の前に翳す。ガキン!という金属音が鳴り、大幅に体がノックバックする。からん、という音を立てて足元に転がった物体を見れば、それは円錐形の杭のような刃物だった。鋼色の鋭利な突端は濡れて光り、毒物の付着を主張している。

 

 「霊獣『アサシン』か。僕をずっと待ってたって訳?」

 「不味いわね···。」

 

 移動力、隠密性、殺傷能力。どれで見ても凄まじいモノを持つ個体だ。特筆すべきはその殺傷能力。『即死』という、ポピュラーではあるが厄介な能力を持つ。しかも、冥獣や魔剣たちの持つ『即死攻撃』の仕組み──『相手の生命力の器と全く同じだけのダメージを与える』タイプや『相手の生命力を数倍する超ダメージで殺す』タイプとは一線を画する、『死ぬ』『壊れる』という現象を直接引き起こす、イレギュラーな奴だ。魔剣たちの何人かが持つ、即死無効化能力『冥王神の資質』では防げない、凄まじく厄介な相手。

 

 だが、僕はこの相手に対する対処法を確立している。

 

 僕自身に攻撃されれば死ぬしかないが、魔剣たちであれば、『被弾』から『魔核崩壊』までには若干の猶予──暴走期間がある。その間に魔石エメラルドを使って急速回復してやればいい。それに『即死』ではあるが『確死』ではない。『即死』能力の発動は精々15パーセント。勿論、それを補って余りある手数の攻撃が飛んでくるが──僕と魔剣たち──訂正、魔剣たちなら、なんとかなるレベルだ。

 

 では、何が不味いのか。簡単だ。

 

 ()()姿()()()()()()()()

 

 アサシン、と名付けられるだけあって、その個体は闇に潜み、影に徹し、虎視眈々とこちらの命を奪いにくる。潜伏能力、というよりは透明化と気配遮断か。どういう訳か相手は僕個人を狙っているから良かったものの、オラリオに出ていればあっという間にゴーストタウンになっていた。

 

 「そこッ!!」

 

 グラムを一閃し、飛来した杭を弾く。迷宮という閉鎖空間の中で、そしてそこまで高さのないこのフロアで投擲という直線攻撃に出れば、あっという間に敵の位置は突き止められる。が、当然、霊獣とてそんな事は分かっているだろう。つまり、飛来した場所には敵はいないということ。そこに攻撃でも仕掛けようモノなら、出来た隙を見逃さず、大量の杭が降り注ぐだろう。

 

 「いや、そういうブラフなのか?」

 

 そこにいるはずがない。と思わせるのは、ミスディレクションの基本。ならば──と、思い立った瞬間に、()()()()杭が飛んでくる。

 

 「うわぁっ!?」

 

 慌ててグラムを翳し、杭をガードする。グラムの半分以下の大きさ、質量の癖に、かなりの速度があるから威力が高い。

 

 「クソ···エリアまるごと···は、無理か。一階層だもんね、ここ。」

 

 ブレイズドライブやレールガン、イデアといった広範囲殲滅攻撃は、迷宮の壁や天井をぶち抜いてモンスターやら冥獣やらを都市に解き放ってしまう危険性があるのでNG。

 

 「どうするかねぇ···。」

 

 グラムを握る手に力が籠る。今まで『即死』能力は発動していないとは言え、15パーセントならそろそろ当たる。勿論、確率が収束するのはおよそ10000の母数が確保された場合なので、凄まじく幸運であれば···幸運とな?

 

 「マスター様? わたしの出番?」

 





 あとはルナを75/215にするだけだな。

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